オンライン:認定NPO法人カタリバ 戸田寛明さん
西村)各地で記録的な豪雨が相次いでいます。今週は災害時の子どもたちの支援について取り上げます。災害時は、子どもたちにどんな不安や悩みがあるのか、どうすれば解決できるのか。
きょうは、災害時の子ども支援「sonaeru」(ソナエル)を展開するNPO法人カタリバの戸田寛明さんに聞きます。
戸田)よろしくお願いいたします。
西村)災害時の子ども支援「sonaeru」(ソナエル)では、どんな活動をしているのですか。
戸田)「sonaeru」(ソナエル)を展開するカタリバは、2001年に設立された教育系の認定NPO法人です。高校生のキャリア学習を中心に事業を展開していたのですが、東日本大震災をきっかけに、熊本地震、西日本豪雨などの被災地で、子どもの居場所をつくる支援に取り組むようになりました。それまでは災害が発生するたびに随時対応していましたが、緊急支援の専門のチームとして、2019年に立ち上げたのが「sonaeru」という事業です。
西村)災害時は、迅速に現地入りして支援にあたっているのですね。
戸田)早ければ、発災翌日に被災地入りし、5日後ぐらいには避難所で子どもたちの居場所を作る支援をしています。
西村)それは心強いですね。今年も全国各地で豪雨の被害が発生しています。今年活動した場所はありますか。
戸田)今年は、浸水害が多く発生した秋田県の2つの自治体で約1ヶ月間支援活動を行いました。
西村)被災者からはどのような要望がありましたか。
戸田)日中子どもが過ごせる場所がないという課題は、どの災害でもあります。小学校や保育園、幼稚園で過ごす中で、子どもたちの日常が作られています。その日常が失われてしまうと、子どもはストレスを抱えてしまいます。
西村)そのような状況で、「sonaeru」はどのような支援を行ったのですか。
戸田)朝8・9時~夕方5・6時まで、子どもたちが自由に過ごせる場所を作りました。
西村)子どもを無料で預けることができるのですか。
戸田)はい。わたしたちの活動は全国のみなさまからの寄付によって成り立っているので、無料で支援を届けることができています。
西村)子どもや親は災害後にどんな不安を抱えているのでしょうか。
戸田)発災直後は眠れないという子どもが多いです。避難所生活が長引くとプライベートもない中、ダンボールベッドで寝るなど環境が変化します。学校や保育園が運営できない状況で、子どもたちの居場所がありません。でもお父さん、お母さんは家の片付けや泥かきをして、生活再建をしなければならない。そんな場所に子どもを連れていって、壊れた家で子どもが怪我をしてしまった例も。中高生は、受験勉強をしなければならないのに机や椅子もない。避難するときに勉強道具を持ちだせなかった子もいます。環境が整わない中でも、受験は日に日に迫ってきます。中高生は復旧活動の担い手の1人として数えられることもあります。親が大変なところを見て、自分もつらい気持ちを言えずに抱えてしまう子もいます。
西村)どんな災害現場に行きましたか。
戸田)毎年さまざまな被災地に行っているのですが、2019年の台風19号では、長野県に事前に入り、翌年は熊本県の球磨川が氾濫した豪雨災害の現場に行きました。
西村)熊本県の学校は、長い間休校になっていましたよね。
戸田)甚大な被害が出て、学校は約1ヶ月休校していました。夏休みに入る直前に1日だけ学校が再開したのですが、すぐに夏休みに入ったので、約2ヶ月長期の休校となりました。
西村)避難所では、自分の家庭だけではなく、周りの人とのトラブルもあるのでは。
戸田)よくあります。日本は少子高齢化で地方に行けば行くほど子どもが少なく、避難生活をする人は高齢者が多いです。子どもはなかなか静かにすることができなくて、周りの大人から怒られてしまう。特に高齢者から怒られてしまうことがよくあります。
西村)大きい声を出さないようにと我慢していたら、それがまたストレスになってしまいそうですね。
戸田)以前、アンケートで子どもたちが、「自由に友達と遊んで過ごせる場所がなかったことがすごくつらかった」と答えいました。それは子どもにとってすごくつらい状況だと思います。
西村)高齢者も被災して疲れて、不安な気持ちを抱えて過ごしていると思います。子どもが騒いでいたら、つい口を出してしまったり、注意してしまったりしてしまう気持ちもわかります。
戸田)近年はコロナの問題もあって、気になってしまうのは仕方ないと思います。
西村)親もいろんなことを気にしながら、子どもとずっと一緒にいるとストレスがたまっていくと思います。親も子もそれぞれ心の健康が心配になりますね。
戸田)非日常の中で、子どもと一緒にいる時間がいつも以上に長くなると、親子ともに精神的な健康を崩していくことがあります。
