第1284回「コロナ自宅療養者の避難~大阪市の場合」
取材報告:亘 佐和子プロデューサー

西村)きょうは、「コロナ自宅療養者の避難」続編です。亘記者のリポートです。
 
亘)国の「防災基本計画」が改定され、「各自治体はコロナで自宅療養している人の災害時の避難先を確保しなさい」ということが盛り込まれました。先週の根本さんのお話では、「自治体ごとにコロナ感染者の避難計画があるので、それを事前に把握しておいてください」ということでした。そこで大阪市はどうなのか調べてみました。
  
西村)大阪のように感染者が増えて自宅療養者が多い都市部と、地方では事情が違いますよね。
 
亘)大阪は第4波で、全国で一番医療体制が逼迫しました。今も緊急事態宣言が継続中です。現在、自宅療養者・待機者(入院待ちなど)などの数は大阪府で約6000人。感染者が一番多かった5月中旬は、1万8000人を超えていました。この時期はコロナ陽性が判明しても入院できるのは約1割。ホテル療養は1割もいなくて、残りの8割以上が自宅療養だったんです。
 
西村)ほとんど自宅療養だったのですね。
 
亘)では、自宅療養の人は風水害のとき、どこに避難するのか。ここからは大阪市のケースを紹介していきます。
まず、ハザードマップで浸水想定区域に入っていない地区の人は在宅避難です。浸水想定区域であっても、マンションの上の階なら在宅避難。自分の家が浸水区域にあって危ない人は、大阪市の場合は、「宿泊療養施設(ホテル)に行く」というのが基本です。大阪府はコロナ感染者の療養のためのホテルを15ヶ所(部屋数は約4000室)を確保しています。

 
西村)結構多くの部屋をキープしてくれているんですね。
 
亘)15のホテルのうち、14は大阪市内にあります。大阪市のコロナ自宅療養者で浸水想定区域に住んでいる人は、区役所からの案内されるホテルに移ることになります。
 
西村)どのホテルに行くかは、指示してもらえるのでしょうか。
 
亘)はい。あらかじめ「自分は自宅療養しているけど、いざというときは宿泊療養施設に移動したい」と区役所の担当課に連絡し、登録しておきます。
 
西村)ということは、自分でハザードマップを見て調べて連絡しておかないといけないのですね。
  
亘)区役所から「あなたは危険なところに住んでいるので避難してください」とは言ってくれません。区役所は、大きな風水害で警戒レベル3以上が発令される可能性があるときに、前日までに、該当者に避難先のホテルを案内してくれるという仕組みになっています。
 
西村)他の人に感染を広げないように、どのように移動するのですか。
 
亘)大阪シティバスが迎えに来てくれます。区ごとにバスが来る時間と場所を自宅療養者に知らせてくれます。バスの乗車場所までは自力で行かなければならないのですが、そこからバスに乗って宿泊療養施設まで行けます。
 
西村)そんなにうまくいくのでしょうか。
 
亘)大阪府はコロナ療養のためにホテルの部屋を約4000室確保しているのですが、今月に入ってからは約1割しか使われていないのです。先月の大変な時期でも、半分ぐらいの使用率でした。問題はそのコーディネートをする保健師や自治体職員の手が回っていないことにあります。だからホテルにも案内されず、自宅療養、自宅待機のままいるという人が続出したのです。4月にコロナに感染した大阪市内の20代の女性に話を聞くことができましたので、お聞きください。
 
音声・女性)陽性が判明したのが4月17日で、そこからずっと自宅で待機していました。2~3日たっても連絡が来なかったので、大阪市の保健所と区民センターに連絡をしました。区役所の担当者に「高齢者や基礎疾患のある人から順番に対応しているので待っていてください」と言われて。私は20代なのでもう少し時間がかかると。
 
音声・亘)その間、体調はどうでしたか。
  
音声・女性)4日目ぐらいから味覚がなくなってきて。そのうち嗅覚もにぶくなり、匂いと味がわからない状態が3~4日ぐらい続きました。
  
音声・亘)そういう状態でもなかなか連絡は来なかったのですね。
  
音声・女性)7日間連絡がなかったです。私は、家族と同居しているので、家族にうつすことを一番避けたかったので、本当は早い段階で連絡が来たら、すぐに宿泊療養を希望する予定だったんです。連絡が来たのは感染がわかってから7日目だったので、担当者の方も「今から宿泊療養してもしょうがないですよね」という雰囲気で。私も宿泊療養はもういいと思ったので、そのまま自宅で療養することにしました。
 
音声・亘)水害時の自宅療養者の避難先について、考えたことはありましたか。
 
音声・女性)考えていませんでした。疫学調査を受けたときもそのような話は一切されませんでした。家の近くに寝屋川があって、先月末の豪雨のときに危険だったので、母と「危ないね」という話をしていたんです。コロナ療養時期と重なっていたら、どうしたらよかったのだろうと思いました。

