オンライン:日本赤十字北海道看護大学 教授 災害対策教育センター長
根本昌宏さん
西村)新型コロナウイルスの緊急事態宣言が続く中で、梅雨の時期を迎えています。豪雨のとき、どう避難すれば良いのでしょうか。変異株は感染力が強いと言われているので、これまで以上に避難先での感染防止に気を使わなければいけません。
きょうは、日本赤十字北海道看護大学教授で、災害対策教育センター長の根本昌宏さんにお話を伺います。
根本)よろしくお願いいたします。
西村)台風や豪雨のとき自宅にとどまるべきか、避難所に行くべきか。新型コロナウイルス感染のリスクを考えると悩む人も多いと思います。
根本)災害が起きそうなとき、もしくは起きたとき、自分が危険な場所にいる場合は、ためらわずに逃げるということが基本です。自分の住んでいる場所、地形、災害の発生する確率などが書かれているハザードマップを確認して、逃げなければいけないときは、ためらわずに逃げてください。
西村)在宅避難が可能な人は家にとどまる方が良いですか。
根本)大雨洪水災害の場合には、1週間水が引かないことも考えられます。在宅避難する場合は、自宅で1週間生活できる備蓄があるかを考えておく必要があります。
西村)先日25日に避難所での新型コロナウイルスの感染防止対策を盛り込んだ防災基本計画が決定されました。大きなポイントは、新型コロナウイルスに感染して自宅療養している人の避難です。「自宅療養者の避難先をきちんと確保するように各市町村は努めなさい」ということが盛り込まれました。コロナで自宅療養している人はどこに避難すれば良いのでしょうか。
根本)各自治体で計画が異なります。自分の住んでいる市区町村の新型コロナウイルス感染者の避難計画を事前に把握しておいてください。
西村)どこで知ることができるのでしょうか。
根本)市区町村の防災担当のホームページなどで発信されている場合があります。厚生労働省の管轄である保健所からも同じような情報が出されていることもあります。
西村)どこに避難すれば良いのでしょうか。
根本)陽性が確定している人の避難所が事前に準備されます。例えばホテルや保健所が指定する施設。市区町村によって変わるので、その場所に逃げるというのが基本です。
西村)保健所が指定する施設は、例えばどんな場所ですか。
根本)ケースバイケースですが、コロナ陽性者専用のホテルや旅館などが指定されていることがあります。ハザードマップ上問題がなければそこが避難所に。しかし住んでいる地域によって実情が大きく異なります。このような場所は、ハザードマップには書き込まれていないので、陽性者となった場合には把握しておくことが必要です。
西村)現在、全国の自宅療養者が3万人を超えています。病院や療養者専用のホテルがいっぱいで自宅療養している人がたくさんいる中で、ホテル避難は難しいのでは。
根本)各地域によって実情が大きく異なるので、災害が起きたとき電話連絡が可能な場合は、ぜひ保健所に問い合わせをしてください。その上で保健所からの指示に従うことがまずは一番の手法になると思います。
西村)なかなか電話が繋がらないのではないですか。
根本)災害が大きくなるほど問い合わせが多くなり、受け入れ場所も限られてきます。必要なのはひとりひとりの機転です。
大事なことは、自分から他人にうつさないということ。自分が感染者になっている場合、他人と接しないように気をつけつつ、災害からは逃げなければいけません。例えば車で避難したときに、自分だけの空間になっているのかなど。安全に車中泊をすることも自宅療養者の一つの避難方法となります。
西村)保険所に繋がらなくても冷静になってしっかりと問い合わせをすること。車中泊について備えておくことが大切なのですね。
自治体が自宅療養者の避難先として、学校の空き教室を指定した場合、一般の避難者と自宅療養者の居住空間を分けることは可能ですか。またどんなことに注意すれば良いのでしょうか。
根本)避難所の運営マニュアルは、市区町村ごとにコロナ用に書き換えられています。例えば、動線を分ける、階段やトイレを専用にするなど。このようなルールにしっかりと従えば、感染者と一般の避難者が安全に避難することは可能です。
そこで一人一人持ってきていただきたいものがあります。体温計・マスク・消毒液・スリッパなどの上靴。この4つに加え、ティッシュなどを捨てるゴミ袋もあれば、避難所の中の衛生環境を自己完結で守ることができます。衛生に関係する物品は、災害直後は手に入りづらいことがあるので、今一度、非常用持ち出し袋や車に入れておくものを見直すと良いと思います。
西村)冷却シートとか、風邪をひいたときに必要なものも入れておくと良いですね。
根本)そうですね。そこに逃げるだけではなく、生活することになるので自分が必要と思うものを非常用の持ち出し袋に入れておくことが大切です。
西村)私も改めて非常用持ち出し袋をチェックしておきたいと思います。他に注意することはありますか。
