電話:日本弁護士連合会 災害復興支援委員会委員長 弁護士 津久井進さん
千葉)きょうは、自然災害で家が壊れた時の支援金のお話をします。
誰が被災者になってもおかしくない状態ですよね、災害が多い日本ですからね。
亘)この7月豪雨では、1万7,000軒以上の住宅が被害を受けたと言われています。
近畿でも、おととしの大阪北部地震や台風で本当にたくさんの住宅が被害を受けました。みなさんから公的支援が欲しいという声はたくさん上がっていました。
千葉)私も、高槻市や茨木市で実際に困っている人の声を聞きました。年金生活をされている方が本当に困っていました。
そういう声を受けて、法律が改正されることになりました。
家が壊れた時に支援金を支給する法律「被災者生活再建支援法」が改正されます。
亘)「被災者生活再建支援法」は、阪神・淡路大震災がきっかけで生まれた法律ですよね。
千葉)そうなんです、25年前。この時は、「個人の財産を税金で補償することはできない」と、強い抵抗があったんですが、「被災者が立ち上がるために必要なお金なんだ」と、市民の声で生まれた法律なんです。
この被災者生活再建支援法がどう変わるのか。
きょうは、この問題に詳しい、日本弁護士連合会・災害復興支援委員会委員長で弁護士の津久井進さんにお話を聞きます。
今の被災者生活再建支援法では、どれぐらいの支援金が支給されることになっているんですか。
津久井)これは、最高300万円とよく説明されますね。
最高というのは、例えば家が全壊して新しく家を買ったというようなケースで300万円出るということでして、損壊の割合などによって金額はもう少し小さくなることもあります。
千葉)ケースによって変わってくるんですね。
津久井)そうなんです。
ちょっと細かいことを言いますが、支援金というのは、「基礎支援金」というものと、「加算支援金」という、2つがあります。基礎支援金というのは、全壊の時は100万円、大規模半壊の時は50万円もらえるということになっています。
加算支援金というのは、家を買ったり建てたりした人には200万円、補修したら100万円、賃貸だったら50万円とか、いろいろパターンによって違うんですね。
亘)基礎支援金っていうのは家の壊れ方で決まってきて、加算支援金というのは、再建とか補修とか、どれを選ぶかによって決まってくるということですね。
津久井)そういうことです。
なので、全壊の方は基礎支援金で100万円、家を建てた時に200万円、合計して300万円もらえるということになりますが、大規模半壊の人だと、例えば、50万円の基礎支援金と補修をした時に50万円もらったとすると、合計で100万円ということになります。
ちょっとややこしいんですけれども、それで最高300万円というんですが、実は落とし穴というか大きな問題があります。
大規模半壊の時にお金が出ると言いましたが、大規模半壊ではない普通の半壊では0円なんですね。
千葉)普通の半壊ではお金は出ない。
津久井)はい。1円も出ないんです。
例外的に、家を取り壊したときは支援金が出ます。わざわざ半壊で住んでいる家を取り壊さないとお金が出ないというような、へんてこな仕組みになっていたわけです。
千葉)大規模半壊というのは、損害割合が40%から50%、半壊というのは損害割合が20%から40%というふうに聞きました。
ということは、損害の割合が40%を超えるか超えないかが、支援金がもらえるかもらえないかっていうところの大きな分かれ目だったんですね。
津久井)そうなんです。
100点満点で損害割合に点数をつけていって決めるんですけれどもね。
そうすると、39%で終わっちゃった半壊の人には0円で、40%に達した人は、100万円とか250万円とか出るということで、えらい差になっちゃうんですよね。
千葉)おととし、津久井さんにこの番組にご出演いただいた時に「半壊の涙」っておっしゃっていましたよね。
津久井)そうですね。
外から見てほとんど変わりがなさそうなのに、たった1点の差でこんなに支援が分かれるということで、その不条理のことを「半壊の涙」と。
実際、本当に被災者の方々泣いておられますのでね、そんな言い方で、なんとかこれを正したいという声が強かったわけです。
亘)半壊でも、なおすのに500万円ぐらいかかるとか言われていますね。
津久井)そうですね。
実際、なおし方によっては1,000万円を超えるようなケースもありましたし、大阪北部地震の時には一部損壊ということでも数百万円、1,000万円近いお金がかかるというお家もたくさんあって、何にせよ、それが全部、支援金0円というのはいかがなものかということでしたね。
千葉)厳しい状況だったんですね。
法律が変わるということですが、今回どんな改正が検討されているんでしょうか。
津久井)まだ検討段階ではありますけれども、半壊について、先ほど20%から40%というお話があったんですけれども、その半壊の中で、30%以上40%未満のものについて支援金を出しましょうと、こういう改正が今、検討されていると。
次の国会で提案される見通しだということです。
亘)半壊の中でも深刻な被害、被害の大きい方に関しては支援金が出るようになるということですね。
津久井)そういうことです。
千葉)半壊というふうに今、決められている範囲が、重い半壊と軽い半壊に分けられて、重い半壊の方には支援金が支給されるということだと理解していいですか。
津久井)はい、その通りです。
亘)重い半壊は、大規模半壊とは違うということですね。
津久井)そうですね。
大規模半壊よりも軽いけれども、軽い半壊より重いというか...
