電話:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩さん
千葉)新型コロナウイルスの感染が広がる中で、実際に、大雨で避難勧告が出されるという事態が発生しています。取材した新川和賀子ディレクターです。
新川)千葉県の南房総市と鴨川市では13日(月)のお昼前に、土砂災害警戒情報、そして避難勧告が出されました。避難所を開設した、千葉県鴨川市の危機管理課の方に電話で取材しました。
鴨川市では34世帯80人に避難勧告を出して、3つの避難所を開設しました。
千葉)避難所では、新型コロナウイルスの対策はしていたのでしょうか?
新川)鴨川市内ではこの時点で新型コロナウイルスの感染者は確認されていませんでしたが、今回、避難所の入り口に消毒液やマスクを準備しました。そして、新型コロナウイルスの感染が疑われるような症状のある方については、帰国者・接触者相談センターを紹介する対応を取りました。
避難者全員に検温を実施してもらい、微熱があったり体のだるさがある人には別室に入ってもらう準備をしていました。また、特に体調が悪くない避難者にも2メートル以上の間隔をとって過ごしてもらうことになっていました。
千葉)避難所には、それだけの広さや部屋があったのでしょうか?
新川)今回の避難所は3か所とも公民館でした。部屋数にはばらつきがありましたが、どの避難所も最低5~6室あり広さもあったので、隔離をあけるなどの対応をとっても十分足りていたとのことです。
千葉)実際に避難してきた人はどのような様子だったのでしょうか?
新川)今回、避難者はゼロでした。これに関して、鴨川市の担当者は、今回は昼間の大雨で長く降る予報ではなかったこと、そして、新型コロナウイルスの感染に関して市民が不安を持っていたからではないかと分析しています。
千葉)これから雨の季節で、また避難勧告や避難指示を出すことも考えられます。コロナウイルスもしばらく収束しそうにありませんが、鴨川市では今後、どんな対策をとるのでしょうか?
新川)千葉県鴨川市は去年秋の台風で被害を受けた町で、元々、避難所の体制の見直しを進めていたところでした。去年の台風の時は避難所の数が足りずに、追加で避難所を開設しました。こういった経緯から、指定避難所の数を増やすことで、今回のコロナウイルスで密集を避けるために多くの避難所開設が必要になったとしても、対応できるキャパシティは確保できているとのことです。
ただ、感染症のリスクを考えると、指定避難所ではなく安全な場所にある親戚や知人宅への避難についても合わせて周知していきたいとのこと。
今回は大きな災害にならず、混乱もありませんでしたが、やはり行政側も事前の準備が必要だと感じたといいます。鴨川市危機管理課主幹の滝川俊孝さんの話です。
鴨川市危機管理課主幹・滝川俊孝さんインタビュー)
避難した結果、感染が拡大してしまったということは絶対避けなければなりません。今回は急な大雨での対応になってしまいましたが、本当に事前のシミュレーションや準備が必要だと痛感しました。発熱等の症状がある方、どのような順路でどのような部屋に案内するかということ、それと、一般の方との導線をどのように区切るのか、トイレをどのように分けて使ってもらうか、そういった施設の使い方、それと必要な物品、あるいは保健士といった専門職の確保、そういった諸々も含めた対応をあらかじめ考えておく必要があるということです。
新川)避難した結果、避難所で感染が拡大するということはもちろん避けなければなりませんが、逆に感染を恐れるあまり避難が遅れて、命が危険にさらされるということも絶対に避けなければいけません。
鴨川市では、土砂災害警戒区域の世帯には防災ラジオが配布されていて自動的に避難情報などが入る仕組みがあります。また、要支援者は個別に避難を呼びかけるなどの対応を行っています。
自治体にも準備を進めてほしいですが、私たち自身も、感染のリスクのある中、避難が必要になった場合、どこに避難するのか、指定避難所なのか、知人宅なのか、車で一旦、安全な場所に行くのか。自分の住んでいる地域で想定される災害も含めて、今一度、考えて、準備しておいてほしいと思います。
千葉)この後は、避難所の環境の改善についてお話を聞きます。
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千葉)新型コロナウイルスの感染が拡大している今、水害が起きたら、どんな避難所をつくるべきなのか。先週、災害時の避難生活の改善を目指す「避難所・避難生活学会」が、自治体の担当者に対する要望をまとめました。
避難所・避難生活学会 自治体の災害対応担当者への要望書
http://dsrl.jp/wp-content/uploads/2020/04/e71a82466613b9099214ec979b766135.pdf
新川)先ほどの鴨川市危機管理課の滝川さんのような方への要望ということですね。
千葉)はい。きょうはこの学会の理事の水谷嘉浩さんに、電話でお話を聞きます。水谷さんは、東日本大震災の後、避難所でのエコノミークラス症候群を予防する段ボールベッドを考案し、これまで、さまざまな避難所を見てこられました。
千葉)水谷さん、「避難所・避難生活学会」というのは、どんな団体でメンバーはどんな方がいらっしゃるのですか?
