取材報告:番組ディレクター 新川和賀子
千葉)梅雨の真っ只中です、各地で大雨が降っています。
25日(木)には、長崎県で50年に1度という記録的な大雨が降りました。
これから秋にかけて、大雨や台風の時期が続いていくことになりますね。
考えてみると、ここ何年かは毎年のように全国のどこかで大きな水害が起きて被害が出てますよね。
そこで、今日は新型コロナウイルスまん延の中での水害の避難について考えていきます。
番組ディレクター、新川和賀子さんの取材報告です。よろしくお願いします
新川)よろしくお願いします。
きょうはぜひ、リスナーの皆さんにも、ご自身の避難について具体的に考えていただきたいと思っていますので、お手元に住んでいる地域のハザードマップをご用意してお聴きいただきたいんですね。ハザードマップが手元にないという方は、自治体のホームページで見ていただくか、もしくは国土交通省の「ハザードマップ・ポータルサイト」でも検索してみることができます。
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
https://disaportal.gsi.go.jp/
千葉)パソコンを使って見ることができるわけですね。
新川)はい。スマホでも見られます。
ということで、きょうは千葉さんにも、ご自身がお住まいの地域のハザードマップを持って来ていただいたんですよね。
千葉)そうなんです。家の電話の下の出前とかの注文票が入っている棚のいちばん取りやすいところに置いてあるんですが、持ってきました。
新川)ありがとうございます。このハザードマップについては、のちほど、これを見ながらどういうことを確認してもらうかということをお伝えします。
きょう、水害の避難についてテーマとして取り上げようと思ったのは、やっぱり新型コロナウイルスがまん延してる状況が、皆さんの避難行動に大きく影響すると考えたからなんです。
感染恐れるあまりに避難が遅れて、水害で命が危険にさらされるようなことがあってはいけませんよね。
大雨の時期を迎えて災害の専門家も避難についてあらためて呼びかけを行っています。
災害情報の伝え方や受け取り方のあり方を研究している専門家の団体「日本災害情報学会」は、先月、避難に関する提言を発表しました。
まず、日本災害情報学会会長で東京大学特任教授の片田敏孝さんに、今、提言を発表した理由について聞きました。
片田)もう出水期に入りましたね。これから秋にかけて、コロナウイルスがまん延している状況の中で、自然災害に対する避難が必要になる事態がありうると。
この提言をまとめる最も強い動機はどこにあったかと言いますと、コロナウイルスの感染を恐れるあまり自然災害の避難そのものを躊躇なさるんじゃないのか、こういう心配を我々は感じたんですね。
コロナウイルスがまん延している状況というのは、ある意味、社会が慢性の病気にかかっているという状況だろうと思います。そこに自然災害の避難が必要になるというのは、いわば急性の病気が同時に起こってしまうという状況なんだろうと思うんですね。
慢性の病気にかかっているからと言って、急性の病気に対処しないということになりますと、命を落とすことになりかねないということを心配しておりまして、コロナウイルスのことにしっかり対処しながらも、自然災害に対する対処をしっかりしていただきたい。そんな思いからこの提言をまとめるに至ったということなんですね。
千葉)慢性の病気と急性の病気が一緒に起きちゃう状況って怖いですね。
新川)感染症と自然災害、どちらも命に関わることです。
ただこの数ヶ月間、私たちは密を避けるということを本当に徹底してきまして、意識として染みついているのではないかと思いますので、密になる避難所へ行くことを躊躇してしまう感覚というのは皆さん少なからずあるんじゃないかと思います。
リスナーの皆さんからも、避難についてメールをお寄せいただきましたけど、やっぱり避難所にちょっと行きたくないなという声が、多く見られましたよね。
千葉)そうですね。
新川)実際に、先日大雨が降って避難指示が出た地域がありましたが、避難所に来た住民がとても少なかったということがあったんですね。
先日の25日(木)、長崎県佐世保市で3時間雨量としては観測史上最大となる180ミリもの大雨が降り、市内を流れる川で一時、氾濫危険水位に達しました。
そして、およそ9万4000世帯、21万9000人を対象に避難指示が出されましたが、避難所に来た人は最大で35人でした。
千葉)21万9000人の内、35人?
新川)そうなんです。
ただ、この状況を「ほとんどの人が避難しなかった」と言ってしまうのも正しくないんですね。
千葉)なぜですか?
