第1288回「ハザードマップを見るポイント」
電話:アウトドア防災ガイド あんどうりすさん

西村)7月上旬は、毎年豪雨災害が起こる時期です。この番組ではよく「ハザードマップを確認してください」とみなさんにお伝えしていますが、実際にハザードマップを見るとよくわからないことがありますよね。
きょうは、ハザードマップを見るポイントをアウトドア防災ガイドのあんどうりすさんにお聞きします。
 
あんどう)よろしくお願いいたします。
 
西村)ハザードマップを見るポイントですが、自分の家が避難すべき場所にあるのかは、どこを確認して判断すれば良いですか。
 
あんどう)ハザードマップは、アウトドアをよくやっている私が見ても難しいです。まずは「深くて長いイクラ」を見つけてください。
 
西村)「深くて長いイクラ」?お寿司みたいですね(笑)。どういうことですか。
 
あんどう)内閣府の資料では、2つの条件が確認できれば、浸水の危険があっても自宅にとどまることも可能とあります。最初の条件は、家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないこと。「家屋倒壊等氾濫想定区域」はハザードマップで見ると「イクラ」のように見えることが多いんです。
 
西村)「家屋倒壊等氾濫想定区域」は具体的にどのような地域のことですか。
 
あんどう)2つあります。1つは、家屋の流出・倒壊をもたらすような洪水の氾濫流が発生するおそれがある地域。
もう1つが家屋の流出・倒壊をもたらすような洪水時の河岸侵食が発生するおそれがある地域。これは、地面が削られて、家屋が建物ごと崩落する恐れがあるということ。マンションでも土地が崩れてしまう危険があります。

 
西村)「家屋倒壊等氾濫想定区域」には洪水の氾濫流が発生するおそれ、河岸浸食が発生するおそれ、の2つがあるのですね。
河岸浸食というと、平成27年9月関東東北豪雨の鬼怒川の氾濫を思い出します。河岸浸食もイクラのような模様になっているのですか。
 
あんどう)地域によって違いがあります。河岸浸食だけタラコのような模様になっていることも。関西周辺でも模様が違っていて、枚方市や寝屋川市はイクラとタラコ。大阪狭山市は斜線の色違い。尼崎市は氾濫流が緑色のドットになっています。
 
西村)MBSラジオがある毎日放送の大阪市北区のハザードマップはどうなっているのか見てみます。淀川が氾濫した場合のマップには、タラコやイクラの模様や斜線ではなく、浸水の深さが示されていて、0.5m未満が黄色、一番深いところが5m~10mの濃いピンク色というグラデーションになっています。
 
あんどう)ハザードマップが新しくなっていない場所では、反映されてない場合もあります。
 
西村)「家屋倒壊等氾濫想定区域」が指定されていても、まだ書かれてない場合もあるのですね。
 
あんどう)国土交通省の「重ねるハザードマップ」というサイトに住所を入力すると書かれている場合もあります。市町村の情報になくても国の情報にはある場合があるので、1度調べてみてください。
  
西村)「家屋倒壊等氾濫想定区域」にはいっていた場合、マンションに住んでいる場合は在宅避難で大丈夫ですか。
 
あんどう)河岸浸食は岸が崩れてしまうので、マンションにいても危険な場合があり、避難が必要になる可能性が高いです。
 
西村)どんなタイミングで避難を始めれば良いのでしょうか。
 
あんどう)行政から警戒レベル情報が出されます。河岸侵食や氾濫流のイクラやタラコ模様になっている地域は、浸水すると逃げることもできなくなってしまうので、早めの避難が必要です。警戒レベル3ぐらいの段階で避難を検討してください。浸水が始まってからでは、家まで流されるような状況になり、歩いて動けなくなる可能性があります。球磨川の水害のときも、まるで津波のようだったというコメントがありました。早め早めに避難してください。
 
西村)「深くて長いイクラ」の1つ目の条件について話していただきましたが、2つ目は何でしょうか。
 
あんどう)2つ目は浸水の深さです。みなさんがハザードマップを見るときに最初に見る部分だと思います。
 
西村)一戸建てに住んでいて浸水想定1mの場合は、2階に避難すれば大丈夫ですか。
 
あんどう)2階建ての場合、3mまで浸水すると2階の床上浸水になるので、2階にとどまることはできなくなります。やはり早めの避難が必要。浸水想定が3mを超えるかどうかをチェックしてください。
 
西村)西日本豪雨のとき、真備町で自宅の2階に避難しなかった高齢者が1階で亡くなったということがありました。1階だけで生活しているお年寄りの方も多いと思います。浸水想定が2m程度の場合でも2階への避難を早く決断した方が良いのでしょうか。
 