水谷)東日本大震災がキッカケだっだのですが、災害医療に携わっている医療関係者が半分、そして医療以外の部分が実は重要ということで、例えば社会学であるとか法律であるとか、さまざまな分野の方に参加していただいています。私は民間企業という立場なのですが、いろんな職種の方に参加していただいています。
千葉)水谷さんは民間企業ということですが、普段はどんなことをしているのですか?
水谷)私は製造業です。段ボールを作っている会社を経営しています。
新川)段ボールベッドも作られているのですか?
水谷)そうですね。段ボールベッドを東日本大震災の時に考案して普及させる活動の中で、従来、私たちは安全な場所が避難所であると思っていたと思うんですが、実は避難生活の中で体調を崩して病気になったり亡くなったりという方が多く出てしまっているということに気が付いたのです。そこで、避難所の環境を良くしていこうという活動を始めました。
そして「避難所・避難生活学会」に繋がっていったわけです。
千葉)具体的に今回出された要望書を紹介していきたい。要望には、いわゆる「3密」を避けるための具体的な案が書かれています。
まず、避難所の密集状態で感染が拡大することがないように、 「レベル2(注意報)」の段階から、避難所を開設し、エリア内の住民の計画的な避難を開始する」とあります。
通常、「レベル3」の「避難準備・高齢者等避難開始」で、高齢者や障がい者が避難を始めますが、それ以前の注意報段階で、避難所を開設するということですね。なぜ、こんなに早くから?
水谷)水害や台風など、事前に想定される災害の場合、早めに避難所を開設して住民の方を収容する準備ができるわけです。事前に平時に計画を立てて住民に周知することで、早めに避難していただくということです。
千葉)地震のようにドンと一気に発生するというわけではなくて、だいたいどうなっていくのか予測できる災害というわけですね?
水谷)そうですね。とにかく準備をして確実に収容できるという風になれば理想です。空振りを恐れないことも非常に重要かと思います。
千葉)私が去年、宮城県大郷町で台風被害の取材をした時も、避難所を開設すれば危機意識を持っている方は、自分から避難を始めていくという状況でした。早ければ早いほど、避難を早く始めることができるわけですね?
水谷)そうですね。とは言うものの、人口に対する避難率というのはなかなか上がらない。避難所になかなか足が向かないわけです。本来、住民にとって安全というメリットがあるわけですが、逆にデメリットも。避難所に行くことはメリットが大きいんですよということをちゃんと伝えないといけない。そういう意味ではこれまでの避難所環境というのは、まだまだ避難しにくい。避難しやすい環境にはなっていないわけです。
新川)避難所がきちんと命を守れる場所であるとわかったら早めに避難をするということですよね?
水谷)そうですね。どうしても、例えば体育館の床に寝ないといけないとか、トイレも和式しかないとか、そういうイメージがついてしまっているので、なかなか避難所に足が向かないということが課題としてあると思います。
しかし、環境を良くして、例えば体育館の床に寝ずに簡易ベッドとか段ボールベッドが用意されていますよ、暖かい布団がありますよ、食事もありますよ、トイレもちゃんと備えていますよということであれば避難しやすくなると思うんです。
千葉)要望書の中には「計画的な避難」とありますが、どんな計画を立てておけばよいのですか?
水谷)まず、要配慮者、例えばお年寄りや障害がある方は、危機が迫ってから急いで逃げることは難しい。さらに早めに避難できるように。これは、平時に計画を立てておかなければいけないので、地域で考えて周知をする、そして、もし災害が近づいた時には実行していくことが必要かと思います。
千葉)避難所は市町村ごとに区切られていますよね。その市町村の境を超えることはできるのでしょうか?
水谷)災害時に住民の命を守るのは市町村であると、災害対策基本法には書かれています。ということはそれぞれ行政が守っていかないといけないのですが、どうしても隣の市と区切りがついてしまいます。住民にとって安全な場所とは自分の町とは限りませんので、近くにある隣の市町村の安全な避難所にいくというのも一つの手だと思います。そのあたりを都道府県が主導して住民にとって濃淡が出ない、どこに逃げても安全であるということを広域で整えておくことが求められると思います。
新川)新型コロナウイルスの感染拡大の状況下でいうと、特に都市部は密集が懸念されて避難所のキャパシティが足りないということも考えられますね?
