第1257回「コロナ禍で迫られる在宅避難」
電話:災害対策研究会 主任研究員 釜石徹さん

西村)新型コロナウイルスの感染が再び拡大しています。感染症が広がる中での防災対策は進んでいますでしょうか。夏には実際に大雨や台風で避難行動が必要になった方々もいらっしゃいました。
今、改めて見直されているのが、自宅が安全であれば自宅に留まる在宅避難という考え方です。
今、もし大きな地震が発生したら自宅で避難生活を送ることができるでしょうか。
今日は在宅避難に関する本を出版されたばかりの専門家に電話でお話を伺います。災害対策研究会主任研究員でマンションの防災に詳しい釜石徹さんです。

釜石)よろしくお願いいたします。

西村)先日、釜石さんの防災に関する本が出版されました。「マンション防災の新常識~逃げずに留まる『在宅避難』完全ガイド」 という本です。マンションの防災対策と在宅避難というのは、深い関係があるんでしょうか。

釜石)マンション住民が身を守るための第1の選択肢が在宅避難になります。都市部の避難所には住民の1~2割しか収容できないんです。

西村)1~2割しか収容できないんですか!?

釜石)最近はコロナの影響で、さらに収容人数が減っているという状況です。
避難所というのは、地震で住むところが亡くなった人が利用するための施設と考えられています。マンションは地震に強いので、避難所に行かずに在宅避難できる可能性が高いわけです。


西村)考えてみればそうですよね。

釜石)大阪や神戸は分譲マンションに住む世帯が3割。賃貸マンションや団地を含むと神戸では6割、大阪では7割の世帯が共同住宅に住んでいます。

西村)それだけ在宅避難ができる可能性の高い方がいらっしゃるということですよね。
私も家族を守る一人の母なので、在宅避難ができるように準備をしなければと思っているんですけど...
何から準備したら良いのでしょう。

釜石)まずは自宅で亡くなったり、怪我をしないような備えから始める必要があります。代表的な例としては家具の転倒防止対策をする、ガラス飛散防止フィルムを貼る、照明器具をLED の非ガラス製に変えるなどです。

西村)家具の転倒防止対策といえば、タンスや冷蔵庫など大きな家具がたくさんありますね。
飛散防止フィルムを窓ガラスに貼らないと...

釜石)飛散防止フィルムは、窓ガラスよりも食器棚に貼った方がいいですね。食器棚のガラスが割れてしまうと、ガラスや中の食器の破片が散らばってしまいます。足場がなくなることがないように考えておかなければなりません。

西村)阪神淡路大震災の時に、我が家の食器棚のガラスも割れました。飛び出して割れた食器を片付けるのが大変だったんです。
食器棚のガラス扉のところにも、飛散防止フィルムを貼らないといけないですね。

釜石)もし自分でできない場合、ご近所で助け合えるのがマンションの長所ですね。

西村)助け合って対策をしていきたいですね。災害が起きてしまった場合に家で過ごすとなると、やはり食べ物が重要だと思うんですが、どれぐらいの量の食料を用意しておいたら良いのでしょうか。

釜石)最近では、行政が推奨する食料の備蓄量は、3日分から7日分に変わってきています。ところが一週間分で足りるかもわからないと思います。

西村)なぜですか。

釜石)停電が長期にわたる場合もあるからです。昨年の台風では停電被害もあり、一週間以上停電した地区もありました。
災害に備えるなら、一週間分でも十分ではない。私は10日以上を過ごせる備えを提案しています。

 
西村)地震だと、電柱が倒れてしまう危険性もありますね。
 
釜石)電柱が倒れたり、電線が切れたらそこを直せばすぐ復旧しますが、南海トラフ地震が起きて、大きな揺れや津波が来ると、大阪湾の沿岸部の火力発電所が被害を受ける可能性があります。
発電所が被害を受けると、電力融通や計画停電をしても、完全普及するまでは一か月以上かかることが多いんです。

 
西村)東日本大震災の時も計画停電がありましたね。
やはり十分な食べ物を備蓄しておかないといけないと思います。我が家は4人家族なんですが、4人の10日間分の食料を置ける場所がないです。どうやって10日分の食料を備えたら良いのでしょうか。
 