あんどう)1階だけが浸水しても、家具が浮いてきて2階に避難できなくなることがあります。地震対策と合わせて家具は固定しておきましょう。夜寝るときに雨が降ることがわかっていれば、1階ではなく2階に寝る。大事なものを2階に上げておくことが必要です。実際に被災した人から冷蔵庫も浮くと聞きました。浸水したあとに家に戻ったらいろんなものが全く違う位置にあったという話も。
 
西村)我が家の場合、子どもを2人を抱きかかえて、冷蔵庫を越えて2階に上がるというのはかなり大変だなと思います。足の不自由な方お年寄りも大変ですよね。家具固定や早めの避難が大事ですね。そして「深くて長いイクラ」の3つ目の条件は何でしょうか。
 
あんどう)3つ目は浸水継続時間といって、浸水している時間が長いかということ。
 
西村)浸水継続時間=水が引かない時間 は、どのように確認すれば良いのでしょうか。
 
あんどう)新しいハザードマップには、浸水継続時間も一緒に書かれています。0m地帯である東京の江東5区のハザードマップには、2週間水没するということがわかりやすく書かれています。
 
西村)2週間...長いですね。浸水継続時間が書かれていないハザードマップの地域の人たちはどのように調べたら良いですか。
 
あんどう)大阪周辺のハザードマップには、浸水継続時間がまだ書かれていないことが多いのですが、国土交通省のHPには書いてありました。摂津市は2週間ぐらい水没する可能性があるという想定にはなっています。2週間水没となると、半月ぐらいの備蓄が必要。東京の江東5区では、都市部で人口が多いので、体調が悪くなっても救助に行くことができないという想定が出されています。
 
西村)半月分の備蓄と聞いただけでハードルが高いですね。コロナ禍で体調不良になる可能性も高いのに、救助に来てもらえない可能性が高いのですね。本当に在宅避難で大丈夫かなと思います。
 
あんどう)水没時間が長い江東5区では、江東5区外の安全な他府県へ逃げましょうという広域避難計画が出されています。
 
西村)急に親戚の家や実家に避難させてもらうのは、コロナ禍で難しい場合もあると思うので、今のうちから相談しておくことが大切ですね。まずは浸水継続時間を調べてみましょう。
おさらいをすると、まず自分の地域が浸水の危険がある地域に入っていないかを確認。入っていた場合、家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないかを確認。
2つ目は、浸水の深さより、普段過ごしている部屋の位置が高いかどうか。
3つ目は、水や食料の備えが十分であるか。水が引くまでの時間は、浸水継続時間を調べるとわかります。
この3つを確認できたら、浸水の危険がある地域に住んでいても家にいても良いということになります。
 
あんどう)浸水継続時間内を耐えうる備蓄があるということが基準になります。
 
西村)家族と相談して考えて決めておくことが大事だと思いました。
1000年に一度の大雨や淀川があふれるなどは、滅多にないのではと思うのですが、これについてはどうですか。
 
あんどう)川ごとに想定雨量が決まっています。淀川は総雨量360mm、武庫川は総雨量511mmなどの川ごとの想定を超えたら1000年に一度の雨といわれます。天気予報などで雨の量を確認して判断する方が良いです。
 
西村)避難を決断できないという人も多いですよね。なぜ人はなかなか避難を決断できなのでしょうか。
 
あんどう)西日本豪雨のときに国土交通省が調べたら、さまざまな理由がありました。「周りの人が避難してなかったから」という意見が多かったです。ほかには「パートナーが理解してくれない」「ペットがいるから」「冷蔵庫の中身が気になるから」など人によってさまざまです。
 
西村)それぞれ理由があるのですね。でもそういう人たちも危険に晒されます。避難したがらない人にどうやって避難を促せば良いのでしょうか。
 
あんどう)パートナーがなかなか納得してくれない場合、データ重視の人なら、あらかじめいろんなデータを見せるのも良いですね。防災科学技術研究所の「防災クロスビュー」というサイトでは「大雨の稀さ情報」というのを出しています。今まであまり雨が降っていない地域に多く降ると大災害になります。その稀さも計算値に入れたりして、危険を判断しています。そのような具体的なデータを見せて、あらかじめどの時点で避難するかを考えておくのも良いと思います。
 
西村)楽しみを作るというのも一つの方法ですね。
 
あんどう)ワインの美味しい宿泊施設を見つけるなど、楽しい旅行計画だと思ったら避難できるという人も。旅のしおりを作って、避難するタイミングや避難場所の計画を立てるのもいいですね。
 
西村)これから雨も続きます。いろいろと家族で相談しながら計画を立てておくのも楽しみのひとつになるかもしれません。
きょうは、ハザードマップ込めるポイントについて、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんにお話を伺いました。