第1233回「避難所を過密にしないために〜マンション住民の避難は?」
電話:災害対策研究会主任研究員 釜石徹さん

千葉)大雨による災害が心配な季節になってきましたが、新型コロナウイルスがまん延する中です。これから災害が起きると、特に人口の多い都市部は、避難所が人で溢れて過密な状態になることが心配されています。特に都市部の人が多く住んでいるのがマンションなどの集合住宅です。
大阪市内ではおよそ7割の世帯が集合住宅に住んでいます。
集合住宅、マンションに住んでいる人は、どう災害に備えればいいのでしょうか。
今日は災害対策研究会主任研究員、防災士でマンションの防災にたいへん詳しい釜石徹さんに電話をつないでお話をうかがいます。
釜石さんは、マンション防災士として、全国のマンションの管理組合や住民向けに、防災講演や研修をされていますよね。まず、マンションに住んでいる人は何から防災に手をつければいいんでしょうか。
 
釜石)まず、自分の地域の避難所について知って欲しいと思います。
避難所の収容人数というのは非常に少ないんです。例えば大阪市とか神戸市だと人口の13%、京都市で人口の20%など、都市部ではだいたい人口の10%から20%ほどしかないんですね。
そして、避難所というのは木造住宅が倒壊して住む場所がなくなった人が優先して使うことになっているんですね。
今、行政は、「木造で家を失った方が避難所を利用してください」と言っています。

 
新川)何かあったら避難所に...と思っている方も多いと思うんですが?
 
釜石)そうなんですけども、コンクリート造りのマンション等に住む人は在宅避難が前提となるということで、たとえ水道ガス電気が止まった状態でも、避難所をあてにしないでマンションに籠城するつもりで準備をしてほしいということを言いたいと思っています。
 
千葉)みんなが避難すると、本当に避難所はパンクしてしまう状態になるわけなんですね。
 
釜石)特に、この新型コロナの影響でソーシャル・ディスタンス、距離をおくということになっていて、予定した収容人数のさらに1/3から1/2に、収容人数が狭められているということもあります。
 
新川)じゃあ、丈夫な建物であるマンションの住民は、自分のマンションに留まってほしいということですか。
 
釜石)そうです。留まるために何をするかを考えて欲しいというのが、マンションの防災対策になると思います。
 
千葉)籠城するためにはいろんなものが必要ですが、何をどれぐらい準備すると考えたらいいですか。
 
釜石)まず簡単に言うと、食料、飲料水、トイレについては10日以上の準備を目指してほしいですね。
 
新川)以前ですと3日分というような数字で言われることが多かったですけれども、10日以上ですか。
 
釜石)いま、行政も3日というところはもうほとんどなくて、3日できれば7日ということで、もう3日ではダメだということも行政は言い始めているんですね。
とりあえず7日としていますけれども、私は7日で済むのかなあと。
例えば、長期の停電の時に7日ですまないケースも出てくるので。

 
新川)去年の千葉の台風や一昨年の台風21号なんかだと、2週間とかいう単位で停電が続きましたね。同時にマンションは水が出ないんだということに驚きました。
 
釜石)そうですね、電気が無いと水が出なくなりますね。
 
千葉)10日以上の備蓄って、ものすごい量になってたいへんですよね。
 
釜石)備蓄という考え方を少し変える必要がありますね。
普段使っているものを余分に保管しておくことによって、10日以上の食事や水が無理なく備えられる方法があります。

 
新川)災害用の特別食を10日分用意するということではないんですか。
 
釜石)ないということですね。
私のやり方としては、災害時しか食べない食料は備蓄しないという方針を出しています。
普段の食生活で使うレトルト食品とか缶詰とか乾物類を少し余分に用意するということで。
例えば一つこんなことをやっていただきたいんですけども、きょうから買い物をしないということにして、自宅の冷蔵庫にあるもの、台所あるいは食料保管庫にある食材などを使って、10日分のメニューを考えてみて欲しいんです。
そうすると、食料備蓄をしていないという人でも、意外と3日分~5日分の食事はできることがわかります。それをもう1日延ばすためにどうするかを考えるんですね。
レトルト食品とか缶詰とか乾物類を取り入れることで、10日分のメニューを作るとことを目指していく。
このようなことで10日分の食事をどうするかというのを考えていくと、無理に非常食を買って棚に置くという必要性がないということが分かってきます。

 
千葉)共有スペースが結構広いところがあるマンションもありますよね。
そういういろんな備蓄品を管理組合でまとめて買っておいてった方がいいんじゃないですか?
 
