第1339回「夏のマスクと熱中症」
オンライン:名古屋工業大学 教授 平田晃正さん

西村)今年はコロナ禍で迎える3回目の夏。きょうのテーマは、夏のマスクと熱中症についてです。大阪では運動会や体育の授業で、児童・生徒が熱中症で倒れて救急搬送されるケースが相次いでいます。政府は、十分な距離が確保できる場合や会話を行わない場合は、屋外でのマスクは必要ないという見解を示しました。
きょうは、夏場のマスク着用と熱中症予防について、熱中症に詳しい名古屋工業大学教授 平田晃生さんに聞きます。
 
平田)よろしくお願いいたします。
 
西村)熱中症とはどのような病気なのでしょうか。
 
平田)熱中症は病名ではなく、体に熱がこもったときに起こるめまいや吐き気、頭痛などの体調不良の総称です。
 
西村)めまい、吐き気、頭痛は風邪の症状と同じですね。
  
平田)コロナや風邪の症状と熱中症の症状は似ていて区別がつきにくいです。
  
西村)熱中症とわかるポイントはあるのでしょうか。
 
平田)熱中症は、風邪とは異なり一時的なものなので、涼しいところで休むとすぐに回復する場合もあります。
 
西村)早い場合はどれぐらいの時間で回復するのですか。
 
平田)30分~1時間休むとすぐ治ることもありますが、日本の夏は暑いのでゆっくり休むことが大事です。
 
西村)コロナ禍の運動不足で体力が低下しているということもあります。熱中症は日本以外の国でもよくあることなのでしょうか。
 
平田)日本人以外には馴染みがないかもしれません。日本で熱中症が多い背景には、日本の夏が高温多湿であることや高齢化などあります。加齢に伴って汗をかきにくくなる、暑さを感じにくくなることからリスクが高まります。
 
西村)日本は湿度も高いですよね。
 
平田)湿度が高くなると汗をかいても蒸発しません。体をうまく冷やすことができなくなり、熱中症のリスクにつながります。
 
西村)日本以外でも熱中症が注目されている国はあるのでしょうか。
 
平田)最近では台湾で熱中症が注目されています。台湾はアジア諸国の中でも高齢化が進んでいて、コロナ禍で体力が落ちていることもあり、熱中症になる人が増えています。
 
西村)高齢者は特に注意が必要なのですね。
 
平田)年齢を重ねるごとにリスクが高まるということを意識しながら生活してほしいです。
 
西村)コロナ禍でマスクをつける暮らしに慣れてきていますが、夏のマスク生活は熱中症になりやすいのでしょうか。
 
平田)軽い運動、ウォーキングをしているときのマスクの着用・未着用の体温の違いはそれほど多くないという研究結果が出ました。体温の違いが見られるのは、マスクの周辺だけ。熱中症に関係がある体の深部の体温の変化は0.06~0.08度という小さい値でした。
 
西村)マスクをつけているから熱中症になるわけではないのですね。体温がどれぐらい上がったら熱中症になるのでしょうか。
 
平田)1度ぐらいです。体温が37~38度になるとリスクが現れます。マスク着用時の体温の変化は10分の1以下なので、マスク着用が熱中症の要因とはいいにくいです。日本の夏は、気温が高く、湿度も高い。そんな中でマスクをして運動をすると、リスクが高いところに不快感、少しの体温上昇が重なり、熱中症のリスクにつながります。無理をしないということが日本の夏の鉄則だと思います。
 
西村)そもそも暑いときに無理して運動しないほうが良いということですね。
 
平田)日本の夏は運動すると体に負担がかかります。コロナ禍で体力が落ちてきているので、無理に運動しないほうが良いです。
 
西村)子どもたちの学校でのマスク着用については、平田さんはどのように考えていますか。
 
平田)子どもは熱中症のリスクが高いハイリスク群。学校で集団行動になると、どうしても無理をしてしまう子どもが出てきます。
 
西村)子どもが熱中症のリスクが高いのはなぜですか。
 
平田)子どもは大人に比べて体型が小さいので、周辺の温度が上がると、大人と比べると3~5割体温が上がりやすい。子どもは集団行動になるとどうしても無理をしてしまいます。そのため学校では、集団で熱中症になることが多いです。周りが気配りをする必要があります。
 
西村)運動会や体育の授業では注意が必要ということですね。
 
平田)運動時、登下校時は、マスクを外しておいたほうがリスクの低減に繋がると思います。運動時はマスク不要ともいわれているので、無理をしないように指導をすることが大事です。
 
西村)息子が通う小学校でも先日、激しく体を動かす場合や屋外で距離が十分取ることができる場合、会話をしない場合はマスクを外しましょうということに。親御さんからも強く呼びかけてくださいというメールが来ていました。
 