千葉)なんかちょっとむずかしいんですけども、これまでは損害割合40%が支援金の出る一番下のところだったんですけど、これからは損害割合30%が分かれ目になる可能性が高くなったということですね。
津久井)そういうことですね。
線引きのところが10%低いところまで下りてきたということですね。
今までよりも救われる方が10%分増えるということになります。
千葉)ちょっと複雑なのでもう一度整理しますと、損害割合50%以上が全壊で、40%から50%が大規模半壊で、ここまではこれまでも支援金が出ていた。
今後は、その下の30%から40%の損害の割合の人にも支援金が出るということになりそうだということですね。
津久井)はい、その通りです。
千葉)そして、実は20%から30%の損害割合の人も半壊の範囲内に入るんですが、この方々には支援金は出ない状況が続くというこということですか。
津久井)はい、その通りです。
亘)この30%から40%の損害の方に対する支給額というのは、どれぐらいになりそうなんですか。
津久井)これは、25万円から100万円とされていて、簡単に言うと、加算支援金が大規模半壊の方の半分。
賃貸の場合は、大規模半壊、全壊の時は50万円なんですけど、その半分の25万。
家を購入する時には、200万円、今、出ているんですけど、その半分の100万円ということで、大規模半壊や全壊世帯の半分というふうにご理解いただいたらいいと思います。
加算支援金の分だけ見るとですけどね。
千葉)修理費全体をまかなうにはまだちょっと足りないかもしれませんけど、大きく助かりますよね、これだけ支援金が出たら。
津久井)そうですね。
今回のこの改正について、一歩前進したと、枠が広がったという意味で歓迎すべきだということは言えるんですけれども。
全国知事会とかですね、半壊にも支援を広げないといけないということをずっとおっしゃっていて、意見書なども国にも出しておられましたし、その間、足りない分は県だとか市町村が自分たちのお金を使って、上乗せ横出しの支援をしたり、特別の補助金を出したりして、がんばってきたんですよね。
それが、ようやく国の方でも手当されるようになったという意味で評価できる点もあるんですが、やっぱり問題もありますよね。
亘)これまでは自治体レベルで弾力的に運用されてきた部分があるわけですね。
津久井)はい。
しかし、これだけ全国規模で災害が繰り返されていたら、これはやっぱり国全体の問題でしょうということを、ようやくですね、認識を共有できるところまで来たんだと思います。
亘)これは、やっぱり被災者からの声っていうのも大きな要因だったんでしょうか。
津久井)そうです。
まさにそうで、この支援法ができたのも被災者の声が届いたからなんですが、改正されたのも被災者の人たちが声をあげたからできたということなんですよね。
亘)これは、おととしの大阪北部地震とか台風とか、そのあたりがきっかけにはなっているんでしょうか。
津久井)もちろんです。
この番組でも一生懸命声を届けていただきましたし、生の被災者の声を聞かせてもらって、それを受けた形になっているはずなんです。しかし、先ほどからずっとお聞きの方々も首をひねっておられるかもしれませんが、問題点が結構あるんですよね。
あえて3つに限定しますけど、1つ目はこの金額では足りないよっていうことですよね。
亘)25万円から100万円っていう...