釜石)そういう方法もあるんですが、現在その見直しがされていまして、私はもう管理組合では食料などの共同備蓄はしない方がいいと考えています。
実際に備蓄をしている管理組合から「災害非常食の賞味期限が切れて無駄になってしまう、何か良い方法はないか」という相談などが来ています。この答えは簡単で、「共同備蓄をやめてください」と答えています。
それから、備蓄している量を聞きますと、大体多くても3日分程度なんです。これだと長期の被災生活には不足します。その上、高齢者、アレルギーのある人、赤ちゃんなど特別な食料品の備えは難しいんですね。
さらに、管理組合に任せるということで、自分は何もしなくてもいいと思ってしまって、住民の防災意識が希薄になってしまうということの懸念も出てきます。
従って、管理組合などでの共同備蓄では不十分なことばかりなんですね。
個人で、各家庭で、備蓄することがどうしても必要になってくると考えます。

 
千葉)食料品だとか水の備蓄を個人でやっておいた方がいいなというのは今のお話で分かったんですが、じゃあ管理組合は何も備蓄しなくていいんですか。例えば管理組合で「これを備蓄しておいたほうがいい」というものはありますか?
 
釜石)私がいろんなマンションを訪ねて話を聞くと、やはりマンションごとに状況が全く違うんですね。立地条件ですとか高層階を持っているとか、あと大規模なのか小規模なのか。
そのマンションの被害想定に一度しっかりと取り組んでみないと、なんとも言えないというのが結論なんですね。
そのマンションで住民の方かどういうことを不安に思っているのか、何を心配してるのかということを聞き出して、それを被害想定なのか、心配ごとなのか、そういうものを全部出して、その対策を考えて優先度を決めていくというのがそのマンションの防災委員会の役割だと思っているんです。
そして、その優先順位の高い対策に対して必要なものを備えましょうということを考えますので、「これがどのマンションでも必要ですね」ということは、私は現時点では言えるものはないですね。
ちなみに私のマンションでは何も用意していませんので。

 
新川)そうなんですか。例えば非常用電源とかトランシーバーとか、個人で用意しづらいようなものを管理組合が用意してくれているのかなと思ったりもしますけども...
 
釜石)どういう時に使うのかということを、被害想定の優先度の高いものとして対策として決まれば、そういうものを買っていくことは一向に構わないと思うんですが、かといってどのマンションでもそういうものが必要かと言うとそうでもないという感じですね。
  
千葉)自分たちで考えて、まず個人できちんと備蓄するということですね。
 
釜石)そうですね。それと合わせて、みんなでやることもみんなで考えていくということがマンション防災対策になると思います。
 
千葉)なんかマンションだと人任せになりがちな感じがするんですけど...
 
釜石)そうですね、管理会社さんも全く関係はないというか関知してきませんので。マンションと言うとなんか管理会社にお願いしとけば何でも済むというような感じもありますけども。
 
新川)私なんか賃貸なので特にそう思ったりもします。
 
釜石)でも実際に、分譲マンションでも管理会社は一切関わらないといいますか、仕事を委託している業務委託契約というものがあるんですけども、そこには災害時の仕事というのは何も記載されていないんですね。災害時は全く期待してはいけないということです。
 
千葉)そうなってくると、本当に自分できちんとやることが大切になってきます。
食料品の備蓄については先ほどの話である程度分かりましたが、マンションって地震で配管が破損している恐れがあるので、携帯用トイレの備蓄が絶対必要だという風に聞きましたが、これはどうなんですか?
 
釜石)そうですね。携帯用トイレの備蓄は必要なんですが、ただ携帯用トイレにもいろいろありまして、実際に使って本当にそれでいいのかどうかを確認してほしいということを言いたいんです。
実際に大の方の排泄物を保管したことがありますかって、いつも聞いているんですね。

 
千葉&新川)ないですね。
 
釜石)私のセミナーに参加する方でもほとんどなくて、千人に1人か2人ぐらいの感じしか経験者がいないんです。
これ何が問題かと言うと、少し放置しておくと、すぐ臭いが漏れてくる携帯用トイレがほとんどなんです。

 
新川)でも、携帯用トイレって一応、消臭剤がついていたりしますけれども、それでも臭うんですか。
 
釜石)臭いますね。小の方は固めて匂いも消して全く問題なくなるんですけど、大の方はとてもじゃないですけども短時間に臭いがなくなるということはありませんし、その臭いが漏れてくるというのがほとんどの携帯用トイレです。
 
