第1243回「コロナ禍の豪雨災害~奮闘する地元学生ボランティア」
電話:熊本学園大学社会福祉学部 教授 高林秀明さん

千葉)令和2年7月豪雨で九州の南部が大きな被害を受けてから50日が経ちます。
新型コロナウイルスの感染拡大で、県外のボランティアは現地に入れないので、支援者不足が深刻だと聞いています。
 
亘)そうですね。本当に県内のボランティアが頼りという状態になっているんですけれども、この猛暑の中で被災した家の片づけとか泥出しは重労働で、特に若い力が必要だというふうに思います。
 
千葉)熊本県南部の被災地では、熊本県内の学生たちがボランティア活動で奮闘しているんです。
きょうは、学生たちがどんなボランティア活動をして何を感じているのか、被災地の外に住んでいる私たちにどんな支援ができるのか、お話を聞いていきます。
熊本学園大学社会福祉学部教授の高林秀明さんと電話がつながっています。
高林さんは、いつからどこに支援に入られているんですか。
 
高林)7月4日に球磨川が氾濫して、その2日後に人吉に入りました。5日に人吉出身の学生から「もう、いてもたってもいられないから、6日に人吉に帰ります」というメールが入ったので、「じゃあ、私が車で送るよ」と言って、2人の学生を連れて車で現地に入りました。
大雨が時々降る中で、高速が通じていなかったので、片道4時間かかって人吉に入って、避難所とか病院などを訪問しました。

 
千葉)人吉までは、普段でしたらどれくらいで行けるものなんですか?
 
高林)普段は高速道路が通じていたら、1時間半あれば、熊本市内から行けますね。
 
千葉)最初、人吉に入られた時の町のようすはどんな感じでしたか。
 
高林)とにかく断続的に大雨が降っていまして、印象としては、分厚い雲の下で町全体がもうなんか静かな感じでしたね。
いたるところで、住宅とか車が水に浸かった状態で、商店街の方など少し見てみると、道路とか住宅に溜まった、泥が混ざった水のような状態のものを、掻き出す人たちの姿もありました。

 
千葉)町全体が泥水まみれという感じなんですね。
 
高林)そうですね。水自体は引いてはいるんですが、やはり見た感じ2メートルとかここまで来たんだなーっていうようすが...大型バスでも、天井近くまで水が上がっているような痕跡があるわけですね。
 
千葉)すごい状況だったんだなというのがわかりますが、最初、入られてどんなふうに行動されたんでしょうか。
 
高林)最初は避難所に水を届けたりしたんです。
人吉出身の学生、山北くんという学生なんですけど、彼の叔父さんが病院のソーシャルワーカーをされているということで、そちらに行って、まずはお医者さんに会おうと。
その病院も腰ぐらいまで浸水していて、病院のスタッフの皆さんも片付けに疲れていた様子なので、その日はちょっとしかお話できなかったんですけども、またその週のうちに病院に行って、片付けのお手伝いをさせていただきました。
そして、野菜スープを配るっていう活動も当初から考えていたので、それを避難所に届けたり、他の地域に持って行って地域の被災者の方にお配りするというようなことも始めました。

 
亘)野菜スープですか。
 
高林)とにかく免疫力を低下させないことが大事だということで、野菜スープを被災者にお配りするという活動を始めたんです。
 
千葉)実際にその場で作ったというわけではなくて、何かパックになっている形のものですか。
 
高林)そうですね。
とにかく野菜は生で食べるより、一旦加熱してスープになったものの中に、抗酸化物質という、免疫力や抵抗力を高める物質が入っているんです。
すでに個別のパックになっているものをお配りするということですね。

 
亘)いま、高林さんからお話がありました人吉出身の学生さん、社会福祉学部2年生の山北翔太さんに、事前にお話をうかがうことができました。
最初、被災地に入ってどういう活動をされたのか、聞いてください。
 