平田)シンプルな言葉で伝えて、子どもが無理をしない環境を作っていくということが大事です。
 
西村)大人がマスクを外して歩いていると「マスク外そうかな」と思う子どもも増えるかもしれない。わたしも積極的にマスクを外そうと思いました。
 
平田)それで問題ないと思います。わたしもリスクがない環境では、最近はマスクを外すようにしています。
 
西村)今年の夏、私たちができる熱中症対策を教えてください。
 
平田)今年はコロナ禍で体力が落ちている中で迎える3回目の夏。今年が一番、熱中症になるリスクが高い可能性があります。
 
西村)それはなぜでしょうか。
 
平田)今までで一番体力が落ちている上に、集団行動をする機会も増えています。無理をすることが熱中症のリスクにつながります。
 
西村)今年は修学旅行や遠足も行われているので、テンションが上がることもありそう。無理をせずに今まで以上に熱中症の対策をしましょう。熱中症への備えはいろいろありますが、まずはどんなことをしたら良いのでしょうか。
 
平田)一番は水分補給。熱中症のもう一つの要因として脱水があります。マスクを着用していると喉の渇きに気づきにくいので、水分補給が減ってしまう人も多い。マスクをしているときに意識的に水分補給をするこのことで熱中症のリスクを下げることが必要です。
 
西村)どのようなタイミングで、どのようなものをどれぐらいの量、飲めば良いのでしょうか。
 
平田)活動によって異なるのですが、激しい運動をしてないときは普通の水で良いです。食事で大体の塩分は取れていることがほとんど。暑い時期にスポーツや労働をした場合は、塩分補給も重要です。激しく汗をかいたときには、水分+塩分も意識しながら水分補給してください。
 
西村)経口補水液やスポーツドリンク、水+塩飴などでしょうか。どのタイミングで飲むのが良いですか。
 
平田)喉が渇いたときに一気に飲んでも、体にはなかなか吸収されません。100~200mlをこまめに飲むと良いです。
 
西村)高齢者の水分補給で注意すべきポイントはありますか。
 
平田)高齢者は、喉の渇きに気づきにくいです。喉が渇いたと思うときにはかなり水分が失われていることも。年齢とともに一気に飲める量も減ります、30分~1時間おきに1~2口飲むだけでも効果があります。
 
西村)母が高齢になってきたので、親と一緒にいるときに積極的に水を飲むことを呼びかけようと思います。
 
平田)声掛けは熱中症リスクを低減する上で大切なこと。周りの人が水分補給やエアコンをつけることをお手伝いしてあげると良いですね。
 
西村)心掛けていきたいと思います。他の国ではそれほど熱中症の症状がないという話がありました。今月から海外の旅行者を受け入れることが可能になりましたが、外国人は日本人以上に熱中症に注意が必要なのでしょうか。
 
平田)日本人以上に訪日外国人への熱中症の啓発は大切。外国人の中でも寒い地域、冷帯・亜寒帯の地域の人は熱中症のリスクが特に高いです。人間は3歳ぐらいまでの環境で汗をかける量が決まります。人間の体は汗をかくことによって、汗が蒸発して熱を外に逃がすという仕組みになっています。そのため、海外の人は汗腺が少なく、汗をかく量に限界があり、熱を溜め込んでしまうことが熱中症のリスクにつながるのです。実験によると、気温30度、湿度60%(日本の初夏くらい)の環境なら、日本人や熱帯地域の出身者と比べて、冷帯地域出身者は体温が2倍程上昇することがわかりました。
 
西村)体温が2倍上昇するのはつらそうですね。日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトが調べたアンケート結果では、日本の夏を経験したことがある外国人の半数以上が熱中症を経験していると答えています。訪日外国人にはどのような啓発が必要でしょうか。
 
平田)日本の夏は湿度と気温がともに高いということをまず認識してもらうことです。
 
西村)観光する前にはどんなことをしたら良いですか。
 
平田)体調を整えること。海外からの旅行客は時差ぼけもあって、汗をかきにくい状態。しっかり寝て体調を整え、汗がかける体にしておくこと。または本国で歩いたり走ったりして、汗がかける状態で日本に来てもらうこと。これだけでかなりリスクが低減できると思います。
 
西村)日本に来る前に体力作りをしておくということですね。待ちに待っていた旅行が実現して、暑い中で無理をしてしまう可能性もあります。
 
平田)北欧の人は体温が39度近くあった場合も。熱中症になるリスクが高いので、呼びかけて注意をして、日本を楽しんでほしいですね。
 
西村)今月から訪日外国人の受け入れが可能になりました。体力作りや休養について声かけが大事だと思いました。日本に住むわたしたちも同じ。よく寝て、よく食べて、よく動くこと。体力をしっかりつけて、マスクを外すタイミング、水分を取るタイミングを考えながら、熱中症にならないように、この夏を過ごしていくことができたら良いですね。
きょうは、夏のマスクと熱中症対策について、名古屋工業大学教授 平田晃生さんにお話を伺いました。