千葉)でも、ベランダに置いておいたら、とりあえずは大丈夫なんじゃないんですか。
 
釜石)私やってみたんですけども、自分の分一回分入れてベランダに置いて翌日同じように作ってベランダに出ようとしたら、ベランダの扉を開けたら足がもう一歩進まなくなったくらい臭いがしました。
 
新川)一回分だけですよね。
 
釜石)そうですね。この臭いが耐えられないということを、より多くの方が経験しないと、この問題というのは解決していかないかなという感じがしますね。
 
千葉)どうしたらいいでしょうか。
 
釜石)いろいろと探した結果、「防臭袋」というものを見つけました。
大阪のメーカーが開発したんですが、医療機関の検査用の廃棄物を捨てるための袋で「BOS防臭袋」と言いますけども、この袋に入れると全く臭わなくなります。

 
新川)医療用の防臭袋?
 
釜石)そうなんです。ですから、大腸菌が漏れないとか臭いが漏れないということで。
ただ、普通のポリ袋に比べると非常に高いです。ふつうのポリ袋は2円とか3円で買えると思いますが、これは15円ぐらいするものなんです。
その代わり臭いがしませんので、我が家では台所に置いていて夏場の生ゴミ処理に使っています。
災害時には、それをトイレで使用しようということで常備していますね。

 
新川)たしかに高いですけれども、そんなに大量に必要なわけでもないですもんね。
 
釜石)そうですね。ティッシュペーパーと同じような箱入りのものが売っていますから、その一個あれば生ごみ処理でも数年間使えますし。実生活で使いながら災害に備えるというようなことができるかと思います。
 
千葉)大きい方はこれでいけますけれども、小さい方はどうなんでしょうか。
 
釜石)小さい方なんですけど、毎回、小の方を固めておくとゴミが大量に増えるんですね。
ですから、小をトイレに流せないかなと考えました。
もしこれが出来れば、災害時トイレというのは一日ひとり1個で済むことになります。
従って、色々やった結果ですけれども、地震で排水管が破損していないかどうかを調べることができればいいだろうということで、旧耐震だと非常に揺れが大きいので何とも言えないんですけども、新耐震基準のマンションの場合には、外から見て大きな被害や損傷がなければ、排水管だけが損傷している可能性は低いと言われているんです。
さらに、色をつけた水を自宅トイレから流して、汚水桝から流れてくるものを確認すれば、排水管に大きな損傷がないと判断できるんですね。
食品用の着色料を使うといろんな色がありますので、色を分けていろんな経路から流してくることができるということで、これはぜひマンションの管理組合とか防災組織で事前に訓練をやって慣れていただきたいなと思いますね。

 
新川)これはちょっと災害時に急にやろうとしても難しそうですもんね。
 
釜石)それは難しいと思いますので、訓練ということで平時からやっていただいて。
そしてそれを理解していただく方で災害時に協力していただく方、要は上の階から流した方がいいわけですから、そういう協力者を求めておくというのも普段からやっておかれたらいいと思いますね。

 
千葉)今、お話の中で出てきた「新耐震基準」というのは何ですか。
 
釜石)「新耐震基準」が適用されているのは、1981年6月以降の建築物です。1981年の5月までにいわゆる建築確認できたものというものと、1981年6月以降に申請を受けたものとは耐震性が全く違うんですね。
旧耐震というものは震度5強ぐらいで家が住めなくなる程度という風に思ってください。ところが新耐震基準というのは、震度6強であっても家が潰れないという基準になっています。

 
新川)そういう比較的新しい方に入るマンションで、大きな損傷が外から見てなければ、先ほどのトイレの配管チェックをしてみるというのがひとつの方法だということですね。
 
釜石)そうですね。ですからそのためにも、耐震性のない旧耐震のマンションは、早く耐震改修をして欲しいなと思っています。
 
千葉)2年前の大阪北部地震の時に、マンションでエレベーターの閉じ込めがすごく多く起きたという記憶があるんですが、これは住民で何とかならないんでしょうか。
 
釜石)大阪北部地震では、およそ340件の閉じ込めが発生したんですね。
最近のエレベーターでP波 センサーで止まる装置が付いていても、139台が止まっているんです。

 
新川)P波センサーというのは、地震の最初の微量な揺れを検知してエレベーターを止めてくれるという装置ですか。
 
釜石)最寄りの階に着床して扉を開けるという装置がついているんですけれども、直下型地震の場合にはその最寄りの階へ移動して開く前に本震がきてしまうと。そうすると、緊急停止になるということが実際に起きました。
分かりやすい例で言うと、グランフロント大阪で実際に5人の方が1時間半ぐらい閉じ込められました。