山北)やっぱり泥出しとか力作業とかのボランティアをしなきゃいけないって考えたんですよね。
精神保健福祉士をしている叔父がいて、その叔父と喋っているうちに、やっぱり精神疾患を持っている方で在宅避難の方は、多分、外部に向けて助けを求められてないんじゃないかって考えたんですよね。
それなら福祉を学んでいる身として、そういう精神疾患を持っている方とか高齢者の方、なるべく外部に助けを求められない方の支援にあたろうって決めたんです。
そこから高林先生とも連携させていただいて、もうその翌週には、精神疾患をお持ちの方のお宅に入って作業することができました。
印象に残っているのは、最初に入ったお宅で、女性なんですけどパニック障害をお持ちの方で、1階が浸水して、その方自身は垂直避難で2階に避難されていると。
なんで避難所に避難されなかったんですか?って話を聞いたら、自分のその持病のことだったり、「他の人と一緒に寝るのが嫌で、避難所には避難しなかった」というお話も聞かせていただきましたね。
在宅と言っても、エアコンの室外機も水に浸かってしまっているので、エアコンが故障して暑い中、2階の部屋で生活していて、苦しい状況であるという実態は聞き取ることができました。
作業は、入り込んでいる泥出し、そして床張りと床下の清掃ですね。床下にもかなりの量の泥が入っていたので。
あと、エアコンが壊れている、家具も使えないっていうことで、洗濯機とエアコンとテレビの提供をしました。
これも、高林先生がFacebookを通して「提供してくれる方いらっしゃったらご連絡ください」っていう情報発信をしてくださったおかげで、わりと早い段階に「よかったらどうぞ」っていう形で提供していただいたので、そこは本当に助かりました。

 
千葉)外部にSOSを発信しにくい在宅避難の障がい者の方を支援されているんですね。
埋もれたニーズは、たくさんありますか。
 
高林)多くの方は、だいたい親戚とか友人とか、家族の方の友人なんかのつながりを通して片付けをしていらっしゃるんですよね。
あとは、ボランティアセンターからもボランティアが派遣されてきて、それで一気に片付けが進むとかいうこともあるんですが、やはり自分からSOSを発信しにくい方もいらっしゃいます。いきなり見ず知らずの方がたくさん入ってくるということもちょっと抵抗感があったり、どこに連絡したらいいかわからないとか、あるいは連絡していてもなかなかボランティアが来られなくて、かといってもう1回電話しようかっていうことにもならなかったりする方のところでは、片付けが進まない。
先日も、被災して1か月ぐらい経ったのに全然片付けられてないところに入ったんですけども、やはりそこも在宅避難の障がいのある方の世帯でした。
やはり、まだまだそういう方が、よく地域を見ていくと、いらっしゃるんじゃないかなと思うんですね。

 
千葉)片付けが進んでないということになると、衛生状態も非常に悪いですね。
 
高林)やっぱり、いろいろな臭いもしてきますよね。
畳なんかも水を含んでもう分厚くなって、近づくだけでも酸っぱいような臭いがしてきたり、キノコが結構成長していたりとかですね、そんなところもありました。

 
亘)そういう中で生活されているわけですね。
 
高林)そうですね。
2階に避難して2階で生活していると。
一番心配なのが、この暑さなので、エアコンがあるかどうかなんですよね。
必ず「エアコンありますか」って聞いて、エアコンがないっていうところに、先ほど山北さんの話もありましたように、私たちも提供しました。
他の団体でボランティアしている方たちも、やはりそこが気になると言っています。
とにかくエアコンがないお宅には一刻も早く設置する必要があるということは、皆さんの共通認識で、そこは大事かなと思っています。

 
千葉)先ほどの山北さんの話にもありましたけど、家電製品、エアコンなんかを提供しているわけですか。
 
高林)そうですね。
私たちもそういう動きをしていますし、それこそ神戸の支援者の方から扇風機10台送っていただいたりとか、テレビも何人かに送っていただいたりして、必要に応じてそれを被災者の方にお届けするというようなこともしていますね。

