オンライン:名古屋大学名誉教授 福和伸夫さん
西村)今月5日、石川県能登地方で観測されたマグニチュード6.5、最大震度6強の地震。この地震では、ビルやマンションの高層階が大きくゆっくりと揺れる長周期地震動が観測され、階級と地域名がはじめて緊急地震速報で伝えられました。長周期地震動とは、どんな現象なのか。また緊急地震速報が出た場合、わたしたちはどのような行動をとるべきなのか。
きょうは、名古屋大学名誉教授 福和伸夫さんにお聞きします。
福和)よろしくお願いいたします。
西村)今月5日に石川県能登地方で発生した地震はどんな地震ですか。
福和)2年以上にわたって群発地震が起きていたエリアで起きました。今回は、これまでの群発地震の中で最も規模が大きいマグニチュード6.5でした。今もたくさん地震が起きているので、これからさらに大きな地震が起きる可能性も。
西村)今後も注意が必要ということですね。
福和)震源が海側に広がり始めています。海側には活断層もたくさんあるので注意が必要です。
西村)今回初めて緊急地震速報で伝えられた長周期地震動とは、どんな揺れのことですか。
福和)2011年の東日本大震災のときに大阪府咲洲庁舎がすごく揺れましたよね。震源の東北から大阪は700~800km離れていますが、咲洲庁舎は往復3m揺れました。長周期の揺れは、高層ビルを揺らしやすいんです。揺れが往復する時間のことを周期と言います。往復3秒で50cmならゆったりした揺れですが、同じ3秒で部屋の端から端まで往復したら、全力疾走しても間に合わないぐらいすごいスピードになりますよね。そのような長周期の揺れに弱いのが超高層ビルや石油タンクの中の油です。
西村)石油タンクの中の油ですか。
福和)例えばコーヒーが入ったカップを左右にゆすると、コーヒーがチャポチャポしますよね。その周期は短いですが、お風呂のバスタブの中で体を前後に動かすとお湯がチャッポンチャッポンと大きく揺れます。これは周期が長いですよね。そのように、大きなタンクの中にある油が数秒以上の長い周期で揺れると、タンクの蓋が大きく動揺して、引火して大火災を起こすことがあります。それが2003年の北海道・十勝沖地震のときに、苫小牧の石油タンクが燃えた状況です。
西村)福和さんは揺れの実験をしたことがあるそうですね。3m揺れると部屋の中はどんな状況になるのですか。
福和)いろいろなものが移動します。キャスターの机はすごい勢いで動きます。立っていられないので、這いつくばるしかない。これは本当に怖いです。咲洲庁舎は10分以上揺れていました。ビルは揺れが大きくなるまでに時間がかかります。ゆっくりとした揺れからじわじわと何分もかけて凄まじい揺れになっていきます。それがずっと続いて、いつになったら収まるのかわからない恐怖感に襲われます。
西村)そのうち止まるかな...と思っていても、どんどん大きな揺れになっていくのですね。
福和)1度揺れると収まりにくく、そのうちに次の余震が起きてまた揺れます。
西村)恐ろしいですね。震源から遠い場所の高層ビルも大きく揺れてしまうのはなぜでしょうか。
福和)いくつかの理由があります。一つ目は、巨大地震ほど長周期の揺れが起きるからです。なぜかというと、断層が滑る時間が長くなるからです。断層のずれが少なければ、ずれ初めてずれ終わるまで早いので周期は短い。断層が1mぐらいずれる場合は、1秒ぐらいかけてずれる。断層が10mぐらいずれる場合は、10秒ぐらいかかる。長い時間ずれ続けると長い周期になります。二つ目は、長周期の揺れは、波長が長いということ。地面を輪切りにしてみると波になっています。その波の長さを=波長と言います。波長が短いとすぐに波が小さくなる。振動数が高い波、あるいは周期が短い波は波長が短いので、遠くまで伝わらないんです。それに比べて、波長が長いと揺れが遠くまで伝わる。長周期の揺れは、波が小さくならないので大阪まで伝わってしまうんです。さらに大阪の地面はプリンのようになっていて、そのプリンの厚さが何kmもあります。プリンはお皿の上に置いて、左右にゆすると大きく揺れますよね。プリンを上から順番に食べていって、薄くなるとブリブリと揺れます。物が厚く堆積していると長い周期で揺れて、薄いとガタガタという揺れになるんです。震源から700~800km離れていても、大阪平野は5~6秒周期の揺れを大きく増幅させてしまう。
西村)わたしたちはそんなところに住んでいるのですね。