西村)平日は仕事をしていて、休日には片付けや生活再建の手続きに行きたい人も多いと思います。子どもと一緒だとはかどらなくて、ストレスになりそうですね。
戸田)小学生以下の子どもを抱えているお父さん、お母さんは、小さな子がそばにいると役所の人の話もまともに頭に入ってこないと言っています。
西村)わかります。順番を待つだけでも大変です。実際にどのような支援をしたのですか。
戸田)親が子どもを預けられる場所を作ること。子どもにとっては自分の居場所ができます。食べ物などの支援は避難所でされているので、わたしたちは子どもたちに目を配る支援をしています。
西村)子どもが家族と離れて自分の時間を持つことができたら、勉強や好きなことに集中したり、友達ができたり...と新たな世界が開けると思います。
戸田)居場所をきっかけに新しい友達と出会えることも。人の優しさを感じられたり、やりたいことが見つかったり。
西村)どんな場所を居場所として利用しましたか。
戸田)施設によって変わるのですが、学校の剣道場や柔道場などを借りることが多いです。
西村)子どもたちはそこで何をして過ごしているのですか。
戸田)「遊ぶ」「学習する」の2つが中心です。「遊び」は、強制しないことが大前提。外で体動かしたり、おもちゃやカードゲームで遊んだりしています。
西村)子どもにとって、外で体を動かすことは大切ですか。
戸田)日中、体を動かすことが少なくなって、体力が余って眠れなくなる子どもが多いです。避難生活は、体を動かすことが少なくなります。体を動かすことでストレスの発散ができ、夜にしっかりと眠ることができて、生活サイクルを戻すことができます。
西村)勉強はどのような勉強をしていますか。
戸田)日常を取り戻すことは、非常時に心を回復させる上ですごく大事。小学生以上の子どもにとっては、勉強する時間も一つの日常です。強制して長い時間勉強させることはしませんが、勉強する時間を少しでもつくることが大事。そして、中高生には受験があります。災害にあったからといって受験が免除されるわけではありません。学習が遅れると本来自分が描いていた未来にたどり着けなくなる。そうならないように学習の支援をしています。
西村)そのような学習支援をしてもらえると、心の安定につながりますね。
戸田)塾が被災して、学校も休校。「わからないところを誰に聞いたらいいかわからない」と言う子どももいます。そのような子どもたちのニーズに応えていくために、全国の大学生にオンラインで支援をしてもらう取り組みもしています。
西村)大学生にとってもその経験が、災害が自分ごとにつながるきっかけになりそうです。
戸田)熊本で実際に支援していたのは、大阪や東京にいる大学生でした。オンラインで子どもの顔を見ながら学習を支援することによって、「追い込まれてる子どもがたくさんいることに気付いた」「自分の経験が子どもたちの力になってうれしい」と話る大学生が多かったです。
西村)サポートする上で、気を付けていること、大切にしていることはありますか。
戸田)非日常よりも日常を作ることを大事しています。被災地の支援というと、芸能人がイベントやレクリエーションをする、泥かきをする、というイメージがあるかもしれません。しかし被災者が心を取り戻すために必要なことは日常です。わたしたちは被災者が日常を穏やかに過ごすことができるようにサポートしています。被災した子どもたちは、抑圧された生活を送ることになります。ダメなことばかりの生活の中で心が苦しくなっている子どもは多いです。「やりたい人はやろう」と誘い出しはしますが、あくまでやるのは本人の意思。強制はできる限りしないようにしています。そしてきちんと子どもの話に耳を傾けて、聞いてあげることも大事。災害のときは、大人はせわしなく動き回っているので、子どものアラートに気づけないことが多い。子どもたちの気持ちが少しでも楽になるように活動しています。
西村)災害時はもちろん、日頃から大切にしたいですね。最後にわたしたちにできることは、どんなことでしょうか。
戸田)災害時はPTSD(心的外傷後ストレス障害)が起きます。PTSDを発症する人の共通点について、先行研究では、「社会的なサポートが不足していた人」「生活のストレスを感じていた人」「孤独感を感じていた人」が発症に有意に相関していたというデータがありました。「困っている人にサポートする」「生活のストレスを軽減できる手伝いをする」「孤独にしない」ことが大事だと思います。
西村)貴重なお話を聞かせていただきました。わたしたちにもできることがありますね。
きょうは、災害時の子ども支援「sonaeru」(ソナエル)を展開するNPO法人カタリバの戸田寛明さんに災害時の子供たちの支援について、お話を伺いました。