 
亘)学生さん、もうひとりにお話をうかがいました。
この猛暑、そして感染防止に気を使いながらの作業が、非常に大変だということです。
ボランティアのリーダーをされている4年生の高濱美咲さんのお話です。
 
高濱)毎回、作業は違うんですけども、主に泥出しや、家の中から家具を出したり荷物を出したりですね。
若い人でもこんなにきついのに、私たちの2倍の年齢の方が毎日やっているとなると、これは本当に体を壊すぐらい無理をしないと先に進まないんじゃないかなっていうことを一番に思いました。
作業しているとどうしてもマスクが苦しくなってきて、ちょっとマスクをずらしたりしてしまうんですけども、やっぱりその時に、「若い子は免疫力があるからコロナのことなど気にしないかもしれないけど、私たちはもう高齢者だから、きついかもしれないけどマスクをつけてくださらない?」みたいなことは、結構言われましたね。
コロナの感染防止対策として、活動の前日からみんなの体調を確認して、次の日に集まった時も熱がないか、健康観察みたいなことをします。
そして現地には、私が除菌シートやアルコールスプレーなどをいっぱい持って行って、終わった後と始まる前、昼食の際などに、みんなに使ってもらうようにしています。

 
千葉)私、西日本豪雨の時に暑い中ボランティアをした経験があるんですが、暑さ対策の上に今はコロナ対策でマスクをつけなきゃいけない。
それで、この暑い中作業しなきゃいけないっていうのは、これまでの被災地と比べても、とても厳しい作業環境ですよね。
 
高林)そうですね。
7月中は長い梅雨でそれほど気にならなかったんですけども、やはり梅雨が明けてから37度とかとか39度近い気温の中で作業していますから、本当に汗だくになるのはもちろん、先ほどの高濱さんの話にもありましたが、マスクをつけながらやっていますので時々呼吸が苦しくなるんですよ。
そうなると、その場を離れてマスクを外して息をするとか、呼吸を確保しなきゃいけない。
そんな状態に、私もなりますね。
やはり休憩をこまめにとって、水分をよくとるということが、どうしても必要になります。

  
千葉)暑くてコロナも大変な中で、学生さんたちの働きぶりというのは、高林さんがご覧になってどんな感じですか。
 
高林)体を動かす作業も一生懸命していますけども、私が感心するのは、コミュニケーションを被災者の方と積極的にとっているということなんです。
被災者の方に若い学生たちが話しかけて、被災者の方からいろいろお話をしていただく。話すことで被災者の方からは、「学生さんに話ができてよかった」とか、「話ができるのはうれしい」とか、そういうふうに言っていただくんですよね。
学生たちもよく私に、「きょうは被災者の方とこんな話をしました」なんて言ってきて、「え?そんな深い話をしたの?」みたいなこともあります。そこで得られる情報も多いですね。
「あそこの庭に立っている木を、作業が邪魔で倒したんですけど、あの木は実はとても思い出のある木で、こういう木だったんですよ」というようなことを被災者の方と話した、などと私に伝えてくれます。「あー、そうなんだ」なんて言いながら、すごくコミュニケーションをがんばって取っているなと思います。

 
亘)そうですか。
初めて会う方で、なおかつ被災して傷ついていらっしゃる方とお話しするっていうのは大変ですよね。
 
高林)そうですね。
ただ、やはり学生も被災者の方から「本当に助かります」と喜ばれたり、「本当によくやってくれて」とか褒められたりするので、それが今度、自信になったり、自分の可能性を感じたりしています。そして「またがんばろう」って言って活動を継続するんですよね。
「被災者の方を支援したい」という、そういう面もあるんですけど、自分も助けられているというか支えられているということを感じているんじゃないですかね。

 
亘)先ほどインタビューをご紹介した高濱さんも、4年生で就職活動中で、試験を受けようとしていた会社から「今年はコロナの影響で新規採用をやめます」っていう連絡が来たり、面接もオンラインが多くて言いたいことが言えなかったり、全然就活がうまくいかなくて壁にぶつかっていたんだけれども、ボランティア活動でいろんな被災者の方と話をする中で、自信を取り戻したっていうようなお話をしてくださいました。
 