福和)暑いとき、イライラしてくると下敷きを短く持って小刻みに揺らしますが、下敷きを長く持つとゆったりと仰げますよね。まさにそれが超高層ビル。大阪には長周期の揺れに弱い超高層ビルがたくさん建っています。大きな地震ほど長周期の揺れとなり、それが遠くまで伝わり、大規模な堆積平野で大きく増幅されて、さらに超高層ビルの中で増幅されます。
西村)「遠い場所で起きた地震だから関係ない」ではないですね。今年2月から緊急地震速報に長周期地震動が加えられました。
福和)これは東京や大阪を救うための情報です。東京や大阪の超高層ビルに勤めている人や、タワーマンションに住んでいる人たちは、この情報によって救われます。特にエレベーターに乗っている人。
西村)エレベーターに乗っていたら本当に恐ろしいです。この速報では、気象庁が揺れの強さを階級1~4で評価していて、このうち、階級3と階級4の発生が予想された場合に速報が出ることになっています。
■階級1 つり下げたものが大きく揺れる
■階級2 歩行が困難・棚の本が落下
■階級3 立っているのが困難・キャスター付きの家具が大きく
■階級4 立っていられない・未固定の家具が移動、転倒
高いビルにいるときに、この速報を受けたらどのように行動したら良いでしょうか。
福和)まずは、エレベーターホールなど家具がない広いスペースに移動してください。トイレもオススメです。トイレは、狭い箱になっているので、左右に振られても両手をつっぱれば何とかなります。
西村)鍵が閉まって出られなくなりませんか。
福和)扉は開けておいてください。
西村)用を足していないなら大丈夫ですね。
福和)高層ビルの中は手すりがあまりなく、しがみつく場所がないので這いつくばるしかなくなります。どこに避難すれば良いかを揺れてから考えていてはダメ。飛び地のようなところで緊急地震速報が出ているなら、そこは長周期地震動階級が大きい場所となります。
西村)飛び地というのは、震源地から離れている場所ということですか。
福和)そうです。12年前に今のシステムがあったら、地図上の東北地方に加え、離れている大阪にも緊急地震速報の色が出ているはずです。それによって、大阪は長周期地震動階級が大きいと判断できます。超高層ビルの中にいたら、これから強い揺れが来る覚悟をして、安全なスペースに移動することができる。エレベーターに乗っていたら、その時点でボタンを押すことができる。超高層ビルのエレベーターの高層階は、途中階には止まりません。最寄りの階がないのです。だから早い時点でボタンを押さないとダメ。そのためにこの緊急地震速報があります。エレベーターは揺れを感知してから止まるようになっていますが、途中階がない超高層ビルでは意味がない。この情報をぜひ活用してください。
西村)とにかくボタンを押して、止まったところで避難するのですね。
福和)もしも閉じ込められたら、ずっと助けてもらえないことを理解してあせらないこと。
西村)あせらないためにもカバンの中に飲み物などを入れておいた方が良いですね。
福和)僕は、いつもカバンの中には飲み物と携帯トイレを入れています。満員のエレベーターには乗りません。
西村)それも大切な備えですね。万が一、高層ビルで長周期地震動を感じてしまった場合、揺れが収まったら、ビルの外に降りて避難しても良いですか。階段を駆け下りたくなってしまいます。
福和)高層ビルの避難階段はあまり広くないです。避難階段は、火災が起きたときの避難用に想定されています。高層ビルはある階が燃えても他の階には燃え移らないように設計されています。高層ビルの非常階段は1フロアの人たちが逃げられるぐらいの幅しかないんです。あせってみんなが非常階段に殺到すると危険です。下りている最中にも次々と余震が来る。そういうことが起きるということを頭の中においてください。
西村)日頃からの個人レベルの備えはもちろん、ビルを管理する側や会社の上層部も避難誘導について、改めて相談しておかなければいけませんね。今後、心配されている南海トラフの巨大地震でも同じようなことが起こるかもしれません。
福和)凄まじいことが起きると思います。東日本大震災のときは、大阪と震源は700km以上離れていましたが、今度は震源域まで100kmぐらいしかない。距離が1/6~1/7になったら揺れは6~7倍になります。超高層ビルは揺れるということは知っておいた方が良いと思います。
西村)きょうは、長周期地震動について、名古屋大学名誉教授 福和伸夫さんにお話を伺いました。