津久井)はい。
大阪北部地震でも本当にたくさんのお金がかかると。
自分のお金ももちろん出さないといけないし、保険だとか共済だとかみんなの助け合いのお金も使いましょうっていうことなんですが、いわゆる公助と言われている、公、税金から出るお金っていうのは、やっぱりどうしても低いんですよね。よその国に比べても。
今回、出るようになったとしてもまだまだ低いと。それが1つ目です。
もうひとつの問題は、先ほどから出ているようにですね、これ、ややこしすぎますね。
亘)はい。もう説明するのが大変です。
津久井)全壊、大規模半壊、重い半壊、軽い半壊。
もうひとつ、去年の令和台風で、準半壊っていうのもできているんですよ。
一部損壊の重いやつですね。
さらに、ふつうの一部損壊があって、損壊なしというランクまで入れると7段階あります。
千葉&亘)えー。
津久井)はい。
準半壊と軽い半壊と重い半壊と大規模半壊というのを、被災者の人たちがわからないのは当然として、行政の現場にいる人たちも混乱しますよね。
千葉)そうですね、そんなにあったらね。
津久井)それで、点数制ということなんですけれども、その点数の付け方って、どれだけみんなきちんと点数を付けられるのかっていったら、むずかしいですよ。
だから、1点単位で明暗がくっきり分かれるほどその1点2点が大事なのに、その点数の付け方をもうガチガチにやっていったら...被災地でそんなことやってられないですよね。
亘)そうですね。判定でよく揉めていますよね。
津久井)そうなんですよ。
だから、被災者も涙が出ますけれども、その苦情を言われる行政の方々も、本当に混乱している中でどうしたらいいのと、悲鳴が行政の方からも上がっているんですよね。
もっと単純な分かりやすい仕組みにしないといけないと。
それが私、3つ目の問題と思っているんですけど。
結局、これは支援金を出す側の論理で点数みたいなことをつけているんですけども。
やっぱり、公平性だとか公正さみたいなことを重んじているからこんなことになっているんですけれども、もらう側からすれば、どれだけ大変かということ、どれだけ助けが必要かということで考えてほしいんですよね。
渡す側の目線ではなくて、被災を受けた側の目線に立って対応するような仕組みに抜本的に変えてかないと、いつまでたっても1点差で涙を流す人が出てきてしまうと。
別に甲子園の試合を戦っているわけじゃないので、必要な支援が必要な人に届くようにするために、単純に支援する側に立って、必要なニーズに応えていくという仕組みにしていった方が柔軟でいいんじゃないのかなと。
千葉)なんか、私は、そんな複雑にして、お金を出す側が出し渋っているんじゃないかなっていう印象を受けるんですけども、お金は無いんですか?
津久井)いえいえ。お金は十分あります。
今回のコロナ禍でそれが立証されたんじゃないでしょうか。
ひとつの施策で1兆円とか3兆円とかって言っていますけれども、この被災者生活再建支援金は、今まで出た金額全部合わせて、まだ5000億いかないんですね。
亘)コロナでは、何兆円とかいうパッケージがバンバン出ていますよね。
津久井)そうです。
例えばこのあいだ出た、新型コロナ対策の臨時地方交付金っていうのがあります。それの第一次給付金が1兆円措置されたんですけれども、使われてないお金、申請のなかったお金が3,000億以上あるみたいですよ。
ですから、結局、お金のお膳立てを用意したんだけれども、使い道がわからない、使えないってお金が3,000億円以上あるというのに、この被災者生活再建支援金では、今まで出した総額が4,000数百億円ということですので。
20数年間で、東日本大震災だとか、このあいだの令和台風とか、西日本豪雨とか全部合わせても5000億にいかないということで、全然お金がないということではなくて、出す仕組みがうまくいってない、マッチングがうまくいってないというだけなのです。私は、今回のような改正もいいけれども、もうちょっと被災者目線に立って、根本的な組みなおしをすることが大事なんじゃないかなと思っています。
千葉)出すお金がないのかなーってぼんやり思っていたんですけども、そんなこと全然ないですね。
津久井)はい。
お金がないんじゃなくて、出し方をもう少し考えた方がいいんじゃないかなと。
そうすると、お金も必要な人に行き渡るようになると。
被災者生活再建支援金って、大家さんだとか所有者に1円もいかないんですよね。だから、大阪北部地震の時には、大家さんのところに支援金がいかないから、「なおすお金がないから出ていってください」みたいな話になったりしたんですよね。
亘)ありましたね。
津久井)そして、被災者の方々のところには、一部損壊だから1円もいかないと。
結局、誰の所にもお金がいかないので何もできない。
ということで、いまだにブルーシートかけている家が、まだありますもんね。
亘)お金がないというのではなくて、マッチングというか、ニーズに合った使い方っていうのがわかっていないっていうことですかね。
津久井)はい、そう思います。
