第1228回「巣ごもりの今、在宅避難の訓練を」
電話:株式会社 危機管理教育研究所 代表 国崎信江さん

千葉)新型コロナウイルスの感染が広がる今、災害が起きたらどうするか。
感染のリスクを避けるため、避難所に行かずに、自宅で避難生活を送ることも選択肢のひとつです。いわゆる「在宅避難」です。
きょうは、女性の視点で家庭での防災について研究している、株式会社危機管理教育研究所 代表の国崎信江さんに、在宅避難に備えた防災対策について聞きます。 
今、災害が起きたら避難所に行くのをためらう方も多いと思います。
自宅で避難生活を送れるように、今からどんな備えをしておけばよいのでしょうか?
 
国崎)家が大地震に耐えられるのかどうか、家にとどまってよいのかどうかの判断のために、やっていただきたいことが、「自宅の耐震性を調べておく」ということなんです。
一般的には業者を呼んで点検していただくという方法があるんですが、このご時世でなかなか呼びにくいということもあろうかと思います。
そんな時には、簡易的ではありますがインターネットで、「耐震診断のチェックリスト」という検索をしていただくと、例えばハウスメーカーなどが掲載している10項目ほどのチェックリストを見ることができますので、そこから簡単にとりあえず耐震性があるのかどうかを知りたいということで、確認することもいいのではないかと思います。

 
千葉)「耐震性 チェックリスト」と入力してインターネットで検索をするんですね?
 
国崎)はい。そうすると、さまざまなチェックリストを掲載しているWEBサイトが出てきます。
できるのであれば、そこからご自身で信頼性が高いと思うWEBサイトにアクセスをしていただいて、その項目をチェックしていただくとよいと思います。

 
千葉)そうすると、自分である程度、耐震性をチェックできるということですね。
 
国崎)はい。まずは、インターネットのこういったチェックリストを参考に、簡易的ではありますが確認をしておくということが大事だと思います。
 
新川ディレクター)自宅で避難生活を送ろうと思っても、家がつぶれてしまっては元も子もないですもんね。
 
国崎)そうですね。耐震診断の簡易チェックをしていただいて、不安がある場合には、家具の固定をしっかりしておくというのもいいと思います。
 
新川)阪神・淡路大震災では、家が大丈夫でも家具が倒れて亡くなられた方もいらっしゃいましたし、やっぱり避難しようと思っても家具が倒れては、部屋の中がぐちゃぐちゃになってしまいますもんね。
 
国崎)そうですね。
いざ逃げようと思った時に避難経路が断たれてしまうということがありますので、耐震性が不安な家に住んでいる方はなおのこと、家具の固定をしていただきたいと思います。

 
千葉)自宅での避難生活を想像しにくいのですが、その避難生活を想像するために、国崎さんがおすすめされていることがあるんですよね。
 
国崎)はい。私がすすめているのが「おうちDEキャンプ」です。
 
千葉)「おうちDEキャンプ」?

国崎)はい。
「キャンプ」と呼んでいるのは、「家庭における防災訓練」と言うと響きが楽しそうではないので、「おうちDEキャンプ」と呼んでいます。
具体的にはある一定時間、電気・ガス・水道と全てのライフラインを止めて過ごして、被災生活の疑似体験をするというキャンプ、訓練なんです。

 
千葉)キャンプということは、例えば庭にテント張ったりするんですか?
 
国崎)そのような大がかりなことでなかったとしても、例えば簡単なことでいうと、リビングがフローリングであれば、固い床を経験するためにフローリングで寝てみるというのもよいと思います。
 
新川)このキャンプは、どれぐらいのスパンで、どういうことをすればよいのですか?
 
国崎)私は、3時間以上は全てのライフラインを止めた被災の疑似体験をしてもらいたいと思います。というのも、人は2~3時間に1回、尿意をもよおすと言われています。
 
千葉)トイレに行きたくなるんですね?
 
