第1369回「阪神・淡路大震災28年【2】~『1.17のつどい』が3年ぶりの通常開催へ」
ゲスト:NPO法人「阪神淡路大震災1.17希望の灯り(HANDS)」代表理事 藤本真一さん

西村)1月17日で阪神・淡路大震災から28年を迎えます。近年、新型コロナなどの影響で規模を縮小していた追悼行事「1.17のつどい」が3年ぶりに通常規模で開催されることになりました。
きょうは、「阪神淡路大震災1.17のつどい」実行委員長の藤本真一さんにお話を伺います。
 
藤本)よろしくお願いいたします。
 
西村)藤本さんは10歳の時に阪神・淡路大震災を経験したそうですね。
 
藤本)神戸市・北区に住んでいたので、直接的な被害はなかったのですが、祖父・祖母が三宮に住んでいたので、当時のことはよく覚えています。
 
西村)おじいさんとおばあさんは無事だったのですか。
 
藤本)無事でした。
 
西村)藤本さんは地震後、北区の自宅からお父さんと一緒に神戸市内のおじいさんとおばあさんのところに行ったのですね。
 
藤本)家族に大きな地震を経験した人がいなくて、状況を理解することができませんでした。震災直後に実家からおじいちゃんとおばあちゃんの家に電話したら、想像以上に大変なことになっていて。朝の7時ぐらいに車を出して、三宮の中心街に迎えに行きました。街はぐちゃぐちゃ、道は波打っていてビルが傾いていたのを覚えています。その後も父はよくわたしを被災地に連れて行って、「このようすをよく覚えておけよ」と言っていました。当時はあまり理解できなかったのですが、父はこれだけの災害を見せておいて損することはないだろう、と意識的に見せていたそうです。
 
西村)その経験が今につながっているのですね。
 
藤本)わたしもこれだけ長い間活動するとは夢にも思っていなかったです。
 
西村)現在38歳の藤本さんは、若くしてこの震災の活動に携わってきたのですね。
 
藤本)この活動に携わるようになったきっかけは、まもなく12年を迎える東日本大震災。津波で街が流されていくようすを見たときに、何かお手伝いできないかと。現在代表をつとめている団体をインターネットで見つけて、飛び込みで入りました。活動を続けるうちに東日本大震災や阪神・淡路大震災の被災地のようすが見えてきて、わたしなりにできることを細々と続けていると12年がたち自分自身でもびっくりしています。
 
西村)藤本さんが実行委員長をつとめる「1.17のつどい」。今年は通常開催になるとのこと。この「1.17のつどい」は、改めてどんな追悼行事なのでしょうか。
 
藤本)毎年地震発生日時の1月17日の朝5時46分を中心に、神戸市中央区にある東遊園地の公園で竹灯篭や紙灯籠を並べます。そこにろうそくで明かりを灯して、みなさんと一緒に追悼をします。そして、もう一つの大きな目的は、語り継ぎを行っていくこと。
 
西村)どんなことをしているのですか。
 
藤本)わたしたちがすることは、毎年みなさんが安全に来て、祈りを捧げることができる場所を作ること。毎年、あの場所に行けば誰かに会える、話せるということが大事だと思っています。「震災から何年~」と数字で表すことは簡単ですが。特にここ2~3年間は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、いつも通りに開催することが難しかった。遺族や震災で傷ついた人は、去年は行けなかったけど、今年だったら行けそうという人もたくさんいます。小規模でも続けることの大切さを先代から受け継いでいます。無理をせず、できる範囲で続けていこうと思っています。
 
西村)わたしも毎年参加しています。「今までは、当時のことを思い出すから辛くて家でテレビを見るだけだったけど、今年は勇気を出して来た」という人もいました。
 
藤本)人それぞれのタイミングがありますよね。20数年経ってもまだ気持ちの整理がついていない人もたくさんいます。今だからこそという人もたくさんいます。わたしたちは、あくまででもあの場所を残し続けて、そんな人たちがいつでも来られるようにしたいと思っています。
 
西村)藤本さんが「1.17のつどい」の会場に最初に行ったのは、何歳のときですか。
 
藤本)最初に行ったのは、東日本大震災の翌年の2012年です。それまでは、報道等で追悼行事が行われていることは知っていましたが、他人ごとでした。わたしのように、震災を経験した世代でも、"追悼行事の場所"という側面が強すぎて、一般の人は行きにくかったのかもしれません。
 
西村)わたしは、中学1年生の頃に大阪の東住吉区で阪神・淡路大震災を経験したのですが、そこまで大きな被害は受けなったので、被災してないのに行ってもいいのかな?と、「1.17のつどい」に行ったことがなかったんです。この番組に関わるようになり、初めて行ったときに震災で家族を亡くした人に話を聞きました。その人が「来てくれてありがとう、話を聞いてくれてありがとう」と言ってくれて。あの場所は、みんなが訪れていい場所、みんなが語り合えるきっかけとなる場所だと実感しました。
 