釜石)備える食料のイメージですが、災害非常食を買わなければいけない、というわけではないんです。災害時しか食べないものは備蓄をしない方が良いです。
 
西村)そうなんですね!ではどんなものを用意したらいいですか。
 
釜石)「主食のローリングストック」というやり方があります。10日分の必要な量を調べておいて、保存している量がなくなってきたら、次のものを早めに買い足すんです。
例えば一人分の1日の食事について、朝は蒸しパン、お昼にパスタ、夜にご飯とします。朝の蒸しパンというのは、ホットケーキミックスに水を入れて蒸しパンを作ることができるのですが、一食50g、お昼はパスタ100 g、夜は米100g。
一人分の10日分を考えると、ホットケーキミックスは500g、 パスタと米は1kgということになりますね。
これが4人家族であれば、米の場合、残り4kgになったら、5~10kgを買い足すようにすると、常に10日分の主食をキープすることができます。

 
西村)それなら普段からやっていますが、4kgになったら買い足すというところまでは考えていなかったです。
毎日ホットケーキミックスだとちょっと飽きてしまいそうなので、例えばシリアルでもいいですか?
 
釜石)シリアルならガスも使いませんし、経済的で良いですね。
 
西村)我が家で備蓄しているものは、小麦粉、米粉、お好み焼き粉、乾麺ならパスタ、うどん、蕎麦、ラーメンなどがあります。
ホットケーキミックスがなくても、小麦粉と砂糖とベーキングパウダーを混ぜ合わせるとホットケーキを作ることができますよね。
 
釜石)もちろんそうなんですが、ホットケーキミックスに水を入れて蒸すと蒸しパンができるんです。これなら、男性でも子どもでも手軽に蒸しパンを作ることができます。
 
西村)なるほど。私が仕事に行っている時に家族が地震にあって、私が帰れない状況で夫に一人でご飯を作ってもらう場合は、より簡単な方がいいですもんね。
 
釜石)災害時や非常時でも料理は女性の役割という暗黙の了解がありますが、奥さまが帰って来られなかったり、怪我をしてしまった場合に、その家族が食事が取れなくなってしまうと大変です。
みんなが食事を作ることができるようにしておけば、家族の防災力を高めることになると思います。

 
西村)普段お料理をしてない方は、積極的に簡単な料理を学んでいただきたいと思います。
簡単な料理をするためには、ガスコンロやIH コンロが止まってしまうと困ります。何かいいものはありますか。
 
釜石)カセットコンロですね。防災セミナーに来られる方でも1~2割持っていない方がいるんです。
在宅避難で電気・ガス・水道が止まると、お湯を沸かすにもカセットコンロが必要。カセットコンロを備えることから在宅避難の準備をして欲しいですね。

 
西村)カセットコンロを使ってお料理をする場合、断水していたら、できるだけ水を使いたくないし、洗い物も出したくないですよね。何か工夫できることはありますか。
 
釜石)オススメしているのが、ポリ袋調理という方法です。湯銭ができる袋に食材を入れて、鍋に水を入れて、カセットコンロで湯銭すると暖かい料理ができます。

 
西村)先ほどおっしゃっていたホットケーキミックスで作る蒸しパンも、このポリ袋で作ることができるんですか。
 
釜石)はい。ホットケーキミックスに水を入れてよく揉んで、ポリ袋に入れて30分湯煎すると美味しい蒸しパンができます。

 
西村)普段料理をしない私の夫でもできますか?
 
釜石)私ができたので大丈夫だと思います(笑)。私も普段料理をしないので、家内がもし怪我をしたり、帰ってこられなくなったらどうしようと考えます。
主婦の方は、カセットコンロがあれば、フライパンや鍋を使って料理ができますが、私のように普段から料理をしない人は難しい。
ポリ袋調理なら、材料を入れて湯煎をするだけでできあがります。
栄養素が逃げない、米も炊けるし、ホットケーキミックスの蒸しパンなどいろんなものができますよ。