国崎)そうなんです。我慢しても5~6時間と言われています。
災害時に断水した時に困って苦労するのがトイレと言われていますので、そのトイレを経験してもらうためにも3時間以上はやってもらうとよいと思います。
例えば夕方から翌朝までとか、思い切って週末の2日間チャレンジしてみてもよいと思います。

 
新川)夕方からというのはライフラインを止めるということで、暗い中で過ごすことも経験できますね。
 
国崎)そうですね。
明かりがない中でとても不安だと思いますが、それを経験しておくことで、何が必要なのかということも分かってきますので、家に必要な防災用品をしっかり備えておく、その準備ができるんじゃないかと思います。

 
千葉)私、年のせいかトイレに行く回数が増えていまして、トイレは非常に気になるのですが、ライフラインが止まった状態ということは、水道も止まっている状態でトイレって...どうやってやるんですか?
 
国崎)例えば、戸建てだけではなく、マンションに住んでいる方も多いと思います。
マンションの場合には、たとえ流す水があったとしても、配管が壊れていた場合、漏水する恐れがありますので、流さないタイプのトイレを経験しておいていただきたいのです。
市販されている、便座にポリ袋をかけて排せつして、凝固剤等で固めて袋をしばって捨てる、というものです。

 
新川)携帯用トイレですね。
今、説明してくださいましたが、元々ある便座に携帯用トイレの袋をかぶせて、その中に排せつをする。
 
国崎)そうなんです。
とても簡単なことですが、実はとても勇気がいることなんですね。
流さないトイレを経験していないと、ポリ袋に排せつするということ自体に抵抗感があります。
ですので、経験しておくことは非常に重要なんですね。
さらに、経験することによって、細かいことですが色んなことに気づきます。

 
新川)袋の中にトイレをするだけじゃないんですか?
 
国崎)はい。細かいことなんですが、日ごろからトイレの中には水が張ってあります。
そこでいきなり携帯用トイレのポリ袋を便座にかけて、排せつした後にそれをしばって捨てようとすると、袋の底がビチャビチャしてしまうんですね。
そうすると、処理する時に床も周りも汚してしまうという恐れがあります。

 
千葉)じゃあ、どうしたらいいんですか?
 
国崎)家にある大きなポリ袋を1枚かけて、その上から携帯用トイレをかけます。
 
新川)なるほど。
汚してもいいポリ袋を1枚余分にかけておいてから、携帯用トイレのポリ袋をかけるということですね。
 
国崎)はい。実際にやってみてこのような細かいことに気づくこともありますので、災害が起きていきなり「わぁ困った」ということを増やさないためにも、トイレを一度は経験しておいていただきたいと思います。
 
新川)今、特にコロナの状況で家族間とはいえトイレは感染に気をつけたい場所でもありますし、そういった細かいことも大切ですね。
 
国崎)はい。携帯用トイレは色んな種類が販売されていて使い勝手もさまざまですので、実際に使ってみて家族に合うもの、使いやすいものを見つけておかれるといいと思います。
 
千葉)そうか、どれでもいいというわけじゃないんですね。
 
国崎)はい。例えば凝固剤とか消臭剤が、個別包装されていて、排せつした後にそれをふりかけるというタイプのものもあれば、あらかじめ袋に吸水シートがあって、そのままして自動的に固まって臭いもせずにあとはしばるだけ、というタイプのものもあります。
なので、どのタイプが面倒でないかとか、ポリ袋の色も黒であったり透明だったり半透明であったりとかもありますので、ご自身で「これだったら恥ずかしくない」とか「これだったら扱いやすい」というものを見つけられるといいと思います。

 
千葉)あと避難生活を想定したキャンプとなると気になるのが「食事」ですよね。
これはどんな風に体験するんですか?
 
