ゲスト:NPO法人「日本トイレ研究所」代表理事 加藤篤さん
西村)関西でもたびたび地震が起こっていますが、みなさんはトイレの備えをしていますか。
きょうは、災害時のトイレ問題に取り組んでいるNPO法人「日本トイレ研究所」代表理事 加藤篤さんにお話を伺います。
加藤)よろしくお願いいたします。
西村)「日本トイレ研究所」を設立したきっかけや経緯についておしえてください。
加藤)排泄は人間の生命や尊厳に関わる大切なこと。デリケートな話題で声に出しづらい問題でもあります。子どもの排泄、災害時のトイレ、街中のトイレのバリアフリーなど「トイレ」という切り口で、社会をより良くしていきたいという思いで取り組んでいます。
西村)トイレは生きるために欠かせないものですよね。災害時のトイレ問題はどんなものがありますか。
加藤)大きな災害が起きると、停電、断水になり、水洗トイレの多くは使えなくなってしまいます。
西村)なぜ使えなくなるのですか。
加藤)水洗トイレは、レバーをひねれば全てを解決してくれるものですが、電気も流す水も必要です。さらに排水管、下水道、浄化槽など汚水が流れていく先もしっかり機能していなければ使えません。
西村)災害時には、お風呂に溜めた水をトイレに流すと良いと聞いたことがあります。
加藤)大きな災害が起きた直後は、状況が把握できるまで一旦トイレの使用を控えましょう。なぜなら無理に流すと、下の階の人に迷惑がかかるかもしれないからです。
西村)下の階はどうなってしまうのでしょうか。
加藤)もし地盤沈下が起きて、排水管の先が潰れていたら、みんなが水を流すと汚水の行き場がなくなって、逆流して、1階のトイレから溢れることも考えられます。わかる範囲で確認することが必要です。
西村)「震度5以上はトイレの水を流さない」などの線引きはあるのですか。
加藤)建物の古さ、設備、耐震化の状況、建物が建っている場所の地盤によっても影響が異なります。一概には言えませんが、状況がわからないときに、トイレの水を流すのは控えた方が良いです。
西村)東日本大震災のときもトイレ問題はありましたか。
加藤)水洗トイレが使えなくなり、たくさんの人が困りました。トイレが使えなくなっても排泄は必要。過去には、災害後3時間以内に約4割の人がトイレに行きたくなったというデータがあります。水も飲めない、食事もとれない状況で、自分の命を守り、安全な場所に避難している中で、4割の人がトイレに行きたくなるのです。すごく早い段階でトイレ対応をしなければならないのですが、水洗トイレは使えません。水が流せなくなった便器に排泄せざるを得ないので、あっという間に大小便で満杯になり、不衛生になってしまいます。
西村)溢れてきてしまいますよね。
加藤)バケツや衣装ケースに排泄した人もいると聞きました。
西村)臭いも広がるし恥ずかしいですよね。
加藤)排泄するのも見られるのも運ぶのも嫌ですよね。トイレが不衛生になると感染症が広まります。トイレが不便になるとトイレに行かなくて済むように、水分を取ることを控えてしまいます。そうなると脱水します。ただでさえ体調が良くない状況で、水分を取らないでいると脱水を起こして、エコノミークラス症候群になってしまいます。
西村)熊本地震で車中泊をした人が長時間同じ体勢でいたことにより、エコノミークラス症候群を発症したという話もありました。
加藤)窮屈な姿勢で水分を取らずにじっとしているのはよくありません。災害時でもしっかり水分を取って、歩いてトイレに行くことがエコノミークラス症候群の予防になります。安心して行けるトイレをしっかり確保することが必要です。
西村)やはり災害時のトイレを準備しておくことが大事ですね。避難所には仮設トイレが整備されるのではないのですか。
加藤)市町村が避難所に仮設トイレを配備してくれますが、災害時のトイレは何で運ぶと思いますか。
西村)トラック?