 
西村)主食だけではなく、ほかのものもできますか。
 
釜石)例えば、肉じゃが、カレー、卵焼き、かぼちゃの甘煮、煮魚などもできます。煮物・蒸し物・鍋物・汁物だったらなんでもできます。
 
西村)ポリ袋はどんなものを使ったら良いのでしょう。
 
釜石)湯煎用のポリ袋というものが市販されています。
 
西村)スタッフが実物を用意してくれました。高密度ポリエチレンで、耐熱110度となっています。半透明でカサカサしていますね。
 
釜石)時短料理として広まっていたポリ袋調理が災害も使えるということで、今セミナーでもご紹介をしているんです。
 
西村)湯煎用の水は、きれいな水の方が良いのですか。
 
釜石)中に入れる水は飲料水でなければなりませんが、鍋に入れる水は、お風呂の水など飲めない水で構いません。繰り返し使っても大丈夫です。
 
西村)それなら、水の節約にもなりますね。
スタッフが実際にご飯と蒸しパンを作ってきてくれたので、いただいてみます。まずはご飯から。見た目は炊飯器で炊いたご飯と一緒です。(試食して)とてもおいしいです!普段のご飯と変わらないですね。
災害時は、同じものをずっと食べると飽きてくるので、ふりかけがあったらいいなと思いますね!蒸しパンも美味しい!
 
釜石)蒸しパンは、できたものにマーガリンやジャムをつけて食べても美味しいですし、レーズンやチーズや味噌、缶詰のツナを入れてから湯煎をして蒸しパンを作るととても美味しくて、しっかりした主食にもなりますよ。
 
西村)このポリ袋調理、ご飯と蒸しパンの袋をそれぞれ一つのお鍋に入れて、30分で出来上がります。
釜石さんの著書の中に「蒸しパンパーティー」の話も載っていましたね。
 
釜石)あるマンションで開催したセミナーの時に、奥さま方が10種類ぐらいのトッピングをした蒸しパンを持ち寄って、
子どもを集めてどれが美味しいか人気投票をしたんです。
セミナーに出ていない子どもの親御さんたちも関心を持って、やり方を覚えてくださいました。

 
西村)マンションや自治会で、ポリ袋調理実習を取り入れても良さそうですね。
 
釜石)そうですね。関心を持って、防災力を高めることができると思います。

 
西村)家にある缶詰やレトルト食品、乾物などをアレンジして、ストックの期間を伸ばすこともできそうですね。
 
釜石)セミナーでは今日から買い物をしないとして、今、自宅にある食材だけで何日分のメニューが作れますか?というワークショップをやっています。主婦の方は3~5日分ぐらいのメニューを考えてくれます。
災害用備蓄をしてなくても、普段から3~5日の備蓄の食料あるということになります。

 
西村)これからのシーズン、大掃除の時に食材の見直しをしつつ、このポリ袋調理を試して災害に備えるのもいですね。
 
釜石)今ある3日分ぐらいのストックを1~2日伸ばすことを考えて、スーパーに行った時に、缶詰やレトルト、フリーズドライの食品などを選んでいただいて、普段の食生活に使えるものを増やして欲しいですね。
 
西村)なるほど。災害食を備蓄しよう!肩肘はらなくてもいいということですね。
 
釜石)そうです。災害時しか食べないものは備蓄ないという方針を頭に入れておいてください。
 
西村)ポリ袋調理は洗い物もなくて良いですね。省エネにもなりますし。
 
釜石)普段、調理をしないご主人やお子さんにやっていただくと家庭の防災力は上がると思います。
 
西村)家族で楽しみたいなと思います。釜石さんの著書には、ほかにも役立つことがいろいろ書かれていますので、ぜひ読んでください。
タイトルは「マンション防災の新常識~逃げずに留まる『在宅避難』完全ガイド」。
出版社は合同フォレストで価格は1500円+消費税です。
 
釜石)より多くの方に見て頂き、今日話したような家庭の防災力を上げることに役立ててください。

 
西村)今日お伺いしたお話のほかにも在宅避難の対策、マンションの自治会のみなさんで考える対策、一戸建ての家でも参考になることがたくさん載っていましたので、ぜひ役立てていただきたいと思います。
今日は災害対策研究会主任研究員でマンションの防災に詳しい釜石徹さんにお話を伺いました。