第1311回「ペットとの避難・防災」
オンライン:NPO法人 全国動物避難所協会 代表獣医師 奥田順之さん

西村)きょうのテーマは大切な家族の一員であるペットとの避難についてです。災害時には、環境省も原則としてペットも一緒に避難するようガイドラインで示しています。しかし実際は鳴き声やアレルギーなどを気にして避難所に行かない飼い主も多いのが現実です。そんな中、ペットの避難場所マップを作ろうと活動を始めたNPO法人全国動物避難所協会代表 奥田順之さんに、現状と課題をお伺いします。
 
奥田)よろしくお願いいたします。
 
西村)ペットとの避難の現状についておしえてください。
 
奥田)災害時のペットとの避難は毎回問題になっています。ペットと一緒に避難しても断られるのではないかと家に残ってしまう人も多い。家が安全なら良いのですが、家にとどまることで、土砂災害等で自分もペットも命の危険にさらされることがあります。ペットと一緒に安全な場所に避難することを飼い主のみなさんに訴えていきたいと思っています。
 
西村)環境省も「同行避難」を推奨していますね。
 
奥田)同行避難は、一緒に安全な場所に避難しましょうという概念で、必ずしも避難所へ行ってくださいということではありません。親戚、友人・知人の家、ペットと一緒に宿泊できるホテルに避難することも含まれます。
 
西村)自宅や車が無事なら、在宅避難や車中泊がベストですが、避難所にどうしても行かなければならない場合、環境省は同行避難を推奨していますが、国はガイドラインを示しているのでしょうか。
 
奥田)飼い主同士で飼い主の会を作る指針はガイドラインにも記載されていますが、実際、避難先で組織を作ることは難しいです。事前に地域で飼い主の会が作られていたり、防災活動をしているコミュニティがある場合は、そのような組織が先導して避難所の中での適切な飼養管理、適正飼育をやることになると思います。
 
西村)そのような会がない場合、犬や猫は避難所のどこで過ごすことになるのでしょうか。
 
奥田)避難所で一緒に過ごすといっても、同室での同伴避難を行っている場所はほとんどありません。学校の避難所では、プールの更衣室が動物の避難場所になっていることが多いです。教室で同室同伴避難できる場所はごく一部です。
 
西村)プールの更衣室に避難する場合、ケージに入れておくのですか。
 
奥田)ケージに入れて飼い主が行けるときに行って、散歩をさせたり、ご飯をあげたりします。
 
西村)奥田さんは今、どのような取り組みをしているのでしょうか。
 
奥田)全国動物避難所協会というNPO法人を9月に立ち上げ、全国に動物避難所を広める活動をしています。
 
西村)動物避難所とはどのような避難所ですか。
 
奥田)ペットホテルや動物病院など動物を預かることのできる施設を災害時の動物避難所と定義しています。ペットの防災や災害時のペット支援を積極的に考えている事業所が登録できるサイトを作り、災害時にペットや飼い主を受け入れてくれる場所を事前に示す取り組みです。
 
西村)飼い主は自分に合った避難場所を事前に知ることができるのですね。
 
奥田)ペットとの避難先を考えたことがない人もたくさんいると思います。まずは、親戚や友人宅など周りの人と助け合うことがベスト。それが難しい人は動物避難所が一つの選択肢になると思います。動物避難所が町の中にあることによって、動物との避難に対して意識を向けてもらえると思います。自分はいざというとき、ペットとどこに避難するのかを考えてほしいです。動物避難所を定義することで、ペット防災の活動に参加する人が増えていく。飼い主も啓発されて備えることが社会の中で広がっていけばと思います。ペットホテルや動物病院以外にも、ペットと泊まれる宿なども動物避難場所として登録してもらえたらと思います。
 
西村)飼い主の意識の啓発にもなり、受け入れる施設側の準備や心構えにも繋がる素晴らしい取り組みですね。ペットと一緒に寝泊りできる場所は、民間の宿やペットホテルですが、動物のみ預けるとなると動物病院やペットサロン、ペットショップなどになるのでしょうか。
 
奥田)そうですね。防災は何か特別なことをやってもうまくいかないものです。普段通りの業務の中で被災者を助けられたら良いと思います。
 
西村)実際に現在登録しているペットホテルやペットショップは、どんなところがあるのですか。
 
奥田)サイトを立ち上げてまだ2週間ぐらいなので、これから登録をしてもらうところ。12月20日に1回目の説明会があります。
 
西村)いろんなお店や病院があると思うのですが、登録の基準はあるのですか。
 
奥田)動物取扱業登録をしている事業所か動物病院であるかが基準で、幅広く登録できます。普段から動物を預かっていない事業所は、今のところは不可です。
 
西村)ペットホテルや宿に預ける場合、宿泊費はかかるのですか。
 
奥田)無料にすることで、事業を圧迫すると持続可能ではないと思うので、利用料は基本的には負担してもらいます。先々を考えたときに、何かあったときのための保険や経済的に困難な人に対して補填するような制度はこれから作っていきたいです。
 
