オンライン:NPO法人カタリバ 稲葉将大さん
西村)能登半島地震の発生から2ヶ月が経過しました。避難生活も長期化していく中、子どもへの支援やケアについて聞きます。現地で支援活動を続けているNPO法人カタリバの稲葉将大さんです。
稲葉)よろしくお願いいたします。
西村)NPO法人カタリバは、東日本大震災をきっかけに2019年に立ち上げた「sonaeru」という活動を通じて被災地に入り、支援を続けています。災害時の子どもの支援をメインに取り組んでいるとのこと。能登半島地震では、いつごろ被災地に入ったのですか。
稲葉)「sonaeru」チームは、1月3日に石川県・七尾市に入りました。
西村)七尾市は震度6強を観測し、1万4000棟の住宅被害が出ている地域ですね。早めに現地に入ったのですね。
稲葉)まずは、どのような支援が必要かを避難所で聞きました。
西村)七尾市の町のようすはいかがでしたか。
稲葉)七尾市の矢田郷地区コミュニティセンターの周辺は、一見、被害があまり多くないように感じられたのですが、少し外れたところには、被害を受けた家屋が多くあり、断水で生活が難しい人が避難所にたくさんいる状況でした。
西村)そんな中で、子どもの支援はとても大切ですね。子どもたちが安心して過ごすことができる「居場所」を作っているそうですね。
稲葉)子どもたちが安心して過ごせる「居場所」を県内に7ヶ所、運営しています。奥能登では、珠洲市や輪島市、また2次避難者向けに金沢市や加賀市でも運営しています。七尾市のコミュニティセンターの図書室に「居場所」があります。体を動かすことができる「のびのびゾーン」では、小さいミニトランポリンや縄跳びを用意しています。図書室の立地を生かした「もくもくゾーン」は、勉強したり、塗り絵をしたり、静かに座って何かをするときに使う場所です。ほかにも小さい子どもから中高生まで遊べる小上りのようなスペースがあり、そこではボードゲームやトランプを用意しています。図書館なのでたくさん絵本があるので、絵本を読んで過ごす子も。子どもたちが安心安全に楽しく過ごせる場所です。
西村)何人ぐらいの子どもが利用しているのでしょうか。
稲葉)1日平均20人前後の子どもが利用しています。年齢は10歳以下の子どもが最も多く、幼稚園・保育園に通う4~6歳の子どもも多いです。3歳以下の子どもは保護者同伴でお願いしています。
西村)どの時間帯や曜日に利用できるのですか。
稲葉)学校が再開していないときは、9~17時に開設していました。2月の中旬からは授業が平日午後までとなったので14~18時に時間変更し、休日は11~18時で運営しています。
西村)仕事が再開した保護者にとっては、休みの日に子どもと一緒に過ごしたい気持ちはあるけれど、家のこともやらないといけないので、土日も開設しているのはすごくありがたいことだと思います。
稲葉)復旧作業家の片付けで、子どもを預けたい人が多く、子どもたちも遊ぶ場所がなかなかない状況。土日だけでも思い切り遊ばせたいと「居場所」を利用する人が多いです。
西村)利用できるのは、避難所にいる人限定ですか。
稲葉)地域の人も利用可能です。
西村)被災した子どもたちはいろいろな心の変化があったと思います。地震発生当初は、子どもたちはどんなようすでしたか。
稲葉)地震発生当初は、子どもたちは、慣れない生活が始まることに対して強いストレスを感じていました。それは子どもたちと話す中で、子どもたちの表情から感じ取ることができました。すごく緊張した表情で「居場所」の利用を始める子どもが多かったです。地震のときのようすをポツリポツリと話し出す子も。その後、スタッフとの関係性を築くことができると、無邪気に遊ぶようになりました。
西村)子どもたちは、どんな地震の話をしたのですか。
稲葉)「家族と車中泊をした」「津波の警報のアラームが鳴って怖かった」などの話をよくしていました。「居場所」で出会った子どもたちの家は、一部損壊、半壊が多かったのですが、津波の警報が鳴ったため、高台に車で逃げて避難生活を送ったそうです。何が起こるかわからない怖さや寒さで不安だったと思います。
西村)余震のアラームが鳴ったときの子どもたちのようすはどうでしたか。
稲葉)アラームの音に対して過剰に反応するようすがよく見られました。パニックになって大泣きしてしまう小さい子どもやそれを見て戸惑う子どももいました。
西村)子どもたちは、お昼寝はできていたのでしょうか。夜も眠れていたのかすごく心配です。
稲葉)「居場所」を利用している子どもたちは日中たくさん遊ぶことができて、夜はぐっすり寝ているという話を保護者から聞いています。
西村)居場所に来る前は、ストレスで眠れなかった子どもたちもいたのでしょうね。
稲葉)集団生活で他の人の存在や音が気になって眠れないという話はよく聞きました。自宅に戻ってからもが保護者の近くにいないと眠ることができない小学生もいたようです。
西村)震災後、2週間ほど経った頃は、子どもたちのようすにどんな変化がありましたか。
稲葉)「居場所」の利用に慣れてきていろんな遊びが始まりました。ミニカーのおもちゃで津波ごっこをしたり、ダンボールを揺らして地震ごっこをしたりする子どももいました。東日本大震災当時に現地で聞いたことがあるのですが、子どもは津波ごっこなどを通して現実を受け入れていくそうです。そのようすをしっかりと見守りたいと思います。「しっかりと逃げられたね」というような声かけをしています。
西村)学校や幼稚園・保育園が再開したとき、子どもたちの心や表情に変化はありましたか。
稲葉)友達や先生と久々にオンライン上で顔を合わせることができて、うれしそうな表情をしていました。しかし、中には生活の環境やリズムが変わることで、疲れてしまう子もいました。
西村)地震から2ヶ月が経った現在は、子どもたちのようすはいかがですか。
稲葉)「居場所」を利用しているときは元気に遊んでいて、大きな変化はありません。ふとしたときに疲れた表情を目にする場面はあります。小さい子どもは「おんぶして」「抱っこして」など甘えたがる子が増えた印象です。
西村)保護者も忙しくなり、心の余裕がなくなってきた影響もあるのかもしれませんね。
稲葉)そのような背景もあると思いますが、2ヶ月近く支援を行う中で、スタッフと子どもたちの関係性ができて、スタッフと一緒にいると安心できる子どもが増えたことも要因だと思います。
西村)子どもたちがカタリバのみなさんに心を許しているということを実感します。今後は、どのような支援が必要だと思いますか。
稲葉)今度の支援については、今考えているところです。何が必要かまだまだわからないところがありますが、子どもたちの心や体のケアが必要だと思います。運動できる機会も減っていますし。子どもたちの支援は、さまざまな面で長期的に必要だと思います。
西村)子どもたちの「居場所」は、子どもたちや保護者にとっても大切な場所だと思います。
きょうは、能登半島地震の被災地で支援活動を続けているNPO法人カタリバの稲葉将大さんにお話を伺いました。