取材報告:番組ディレクター 新川和賀子
千葉)今月14日で、熊本地震が発生してから丸4年を迎えます。
熊本地震で多くの被災者が避難生活を送ったのが、車の中、車中泊でした。
新型コロナウイルスの感染が広がる今、災害が起きると、車中泊での避難生活を余儀なくされることも考えられます。そこで、きょうは、災害時の車中泊のリスクと備えについて、取材した番組ディレクターと共に考えます。
新川)4年前の熊本地震では、熊本県益城町で最大震度7を2回観測しました。指定避難所となっていた建物が一部、被災して使えなかったり、強い余震が何度も続いたために建物の中にいることに恐怖心を感じて、車の中で生活を送った人が多くいました。
千葉)私も熊本に取材に行きましたが、広い駐車場にずらーっと車中泊の車が並んだ状態でした。
新川)熊本地震のあとに文科省が被災者を対象に行ったアンケートでは、回答した半数以上の人が、避難場所に「車」を選んだと答えています。これは、指定避難所と答えた人の倍以上の数でした。
新川)車中泊は、おととしの西日本豪雨や北海道胆振東部地震の際にも見られました。
災害の時に、これだけ多くの人が車中泊を選択していますが、国が車中泊についてガイドラインを示していないこともあって車中泊について対策に乗り出している自治体は少ないのです。
行政側からすると、車中泊では避難者の場所や人数を把握できずに十分な支援ができないという問題もあって、被災者には指定避難所で避難生活を送ってもらうことが基本なのです。
千葉)現実には、車中泊をしている人が多いんですけどね。
新川)新型コロナウイルスの感染が広がっている今、災害が起きれば、その選択する人はもっと増えるかも知れません。
千葉)でも、車中泊というと頭に浮かんでくるのが「エコノミークラス症候群」。これが心配とよく言われます。
新川)2004年に起きた新潟県中越地震の時に大きく問題化しました。地元の医師の調査では、発災2週間で少なくとも6人がエコノミークラス症候群で亡くなっています。
狭い場所で長時間座ったままでいると、ふくらはぎの血の流れが悪くなって、血の塊、血栓ができやすくなります。その血栓が肺を詰まらせてしまうことがあります。血栓ができた段階では無症状のことも多いため、気づいた時には重症化してしまうこともあります。
熊本地震では、かなり当初から啓発活動がなされましたが、51人が入院を必要とするエコノミークラス症候群を発症して、5人が重症、そして50代女性1人の方が亡くなっています。
新川)今回、熊本地震の被災地でエコノミークラス症候群を防ぐための支援活動を行った医師を電話で取材しました。
新潟大学・特任教授で医師の榛沢和彦さんに、熊本地震の被災者の様子や車中泊で生じるリスクについて聞きました。
榛沢和彦医師インタビュー)
足が腫れていたり、胸が痛いという人が結構いました。車中泊で足を下ろして座っている時間が長いとか、足を曲げたまま寝ることが多いんじゃないかと思います。そうすると足の中に血栓ができてしまって、それが流れて肺に行くと肺塞栓。運が悪いと頭にいくこともあり危険です。地震の時には食料、水が足りなくなるので、脱水が重なってきます。脱水と足を動かさないことが重なり、さらに交感神経もたかぶっていますので、体の中に血栓できやすい状況が重なってしまっている。それが危険ということです。
千葉)頭にいくということは脳に血栓がいく、つまり、脳の血管がつまってしまうということ。怖いですね。
新川)災害時は水が不足していて、水分をとらない。そして、人は食事からも水分を半分以上とっているので、食事もきちんととらないと脱水状態になりやすいということです。
また、車中泊でトイレが近くになかったり、避難所のトイレが汚かったりすると、水分を控える傾向になってしまう。災害時は、血栓ができやすい状況が揃ってしまっています。
新川)車中泊の際、足の血流を悪くしないために気をつけておくことを医師の榛沢さんに聞きました。
榛沢和彦医師インタビュー)
足を下げて寝ると危ないのでなるべく上にあげること。なるべく足をフラットにして寝るということ。
それから、4~5時間に1回は車を出て歩くことが重要です。(歩く時間や距離の目安は?)ほんの少し、トイレに歩いていくぐらいで十分です。実際に、新潟県中越地震でもトイレに行っていた方はほとんど肺塞栓になっていない。なっていたとしても、命は亡くなっていないんです。
また、ふくらはぎをもむ。足の指でグーを握る。つま先を立てる。とにかく、足首の動きと足の指をぎゅっとにぎる、この二つの動きでだいぶ(血が)流れます。
新川)また、榛沢さんたちは、被災地で「弾性ストッキング」を被災者に配布しました。
手術をされたことがある方は使ったことがあるかもしれません。
圧迫力がある医療用のハイソックスで、血流がよくなって血栓ができるのを防ぐものです。
医療用の物が手に入らなくても、登山用やスポーツ用の弾力性のあるスパッツでもよいそう。
就寝時のむくみ防止用の「着圧ソックス」でも、効果は少し劣りますが、代用になるとのことです。
新川)こうしてエコノミークラス症候群はある程度予防できますが、特にリスクの高い人は、車中泊自体を避けた方がいい。
特に最近、手術を受けた人は、入院中に血栓ができていることがあります。特に、がんの方は足に血栓できることが多いということです。そして、妊娠中の人や出産したばかりの人。
それから、普段、立ち仕事をしている人。警備員、料理人、教師、美容師、理容師といった職業の方は、血栓ができやすいので、車中泊は避けた方がよいそうです。
千葉)高齢者もリスクが高いのでは?