加藤)そうです。災害時は、地盤沈下、建物倒壊、火災発生で大混乱。帰宅困難者もいて、トラックが通る道路がどうなっているのわかりません。広域な災害になればなるほど、各地で仮設トイレが必要になります。数も間に合いません。東日本大震災のときに被災した自治体29市町村にとったアンケートでは、3日以内に仮設トイレが行き渡ったところは34%。4日以上かかったところが7割。最も日数がかかったところは65日でした。
西村)2ヶ月以上!その間、バケツや衣装ケースなどをトイレとして使っていたのですか...。
加藤)少しずつ届くので、全体に行き渡ったのが65日ということです。
西村)でも行列もできるでしょうし、仮設トイレは、狭くて段差もあるのでお年寄りや子どもは使いにくそうですね。
加藤)仮設トイレは、工事現場などで使うために開発されているので、子どもやお年寄りにとっては使いづらいです。障がいがある人は使えない。
西村)目が不自由な人も使いづらいですよね。本当にトイレは大事ですね。
加藤)国土交通省は、仮設トイレの中でもワンランク上の仮設トイレのことを「快適トイレ」という名称に定めています。洋式で電気もついていて、サニタリーボックスも設置されている使いやすいトイレのことです。災害時に仮設トイレを調達するときは「快適トイレ」を依頼することも必要です。
西村)コロナ禍もあって、自宅や車中避難が主流になっています。私たちはどんな備えをすれば良いのでしょうか。
加藤)トイレに大切なことは安心です。真っ暗闇の中、雨が降っている中、エレベーターが止まっているときなどに外のトイレにいくのは大変。自宅のトイレを有効活用しましょう。そのときに便利なアイテム携帯トイレです。携帯トイレとは、袋式のトイレのことで、自宅の便器に取り付けて排泄し、袋の中に吸収シートや凝固剤を入れて、大小便を固めるものです。そうすることでいつもと同じように自宅のトイレで排泄することができます。建物が大丈夫なら、携帯トイレを備えておくことで自宅での避難生活が継続できます。これはとても大事なこと。
西村)携帯トイレは100円均一でも見かけます。いくつぐらい用意しておくと良いのでしょうか。
加藤)一度、1日にトイレに行く回数を数えてみてください。
西村)1日何回くらい行っているかな...?
加藤)人によって異なると思いますが、自分がトイレに行く回数を知っておくことが大事。目安としては、1人1日約5回×最低で3日分。できれば7日分あると良いと思います。
西村)ということは15回×家族分ということですね。量も多いですし、値段も高くなりそうですね。
加藤)安心してトイレを使えなければ、水も飲めなくなってしまう。そう考えると1個あたり100~200円で安心を確保できるのならリーズナブルなのでは。
西村)携帯トイレを使った後は、どのように捨てたら良いのでしょうか。
加藤)基本的には燃えるゴミとして捨ててください。市町村によって異なるので確認してみてください。
西村)携帯トイレは蓋付きのゴミ箱に入れる方が良いでしょうか。
加藤)はい。大小便が入っているので、どうしても臭いがします。庭やベランダなど生活空間と離れたところに、蓋付きの容器に入れて、雨や日光が当たらないように保管してください。
西村)我が家では、携帯トイレ以外にも、使えなくなった子どものオムツやペットシーツ、猫のトイレ用の砂なども活用しようと思っているのですが、それらは使っても良いですか。
加藤)人の排泄物なので、オムツは代用できると思います。基本的には、人が使っているもので代用する方が良いですね。
西村)トイレットペーパーも要りますよね。どれぐらい備蓄したら良いのでしょうか。
加藤)トイレの回数と同じで、1回当たりどのくらい使うのか、一度手に巻き取ったトイレットペーパーを伸ばしてみてください。それを測った長さ✕回数✕日数を出すと、1ヶ月でどのぐらい要るか計算できます。人によって安心できる量は変わると思いますが。
西村)実際にやってみたいと思います。災害時のトイレ対策として、私たちが今すぐできること、今すぐやっておいた方が良いことは何ですか。
加藤)まずは家族や会社の人、友人と災害時のトイレについて話すことが大事。その上で、自分の排泄を知ることが大事なので、トイレに行く回数を数えたり、トイレットペーパーの長さを測ったりしてみて、携帯トイレやペーパーを備えることは絶対必要です。
西村)停電してしまったらウォシュレットも使えなくなるから、その分トイレットペーパーも多く必要になりそう。多めに備えておくことも大切ですね。
加藤)トイレは窓がない場合が多いので真っ暗になります。空間全体を照らしてくれるランタン、両手が空くヘッドライトなどの照明も備えておいてください。
西村)ライトは、枕元には置いていましたがトイレには置いていませんでした。トイレにもランタンやヘッドライトを準備したいと思います。
きょうは、災害時のトイレ対策について、NPO法人「日本トイレ研究所」代表理事 加藤篤さんにお話を伺いました。