第1280回「コロナ禍で高齢者の体力低下~"フレイル"を防ぐには」
オンライン:東京大学 高齢社会総合研究機構 教授 飯島勝矢さん

西村)緊急事態宣言が今月末まで延長されましたね。行動の自粛が長引く中、私のような比較的若い世代でも体がなまっているなと感じるのですが、元々体力があまりない高齢者のみなさんが家にこもりがちになり、心にも体にも不調をきたすということが懸念されています。コロナ禍でこういった事態をどう予防していけばよいのでしょうか。
きょうは、この問題に詳しい専門家の方とオンラインでつないでお話を伺います。東京大学 高齢社会総合研究機構長 未来ビジョン研究センター教授 飯島勝也さんです。
 
飯島)よろしくお願いいたします。
 
西村)飯島さんが所属している「東京大学 高齢社会総合研究機構」は、高齢化社会の中で、さまざまな問題を解決して高齢者のみなさんが地域の中で生き生きと生活することを目標に研究をされている機関。災害が起きた時にも、支援活動をされているそうですね。飯島さんも被災地に行ったのでしょうか。
 
飯島)阪神・淡路大震災の時に東京都の医療班として行き、その後の国内の大きな災害の医療班をやってきました。直近では、東日本大震災の時に福島・宮城・岩手の3県で避難所のサポートをしました。
 
西村)災害のとき、高齢者のみなさんの心と体はどう変化したのでしょうか。
 
飯島)災害時は今回のコロナの問題と違って、ある日突然、日常生活が急展開してしまう。避難所生活で生活が不自由というだけではなく、不活発になり、家族や友達を失った虚無感にもおそわれるので、メンタル部分のケアが大切になります。

西村)避難所生活で、高齢者にどのようなアドバイスをされたのでしょうか。
 
飯島)現役世代は、自宅の片付けをしたりと体を動かすことができますが、高齢者は、特に冬場は寒さで体調も悪くなり、震えながら避難所で過ごすことになります。お手洗いが近いと困るので、配られている水分すら取らなくなる。そんな避難所での日常生活で身体的に不活発になり、心の部分も不安定になります。定期的に体を動かそう、前向きな気持ちを持とう、など心身にわたるケアと助言が必要です。
 
西村)新型コロナウイルスは、医療現場では災害級とも言われていますが、高齢者のみなさんにどんな影響が出ているのでしょうか。
 
飯島)重症化する人や亡くなってしまう人は、70~80代以上がメインです。高齢者は過剰に怖がって、感染したら死んでしまう、怖いという気持ちになっている人が非常に多いです。新型コロナウイルスの感染を怖がるばかりに、生活が不活発になって筋肉が落ちる、発声しないことで滑舌が悪くなるなどのデータもあります。
  
西村)これはやはり自粛生活が長引いていることが原因でしょうか。
 
飯島)自粛生活は感染予防には効果的ですが、体を動かすこと、仲間や家族と喋ることができなくなり、体が衰えるだけではなく、人との繋がりや社会性も断絶されます。それが大きなマイナス面になるということがこの1年間の調査・研究でわかってきています。
 
西村)実際に、高齢者の状況についてどのような調査をされたのですか。
 
飯島)みなさんご存知でしょうか。「フレイル」という言葉があります。虚弱という意味です。社会性、人との繋がり、孤立・孤食、体の衰え、心の衰え、日常生活の衰えなど多面的なものが絡み合いながら、徐々に自立できなくなる状態を「フレイル」といいます。食事だけ、運動だけ頑張ればいいというわけではなく、社会的な人との繋がりも基盤にしながら、立体的に頑張って日常生活を底上げしていこうという「フレイル」という新しい概念が注目されています。
 
西村)「フレイル」は要介護になるのでしょうか。
 
飯島)要介護とまではいかない、その一歩手前の状態になります。これは非常にデリケートな時期で、軽く見てしまうと、あっという間に要介護になってしまいます。このフレイルの段階はいろんな視点に立って、日常生活の底上げができる。自分で頑張ろうという時期なんです。
 
西村)気づいて戻すために行動することがとても大事なのですね。調査の結果、どのようなデータが出たのですか。
 
飯島)フレイル予防の研究チームを私が束ねて、全国的に調査をしています。実は、新型コロナウイルスの流行がきっかけで調査を始めたというわけではないのです。もともとコロナが流行る前から、身体面や心、社会性、日常生活においての人との繋がりも含めた多面的な衰えがどのぐらいのレベルになってしまっているのかを、地域の高齢者同士で簡単にチェックできる「フレイルチェック」というものを作っていました。
 
