第1300回「大阪にある世界最高性能の気象レーダー」
大阪大学大学院 工学研究科 助教 和田有希さん

西村)不安定な天気が続いています。生活の中で雨雲レーダーを見て、行動を決める人も多いのではないでしょうか。私もいろんなシーンで雨雲レーダーをチェックしています。私たちが見ているのは気象庁のレーダーなのですが、それよりもすごい世界最高性能の気象レーダーが大阪大学の吹田キャンパスにあります。研究に使われているこのレーダーの観測結果を一般の人たちにも提供したいということで、現在、クラウドファンディングが行われています。
どんな気象レーダーなのか、大阪大学大学院 工学研究科助教 和田有希さんにオンラインでお話を聞きます。

和田)よろしくお願いします。

西村)大阪大学の気象レーダーはどのようなレーダーなのでしょうか。

和田)大阪大学に設置されている気象レーダーは、「フェーズドアレイ気象レーダー」というものです。従来のレーダーとはアンテナの形などに違いがあり、より詳しく雨を観測できます。
 
西村)どのように観測するのですか。
 
和田)気象庁のレーダーは、電波のビームを雨粒や雲にぶつけて、跳ね返ってきた電波を観測して、どこにどれぐらいの量の雨があるのかを調べる装置。細いビームでニ次元的に雲を観測しています。しかし、フェーズドアレイ気象レーダーは、広がったビームを放出するので、三次元的な雲の立体構造を把握することができるのです。
 
西村)ビームがたくさん出ているということですか?阪大のレーダーは、面で観測するというイメージでしょうか。
 
和田)面で観測して、30秒ほどかけて360度を一周するので、全方位を観測することができます。
  
西村)三次元になるっていうことは、捉えられる雲も変わりますか。
 
和田)上空できた雨粒が上から下に落ちてきて、地面に達すると雨になります。上でできたものが落ちてくるということは、上にある雨粒は、数分~10数分後に地上に降ってくる雨の予測に使えるということ。二次元では、一番下の層(上空1kmあたり)の雲を観測していたのですが、下だけを見るのではなくて、上まで含めて見ることが予測には非常に大事で、フェーズドアレイ気象レーダーの重要なポイントです。
 
西村)三次元でのスキャンが30秒でできるという話にびっくりしました。
 
和田)気象庁のレーダーは、細いビームを使っているので、1回レーダーを回しただけではニ次元のデータになります。気象庁のレーダーで三次元観測をするためには、1回グルっとビームを回して、さらに少し上の方向に向けて一周回すというふうに、何回もレーダーを回さなければなりません。1回につき30秒~1分かかるので、何回も回すと、5~10分かかってしまう。しかしフェーズドアレイ気象レーダーでは、広いビームを下から上まで一度に発射するので、1回30秒という短時間で三次元的に雲をとらえることができるのです。
 
西村)具体的にどんなことがわかるのですか。
 
和田)ゲリラ豪雨のような短時間で発達する現象を検知するのに威力を発揮します。
 
西村)ゲリラ豪雨をリアルタイムで観測できるのですね。気象庁の雨雲レーダーのアプリから通知が来ることがありますが、違いはありますか。
 
和田)ゲリラ豪雨は、5分経つと雨雲の様子が様変わりします。5分よりも短い30秒~1分でしっかりと雨雲の発達を観測することが重要です。
 
西村)ゲリラ豪雨のときの積乱雲は、どれぐらいの早さで発達するのですか。
 
和田)5~10分のタイムスケールで発達していきます。
 
西村)今の気象庁のレーダーは、ゲリラ豪雨を予想したとしても5~10分かかってしまう。予測ができた時点では、もう雨が降っていたり、タイミングがずれたりしてしまうのですね。阪大のレーダーは30秒で観測できるから、もっと早いタイミングで私たちに予測をお知らせしてくれるのですね。
 
和田)カクカクと動く画面ではなく、スムーズに流れる動画のイメージがフェーズドアレイ気象レーダーです。
 
西村)大阪大学・吹田キャンパスからどれぐらいの範囲のデータを集めることができるのですか。
 
和田)吹田キャンパスから半径60kmの範囲内のデータを集めることができます。大阪府は概ね全域入っています。近畿圏まで広げると京都、神戸、奈良あたりまで。和歌山はギリギリ入っていないのですが。
 
西村)今後もう少し範囲が広がれば良いですね。
 
和田)1台のレーダーでカバーできる範囲に限界があるので、将来的にはもっと台数が増えればと思っています。
 
西村)大阪大学のような高性能なレーダーは、現在日本に何台ぐらいあるのですか。
 
和田)試験観測用ですが、大阪を含めて全部で5台設置されています。神戸、沖縄、茨城県つくば市、首都圏をカバーする埼玉に設置されています。
 
西村)試験的ではなく、一般的に幅広く使われて情報も供給されて、レーダーの数も増えたら全国をカバーすることができるのですね。実際に阪大のレーダーは、どんなことに役立てられるのでしょうか。
 
和田)一番はゲリラ豪雨の観測。阪大のレーダーはフェーズドアレイ気象レーダーの1号機なんです。ゲリラ豪雨のような急発達する気象現象を三次元で初めて検出することに成功したレーダーです。
 
西村)世界的にも初なのですね。最近のゲリラ豪雨で情報をキャッチしたことも?
 