 
千葉)毎日放送のすぐ近くですよね。
新川)梅田ではかなり新しい方に入るビルですね。
 
釜石)新しい古いに関わらず、直下型地震の場合には、エレベーターの閉じ込めの可能性はあるんだということを知っておく必要があります。
実際に救出はどうするかという話になりますけど、保守会社と連絡を取れない、取れても来てくれないというケースが想定されます。
ですから、緊急時の救出訓練を保守会社に要請するということで、私のマンションでは実際に訓練を実施しています。

 
新川)エレベーターから救出するという訓練を住民のみなさんでされているんですか。
 
釜石)扉をこじ開けるとかそういう乱暴なことをするわけではなくて、電源をしっかり落としてとか、それからロックを外して手で扉を開けるとか。それから、かごの位置によってちょっと上だと奈落の底が見えている状態になりますよね。そこに足を滑らすと、ほとんど命に関わる事故が起きますので、そういう危険な時にはすぐ扉を閉めて違う方法をやるとか、危険を伴わない救助方法を学びます。
エレベーターの保守会社からすると、素人が危険な目に遭う可能性がある、2次災害が起きてしまうというその危険性を非常に心配していまして、会社の方が教えたがらないという実態になっています。
例えば首都直下地震だと7500台のエレベーターで閉じ込めが発生すると言われているんですね。
そうすると、実際に助けられるまでに2日か3日かかる可能性がある。
その間、あの暗闇の中で、そこで排泄をしながら排泄の中で寝なければいけないとなる。

 
新川)それもひとりじゃなく他の人も一緒かもしれませんよね。
 
釜石)そうですよね。命が助かったとしても相当、精神的なダメージを受けるでしょうと。
そういうところも、やはり我々管理組合としてはしたくない、我々の判断でやりたいと言うので、そういうことをお願いして、エレベーター保守会社に協力をしてもらって訓練をやっているということなんですね。

 
千葉)日頃から想定した訓練をしっかりやっておいた方がいいということですね。
 
釜石)そうです。先ほど申し上げました、マンションの被害想定をしっかりやるというのはそういうところになるんです。
閉じ込められた時にどうするか、その対策、救出の優先度を上げるか下げるかによって、当マンションでは優先度を高くしたので、エレベーター保守会社に交渉してそういう訓練を受けたという経緯になっています。

 
新川)もちろんマンションでひとりだけできる人がいても難しいでしょうから、きっちりと住民同士が相談して...
 
釜石)そうです。訓練ですから皆さんに参加をしていただくような案内をして、毎年6人ぐらいなんですけども、もう10年間やっていますからのべ60人ぐらい、実際にはうちのマンションで15人ぐらいは訓練の経験がありますから、万が一の時には救出ができる体制にはなったのかなと。
 
新川)ただ、自分たちで勝手にやるんじゃなくて必ず保守会社に聞いて、ということですね。
 
釜石)そうです。保守会社の指導のもとに、やっていいこと悪いこと、それを訓練として学ばなければなりません。
 
千葉)マンションの防災という切り口でお話を聞いてきたんですが、実際にこれから自分たちでやっていくということを考えると、それぞれ個人の家で準備をすることが多いのかなと思いました。
  
釜石)そうですね、それが非常に大事なことなんです。
例えば管理組合に防災マニュアルがあったとしても、災害時に対策本部とかが実際に機能するかどうかというのは非常に疑問ですね。
東日本大震災の時の仙台のマンションでいくつか話をうかがいましたけれども、やはり人も集まらないし何もできなかったというマンションがほとんどでした。
ですから大事なことは、被災したらどうするかの前に、ひとりひとりが被災しないためにどうするかをもっと考えていただきたいということです。
今は、コロナ感染対策は必要ですけれども、マンション住民みんなで家具の転倒防止器具の取り付けを行うとか、あるいはガラス飛散フィルム貼付をマンション全戸に行うということを進めていただきたいんです。そうすればケガ人は相当数減るはずなんですね。
その上で、長期の在宅のために調理の講習会をするとか、水やトイレの備えを教え合うようなこと、お節介を焼くことが大事だと思っています。
結局は、家庭の防災力を高めることを目指すことが最も大事だということになると思います。

 
千葉)やっぱり管理組合に任せてればいいんじゃないかとか他人事じゃなくて、自分たちでしっかり取り組んで考えて、普段からやっていくということが大切なんですね。
 
釜石)そうですね。そのためのお手伝いを、わたしたちはさせていただいているということです。