ゲスト:大阪大学大学院 教授 稲場圭信さん
西村)地域のみなさんが集まるお寺や神社は、お祭りが行われるなど地域コミュニティにとって欠かせない場所ですね。能登半島地震では、多くのお寺や神社が被害を受けました。しかし、再建に向けた支援が未だに進まず、本堂が全壊したままのお寺もあるそうです。災害時にお寺や神社はどんな役割を担うのでしょうか。
きょうは、災害時の宗教施設について、大阪大学 大学院 教授 稲場圭信さんにお話を伺います。
稲場)よろしくお願いいたします。
西村)石川県の被災地を訪れたときに、石川県にはお寺や神社が多いと感じました。
稲場)石川県・能登半島はお寺や神社が多く、1年間を通してさまざまなお祭りが行われている地域です。
西村)お寺や神社はどれくらいあるのですか。
稲場)石川県には3000を超えるお寺や神社があります。元日に発生した地震で、3000を超えるお寺や神社の内、2000を超えるお寺や神社が被災してしまいました。高台にあって被災していないお寺や神社は、津波からの避難場所になっていました。
西村)お寺や神社は避難所として、行政から指定されているのですか。
稲場)石川県では100を超えるお寺や神社が災害時の避難場所、一時避難場所に指定されています。東日本大震災で多くの小学校や公民館が津波で被災し、高台のお寺や神社に多くの人が逃げて、命が守られたことから、現在、全国で4000を超えるお寺や神社が災害時の避難所になっています。
西村)東日本大震災がきっかけで広がったのですね。お寺や神社が避難所として適しているポイントは何ですか。
稲場)冬場の災害時に板張りの体育館で過ごすのは、高齢者にとっては大変ですが、お寺や神社には畳があり、ほっとできる空間があります。扉を開けて換気もできて、家族単位で避難できる空間もあります。法事やお祭りで人が集まって会食をするので、炊きだしをするための設備も厨房もあります。そのように災害時に人の命を守ることができる空間は、大きな地域資源と言えます。
西村)炊事場があれば炊き出しもできるし、座布団もたくさんありますね。
稲場)座布団や毛布もありますし、体を休めるときも畳があれば、災害時の大変なときでもくつろぐことができます。
西村)お寺や神社に避難した被災者の話を聞いたことはありますか。
稲場)家が被災して帰る場所がなく、余震が続き、「どうして自分がこんな目に遭うのか」という思いで不安を抱えている人も多いです。お寺や神社に避難することで、「不安な気持ちを受け止めてくれる神様、仏様の存在に安心する」と語る人もいます。
西村)一般的な学校の避難所と比べて、気持ちを話しやすいところもあると思います。能登半島でたくさんのお寺や神社が被害を受けたとのこと。被害状況を教えてください。
稲場)神社の鳥居の倒壊や拝殿の被災など、1000以上の神社が被災しています。墓石の倒壊、本堂や庫裏が全・半壊したお寺もあり、2000を超えるお寺や神社が被災しています。
西村)大雨の被害もありましたね。
稲場)9月21日からの豪雨で、避難所から仮設住宅に入ったばかりのタイミングで被災した人がたくさんいました。「心が折れる」「どうしたらいいんだ」という声もたくさん聞きました。お寺や神社にも泥水が入ってしまいました。先が見えないと感じる人が多かったと思います。
西村)現在、お寺や神社の建物はどうなっているのでしょうか。
稲場)壊れたままのところもあります。行政による公費解体がなかなか進んでいない現実があり、お寺や神社は後回しになっています。一般の民家も公費解体が進んでいない現実がありますので。
西村)熊本地震で被災した神社に話を聞いたことがあるのですが、氏子さんの家が再建していないのに神社を再建することは考えられないと。能登も同じように一般の住宅優先で、お寺や神社は後回しになっているのですね。
稲場)家が被災した人が多数いる中、お寺や神社が先に再建というわけにはいかない。地域の人々とともに家を再建し、復興の流れの中でお寺や神社を再建する形になると思います。
西村)この夏、ボランティアに参加したときに、神社の鳥居が地震で壊れて、細い竹で仮の鳥居を建てているのを見ました。「なぜ新しい鳥居を建てないのですか」と聞くと、「今はお金がないから難しい」と話していて。お寺や神社には、国や石川県から支援金は出ていないのでしょうか。
稲場)お寺や神社などの宗教法人への公金支出は、憲法89条で禁止されていますが、今後は、復興基金や指定寄付金制度などでお寺や神社の再建にお金が出ることもあると思います。
西村)既に、能登のお寺や神社にそのような支援金は出されているのでしょうか。
稲場)まだです。簡単にそのようなお金は出ません。一般の家なら地権者は限られていますが、お寺や神社は、神主、住職だけではなく、檀家、氏子、地域の人々とともにどのように復興していくかを相談しながら手続きをしていく必要があります。遠方に避難している人も多く、再建の話し合いも進まない状況で、簡単に申請ができません。一般の家が罹災証明を出して、公費解体から再建に向かう動きもこれからなので、お寺や神社は後回しになると思います。
西村)地震だけではなく、豪雨被害も重なってより難しくなっているのでしょう。
稲場)解体時には、生活空間にあった大切な思い出の品を出して、住人立会いのもとに、業者が解体をしていきます。これにも調整が必要で、業者の人手不足もあり、簡単に進まないのが現実です。
西村)阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震と大きな災害が各地で起こっていますが、そのときもお寺や神社の再建はやはり時間がかかったのでしょうか。
稲場)過去の災害でもお寺や神社などの宗教施設の再建には時間がかかりました。一方で2018年の北海道・胆振東部地震では、地域にとって大切なお寺の再建をいち早くしたという事例もあります。そういった例は稀で、まず1人1人の生活再建が優先され、次にお寺や神社の再建となると思います。
西村)先月番組では、住職がプロジェクトを立ち上げた重機ボランティアのお話をお届けしました。ボランティアの拠点になっているお寺や神社もあるのでしょうか。
稲場)多くの宗教者が被災地で災害支援をしています。重機の運転免許資格がある人も増えてきています。また、炊き出しなどの寄り添い支援の経験がある宗教者も増えてきています。一般のボランティアが能登半島に向かうには、アクセスが悪い状況もありますが、宗教者が被災地で、被災者の"生きる歩みの伴走者"として寄り添っています。
西村)そのような場所として、心のよりどころとして、お寺や神社は被災者にとって、大切な存在なのだと改めて感じました。お寺や神社は、これから被災地でどのような役割を果たしていくと思いますか。
稲場)日本社会では、全国で高齢化や過疎化の問題があります。地域に根ざしているお寺や神社で、地域のお祭りやカフェや子ども食堂をやっているところもあります。そういった日常においての地域との関係性が、災害時の"共助"につながると考えます。いろんな地域で取り組んでほしいですね。
西村)なじみのある場所だからこそ、安心感が生まれますよね。これは南海トラフ地震の避難所不足の解消にもつながっていくのでは。
稲場)そう思います。南海トラフ地震が起きたら、間違いなく避難所が足りず、水や食料も足りない大変な状況になります。個人が備えることはもちろん大事ですが、地域のお寺や神社と関係を持ち、いざというときに一緒になって支え合っていくことが、これからの災害に備えとして大切なことだと思います。
西村)大切なヒントをいただきました。
きょうは、災害時の宗教施設について、大阪大学 大学院 教授 稲場圭信さんにお話を伺いました。