西村)高齢者同士でチェックできるのは良いですね。
 
飯島)医療機関で測ると精密にわかりますが、一部の人しか行けない。私の目指したものは、地域の高齢者同士でワイワイと、かつきっちりと数値もはじき出せるような測定をしていくことです。全て科学的な根拠に裏付けられたもので作りました。この「フレイルチェック」はコロナが流行る前から全国の数多くの市区町村で展開をしてきたんです。今回、コロナの問題から全国で一時的に活動を止めていたのですが、全国の自治体で感染予防をしながらチェックを再開しました。それによって、コロナによる過剰な自粛生活による前後比較が可能になりました。
 
西村)どう変化したのでしょうか
 
飯島)特に筋肉量が変化しています。腹筋・背筋・インナーマッスルや手足の筋肉の筋肉量がかなり減っているということがわかりました。驚いたのは、足腰の筋肉量がメインに減っているのかと思いきや、体幹部分の筋肉量がメインに減っているということです。

 
西村)それは身体にどう影響していくのでしょうか。
 
飯島)筋肉量が短期間で大きく減ってしまうと歩きにくくなったり、転びやすくなったりと、移動能力にまず支障出ます。筋肉を大きく失うと免疫力が減るという現象も起こります。新型コロナウイルス感染症を恐れるばかりに自粛生活が長期化し、生活が不活発になって筋肉がどんどん減ってしまう。それによって免疫力が減って、他の感染症にもかかりやすくなり、重症化しやすくなってしまいます。とっても怖い現象なんです。
 
西村)家で過ごしていると、どうしても寝る時間が多くなる高齢者は多いと思うのですが、筋肉量は1日でどれぐらい減るのでしょうか。
 
飯島)40~50歳ぐらいからは、どんなに運動を頑張っている方でも年間で1%ぐらいの筋肉を失ってしまうと言われています。運動習慣が全くない人はもう少し大きな下げ幅で落ちていきます。高齢期になると入院生活などで寝ているだけの生活をすると1~2日間で、1年分の筋肉を失ってしまいます。高齢者が2週間ぐらい寝たきりの生活をすると約7年分の筋肉を失うことになり、免疫力も減ってしまうのです。
 
西村)とても恐ろしいと思うのですが、予防はできるのでしょうか。
 
飯島)できます。今は無防備に外に出るわけにはいかないのですが、三密を避ける、マスク着用、手洗いの徹底、この3つをしっかりやれば、100%とは言い切れませんが高齢者でも安全だと言われています。人通りの少ない場所を見定めて、歩く、体を動かすことを日常生活に取り入れるだけでも十分体を維持できると思います。
 
西村)ウォーキングをすれば良いのでしょうか。
 
飯島)ウォーキングは血液の巡りが良くなっていいのですが、散歩は膝から下のふくらはぎをメインに使っているので、太ももの筋肉を鍛えることはできなんです。机や椅子に手を添えながら転ばないように配慮して、ゆっくりスクワットをしてみてください。身近でいうと階段の上り下りも効果的です。地味な筋トレになりますが、これを継続的に繰り返すことで太ももの筋肉が鍛えられ、自立機能を維持することに直結します。
 
西村)スクワットは、具体的にはどのようにすれば良いですか。
 
飯島)高齢者は転んでしまってはいけないので、テーブルや椅子に手を添えて、肩幅ぐらいに足を広げて、ゆっくりお尻を下げて、膝が90度になるくらいまで沈み込みます。そして、ゆっくり時間をかけて上げていきます。少ない数でもいいので毎日継続することに意味があります。
 
西村)今、実際に私もやってみたのですが、2回で太ももがプルプル震えました!結構いい運動になりますね。
 
飯島)太ももがプルプルしているのを感じながら、ゆったりとしたスピードで行うところがポイントです。
 
西村)これを日課にすることで、体力がついて、自信に繋がって免疫力も上がってきますね。
 
飯島)筋肉は、どんな年齢でも頑張れば頑張っただけ必ず答えを出してくれる臓器です。最初から無理する必要はないので、できる範囲で継続性というところを意識してやってみてください。最初は難しいと思っても、ある一線を越えると簡単にできるようになります。
 
西村)家族に高齢者がいる人が気をつけておくと良いポイントはありますか。
 
飯島)今、家庭内感染がかなり多くなってきています。高齢者が感染予防するだけではなくて、お子さん、お孫さんもおじいちゃんやおばあちゃんにうつさないように配慮することが必要です。コロナ禍でも日常生活の質が落ちないように、たんぱく質を中心とした食事をしっかりとること、家の中や外で、感染予防をしながら定期的に体を動かすことが大事です。家族や友達と繋がりを持って、会話をすることも大切です。
 
西村)私にもできることはあると改めて思いました。早速、母に電話をしたり、近所の人とも話をして実践していきたいと思います。東京大学 高齢社会総合研究機構長 未来ビジョン研究センター教授 飯島勝也さんにお話を伺いました。