 
西村)全然計画通りに行ってないのですね。7日間ほったらかされて不安だったでしょうね。
 
亘)すごく不安だったと言っていました。彼女が療養していたときには、大阪は感染者が多すぎて、保健所が連絡すらできなかったんです。ハザードマップを見てみると、彼女の家は、寝屋川が氾濫すると、1 ~2m浸水するエリアでした。寝屋川は、先月21日の朝に氾濫危険水位に達し、気象台が「氾濫危険情報」を出しました。氾濫危険水位になったときは、排水できそうだったので「高齢者等避難」や「避難指示」を出すには至らなかった。でも、レベル3「高齢者等避難」が出る一歩手前だったのです。
 
西村)避難所開設の一歩手前だったのですね。
 
亘)療養期間と重なっていたら大変だったと思います。
 
西村)もし1~2m浸水したら、玄関の扉の上ぐらいまで水が来て、避難もできないですね。
 
亘)大阪市の担当者に聞くと、今は自宅療養者も減って落ち着いてきているので、計画通りにできると思うという話でしたが、台風シーズンになると、保健所や区役所に問い合わせが殺到することは想像がつきます。計画通りにいくのか心配ですね。
 
西村)濃厚接触者の人たちは、どこに避難すれば良いのでしょう。
 
亘)そもそも濃厚接触者の人数がきちんと把握されていないのですが、感染者よりも多いことが予想されます。濃厚接触者の人は、感染している可能性もあるし、感染していない可能性もあるため、14日間の外出自粛となります。濃厚接触者になったら、ハザードマップで自分は避難が必要なのかをまず確認します。大阪市の場合は、各区に1ヶ所以上、濃厚接触者向けの避難所を用意しています。
 
西村)濃厚接触者専用の避難所があるのですね。
 
亘)一般の避難所とは別にあります。場所を聞いたところ、公表しないとのことでした。そこに避難してくる人へのいやがらせやトラブルが起こる可能性があるからです。濃厚接触者で自宅以外の場所に避難したい人は、区役所に意向を伝えておかないといけません。自分から伝えた人には警戒レベル3以上の避難情報が出されそうなときに、区役所がメールや電話で、区内の濃厚接触者用の指定避難所、必要な持ち物などを連絡する仕組みになっています。そこで初めて濃厚接触者用の避難場所がわかるのです。
 
西村)この場合は、どうやって移動するのですか。
 
亘)バスは迎えに来ないので、自力で歩いて避難することになります。避難所が遠い場合は、公共交通機関を使うのもやむを得ないということです。
 
西村)濃厚接触者は、避難所で感染する可能性もありますよね。
 
亘)濃厚接触者用の避難所の感染防止対策は、一般の避難所と変わりません。密にならないように距離を取る、間仕切りをつくる、マスクの着用、手洗い、消毒、検温が基本です。先ほどインタビューで紹介した女性の家族は全員陰性だったのですが、濃厚接触者用の避難所があることは知らなかったそうです。 
  
西村)知らずに一般の避難所に行く人もいるでしょうね。
 
亘)間違って行っても、濃厚接触者だからと追い返されたりはしません。命を守ることが最優先です。時間に余裕があれば、市の職員が誘導して、濃厚接触者用の避難所に案内することも。時間がない場合には、避難所の中で別室を用意することになると思います。
  
西村)コロナに感染しているかどうかはわからないけど熱がある人は、一般の避難所に行ってもいいのでしょうか。
 
亘)体調不良の人のための避難所はないので、一般の避難所に行ってください。検温して熱があれば、一般の避難者とは別の部屋に入ります。避難所に行ってから発熱する人も別室になります。
 
西村)その都度、対策はあるので、遠慮せずに危ないときは避難所に行く方が良いのですね。
 
亘)自分の命を守るために何をすべきかを情報収集して、最善の手段をとるということが基本ですね。
 
西村)自分の体調が悪いとき、周りに体調が悪い人がいるとき、そのことだけで頭がいっぱいになりますよね。やはり準備は必要ですね。
 
亘)元気なうちに考えておかないといけませんね。ハザードマップをチェックして、自分の家の浸水リスクを知っておきましょう。大阪市内では、淀川、寝屋川、大和川が氾濫した場合、それぞれの浸水想定が異なります。高潮のケースもあります。それぞれのケースについてハザードマップがあるので、確認しておいた方が良いです。浸水の危険区域にある自宅で療養しているなら、区役所に「いざというときは宿泊療養施設(ホテル)を紹介してください」と伝えておきましょう。避難計画はあっても、その通りにいくとは限りません。自分できちんと情報を取っておくことが大切です。自宅療養というのは、水害のときだけではなく、そもそも容体急変時に危ないので、なるべく病院や療養施設に入れるように、行政には病床確保をしてもらいたいですね。保健所から連絡がこなくてほったらかされる人がいないように、行政は体制を整えてほしいと改めて思いました。
 
西村)まだまだ知らないことがたくさんあるのですね。自分でできることはしっかりと準備して、伝えていくことが本当に大切だと思います。亘記者のリポートでした。ありがとうございました。