新川)避難行動をとるということをどう考えればよいのか、日本災害情報学会会長の片田さんはこう話します。
片田)これまで、「避難」というと避難所に行くという風にみなさん、ひょっとしたら固定的に考えておられるかもしれないなということを、少し心配しております。
避難というのはですね、読んで字のごとくなんです。「難を避ける」行動のことなんです。
必ずしも避難所に行くことをもって避難というわけではないということ、まずこれをしっかり心得ていただきたいんですね。
例えば、いま、雨のシーズンになりましたので、河川の洪水が危ないよということで避難の情報が行政から出たとしますね。みなさんには、本当に避難所に行かなきゃいけないのかということを少し考えていただきたいんです。
例えば洪水であれば、明らかに危ない地域というのはあるわけです。一方で、どう考えてもうちには水は来ないよという地域の方々もいらっしゃいます。こういった状況は、各自治体が出しているハザードマップで、おおむねの状況というのは確認できると思うんですね。
それで、うちは川の水が明らかに来ないよという地域の方々については、家にとどまることは可能かどうかをしっかり考えていただきたい。
例えば、うちはマンションの上層階に住んでいるよという方々は、どう考えても水害そのものは大丈夫だよと。もちろん、ライフラインが途絶えるとかそういった話はありますけども、水害という点においては命を守るということに問題ないというようなお宅に住んでおられる、こういった方々は、ぜひ「在宅避難」という選択をしっかりしていただきたいと思います。
在宅避難といいますと、家に留まることですから、避難しないということに思われがちなんですが、避難しないということと在宅避難ということの違いはどこにあるかというと、しっかり検討した結果として家に留まることがより安全だよということが分かる方々については、それを積極的に選んでいただく、考えた結果として家に留まるという選択をなされた場合、これを「在宅避難」という風に言ってるんですね。
千葉)家に留まっていても「避難」になるということがあるんですね。
新川)そうですね。
避難というのは「難を避ける」行動であると。避難所に行くことだけが避難ではない。
この番組でもこの数ヶ月間、たびたび呼びかけてきましたが、避難所以外の避難も考えてみましょうということなんですね。
これは日本災害情報学会の提言の中では、「分散避難」という呼び方をしています。
千葉)いろんなところに分かれて避難しましょうということですか。
新川)そういうことです。状況を見極めたうえで自宅が安全だと判断した場合は在宅避難、それ以外にも安全な場所にある親戚や知人のお宅、そしてホテルなどへ避難することで、分散して避難ができて、みんなが避難所に集中せずに済みますので、3密を避けることができるということです。
千葉)そうですね、大勢が1か所に集まることが避けられますからね。
新川)実際に、先ほどお伝えした25日(木)に大雨が降った長崎県の佐世保市でも、「事前に役場の方が分散避難を呼びかけていたために、避難所にきた人が少なかったのではないか」と危機管理担当者が話していました。
千葉)避難行動を取っていなかったわけじゃなくて、在宅での避難とかそういった行動をとっていた可能性があるということですね。
新川)そうですね。
では、自分の家が安全なのか、親戚の家の方が安全なのか、それともやっぱり地域の指定避難所へ行った方がいいのか、肝心なその判断はどうすればいいのかということで、片田さんのインタビューでも触れられていましたが、ハザードマップがひとつの判断材料になるんですね。
みなさんのお手元に用意していただいたハザードマップを見ていただきたいんですね。
そして、私はもうひとつ手元に資料を用意しています。
内閣府と消防庁が発表している、避難行動を判断するフローチャートというものが公開されています。いま、手元にあります。
内閣府(防災担当)・消防庁「避難行動判定フロー」
http://www.bousai.go.jp/pdf/colonapoint.pdf
あなたは、〇〇ですか?何々ですか?「はい」とか「いいえ」で矢印をたどっていくと、問題解決の手順がわかるというものをフローチャートと言います。
避難行動判定フローチャートを用意して、これとハザードマップを元に、まずは千葉さんの住んでいる地域で検証してみたいと思います。
まず、千葉さんの住んでいる地域は、大阪府下のある市町村です。
千葉さんの地域というのは、簡単にどんな特徴があるところですか?
千葉)私が住んでいる所というのは、いわゆるニュータウンなんで...ニュータウンと言っても、昭和50年代に開発されているから、わりとオールドタウンに近くになっているんですが...。山を切り開いたような感じの住宅地なので、周りに結構、山が残っているんですよね。そういう場所に住んでいます。
新川)そして、ハザードマップを見ていただきますと、地図の中に色がついているところがあるんですね。これが土砂災害の危険があるところとか、洪水が起きた時に浸水する場所、その深さはどれぐらいかとかが色分けで示してあります。
そして、指定避難所がどこにあるのかとか、そういったことが地図の中に表示されています。
ハザードマップというのは、洪水の場合、土砂災害の場合、津波の場合と、災害ごとに作られていますが、自治体によっては複数の災害をひとつの地図に全部一緒に表したものもあれば、災害ごとに分けて示したものもあるかと思います。
千葉さんのものはどうでしょうか?