新川)高齢者は、車中泊をしなくても元々、血栓がある人が一定の割合でいるそうです。もちろん、避けた方がよいのですが、高齢者は被災地でも意識して大事にされている場合が多い。むしろ急に血栓ができる、40代~50代くらいの中高年の方があぶない場合もあるということです。
千葉)リスクを減らして少しでも快適に車中泊をするには具体的にどうすればよいのでしょうか。
新川)車中泊の専門雑誌「カーネル」の編集部を、電話で取材しました。
「カーネル」編集部は、昨日、「災害時に役立つ車中泊ガイド」というムック本を発売。
元々は、レジャーとしての車中泊が近年、注目されていた中で専門雑誌がありましたが、最近は災害の時に車中泊をする人が多く、そういった時にも車中泊の知識を役立ててもらえればと、今回のムック本を出版されました。
新川)熊本地震の被災者も取材したカーネル編集長の大橋保之さんに、車で寝る時に気をつけることや役立つものを聞きました。
「カーネル」編集長・大橋保之さんインタビュー)
体をリラックスして寝ること、シートの凹凸をできるだけ平らにすること。足が下に曲がっているとエコノミークラス症候群になりやすいので、足も水平にする。
あとは、目隠しでかなり気持ち的に安心するんですね。
やっぱり外から丸見えだとなかなか安心できないので、そういったことに気をつけたり。
あと、寝るために必要なものが、よくホームセンターなどでも販売している「銀マット」。ちょっと厚みがあるものがよくて、寝る時に下に敷いたり、窓をふさいだり、いろいろ使えます。
あと毛布やタオル。シートの段差を埋めて平らにするのに使う。あとは、ひもか何かで窓に吊り下げる形で。やっぱり外から見られないことは重要だと思っています。
新川)お話に出てきた「銀マット」は、ホームセンターなどで売られている表面がアルミの銀色で裏が青いウレタンのもの。毛布やタオルでシートのすき間をうめて、その上に銀マットを敷くだけでもかなり、凹凸がなくなります。
他に、役立つ身近な物として、重要なのはやはり「携帯用トイレ」、そして水、非常食。清潔を保つウェットティッシュやトイレットペーパー、そしてライト。非常持ち出し袋と似ていますね。
家族の衣類も圧縮袋に入れて、車に積んでおくとよいそうです。
こういった荷物は、車のデッドスペースを探してふだんから積んでおくとよいとのこと。シートの下や床板を外したら小物入れがあったり、車には意外とデッドスペースがあるそうです。
年に1~2回は、荷物の確認をしてください。
千葉)車中泊と言っても車の種類も大きさもさまざまです。
やっぱり大きい車だと寝やすくていいですよね?
新川)そうとも限らないといいます。車中泊をするにあたっては、自分の車がどういう車か事前に知っておくことが大事だと大橋さんは話します。
「カーネル」編集長・大橋保之さんインタビュー)
自分の車が何人寝られるのか把握していない方が多いです。ただ大きければ寝られるのかというと、そうでない場合もあります。シートがどうか、荷物置き場のラゲッジに何人寝られるかとか。自分の車がどのくらいの大きさでどういったタイプでどういったシートアレンジなのかを事前にシミュレーションしておく。
例えば、軽自動車に寝られるのは4人家族ならがんばって2人かなと。
では、あとの2人は避難所に行くのか、簡易テントを積んでおいてそこに寝るのか。
事前にシミュレーションしておくことが大事です。
千葉)うちの車は5人乗りだけど、やっぱりがんばっても車中泊は2人ですね。
新川)最近では、アウトドアブームを受けて、ミニバン、中には軽自動車でもフルフラットになるシートの車種があったりします。逆に大きな車でも、シートが倒しきれなくて眠りづらいものもあります。
それから、乗車できる人数=寝られる人数ではないということ。もし、乗車定員なみの人数がどうしても車中泊をしなければいけない場合は、できる限り一泊程度にとどめてほしいということです。
新川)それから、車中泊でもうひとつ重要なのが、暑さ、寒さ対策です。
エンジンをかけっぱなしで寝るわけにはいかないので、エアコンが使えません。
冬はとにかく着込んで、窓からの冷気を毛布やシートでふさぐこと。
積雪がある時はエアコンを絶対に使わない。マフラーから排気ガスが逆流して一酸化炭素中毒の危険があるので、積雪の際はエンジンをかけないでください。
夏は、レジャーの場合は標高の高い場所、物理的に涼しい場所で車中泊を行うのが鉄則だそうですが、災害時はそうもいきません。
熊本地震の時は、窓を開けられるようにDIYで網戸を取り付けている人もいたそうです。
やはり熱中症になるとそれこそ命にかかわるので、夏は我慢せずにクーラーを。
夏の車中泊は正直、かなりきびしいものがあります。車中泊自体を見直す必要があるかもしれません。
新川)新型コロナウイルスの感染が広がる中で、災害が起きるかも知れません。
自宅避難ができれば一番だとは思いますが、車中泊が必要になることも考えてシミュレーションや準備をしておいてほしいと思います。