国崎)調理は、例えばガスが使えない場合は、卓上のカセットコンロを使うといいと思います。
それから、調理をすると必要になってくるのが調理用水ですが、ここで飲料水を使うかどうかという判断になるわけです。
その時に貴重な水をできるだけ使わないようにするために、例えば我が家では「豆乳」を常備しているんですけど、豆乳を使った料理、鍋をしたりとか。
また、調理用水以外にも貴重な水ってあって、例えば手の洗浄であったり、食材や調理器具の洗浄がありますが、手の汚染を防ぐためにもビニール手袋をはめたり、キッチンペーパーで代用するということもできます。
手袋は使い捨ての手袋があって、病院で使われるような手術用手袋のようにピタッとしているものがあるので、その調理用の手袋を用意しておくといいと思います。

 
新川)今、コロナの状況でビニール手袋もあちこちで売り切れたりしていますが、私の家にあるものは結構ガバッと手にかけるようなものですが、そうではなくて手術用手袋のようなものが売っているんですね。
 
国崎)そうですね。
掃除用のタイプと違ってピタッと手にフィットしますので、調理の時の細かい作業に適しているんですね。調理用の手袋が売っていますので、そういった使い捨ての手袋を買っておくといいと思います。

 
千葉)食べ物についてもう少し聞きたいです。国崎さんは豆乳を使うと言いましたが、これでいろんな料理ができるんですか?
 
国崎)そうですね。
常温で備蓄できる豆乳を我が家では必ず切らさないようにしているんですが、災害時もその豆乳を使おうと考えています。
災害時に適した料理というのが、私自身は「鍋」だと思っているんですね。
鍋というのは、具材を選ばない。
肉であろうと野菜であろうと魚であろうと加工食品であろうと、なんでも具材として使えるというメリットがありますし、さらに我が家で切らさないように備蓄している常温で保存できる豆乳があって、それを鍋に入れて使おうというイメージをしています。

 
新川)たしかに、鍋だったらふだんでも余り野菜を入れたり、いろんな具材が一気に食べられますね。
 
国崎)そうですね。
特に停電して冷蔵庫の庫内の温度が上がって食材が傷んでしまうという時に、一度に傷んでしまう恐れがありますが、鍋でしたら大量に多くの具材を相性関係なく入れられますし、また、追加でどんどん具材を入れられるという点からも、災害時に鍋をするというのはおすすめします。

 
千葉)でも、豆乳鍋ばっかりだと飽きたりしませんか?
 
国崎)そんな時には、これも鍋の魅力ですが、カレーのスパイスを入れたり味噌を付け加えたりして味のテイストを変化させてあげると、飽きにくくなるのではないかと思います。
 
新川)味噌豆乳鍋、美味しそうですね。
千葉)ふだん食べている鍋と同じような感じにできますもんね。
 
国崎)そうなんです。
普段食べ慣れているものが、災害時にも気持ちがほっとするということがありますので、そういった日ごろの食材で日ごろの食事を心がけるという意味でも、家にある食材をいかに無駄なく使うかということを「おうちDEキャンプ」でも考えていただければと思います。
ただ、卓上コンロを使う時は換気に気をつけてください。
一酸化炭素中毒の恐れがありますので、必ず窓を開けるなどの換気をして使用していただきたいと思います。

 
新川)そうか。普段でしたら換気扇をまわしますけど、災害時を想定して電気が使えないとなると換気扇が使えませんもんね。
窓を開けなければいけませんね。
 
千葉)トイレ、食事ときて、あと避難生活で考えると大事なのは、寝る環境ですよね。
これは家でキャンプするんだから、いつものように自分の布団やベッドで寝ればいいんですよね。
 
国崎)多くの方がそのように考えられるかもしれませんが、実はそれができるとも限らないんですね。
例えば地震の揺れでガラス窓が割れたりとか、照明器具のガラス管が破損して布団の上に散らばってしまうということも起こりうるんです。
そうすると布団が使えなくなってしまうということもありますし、さらに、家族全員が地震で不安なので、それぞれの部屋で寝るのではなくて、まとまって過ごしたいと多分思われるんです。
その時に各々が使っている布団をズルズル持ってくるのも大変ですし、それだけのスペースが確保できるのかという問題もあります。
例えば、キャンプで使うような寝袋がありますよね。寝袋でしたら場所も取りませんので、そういった寝袋を用意してそこで寝てみるという経験もいいと思います。