千葉)私の住んでいる自治体のものは「総合防災マップ」という名前がついていまして、普通、マップというと1枚の大きな地図を想像するんですけど、これは地域ごとにページが分かれていて、小冊子になっています。
新川)地図帳のようですね。
千葉)それで、土砂災害の危険地域はここですよとか、地震の時にはこれだけの揺れがありますよとか、そういう複数の災害について、これ1冊を見ると状況が分かるようになっているんですよね。
新川)きょうは水害について考えてみましょうということで、特に洪水と土砂災害のマップについて、みなさん見ていただきたいです。
これをもとに千葉さんの避難行動をどうすればいいのか、内閣府のフローチャートを私が読み上げますので、答えていただけますか。
まず、「ハザードマップで自分の家がどこにあるか確認し、印をつけてみましょう」
千葉)ちょっと待ってくださいね。この家ですね、はい、つけました。
新川)では続きまして、「家がある場所に色が塗られていますか?」
これはつまり、土砂災害とか浸水が想定されていますかということですね。
いかがでしょうか。
千葉)いや、色はないです。
新川)この質問に対して「はい」と「いいえ」の矢印がありますが「いいえ」ということですね。
では、千葉さんの取るべき避難行動を申し上げます。
「色が塗られていなくても、周りと比べて低い土地や崖のそばなどにお住まいの方は、市区町村からの避難情報を参考に必要に応じて避難してください。」というのが、千葉さんの取るべき避難行動です。
千葉)ハザードマップに色が塗られてないからもう全然大丈夫、なんでも大丈夫なんだって思わないで...ちょっと家の近くに自然がいっぱい残った山になっている公園があるんですけど、そういったところもあるから、ちゃんとチェックして行動を取らなきゃいけないなっていう感じなんですね。
新川)そうですね、必要に応じて避難してくださいということでしたね。
これ、家がある場所に色が塗られている、浸水とか土砂災害が想定されている地域にお住まいの方もいらっしゃると思いますので、そちらの方の場合を今から説明します。
つまり「はい」と答えた人ですね。
その次、進みますと「災害の危険があるので避難が必要です。」
ただし、これ先ほども言いましたが、自宅に避難できる場合と、自宅以外に避難する場合があるって話しましたよね。
自宅に留まれる方はどういった方かと言いますと...
「浸水の危険があったとしても、洪水により家屋が倒壊または崩落してしまうおそれの高い区域の外側である」
これ、どういうことかと言いますと、例えば川の真横とかで堤防が決壊したらもう家が全壊してしまうぐらいの恐れがある地域というのがあるんですね。
これは、「家屋倒壊等氾濫想定区域」という名前で言われます。
2015年に起きた鬼怒川の決壊を覚えていますか?茨城県の...
千葉)覚えています。堤防が決壊して家が流されていく映像がすごいショックでした。
新川)あの時は、浸水という言葉では表現できないくらい、家が水の勢いで潰れてしまうということがありました。
あの災害があってから、この「家屋等倒壊氾濫想定区域」というものが指定されるようになったんですね。まだ自治体によっては、ハザードマップに表示がないところもあるかもしれないんですが、この地域が指定されているので、この地域の外だったらたとえ浸水したとしても命は守れるんじゃないかということで自宅の避難ができるということですね。
それから、「浸水する深さよりも高いところにいる」
これも、浸水は想定されているんですけどもそんなに高くはないと。2階とか3階に逃げれば命が守れるというような方。
あとは、「浸水しても水がひくまで我慢できる、水・食糧などの備えが十分にある場合は、自宅に留まって安全確保することも可能です」と書いてあります。
千葉)例えば、床下浸水までしたけど、これ以上浸水が深くなる可能性は低いとかいう、そんな場合ですかね。
新川)はい。
私たちも、在宅避難できるように備えておきましょうと、ずっと呼びかけてきましたよね。
それから、「土砂災害の危険がある地域でも、十分堅牢なマンションなどの上層階に住んでいる場合は、自宅に留まって安全確保することも可能です」とフローチャートに書いてあります。
土砂災害の警戒区域だけど、すごく丈夫なマンションの上の方の階に住んでいて、たとえ土砂が多少入ったとしてもマンションごと倒れるとか部屋に土砂が流入するようなことがない場合は、自宅に留まることもできるということですね。
千葉)立派なマンション多いですからね。
新川)そうですね。
いま説明したのが、自宅で避難が可能な方。
では、自宅が危険だという方はどうすればいいかですが...
