第1386回「郵便局長と取り組む子どもの防災」
オンライン:アイリンブループロジェクト 代表 菅原淳一さん

西村)日本全国どこにでもある郵便局は、わたしたちにとって身近な場所。実は、郵便局長の半数以上は防災士の資格を持っています。そんな郵便局長と一緒に保育園や幼稚園の防災計画を作る活動が始まっています。
きょうは、この取り組みを進めるアイリンブループロジェクト 代表 菅原淳一さんにお話を伺います。
 
菅原)よろしくお願いたします。
 
西村)菅原さんは、宮城県・利府町在住の芸術家だそうですが、なぜ子どもの防災活動をはじめたのですか。
 
菅原)アートの力で東日本大震災の教訓を伝えられないかと思い、2014年頃、活動を始めました。東日本大震災で犠牲になった佐藤愛梨ちゃんのことは、娘と同じ名前ということもあり、気になっていました。2015年5月に愛梨ちゃんが亡くなった現場に手を合わせに行ったら、マーガレットの花が100~200輪咲いていて、その花を1輪持ち帰ったんです。1週間もすると枯れてしまったのですが、庭に埋めたらなんと2ヶ月後に目が芽吹いて花が咲いたんです。アートの代わりにその花を使って、東日本大震災の教訓を伝える活動がアイリンブループロジェクトの核になっています。
 
西村)今、お話にあった佐藤愛梨ちゃんについて、改めて紹介します。東日本大震災発生当時、幼稚園に通っていた愛梨ちゃん(当時6歳)は、本来乗るはずのなかった幼稚園のバスに乗せられて、津波被害に遭い、犠牲になりました。母親の佐藤美香さんに番組でお話を伺ったこともあります。愛梨ちゃんと菅原さんの娘さんが同じお名前であるという縁から、佐藤美香さんと一緒に活動を始めたということです。アイリンブループロジェクトでは、どのような防災活動をしているのですか。
 
菅原)株分けをして増やした花を持って、全国で東日本大震災の教訓を伝える講演活動をしています。2017年、愛知県・弥富市からはじまり、毎年20件ほど講演をしていました。でもこれからだというときに、コロナ禍になり活動ができなくなりました。
 
西村)郵便局の郵便局長と一緒に防災活動をしているとのこと。芸術家である菅原さんと郵便局とのつながりは何だったのですか。
 
菅原)2020年から活動がストップしてしまいましたが、大規模災害のリスクが減るわけではありません。何かしなければと思ったときです。わたしは、子どもの頃から切手を集めていて、郵便局によく遊びに行っていました。宮城県・利府町の郵便局長と防災活動について話しをしていたら、「実は、郵便局長は半分以上が防災士の資格を持っているんですよ」と聞いてびっくりして。「幼稚園・保育園の防災意識をもっと高めれば、愛梨ちゃんのような悲劇は繰り返さないのでは。なにか一緒にできないか」と話したら協力したいと言ってくれて。それで、2021年の夏に宮城県・塩竈市に地域の幼稚園・保育園、行政が集まって、防災会議をして、10月以降に幼稚園・保育園の避難訓練に参加することに。それがスタートです。
 
西村)なぜ、郵便局長は防災士の資格を持っているのでしょうか。
 
菅原)郵便局は地域のために役立ちたいという理念があります。災害時に役に立ちたいということで、防災士資格を取っているみたいですが、実際はほとんど活用されていないのが現実。もったいないと思います。

 
西村)ペーパードライバーのようなものですね。
 
菅原)そうなんです。郵便局長だけではなく、防災士の資格を持っているたくさんの人から「地域との関わり方がわからない」という声がよく聞こえてくるんです。事例を作って、その人たちを巻き込めたらと思っています。アイリンブループロジェクトから派生した「こども防災の日をつくる会」も立ち上げました。
 
西村)「子ども防災の日をつくる会」は、アイリンブループロジェクト菅原さん、愛梨ちゃんのお母さんである佐藤美香さん、郵便局長のほかにもメンバーがいるのですか。
 
菅原)東日本大震災で36%が浸水した多賀城市にも協力してもらっています。浸水エリアにも幼稚園・保育園がたくさんあったので。多賀城市民活動サポートセンターと一緒に活動しています。多賀城市の危機管理課、区長、社協のみなさんにも興味を持ってもらっています。
 