 
新川)今、聞いて思い出しましたが、私も阪神・淡路大震災の時、中学生でしたのですごく余震が怖くて、自分の部屋から出て親と一緒に寝ていた記憶があります。
 
国崎)そうですよね。
何度も何度も大きな揺れがきて一人で部屋にいることはとても不安だと思いますし、家族としても、家族の安全を確保するために安全な部屋でまとまっていたいと思うでしょう。
実際、阪神・淡路大震災でもそうですし、その後の過去の地震でも、すぐに外に出られるように家族みんなで玄関の近くの廊下で寝たという方もいらっしゃるんです。


新川)家の中であっても、非常時には違う状況で寝ることがあるということですね。
 
国崎)はい。ですので、ある意味どこでも寝られるような経験をしておかれるといいと思います。
 
千葉)そうか。それも「おうちDEキャンプ」の目的になるわけですね。
普段寝ないところで寝ると。
新川)たしかにフローリングの上に寝られるかというと、どうでしょうかね。
千葉)いやあ、体痛いだろうなっていう感じがするなぁ...。

国崎)そうですね。
なので、例えば硬さを少しでも緩和するためにあれやこれやということで選んで、できる限りクッション性のあるものを探して寝ていただきたいと思います。
寝袋もいいと思いますし、クッションマットをさらに敷いて柔らかさを確保するのもいいと思います。

 
新川)座布団なんかも使えそうですね。
 
国崎)そうですね。
 
千葉)この「おうちDEキャンプ」を通して、ラジオを聴いているみなさんに、どう備えて欲しいと思っていますか?
 
国崎)まずは、この「おうちDEキャンプ」を通して、被災体験をすることによって、災害に対しての心構えがつくという意味でも、試していただきたいと思います。
体験していないと実際の災害の時に不安が増えますし、また、不安だけではなくて、何を備えていいかわからないといった場合にも、体験を通じて実際に自分たちに本当に必要な防災用品が何かというのが見えてきます。さらに、用意したものがあればその使い方を知ることによって、被災当日に慌てないということもできます。

 
千葉)やっぱり、実際にやってみるということが大切なんですね。
 
国崎)そうですね。
私自身も経験して、懐中電灯よりヘッドライトとかランタンがいい、ということに気づきました。
例えば何か掃除をしたり調理したりといった時に、誰かに光を当ててもらって作業をするという状況になりますが、なかなか自分がここに光を当ててほしいというところにピンポイントで光がくるかというと、その、あうんの呼吸が難しいんですね。

 
新川)懐中電灯だったら、そうやって照らしてもらって、人に手伝ってもらわないといけないかもしれないんですね。
 
国崎)はい。じゃあ自分で照らすとなると片手が奪われてしまって、なかなか作業がはかどらないということがありますので、我が家では懐中電灯ではなくヘッドライトを1人ひとつ、この経験から用意することにしました。
 
新川)今、家の中にいてなかなかやることがないという人にとっては、ちょうどいい時間かもしれませんね。
 
国崎)そうですね。
いきなり長い時間やろうと無理をせずに、短い時間でも結構ですので、全てのライフラインを止めて、まずは体験をしてみるという風に気軽に考えていただければと思います。

 
千葉)3時間でもできるんですもんね。
 
国崎)そうですね。
 
新川)これからの季節は暑くなってきますし、その中で電気を使わずに、エアコンや扇風機を使わないということを経験してみるのも、ひとつ必要かもしれませんね。
 
国崎)そうですね。体調に留意をしながら暑さや寒さを経験して、その時にどんなものを用意しておけばいいのかという気づきにもなると思います。