和田)レーダーは24時間365日回っているので、大阪近辺で起きた現象は常に観測できます。
  
西村)予測が難しいと言われる線状降水帯も観測できますか。
 
和田)観測自体はできます。ただ、線状降水帯は、雨のもととなる水蒸気が絶え間なく流れ込んでくる現象で、気象レーダーでは水蒸気は測ることができないので、予測の難しさはあります。一方で、予測するには現象を正確に正しく観測する必要があるので、フェーズドアレイ気象レーダーのデータは今後役に立つと思います。
 
西村)線状降水帯が発生する場所がピンポイントでわかるようになるのでしょうか。
 
和田)例えば、九州は西の海の方から水蒸気やってくるので、正確に予測するには、気象衛星で海の上の水蒸気を観測することが必要です。
 
西村)台風も同じですか。
 
和田)台風は直径が数百kmの巨大な現象なので、半径60kmをカバーする気象レーダー1台だけではどうしても観測しきれないです。
 
西村)規模が大きくなると、空や海などさまざまなポイントからの観測が必要なのですね。
先日和歌山の美浜町で竜巻が発生しました。多くの民家のガラスが割れたり、ビニールハウスの屋根が飛んだりしましたが、竜巻や雷は観測できるのでしょうか。
 
和田)竜巻や雷は、どちらも積乱雲の発生に関係しています。積乱雲の観測は、フェーズドアレイ気象レーダーの得意とするところです。
 
西村)場所を特定して、竜巻や雷の予測することも可能ですか。
  
和田)将来的には雷や竜巻を引き起こす積乱雲の予測ができればと。雷や竜巻の親玉である積乱雲が発生したことは、十分レーダーで検知することができます。
 
西村)積乱雲が発生してから観測するということですか。今のところは、予想はまだ難しいのでしょうか。
 
和田)積乱雲の発生の予測は難しいです。気象レーダーは雨粒ができてから検知することが強みです。
 
西村)だからこそいろんなデータを組み合わせた予測が大事なのですね。将来的には、積乱雲が検知できる阪大の気象レーダーが一般的になって、竜巻の発生予測ができるようになると避難もしやすくなるし、気象界にとって大きな一歩になりますね。
 
和田)私も大きな可能性があると思っています。
 
西村)阪大のレーダーについて、クラウドファンディングを実施しているとのこと。具体的には何をするためのクラウドファンディングなのですか。
 
和田)フェーズドアレイ気象レーダーは、24時間365日データを取っているので、ぜひみなさんに活用していただきたいと思っています。これまでは研究用途でしたがデータを一般公開して、レーダーを画像として見ていただきたい。今回のクラウドファンディングで、そのデータを公開するウェブサイトやスマホアプリを構築する費用を募ることにしました。
 
西村)ホームページを作るだけなら、莫大なお金はかからないのでは?
 
和田)使いやすい、わかりやすいサイトを作りたいと思っています。大勢の人にアクセスしていただくことになれば、アクセス数に応じてサーバーの費用もかかります。なるべく長期間維持できるように費用を獲得したい。この先ずっとみなさんに使っていただけるようなサイトを作りたいと思っています。
 
西村)観測の結果報告だけではなくて、それをリアルタイムで活用するためのシステムを作るのですね。
 
和田)おでかけするときに遠くに黒い雲が見えたら、こっちに来ないかな?とウェブサイトを見て調べてもらえたら。
 
西村)ゲリラ豪雨をリアルタイムで観測することができるなら、必要とする人は多いと思います。
 
和田)研究をしていると、どんな場面で使われているのかまで想像が及ばないこともあります。クラウドファンディングでは資金だけではなく、アイディアやご意見もいただきたいと思っています。
 
西村)実際にガンバ大阪の昌子選手も応援メッセージを寄せていますね。
 
和田)ガンバ大阪さんは、吹田キャンパスとご近所。スポーツイベントは屋外で行われているので、急な天候変化に対してシビアです。今回のデータを活用してもらえたらと思います。
 
西村)このクラウドファンディングをきっかけに、今までつながっていなかった新たな業界の人からもコメントが寄せられているそうですね。
 
和田)寄付していただいた人から応援コメントをいただいています。大阪湾で働いている人、飛行機の管制業務を担当している人などです。さまざまな業界の人に使っていただきたいです。
 
西村)「READYFOR」というサイトでクラウドファンディングが行われています。目標額は600万円。期限は9月30日(木)午後11時までとなります。一口3000円から寄付することができます。これを機に興味を持った人は、ぜひサイトをチェックしてみてください。
https://readyfor.jp/projects/handai-radar
 
MBSのお天気でコーナーでおなじみの気象予報士・広瀬駿さんも注目しているそうです。
「雨のとき、現状のレーダーでは積乱雲の発達の兆しがつかめない。ある程度雨が降っていないと、レーダーに反映されないので、阪大のレーダーの情報をリアルタイムで見ることができるようになったら、よりきめ細やかな情報が伝えられるようになります。とても期待しています!」とのことでした。
 
和田)ありがたいコメントです!
 
西村)和田さんは、気象レーダーの未来についてどのように考えていますか?
 
和田)フェーズドアレイ気象レーダーが出来たのは2012年で、まだまだ発展途上です。この気象レーダーは、今後の日本の気象を観測するのに必要だとみなさんに知っていただきたいです。日本全国に広がってほしいと思っています。
 
西村)このクラウドファンディングをきっかけに知った人も多いと思います。世界最先端の正確な予報がどんどん広がっていくと良いですね。
 
和田)それが研究者として本望です。
 
西村)貴重なお話をありがとうございました。
きょうは、大阪大学大学院 工学研究科助教 和田有希さんにお話しを伺いました。