オンライン:認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク 常務理事 中西里映子さん
西村)かゆみやじんましん、重い場合はショック状態などの危険な症状を起こすアレルギー。特定の食べ物やダニ、花粉などアレルギーを引き起こすアレルゲンの種類はさまざまです。
きょうは、アレルギーのある人の災害への備えについて、認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク常務理事 中西里映子さんに聞きます。
中西)よろしくお願いいたします。
西村)認定NPO法人アレルギー支援ネットワークでは、どんな活動をしているのですか。
中西)アレルギー専門の医師や研究者、管理栄養士や看護師などの専門職、アレルギー児の親などで構成するNPO法人で、名古屋に事務所があります。アレルギー患者や家族の相談に答えたり、地域の患者会の運営のサポートをしたり、学校の先生や保育士、給食の調理師を対象にアレルギーの研修講座を17年にわたり開講するなど、アレルギーに関する正しい情報の普及を行っています。
西村)災害時に備えが必要なアレルギーにはどんなものがありますか。
中西)災害時は十分に入浴できないことによるアトピー性皮膚炎の悪化、瓦礫の粉塵や埃による喘息の悪化などさまざまな困りごとがあります。その中でも特に備えが必要なのは、食物アレルギー。避難所で最初に配布されるのは、菓子パンや牛乳です。卵、牛乳、小麦のアレルギー患者は食べることができませんし、避難所にアレルギー対応の備えが必ずあるとは限りません。
西村)避難所に行けばなにか食べるものがあると思ってしまいますが、配られても食べられないものもあるのですね。子どもに多いアレルギーは何ですか。
中西)子どもに多いアレルギーは、卵、牛乳、小麦。最近では、ピーナッツなどの木の実類のアレルギーが増えています。最近はクルミのアレルギーも多いです。
西村)ほかにはどんなものがありますか。
中西)食物アレルギーは、食品中に含まれているタンパク質が原因。タンパク質が含まれている食品は何でもアレルギーになる可能性があります。卵、牛乳など消化酵素で壊れにくいものはアレルギーの原因になりやすいです。ほかには、花粉と果物のタンパク質が似ていることにより、口腔内で間違って反応してしまう「口腔アレルギー症候群」というものもあります。花粉症の人がパイナップルやメロンを食べると、口がイガイガしたり、唇が腫れたりすることがあります。それは、食物に含まれるタンパク質が原因ではなく、花粉と生の野菜や果物のタンパク質が似ていることによりおこります。最近、花粉症が増えているので、そのような事例も増えています。
西村)今年は花粉の量が例年の10倍とも言われています。今年初めてそのような症状が出た人もいるかもしれませんね。
中西)生の野菜やフルーツに反応するので、加熱したものは大丈夫です。
西村)包装されている食品にはアレルギー表示の義務があるのですか。
中西)アレルギー反応が出ると重篤な症状になる食品が表示されていて、卵、乳、小麦、エビ、カニ、蕎麦、落花生の7品目が含まれている場合は表示義務があります。パッケージ化された食品は表示義務がありますがレストランやファーストフード、パン屋さんなどの対面販売は、表示義務がないので誤食する可能性がありますし、表示が間違っていることもあります。パッケージ化された商品は表示義務があり、罰則規定もあるので、メーカーがきちんと表示をしています。つまりパッケージ化されたものを食べた方が安全ということです。
西村)食物アレルギーがある人は、避難所ではパッケージ化された商品の表示をチェックしてから食べることが大切ですね。
中西)最近は、7品目にくるみが加わった8品目が表示義務になっています。それだけアレルギーの人が増えているということです。
西村)阪神・淡路大震災や東日本大震災では、避難所でアレルギーがある人への対応はきちんとされていたのでしょうか。
中西)当時は、アレルギーに対する認識が低かったこともあり、東日本大震災のときに、受け取る側が認識できておらず、アレルギー対応の物資が一般物資の中に紛れてしまい、アレルギー患者に届かなかったことがたくさんありました。その後は、やみくもに送るのではなく、きちんと受け入れ体制を整えてから送ることが大事だと学び、熊本地震や西日本豪雨のときには、小児アレルギー学会の先生を中心に送り先を決めて物資を送りました。東日本大震災の教訓を生かした対応がされてきています。
西村)受け入れる側の自治体の対策も進んできているのでしょうか。
中西)国の指針の要援護者には、アレルギー患者も含まれています。園や学校のガイドラインにもアレルギー対応について書かれています。徐々に日頃からアレルギー対応が進んできていると思います。
西村)包装された食品にしかアレルギーの表示義務がないので、アレルギー患者は、避難所で炊き出しを食べるのは難しいのではないですか。