根本)新型コロナウイルスでは、自分が他の人に感染させてしまうエアロゾル(空気からの飛沫感染)に注意が必要です。避難所では1密ごとに全てを回避する行動を徹底してください。密閉は避ける、密集は避ける、密接は避ける。一つ一つの密を全部避けるということが避難所の共同生活では必須になります。
西村)より気を使わなければいけないのですね。大阪では、感染者が多く、保健所が手一杯になっていて、病状の聞き取りすらできていないケースもあるとか。このような危険な地域に住んでいる自宅療養者を自治体がきちんと把握することは、実際には難しいのでは。
根本)さまざまな災害でよく「想定外」という言葉が使われますが、災害は基本的に全て想定外だと思っています。まずは現状を踏まえて、自分ができることを一つでも二つでも増やしておく。そのための一番の方法は、正しい情報をできるだけ早くつかむこと。デマに惑わされずに、早めに行動を決断すること。それが今の状況下の命を守る災害対策、避難対策となります。
西村)正しい情報を早めにつかむことは大切なことですが、まずはどこをチェックするべきですか。
根本)地元の正しい情報を取ることが大事です。各市区町村はホームページ、Facebook、 Twitterなどさまざまな Web媒体で情報を発信しています。情報が届きにくい人に町内会単位で情報を届け合うことも重要。あとは、ラジオなどのメディアからいち早く自分の住んでいる場所の状況をつかみ取るということも一つの術に。
西村)目が不自由な人など、情報を得ることが難しい人が近所にいたら伝えることも大切ですね。
続いて、自分が濃厚接触者(PCR 検査陰性で14日間の外出自粛中)になったときについてお聞きします。感染しているかもしれないし、感染していないかも知れません。その場合、避難所に行って、感染者と同じ部屋にいれば感染する可能性があり、一般の避難者と同じ部屋にいると、自分に自覚がないまま感染を広めてしまうかもしれません。どうするべきでしょうか。
根本)これは車の運転と同じと私は考えています。「~かもしれない運転」同様、「自分はもしかしたら感染しているかもしれない」という感覚で、自分から誰かにうつさないようにする気構えが必要です。その上で、市区町村のルールに従うこと。各市区町村は、避難所に濃厚接触者、発熱者の専用のスペースを設けます。そのスペースにどのように入るかというルールに従えば避難することが可能です。
西村)自分が発熱をした場合は、避難所に行っても良いのでしょうか。また避難所へ行く際の注意点はありますか。
根本)「自分はコロナウイルスに感染しているかもしれない」と考え、自分が他の人にうつさないようにすることをまずは考えることが大切。北海道のとある市町村では、発熱していて車で避難してきた人は、避難所に入らずに一時、車にとどまってもらいました。そこで抗原検査などの簡易な検査を済ませてから入るという方法をとっているところも。各市町村の避難計画や新型コロナウイルスの受付対応に従ってください。
これは、各市区町村の計画によって大きく異なります。事前に学ぶことが難しいので、実際に避難してからそんなこともあり得るということを想像しておくだけでも十分だと思います。
西村)私ではなく、家族の1人が発熱している場合、家族みんなで避難所に行っても良いのでしょうか。また避難所に行く際の注意点はありますか。
根本)内閣府では、発熱をしている人と車で避難をする場合、車の中でも周りの人たちとの密接を避けてください、と発信しています。熱がある人はマスクをしっかりして、周りの人は、アルコール消毒などで、うつされないようにすることも必要。車の中でも少し間隔を空けるなど対策をしましょう。コロナが怖くて逃げるのをためらうということだけは避けてください。逃げるべき災害は必ず逃げるということが大前提になります。
西村)密接を防ぐといっても、我が家の場合、軽自動車なので密接を防ぐことは難しいです...。車にテントを積んでおいて、運動場などで駐車するときは、テントを外に出して、テントと車の中の人に分けるとか?
根本)分けるということが大切というのは、みなさん普段の生活で理解していると思います。避難所は共同生活なので、いかに1密でも避けるかということが、避難所での安全に繋がると思います。
西村)最後に避難所で感染が広がることのないように、私たちが注意すべき点はありますか。
根本)3密の中の1密全てを避けるということ。その上で今接種が進められているワクチンを打つことは、防災対策として一番優れた作戦だと思います。高齢者が早めにワクチンを接種しておけば、医療機関や保健所の負担が下がります。万が一の災害のとき、保健所がしっかりと災害対策に携わることができます。感染の機会はどこにでもあるので、感染しない、うつさないことを徹底して、防災を進めてほしいですね。
西村)「感染しているかもしれない」という前提で行動することがとても大切なのですね。心も物も準備しておくことが大事だと改めて思いました。根本さんどうもありがとうございました。
きょうは、日本赤十字北海道看護大学教授で、災害対策教育センター長の根本昌宏さんにお話を伺いました。