西村)活動について具体的に教えてください。
 
菅原)まず町内会長、市民活動サポートセンターなどで打ち合わせをします。幼稚園・保育園の避難訓練で防災士の目線で、避難ルートや避難行動について、助言させてもらえないかと。幼稚園・保育園の避難訓練の予定とマッチングすると、実際に幼稚園・保育園の避難訓練時の避難ルートを下見します。危機管理課やこども支援課なども一緒に。実際に歩くと危険な箇所が結構あることに気がつきます。避難ルートにブロック塀や川があることも。そこで別のルートを探すときに、郵便局長が力を発揮します。郵便局は配達をしているわけですから、住所のプロですよね
 
西村)防災士の資格を持っている郵便局長が防災士の目線でアドバイスをしてくれるのですね。
 
菅原)わたしたちよりも安全な場所をすごく知っているんです。もっと安全で短時間で避難できる場所に気づくことも。これは本当に目からウロコで。やっぱり郵便局の人たちはすごいなと感じました。
 
西村)郵便物を配るだけではなく、日頃から安全に気をつけながら、街を見て配達をしているのですね。防災士の資格を持つ郵便局長、保育園の園長、職員、市の担当者など地域のみなさんと避難ルートを確認しながら、子どもたちも一緒に避難訓練をしたのですか。
 
菅原)はい。避難ルートの下見から1週間~10日後に避難訓練をします。津波は、地震発生から30分後に来るのか、1時間後に来るのかで避難ルートが異なります。情報がすごく大事。1時間後なら安全なところまで歩けるけど30分しかない場合は、高い建物の上に避難した方が安全な場合もあります。そういうことも確認しながら訓練をします。
 
西村)参加者からはどんな感想がありましたか。
 
菅原)幼稚園・保育園側だけの目線ではなく、ほかの目線を入れるとで、危険な場所に気づくことがあったと。時速3~4kmのゆっくりした速度で歩くからこそ気づくことも多いと思います。
 
西村)子どもの目線だからこそ、危ないポイントもわかりそうですね。
 
菅原)雨の日、避難ルートに木が倒れている場合、散歩の出先で災害に遭った場合、などを想定した避難訓練も行いました。子どもにとって危険なことは、天候・時間帯にもよるのだとわかりましたね。
 
西村)地域のことを知り尽くした郵便局と一緒に訓練をするのは、心強いのでは。
 
菅原)郵便局長は全国にいるということもメリットです。幼稚園・保育園側からは声が上げづらい。郵便局長は、仕事柄さまざまな企業や団体とつながっていてサポートしてくれます。有事の際は、近くの人たちが助けになります。近くの個人団体とつながりが持てた、街作りにつながった、という話も聞いています。
 
西村)地域全体の防災力を上げていくきっかけになりますね。
 
菅原)そうなんです。ただ単に避難訓練をやるのではなく、みんながそれぞれの力を発揮しています。有事の際だけの付き合いではなく、企業・団体とつながりが持てることで、日ごろの取り組みやイベントで協賛してもらうこともできますし、さまざまなメリットがあります。
 
西村)この活動は宮城県内のみで行われているということですが、関西をはじめ、全国に広がると良いですね。今後はどのように展開する予定ですか。
 
菅原)大阪の企業とはじめようという話があります。2023年度は、全国で活動したいと思っているので、大阪で活動することは今年の目標です。
 
西村)大阪から全国へ広がっていくと良いですね。大阪での具体的な活動が決まりましたら、またぜひ出演してください。
 
菅原)南海トラフや首都直下型地震が懸念されているので、そのような災害が起きる前に、この取り組みをどんどん広げて、地域に埋もれている、防災に関わっている人が活躍できる縁をつないでみたいです。
 
西村)きょうは、郵便局長と一緒に保育園や幼稚園の防災計画を作る活動をしている、アイリンブループロジェクト 代表 菅原淳一さんにお話を伺いました。