オンライン:京都大学防災研究所 准教授 西村卓也さん
西村)先月19日、石川県・能登半島で最大震度6弱を記録する地震が発生しました。翌日にも最大震度5強を観測するなど、2020年12月から1年半の間で、震度1以上の地震が160回以上観測されています。さらに3月以降、京都府南部でも同じように、揺れが続く群発地震が発生しています。群発地震のメカニズムについて、京都大学防災研究所 准教授 西村卓也さんに伺います。
西村卓也)よろしくお願いいたします。
西村)先月、石川県・能登地方を震源とする地震があり、珠洲市で震度6弱の揺れを観測しました。その後も震源地を同じとする地震が続いています。このような地震はなぜ起こるのでしょうか。
西村卓也)地下の岩盤に力がかかり、断層がずれて起こるのが地震のメカニズムです。通常の地震はプレートが年間約6~8cm動くことによって岩盤に力がかかって起こるのですが、今回は、能登半島の地下にたまっている水が深部から上がってくることによって、水が周囲の岩盤を広げ、断層を何度も押して地震が起こったと考えられています。
西村)能登半島の群発地震は水が原因ということですか。
西村卓也)日本列島の下には、海から潜り込んだ海洋プレートがあります。関西や能登半島の地下100~200kmの深部には、南海トラフから沈み込んだプレートが真下まで来ているんです。海のプレートは海水をたくさん含んでいて、地下深部で水が分離され、周りの岩石より軽いので浮力で上昇していきます。上がってきた水が周囲の岩盤を押し広げると地震のような悪さをすることもあります。
西村)水というのは悪さばかりするものなのですか。良いこともあるのでしょうか。
西村卓也)温泉は人間にとっての恵み。地下の深いところから上がってきた水には体に良い成分が含まれています。
西村)私たちに恵みを与えてくれると同時に、地震のような悪さをすることもあるのですね。群発地震の原因となる水の動きをどのように把握しているのですか。
西村卓也)全国1300ヶ所にGPSを設置しています。わたしたちがスマートフォンやカーナビで使っている位置情報システムです。そのデータから地面がどのように動いているかを観測しています。能登半島に設置されたGPSを見ると、2020年12月から1年半の間に縦に4cmほど地面が隆起していることがわかりました。これは地下に水がたまったことによって、周囲の岩盤が風船のように押し広げられたことが原因と考えています。地面の隆起は火山の周辺ではよく観測されます。火山の地下にはマグマがたまっていて、岩盤が広げられて隆起することがあるからです。能登半島には火山がないので非常に珍しい現象です。
西村)岩盤の動きは読みにくいのではないですか。
西村卓也)水は軽いので、上がってくるという性質を持つのですが、水がどのように岩盤の割れ目を伝って上がってくるのかは予測できません。地下の岩盤の割れ方は知ることができないので、水の動きを予測することは難しいです。水が地上に吹き出す可能性もあるし、どこかで止まって落ち着くパターンもある。どうなるかを予測することは難しいですね。
西村)能登半島の地震は今後も続くのでしょうか。
西村卓也)地殻変動は現在も続いています。まだ数ヶ月は地震活動が続くと思います。
西村)長期間の備えが必要ですね。
西村卓也)地震の強い揺れで家具が倒れて怪我をすると大変です。家具の固定や寝る場所の安全確保など、備えが必要です。
西村)京都府南部でも今年3月以降、同じような群発地震が発生しています。5月には亀岡市で震度4を観測するなど、マグニチュード4規模の地震が短期間で発生しています。京都の地震のメカニズムは、能登の群発地震と同じなのでしょうか。
西村卓也)水が原因であると考えられている点では同じですが異なる点も。能登では地面の隆起が観測されているのですが、亀岡市の場合は、地下にたまっている水の量が多くないので地殻変動としては観測されていません。亀岡周辺の西山断層帯という活断層も関係していることがわかってきています。
西村)南海トラフ地震との関連はあるのでしょうか。
西村卓也)今回の地震が直接、南海トラフ地震の前兆・予兆ということはないのですが、南海トラフ地震の50年前~後10年は関西の地震活動が増えるといわれています。阪神・淡路大震災、2018年の大阪北部地震、今回亀岡市の地震も含め、関西の地震活動が高まる時期に入っていると考えられます。
西村)近畿地方の地盤にも新たなひずみがあるのですか。
西村卓也)ひずみは、南海トラフから海のプレートが押している関係で着実に溜まっていることがわかっています。GPSの観測によってもひずみが高まりつつあると観測されています。過去の歴史を見ても、南海トラフ地震の前後に地震が起こりやすい。次の南海トラフ地震は今世紀中に発生するといわれているので、それに伴う内陸直下型地震にも十分警戒が必要です。
西村)西村さんが近畿地方で一番ひずみがたまっていると思う地域はどのあたりですか。
西村卓也)一言でいうのは難しいのですが、大阪~京都、琵琶湖の西岸あたりは、活断層がたくさんあるのでひずみがたまりやすい場所。内陸直下型地震のリスクも高いと思います。
西村)どこでどんな地震が起こるかわからないですね。地震は活断層があるところで起きやすいのですか。
西村卓也)活断層は過去に地震が起こったことを示す化石みたいなものなので、地震が起こりやすい場所といえます。でも地下深部で起こった地震もあるので、活断層以外のところでも地震が起こる可能性はあります。日本全国で活断層の調査は進んできていますが、最近起こった地震で、活断層で起こったものは約半分。残り半分はノーマークの場所で地震が起きたという研究もあります。活断層だけ調べておけば安心ということにはなりません。
西村)活断層だけで地震が起こる地域を判断せずに、GPSでひずみをチェックすることも地震の備えにつながるのでしょうか。
西村卓也)地震の長期予測の方法にはいくつかあるのですが、GPSを使って長期予測することも一つの方法。アメリカのカリフォルニア州などでも使われている方法です。GPSは日本全国に均等に設置されているので、ある程度均一に研究できるという利点も。GPSと従来からの手法を組み合わせて調査・予測していくことが重要になると思います。
西村)全国1300ヶ所にGPSがあるということ。普段使っているカーナビやスマートフォンのGPSがひずみのチェックに役立てられているのですね。
きょうは、群発地震について、京都大学防災研究所 准教授 西村卓也さんにお話を伺いました。