高林)そうですね。
まさに高濱さんがそういう典型的なケースですね。コミュニケーション力がもともと高い学生なんですけれども、自信を失っていたところで、本当に「被災者の方のおかげで自分は成長できている」と感じているようですね。

 
亘)今は、県外の方が支援に入れないということで、復旧作業の遅れが心配されているわけですけれども、それについても学生さんたちにお話を聞いています。
 
高濱)熊本地震でボランティアに行っていた時は、もう人が溢れるぐらい、いろんなところから来ていたんですけど、やっぱりちょっと今回は、ポツポツと「ああ、あそこにきょうはボランティアが来ているのかな」っていう...やっぱり全然違いますね、人数が。
 
山北)被災した7月は、「ボランティアは熊本県内限定」となっていても、わりと人数が多いように感じていました。
でも、8月に入って、それこそ暑さが厳しくなってきてから、ちょっと少なくなってきたのかなって思いますね。
いまだに手付かずのお宅もあるので、まだまだボランティアは必要です。
実人数は減少しているけれども、支援が必要なお宅はまだまだあるとは思っています。
今、感じているのは、やっぱり僕たちみたいな学生ボランティアがちょっと足りてないのかなっていう...簡単に言えば学生ボランティアの反応が悪いなーって感じているんですよね。
学生が参加できていない理由としては、コロナの影響でアルバイトが減少していることがあると思います。
収入も減少している中で、無償のボランティアをするのに抵抗があるのかなと。
やっぱり、ボランティアに行く日のお弁当代だったり、飲み物代だったり、道具を揃えるとなると長靴とかから用意しなきゃいけない人も出てくるので、わりと費用はかかってくると思います。
僕も、やっぱり道具をいろいろ自分で揃えましたし、最初に人吉市に入った時は2万円くらいの物資を自分で買い集めて避難所に提供したりもしたので、自分自身でお金を出すというのはちょっと避けられないかなとは思います。

 
千葉)被災地に通う交通費とか諸経費は、学生さんにとっては負担になりますね。
 
高林)そうですね。
大学のボランティアセンターが出すバスとか、あるいは行政が出すバスなんかに乗れば、現地には無料で行けるんですけど、その拠点まで行く交通費がかかるということがあります。私も学生たちを大学からピックアップして行きますけれども、そこまでの交通費や、先ほど山北さんが言われていたように、長靴、カッパ、昼食、いろいろ計算すると1回あたり1,500円~2,000円くらいかかるんです。
それで、コロナの影響でアルバイトがかなり減っている学生たちが多いですから、やはり負担が結構重くて、「ボランティアに参加したいけれども...」って二の足を踏んでいる学生も多いと思うんですよね。

 
千葉)学生さんにとっては辛いですね。
高林さん、今後も活動を続けられますか?いつ頃までどんな形を考えておられますか?
 
高林)これから仮設の建設が進んで、みなし仮設への入居なども始まります。あと、在宅避難をそのまま続けている方もいらっしゃるんですけど、やはり、健康被害が心配なんですよね。
ですから、健康面が保てるような生活のサポートというのは続けていきたいと思っていますし、やはり、孤立しないように訪問したり声かけしたり、交流の場をつくったりするような、そういう支援をこれからも少なくとも年末、そして来年...1年くらい息長く活動していきたいというふうに、まずは思っています。

 
亘)大学の夏休みが終わって授業も始まると思いますが、それでも継続していくわけですか。
 
高林)そうですね。
夏休み以降、大学の授業が始まれば、今は週に2~3回動いているのが週1回になるかもしれませんけども、継続的な活動はしていきたいなと思っています。
私たちは熊本地震を経験して、4年経ってだいぶ復興が進みましたけど、やっぱり段階に応じて復興というのは長く時間がかかると思っていますので、継続的に関わっていきたいと思っています。