西村)施設側にも準備や備蓄が必要ですね。
 
奥田)「うちトコ動物避難所マップ」というサイトに登録すると、動物避難所開設計画を作ることができます。「水は何Lありますか」「照明の数は何個ありますか」というような項目を順番に埋めていくと備えができるようになっています。初めから高いレベルを求めてしまうと登録できないので、やりたい人が登録できる形にしています。サイトの中でオンラインの交流会や勉強会を通じて、少しずつ備蓄を進めながら計画ができるので、事業者の災害に対するレベルも上がっていくと思います。
 
西村)ペットフードや水は、動物避難所で備蓄しておくのですか。それとも飼い主が持っていくのでしょうか。
 
奥田)飼い主には持ってきてもらいたいですが、もちろん事業者も備蓄はしっかりしておかないといけないと思います。両者がやらなければならないことだと思います。ペットフードは、事業者は普段から在庫を抱えているので割と持っています。水の備蓄の方をしっかりしておかないといけないと思います。
 
西村)例えば20kgの体重がある大型のワンちゃんなら、1日あたりどれぐらいの水が必要ですか。
 
奥田)一般的には、体重1kgあたり100mlあれば飲料水として足ります。
 
西村)体を洗う水や従業員の飲む水も必要だと思うので、備蓄となると大変な量になりますね。飼い主もきちんと準備しておくことも大事ですね。
 
奥田)体を洗うにはかなりの量の水が必要なので、そこまでの水は用意できないと思います。ドライシャンプーなどは用意しておいても良いですね。
  
西村)動物避難所に登録できるサイトはもうオープンしているのですか。
 
奥田)「うちトコ動物避難所マップ」と検索すると出てきます。年度末までに100件ぐらいの登録が得られたらと思っています。
 
西村)申し込みは来ているのですか。
 
奥田)ぜひやりたいという問い合わせを日々もらっています。これから登録を少しずつ増やしていきたいです。
 
西村)全国に輪が広がっていくと良いですね。飼い主として災害時に必要な備えや心構えをぜひ教えてください。
 
奥田)まず避難場所を決めておくことが大切。家が安全な場所にあるなら、自宅避難も選択肢です。ハザードマップを確認して、家が危険な場所にあるなら、どこに避難するのが最適か。親戚、知人宅を優先して、車中泊やペットと一緒に宿泊できる宿など具体的な行き先を決めたら、そこに行くためにはどんな備えが必要なのか具体的にわかってくると思います、
 
西村)優先順位を決めておくのも大事ですね。準備しておいた方が良いものは何がありますか。
 
奥田)水や食料は、少なくとも1週間分は必要。常備薬も必要です。移動時や避難先でキャリーやクレートの中にしっかり入れるようにしておくことも重要です。持ってなければ用意しておいた方が良いと思います。リードやハーネスも用意しておきましょう。
 
西村)今後、どのような啓発や理解が必要になってくると思いますか。
 
奥田)ペットの防災という分野に興味・関心を持っている人はまだまだ少ないです。「ペット防災カレンダー2022」を全国的に配布する取り組みを行っていて、現在、3万部ぐらい配っています。ワンちゃんや猫ちゃんのかわいいイラストが描かれていて、その中に防災の知識が載っています。動物病院やトリミングサロンに協力してもらいながら配布しています。
 
西村)どのような内容ですか。
 
奥田)どこに避難すれば良いかがわかるフローチャート、家の中の安全確保についての間違い探し、備蓄品の間違い探し、ハザードマップの迷路など。子どもたちも遊びながら、防災について少しでも身近に感じて考えるきっかけになるように作りました。
 
西村)配布協力者大募集とありますね。
 
奥田)10冊無料なのですが、印刷費等もかかるので、有料でも受け付けています。有料の場合は1冊100円で販売しています。20~30冊配布できる人はぜひ有料で申し込んでもらえるとありがたいです。
 
西村)太っ腹ですね!それだけみなさんに伝えたいという想いがあるのですね。
 
奥田)はい。でもちょっと赤字になっているので有料で協力してもらえると幸いです(笑)。
 
西村)詳しくは「ペット防災カレンダー」で検索してください。クリスマスプレゼントや猫と一緒に暮らしているおばあちゃんへのプレゼントにも良いなと、わたしもいろんな人の顔が浮かびました。自分自身もペットと暮らす人の助けになるような行動ができたらと思います。家族ぐるみ、町ぐるみで考えていかなければいけない問題だと思いました。
きょうは、NPO法人全国動物避難所協会代表 獣医師の奥田順之さんにお話を伺いました。