もちろん問題点ばっかり言っていても仕方がなくて、今回、半壊にもちゃんと手を伸ばしましょうと言った結果、支援法だけではなくて、今回の令和2年7月豪雨では、例えば公費解体、家を壊すお金ですね。これを、半壊にまで広げるということを環境庁が決めましたし。
亘)半壊でも家を壊すっていうケースに対してですね。
津久井)そうです。そのお金が公費で出るようになりました。
その他にも、半壊世帯でも応急仮設住宅に入る人がいるわけですけれども、応急修理をした時には仮設住宅に入れないっていう、へんてこな仕組みがあって、これも今回、半壊で応急仮設住宅に入り、その間に修理ができるという仕組みが整備されました。
亘)半壊で修理をするんだけど、その修理が終わるまでは仮設住宅に入れると。
津久井)そういうことです。
亘)今まで入れなかったのは不思議ですね。
津久井)そんなおかしな話があったのを、なんとかメスを入れて手直ししていこうということが今回動きとして見られることは良いことだと思います。
が、やるんだったらもうちょっと被災者目線に立って、根本的に改善をするべきじゃないかなというふうに私は思います。
千葉)今のお話の中にも、今年の7月豪雨の話が出てきましたけども、この半壊に対して支援金が出るという改正は、今年の7月豪雨の被災地にも適用されるんですか。
津久井)はい。今のところ適用を予定しているということです。それが出来なかったら何のための改正だよみたいに思いますよね。
山形のこのあいだの災害にも適用される見通しだとされています。
千葉)一番気になるのは、この制度からちょっと外れちゃっている、いわゆる軽い半壊ですよね。
損害割合が30%以下の半壊という人たちには、公的な支援というのは全然ないんですか。
津久井)いえいえ、今のは被災者生活再建支援法の支援金の話でありまして、軽い半壊であっても先ほどの公費解体だとか、あるいは応急修理をする時の災害救助法による59万5,000円の援助だとかですね、応急仮設住宅に入りながら修理ができるとかですね、いろいろ手当はされています。
だから全く支援がないわけではないのですが、だったら何でこの支援法の支援金を軽い半壊重い半壊に分けたのか。「分ける必要ないんじゃないか」って声を上げていく価値はあるんじゃないのかなと僕は思いますけどね。
亘)やっぱり、めちゃくちゃややこしいですね。
津久井)はい。
ややこしいというだけで、もう使いたくないっていうふうに、面倒くさいって思う被災者の方々も出てくるはずなので、私は、やっぱり人を助ける制度である以上、分かりやすさということもとても大事だと思っています。
亘)あいかわらず、一部損壊に対しては公的な支援はないという状態なんですかね。
津久井)そうですね。
一部の自治体では独自の支援策でフォローしていますけれども。
大阪の高槻市とか茨木市だとか、いろいろ独自でされていましたが、こうやって自治体任せにするという仕組みももうそろそろ改めた方がいいんじゃないのかな、ちゃんと国が責任もってやるべきじゃないのかなと思います。
千葉)25年前の被災者生活再建支援法ができた時から比べると、本当にいろいろ進んできているなあとは思うんですが、もっと進めていって改善されるべき点というのを、もう一度教えてもらえますか。
津久井)僕は2つ必要だと思っていまして、ひとつは「災害ケースマネジメント」という制度をちゃんと導入するということです。
千葉)「災害ケースマネジメント」。
津久井)はい。
これは簡単に言えば、ひとりひとりのニーズに即した支援を行うということです。
その人の、災害によって受けた被害、これは家の被害だけじゃなくて、健康被害だとか、家族バラバラになるとか、収入が減るとかいろいろあるので、その人のニーズをちゃんと把握して、その人に合った支援の仕組みをきちんと計画的に行うと。
これは簡単に言えば介護保険の災害版だと思うんですね。
今でも、鳥取県だとかいろいろな地域で既に実践されていることなので、これをきちんと国の制度に格上げすることが大事だと。これがひとつです。
そして、もうひとつは、こういうことをきちんと責任をもってやる省庁をつくることです。
いまだに、実は、災害の省庁はないんですよね。
亘)復興庁っていうのは...?
津久井)ありますが、復興庁はあくまでも東日本大震災に特化した省庁ですし、しかも、あそこはいろんな省庁の寄せ集めだという批判をよく受けていますよね。
そして、今回の半壊の対応も、被災者生活再建支援金の係と、それから災害救助法の担当課と、さらに環境庁。みんなバラバラにやるので、出てきた仕組みがバラバラになっているわけです。
だから、「こんなのおかしいよね」っていうことで一本化すればいいと私は思っています。
今、日本では、戦争が起こらないのに防衛省はあるんですが、災害は必ず起こるのに災害庁がないんですよね。
災害が起こる前の情報発信のために気象庁はあるんですけれども、災害が起こった後に対応するための危機管理庁みたいなものもないわけですよね。
だから、私は防災省とか危機管理庁といったきちんとした省庁をつくって、そこがもうゴチャゴチャした制度を一元化して、きちんとメンテナンスをして、災害ケースマネジメントなどを実施する責任をもつ省庁にするべきだと、こういうふうに思います。