中西)食物アレルギーの患者は、炊き出しは食べません。何が入っているかわからないからです。炊き出しにも原材料表示が必要だと指針にも書かれています。日頃からアレルギー患者が声を上げて周りの人に伝えていくことが大事。自治体も指針を理解して、日頃から表示をしてアレルギー対応のものを備える。自治体も患者も努力することが必要です。
西村)災害時の大混乱の中では、スムーズにいかない場合もあるかもしれません。炊き出しにアレルゲンの表示をしても、もし間違っていたら、アレルゲンの誤食が起きる可能性もありますよね。間違って食べてしまった場合、食物アレルギーのある人は、どうなってしまうのですか。
中西)じんましん程度の人から重篤な症状が出る人までさまざま。複数の臓器に症状が出るアナフィラキシーという状態が一番重篤な状態です。重篤な患者は、「エピペン」という自己注射器を持っていることが多いのですが、災害時はすぐに救急車が来てくれるかわからないので、絶対に誤食をしないことが大事。あやしいものは食べないことです。
西村)家族も含めて、自分が食べるものに気をつけることが大事ですね。災害時に避難所で子どもたちが何もわからずに食べてしまって、アナフィラキシーが起こることもあるかもしれないので、周りの人も気をつけておかなければならないですね。
中西)自分のアレルギーについて、周りの人に伝えるための緊急時の「お願いカード」というものあります。これはホームページから送料負担のみで無料で注文することができます。子どもが親と離れてしまったときに、アレルギーのことがわかるようにアレルギーの種類や緊急時の連絡先を書けるようになっていて、水に濡れても破れない防水の紙で作っています。子どもがアレルギーについて自分で伝えられる年齢になるまでは、ランドセルや名札に入れて携帯させると良いです。
西村)このようなカードのことを周りの人も知っておくことが大事ですね。改めてアレルギーのある人に必要な災害時の備えを教えてください。
中西)まずは自分で備えること。ハザードマップを確認して、津波や河川の氾濫、土砂崩れがない安全な地域に住んでいる人は、自宅避難を考えてほしいです。電気・ガス・水道が復旧するまでの1週間~10日は自活できるように水、トイレ、食料、電源の備えをしておいてください。
西村)食料の中に、米粉のパンや缶詰などアレルギー対応のものを用意しておかないといけませんね。
中西)アレルギー患者は、しっかりと備えをしていると思うのですが、トイレや電源や水は不十分なことが多いです。
西村)ほかにできる備えはありますか。
中西)災害時に最初に助け合うのは隣近所の人たち。自分や子どもに食物アレルギーがあることを周りの人に伝えておきましょう。地域がどんな備えをしているのか、避難所開設の訓練をしているのか。地域の状況をまず知っておくことが重要です。アレルギーのことは言い辛いと思うのですが、周りの人に知ってもらうことが大事ですし、自宅避難をする場合は、そのことを周りの人に知らせておきましょう。日頃からつながりを持っておくことが大事です。
西村)自治会や子ども会に参加すると、同じアレルギーのある子どもや家族がいる人とのつながりもできるかもしれません。日頃からの近所付き合いは大切ですね。
中西)自宅避難ができない地域に住んでいる人は、どこに避難をするかを平常時に考えておきましょう。知人や友人、親戚の家でも良いですが、そこに備えをしておく必要があります。災害が起きてからでは遅いです。
西村)優先順位を決めて家族で話し合っておきましょう。まずはハザードマップを確認して、安全なら、自宅や誰かの家に避難することを優先。それでも避難所に行かなければならない場合は、地域の自治体にアレルギー対応の備蓄品があるかを確認しておきたいですね。その場合、どのように確認したら良いのでしょうか。
中西)市町村のホームページを見て、備蓄を担当している防災課や防災危機管理課に電話で確認しましょう。ホームページに一覧表が掲載されている場合もあります。もしアレルギー対応の備蓄品がなければ、置いてほしいという要望を出す。患者として声を上げることはとても大事です。市民が声を上げると叶えてくれるケースがとても高いです。市民の要望を知らなくて備えていないこともあるので、声を上げることが大事だと思います。小児アレルギー学会が提唱しているアレルギー対応の備蓄についての資料を活用していただくのも良いですが、アレルギーポータルサイトに災害時の備えについての資料がありますので、そちらも是非ごらんください。
西村)間違って誤食してしまうと命に危険が生じることもあるので、気をつけたいですね。
きょうは、アレルギーのある人の備えについて、認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク常務理事 中西里映子さんにお話を聞きました。