オンライン:マンション防災士 釜石徹さん
西村)都市部を中心に増え続けるマンション。数階建ての低層から、超高層のタワーマンションまで間取りもさまざまで、幅広い層に人気です。しかし地震で停電してしまうと、エレベーターは止まり、高層階に住む人たちは外出も難しくなります。また、マンションの給水システムの多くは電気を使っているため、断水の可能性もあります。
きょうは、マンションの防災に詳しいマンション防災士の釜石徹さんにマンションに暮らす人の防災対策についてお話を聞きます。
釜石)よろしくお願いいたします。
西村)停電するとエレベーターは止まり、断水の可能性もあるマンションは自然災害に弱いのでしょうか。
釜石)マンションは、建物が頑丈なので戸建てに比べると災害に強いです。暴風雨にも耐えられるし、津波や水害の際は上層階に逃げれば安全。耐震性があれば、倒壊や全壊の可能性はほとんどありません。部屋に住める状態であれば、停電・断水しても備えをしておくことで、普段に近い生活をおくることができます。
西村)小学校や中学校などの指定避難所に行くよりも、マンションの部屋にいられる方が良いですね。
釜石)災害発生後すぐに避難所へ行くという考え方は間違いです。避難所はスペースも少なく、体育館や教室で雑魚寝をしなければならない。密集・密接・密閉状態は、感染症が蔓延する可能性もあります。都市部の学校避難所は、約8000~1万人にひとつの避難所が指定されています。避難所に住民全員が避難できる収容スペースはありません。
西村)タワーマンションが新しく建設されたら、小学校を一つ増やさないといけなくなるという話も聞きます。避難所は足りていないのですね。
釜石)増やしたとしても、タワーマンションの住人はすべてを受け入れるスペースはありません。避難所に備蓄されている食料は、約1000人✕2~3日分しか備蓄されてないことが多いです。アルファ化米やクラッカーなど栄養価のないものが多いです。アレルギー対応食はありません。在宅避難で家族に必要な食料を自分たちで揃える方が良いです。
西村)食べ慣れたものを食べられると安心にもつながりますね。我が家は、息子に発達障害があるので、食べられるもが限られています。
釜石)そういう人が避難所に行くと、食べられる物は何もないと思います。
西村)能登の避難所はかなり過酷な状況だったと聞きました。小中学校はプライバシーがないところも多く、トイレ問題も深刻。自宅で過ごせるようにどのような備えが必要ですか。
釜石)まず、大きな地震が起きても室内で怪我をしないようにする備えが大事。家具・家電の固定を確実に。同時に、万が一出火した場合に、すぐに初期消火ができるようにする。スプレー式の簡易消化器をおすすめします。
西村)消化器というと結構大きいものを想像しますが、スプレー式のものがあるのですか。
釜石)大きな消火器はどこのマンションにもありますが重いし、操作が難しいですよね。ヘアスプレーぐらいのサイズの消化器なら女性でも簡単に使うことができます。台所の近くに置いておくと良いですよ。
西村)食器棚が倒れたり、電子レンジが飛んできたりしないために、家具・家電を固定する方法を教えてください。
釜石)背の高い家具は突っ張り棒で固定しましょう。電子レンジや炊飯器を固定するためのジェル式のマットも便利です。台所は普段使っている時間が長く、飛んでくるものが多い危険な場所でもあります。台所をいかに安全にするかが室内で怪我をしない備えのポイントになると思います。
西村)子供だけで留守番しているときに、地震が起こって頭の上に重いものが落ちてきたら大変ですものね。
釜石)そういうことがないようにぜひ備えてください。
西村)実家には、背の高い古い家具が未だにあります。食器棚の上に使っていないホットプレートが置いてあったり...。頭上に扉付きの棚がある場合は、扉が開かないようにしておかないといけませんね。
釜石)扉のストッパーのような器具も売られていますのでぜひ備えましょう。観音扉用や引き出し用などさまざまなタイプのものがあります。
西村)震度6~7の地震が起こった場合、家の中の家具はどんなふうに揺れるのか教えてください。
釜石)固定していないものは全部倒れるイメージ。そこに人がいれば怪我をする可能性も高まります。普段いるリビングや台所の家具が落ちてくる可能性があれば、必ず固定しましょう。急に揺れが来るので、「揺れたら逃げる」という発想はやめましょう。揺れ始めた瞬間にドーンとくるので、しゃがむことしかできません。一歩も動けません。物が落ちてこないように固定することが大事です。
西村)最近は、掃除がしやすいキャスター付きの収納のものもありますが危険ですね。
釜石)阪神・淡路大震災のときに固定していなかったキャスターのピアノが飛んできて凶器なったという話もあります。キャスターのテレビ台も危険。冷蔵庫のようにキャスターがついているものは必ず固定をしましょう。移動防止グッズを取り付けるだけでも効果があります。
西村)家具・家電の固定、火災の備え以外に具体的な方法はありますか。
釜石)停電、断水が長期間なるということを想定して、在宅避難で10日以上生活するために、調理用のカセットコンロ・カセットボンベを十分に備えておいてください。
西村)最近は、お湯を沸かすために電気ポットを使うし、レンジでチンをして食料を温めるのが当たり前になっていますよね。
釜石)わたしがセミナーでマンションを訪れたとき、約1~2割の住民がカセットコンロを持っていないといいます。IHヒーターを使っているから、カセットコンロを使う機会がなかったと。大災害が起きて電気が止まってしまったら、自宅で調理するためにカセットコンロが必要になる。セミナーでは着火練習をしています。みんなでカセットコンロにガスボンベをはめて、火をつけて消して、カセットガスボンベを外します。みんなで練習すると和気あいあいと盛り上がるんですよ。
西村)楽しそうですね!
釜石)みんなでやると「これぐらいならできそう」と思ってもらえる。「ホームセンターで買っておきます!」とみなさん言ってくれます。分譲マンションは、災害発生時に管理会社を頼ってはいけません。マンションの管理会社の社員も被災者になります。マンションの数に比べて、管理会社の社員も非常に少ないので当てになりません。マンションには管理組合や自治会がありますが、全員が被災者になります。みなさん自分や家族、仕事のことを考えざるを得なくなり、他人を助けることはできません。大災害であればあるほど他人を頼ることはできないと考えましょう。誰かの支援をあてにするのではなく、家庭の防災力を上げること。自宅で10日以上の在宅避難ができるように、自宅を最高の避難所にしましょう。
西村)マンションだけではなく、戸建ての家でも住み続けられる状態であれば、同じことが言えますね。わたしもしっかり備えようと思いました。
きょうは、マンション防災士の釜石徹さんにマンションに暮らす人の防災対策についてお話を聞きました。