水谷)感染症という特殊な事情もありますが、そもそも、避難所が都市部で足りるのかということが大きな課題としてあります。小学校の体育館などが指定避難所になっていますが、やはり現状では収容しきれないということがあります。解決方法として、避難先の選択肢をいくつか持つということがいいだろうと思います。例えば体育館だけではなくて教室も開放してもらう、屋外にテントを設置してそこに避難をしてもらうとか。さらに、これは非常に慎重にしなければいけないことですが、例えば車中泊もやむを得ないと。ただし、エコノミークラス症候群にならないような安全な車中泊を検討していく。このように、体育館の密集だけではなくて、さまざまな選択肢を持つことが重要かと思います。
千葉)要望書には避難所の図面もあります。「密接」を避けるために、簡易ベッドとパーティションを用いてゾーニングを行うということで、避難所のレイアウトの例が描かれています。
居住スペースは1人4平方メートル。たて2m×よこ2mの仕切られたスペース。
そのスペースの半分が簡易ベッドで、ベッドの横のスペースも広いので、ベッドに腰掛けて食事したり、話したりできるという設定です。
新川)一般的な避難所は、雑魚寝で、寝るスペースで生活もしますね。
水谷)多くの自治体では、一人あたり約2平方メートルというところが多いです。大阪や東京都は1.6平方メートルが多いのですが、畳一枚ぐらいで狭いです。
やはり避難所も収容人数にある程度、上限を設ける必要があるのではないかと思います。
特に感染症ということであれば人と人とは2メートル以上と推奨されていると思いますが、やはり一人当たり4平方メートルくらいを確保する方がよいのかなと。
千葉)実際の避難所が2平方メートルとか1.6平方メートルという状況だとすると、水谷さんたちがおっしゃっているのはその倍は必要だと。
新川)さらに通路も2メートル必要で、感染症の対策を加えるとさらに間隔が広いものになっていますね。
千葉)こんな広さを確保することができるのですか?
水谷)非常に難しい問題だと思います。ですから、先ほど言いました、体育館避難所だけではなくて教室をどんどん活用するとか、テントの活用、安全な車中泊も一つの方法だと思います。
いずれにしてもこれぐらいは目指していく必要があるのではないかと。
そして、この4平方メートルの避難所は、国内で過去に例があります。
愛媛県西予市で、西日本豪雨の際によく考えられた避難所が設営されました。この時は一人あたり4平方メートルを確保していました。当然、人口の規模にもよりますが、過去に事例がありますので、こういうことも研究していただいて、できるだけ詰込み型ではなく人口密度をある一定に抑えることは非常に重要かなと。
千葉)図面を見ていると、食事スペースが別に作られています。自分のスペースで食べた方が感染予防になるのではないかなと思いますが?
水谷)もともと、これまでの避難所では食事スペースはないことが多かった。雑魚寝をして床に座って、床にお弁当などを置いてバラバラに食べていました。
要は、占有スペースと共有スペースを分けるということと、寝床で食事をしないということです。
今回、感染症ということなので、向かい合わせには座らず距離を取ることも考慮しながら。寝床で食べるということは食べこぼしもあってカビが発生したり衛生面で課題がありますので、食事はできるだけ共有スペースで取ることが良いかなと思います。
新川)図面を見ると、共有と言えども感染症対策として対面にならない、斜めに座るということと、机が離れているという図面になっています。
水谷)やはり距離を取る必要があるということですので。本来は大勢で食べるということはコミュニケーションも取りますし、お互いの体調の管理ができる。顔色がわかるなど、いろいろなメリットがありますが、今回のコロナの対策では距離を取らなければいけないということです。
千葉)自治体への要望としては、30分に1度、窓を開けて空気を入れ替えることや、マスク、エタノールなどの消毒剤、簡易ベッドをきちんと備蓄するということも書かれている。
感染症予防にも、簡易ベッド(雑魚寝の解消)が役立ちますか?
水谷)いろんな研究の中で、床にウイルスが多いということも言われています。あとは、従来の避難所がなかなか安全な場所と言えない中で、さらにコロナのことが被さってきていますので、非常に慎重に避難所を取り扱わなければいけない。非常に難しい問題だと感じています。
千葉)新型コロナの問題にとどまらずに、避難所が健康で暮らしやすい場所になることが必要だということですか?
水谷)そうですね。住民の命を守るということは国の仕事であり、行政の仕事でありますが、従来の避難所でも災害関連死がなかなか無くならない。平成の30年間で5000人が亡くなっていますので、そもそも避難所に課題があるのではないかと思います。従来の避難所でもインフルエンザの発生やノロウイルスでの食中毒も起こっています。まず、人が暮らせるスペース、健全な環境とはどういうものか、我慢ばかりをさせるのではなく避難者を病気にさせない観点から環境整備をしていく。さらに、コロナウイルスの対策を行うことを今から検討していかないと間に合わないのかなと感じています。