続きましてフローチャートを進みますと、「ご自身または一緒に避難する方は、避難に時間がかかりますか?」
これも「はい」と「いいえ」があります。
私は体もどこも悪くないし時間がかからず避難できるよという方、「いいえ」という方の場合を説明します。そうすると、「安全な場所に住んでいて身を寄せられる親戚や知人はいますか?」という問いになります。これが、親戚知人の家に自宅の外で避難できるかということなんですけれども、この答えが「はい」親戚や知人の家に避難できるという方は、「警戒レベル4が出たら安全な親戚や知人宅に避難しましょう」
「いいえ」親戚や知人の家に身を寄せられるところがないという方は、「警戒レベル4が出たら市区町村が指定している指定緊急避難場所に避難しましょう」
いま言いました「警戒レベル4」とは、最近よく大雨の時に聞きますが、これは自治体が出す情報で、避難勧告や避難指示が出ると、「警戒レベル4」にあたります。危険な場所にいる人は全員避難してくださいという情報ですね。
そして、「避難に時間がかかりますか」、「はい」という方もいますね。
千葉)おばあちゃんおじいちゃんと一緒に暮らしているとか、そういう方いらっしゃいますもんね。
新川)そうですね。避難に時間がかかるという方は、これも同じ問いなんですけど、「安全な場所に住んでいて身を寄せられる親戚知人はいますか」この問いに「はい」という方は、「警戒レベル3が出たら、安全な親戚や知人宅に避難しましょう」
千葉)警戒レベル4に行く前の警戒レベル3の段階で早めに避難しましょうと。
新川)そういうことですね。
この警戒レベル3というのは「高齢者等避難開始」という名前でも呼ばれています。時間がかかる人は早めに避難しましょうという情報ですね。
これも、安全な場所に住んでいて身を寄せられる親戚や知人宅がない場合、「いいえ」の方は、「警戒レベル3が出たら指定緊急避難場所に避難しましょう」
この場合は、避難所に行きましょうということですね。
千葉)宮城県大郷町で水害避難の取材をしたことがあるんですが、その時も早い段階で避難していたので、地域の人の命がみんな助かったんですよね。
新川)意識して事前に行動しておくと命が守れるということですよね。
千葉)早め早めの避難で、その場所をどこに避難するのかということは適宜考えていく必要があるということですよね。
新川)ということで、ハザードマップ1枚見るだけでいろんなことを考えてみることができると思います。
千葉)そうそう。
うちの地域、一番近くにある小学校に避難しようかと思っていたら、避難所になってないんですよ。
新川)そうなんですよね。
千葉さんの地域のハザードマップが私の手元にもありますが、お家から一番近い小学校がふつう避難所と思いがちですが、避難所になってない。
千葉)そう。たしかに、小学校の裏が険しい崖になっているんですよ。
新川)これ、土砂災害の想定がされていますね。色がついています。
千葉)「急傾斜」って書いてありますもんね。
新川)それから、自宅だけじゃなくて、逃げようと思っている親戚や知人宅が安全かどうかも確認できますし、普段使う道や避難所に行く道も...
千葉)必ず家から向かうと限らないので、うちはちょっと駅が遠くにあるんですが、そこまでずっと降りていく道を見ていると、駅の周辺で土砂災害の危険性のある地域が結構あるわ、と気づくんですよね。
新川)千葉さんのご近所の地図を見ていると、結構、住宅が密集している地域に土砂災害の想定の赤い色がいっぱい塗られているんですよね。
千葉)家がいっぱいあるところってだいたい、「もう安全なのかな」「みんな住んでいるから」とか思いがちじゃないですか。
新川)ですので、いま一度みなさん、ハザードマップに目を通してほしいんですね。
それから、先ほども紹介しましたが、避難行動をいつ始めるのかという判断材料となるのが、行政や報道で出される避難情報。
警戒レベル3、4と説明しましたが、「警戒レベル5」となるともう災害が発生している状況ですので、4までの間にきちんと命を守る行動をしてくださいということです。
5の時は、いまいる場所で最大限、命を守る行動をしてくださいという情報です。
千葉)できるならば、そこに至るまでにちゃんと避難行動をして安全な場所にいてくださいということですもんね。
新川)そうですね。
そして、先日の長崎県の大雨でも発表されました「50年に1度の大雨」とか「これまでに経験したことのないような大雨」とか、最近、大雨の時によく報道で聞きます。
これ、50年に1度ってしょっちゅう言っているじゃないかって思う方もいらっしゃると思うんですが、これは「その地域で50年に1度」ということなんですね。
だからしょっちゅう出ているように思うんですが、その地域にとってはこれまでに起きたことがないようなことが起きているんだということを認識していただきたいと思います。
そして、ハザードマップや避難情報も全て正しいとは限らないんですね。
この情報が出される前に危機が迫っている場合もありますから、もし避難情報が行政から出されていないとしても、ご自身で危機を感じたら行動にうつしてほしいと思います。
千葉)災害に絶対はないですもんね。
やっぱり行政に頼り切るんじゃなくて、自分の身を守る行動は自分で考えてやらなきゃいけないと。
新川)コロナの感染も気をつけないといけないんですが、それと同時に自然災害のこともあらためて意識していただきたいと思います。