藤本)わたしは、被災の大小は関係ないと思っています。みなさん何かしらのダメージを負い、それぞれの想いを持ってこの20数年を生きています。その経験を今、あの場所で語り継いでほしいです。人間にとっての28年はすごく大きいもの。今だからこそ語れることをあの場所で語ってほしいです。震災の経験有無に関わらず来てもらえたら。
 
西村)象徴的なのが、竹灯籠と紙灯籠です。紙灯篭は若い世代の人もたくさん参加してメッセージを書いてくれていますね。今年も事務局にたくさん届いたそうですね。
 
藤本)竹灯籠は、竹を切り出して、運んで...と運営も大変。携わっているボランティアもたくさんいるので続けたいのですが、新型コロナウイルスの影響で竹が調達できないこともありました。そこで、「1.17のつどい」は、何が大事なのかと原点回帰しました。大事なのは、みなさんが来て、ろうそくを灯して祈りを捧げること。なにか違う形で灯すことができないかと、行き着いたのが紙灯籠です。紙灯篭のいいところは、誰でも参加できるということ。紙に文字や絵を書いて送るとそれが灯籠になります。神戸市内の小・中学校でも震災学習で紙灯篭が活用されていて、年々登録数は増えています。
 
西村)みなさん、どんな言葉を書いているのですか。
 
藤本)絵や文字などさまざまです。亡くなった人に手紙を書いている人も。東遊園地に行けなくても一緒に想いを共有できます。
 
西村)「1.17のつどい」は、神戸市の職員の方が竹灯籠を並べているのかと思っていましたが、市民が中心となって運営しているのですよね。
 
藤本)ここまでの規模で実施しているのは、全国でも神戸だけではないでしょうか。もちろん行政もサポートしてくれてはいますが、主体は市民。自由に枠にとらわれない活動を続けています。
 
西村)竹灯籠や紙灯籠で毎年文字を作って並べていますが、今年も全国にからたくさん応募があったそうですね。
 
藤本)みなさんの被災地への想いを一つの文字にして発信することによって、そのことを思い返すきっかけにしたい、とわたしが実行委員長になってから実施している活動です。年々応募も増えています。全国各地、北海道や沖縄からも届きます。阪神・淡路大震災の追悼行事ですが、みなさんの想いを文字に変えて届けてもらっています。近年、日本全国で災害が多い中で、他人ごとではないという気持ちあるのだと思います。
 
西村)去年は「忘れない」ということで、「忘」の漢字一文字でした。今年はどんな文字に決まったのですか。
 
藤本)今年は「むすぶ」という言葉に決まりました。
 
西村)これにはどんな想いがこめられているのですか。
 
藤本)今年は前向きな言葉が多かったです。いろんな場所を結び繋ぐという意味で、場所と場所、人と人、想いと想いを結んでいこうと。震災を語り継ぎ、伝えていかなければならないということで、今年はこの言葉を選びました。
 
西村)今年はこの「むすぶ」という言葉を大切に参加したいと思います。今年は3年ぶりに通常規模で開催されるとのこと。去年と比べて変わったところはありますか。
 
藤本)竹灯籠でかたどる文字のサイズが大きくなりました。この2年間は、みなさんの最善の場所で祈りを捧げてくださいと呼びかけていましたが、今年は、東遊園地に是非来てくださいと呼びかけることができることが大きな違いです。
 
西村)わたしも去年、一昨年とこのつどいに参加して黙とうを捧げました。コロナ禍でしたが去年もたくさんの人が来ていました。みなさんとって大切な場所なのだということを実感しました。
 
藤本)日常生活の中で突然自分たちの未来が変わってしまった震災と新型コロナウイルスの流行の状況が重なっているのかもしれません。震災後26年の年は例年の半分以下でしたが、去年は4分の3ぐらいには回復。それぞれに判断して、あの場所に来てくれていることはありがたいことです。
 
西村)神戸だけではなく、ほかの地域でも黙とうを捧げることができるのですね。
 
藤本)東日本大震災の被災地にも3ヶ所、希望の灯りがあり、東北のみなさんが毎年、自主的に祈りを捧げてくれています。西日本豪雨の被災地にもあります。東京にも、サテライト会場として追悼する場所を設けています。
 
西村)東京の日比谷公園でも久しぶりに開催されるのですね。
 
藤本)東京会場は、2年間開催できなかったので、再構築に苦戦していますが、今年は、9月1日で関東大震災から100年の年。阪神・淡路大震災は28年。72年後のことなんて想像もつかないですよね。大半の人はいなくなっていると思うのですが、わたしたちの目標は100年後もこのつどいが続いていること。100年のときは、わたしはいないと思いますが、小規模でもあの場所にみんなが集まることができるように、今から考えていかなければならないと思っています。東京会場もこれから規模を大きくしていきたいと思っています。
 
西村)東遊園地やさまざまな場所で祈りを捧げ、みなさんで一緒に想いを届けましょう。
きょうは「1.17のつどい」の実行委員長 藤本真一さんにお話を伺いました。