第1341回「被災時のお金とくらし」
オンライン:銀座パートナーズ法律事務所 弁護士 岡本正さん

西村)ここ最近、各地で地震が起こっていますが備えは十分でしょうか。もし、地震などの自然災害で自宅や仕事を失い、当面収入がないという状況に置かれたら、みなさんはどうやって生活を立て直しますか。
きょうは、被災したときに役立つ"知識の備え"についてお伝えします。
オンラインゲストは、被災者の生活再建の実態を分析し、新しい分野の学問「災害復興法学」を立ち上げた法学博士で、銀座パートナー法律事務所 弁護士の岡本正さんです。
 
岡本)よろしくお願いいたします。
 
西村)災害復興法学とはどのような学問ですか。
 
岡本)被災者の生活再建に必要な法律や制度を学ぶ学問です。みなさんに災害時に役立つ知識を持ってほしいと思っています。
 
西村)弁護士の岡本さんが被災者の支援に関わるようになったのはなぜですか。
 
岡本)きっかけは東日本大震災でした。内閣府に弁護士として出向勤務をしていた時期に霞が関で震災を経験しました。当時の私には災害時に弁護士が役に立つイメージはなく、警察や自衛隊・医療関係者の人たちの活躍を見ていました。でも弁護士という職業も阪神・淡路大震災のときに現地の被災者の声を聞いて、法律や制度を伝えてきた実績があった。「災害復興法学」で被災者の支援に関わりたいと思ったことがきっかけです。
 
西村)実際に被災地にも行ったのですか。
 
岡本)相談者の窓口は東北の沿岸部や関東北部が多かったのですが、東京に避難してきた人も多かった。東京や福島の避難所にも足を運び、数ヶ月後には沿岸部の津波被災地にも行きました。わたしがそこで聞いたのは「水が欲しい」「毛布が必要」といったものではなく「住宅ローンを払えなくなった」「働く場所がなくなった」など生業を失い、生活の再建ができないことに対する悲痛な声でした。
 
西村)先が見えないというのは、一番不安になりますよね。
 
岡本)絶望的で生活が苦しいという声が強調されていました。
 
西村)たくさんの人のお話を聞いた中で、岡本さんが心に残っている相談はありますか。
 
岡本)津波で被災した人の中には、住宅ローンが何千万円も残っているのに、仕事や働き手を失って借金だけが残ってしまったという悲痛な相談もありました。
 
西村)私にもリスナーのみなさんにも起こるかもしれないことですね。
 
岡本)我が国では、突然そのような状況になる可能性が誰にでもあります。
 
西村)1人1人にそれぞれの不安があります。弁護士として話を聞いてアドバイスしてくれる人がいると心強いですね。災害時の再建のために私たちはどんな備えをしておくと良いのでしょうか。
 
岡本)備蓄品の準備などの防災教育は、命を守るために大切なことですが、被災した後に生き延びていく知恵も持っておく必要があります。そこで、当時の経験や仲間の弁護士の活動を踏まえた一冊のハンドブックを作りました。「被災したあなたを助けるお金とくらしの話」という本です。被災者の生活再建に役立つ法律の制度や支援について、時系列を意識してわかりやすく作りました。
 
西村)かわいいイラストとともにわかりやすいキーワードが書かれています。いくつか岡本さんから紹介してください。
 
岡本)この本には30個の簡単な話を書きました。まず被災したら何に一番困るでしょうか。
貴重品や自分を証明するものをなくして不安になると思います。現金や財布を持って逃げようと考える人が多いと思いますが、大災害が起こったら、国や金融庁から銀行に対して、通帳や身分証明書がなくても、預貯金が引き出しできる措置がされます。

 
西村)身分証明書がなくてもお金を下ろすことができるのですか。
 
岡本)平常時は難しいですが、大災害が起こった被災地では、銀行窓口でそのような対応をすることが国の方針が決まっているので、安心して手続きを行ってほしいです。津波や水害で命が危ないときに、自宅に財布を取りに帰ることはやめてください。もし失ってしまっても問題はありません。まずは命を守ることが大事です。通帳や印鑑、大事な契約書などをなくしたときの対応策も書いています。
 
西村)家の権利書、実印、運転免許証、生命保険の保険証券なども持って行かなくも大丈夫なのですね。
 
岡本)大きな災害のときはあらゆる機関が必ず対応してくれます。命に代えて守るようなものは一つもありません。
 
西村)地震で被災したら、罹災証明書が必要とよく聞きます
 
岡本)罹災証明とは、法律で決められている制度。家が壊れたときに、どの程度壊れたのかを証明してくれるものです。このような手続きがあることを知っておくと歩き出せる力になると思います。このような制度があるということと罹災証明という言葉だけでも覚えておきましょう。
 
西村)罹災証明書を準備するときの注意点はありますか。
 
岡本)身の安全を確保した上で、自宅の壊れたところを撮影しておきましょう。
 
西村)写真撮影をするタイミングはいつが良いですか。
 
岡本)自治体も被災してしまうため、罹災証明書の発行は、時間がかかります。その間に片付けたり、ものを撤去したりすると全壊か一部損壊かがわからなくなってトラブルになることも。まずは、家の外や中の写真を撮影しておくことをおすすめします。
 
西村)片付ける前に写真を撮るのですね。テレビが倒れたり、食器棚が倒れて食器が散乱したりしている状態を撮るのでしょうか。
 
岡本)そのような写真も役に立つと思いますが、家の歪みがわかる部分を撮っておくと認定に使えることもあるので、あらゆる角度から撮っておいてください。
 
西村)いろいろな場所をチェックして撮影しておくことが大事ですね。ほかにポイントはありますか。
 
岡本)どのようなお金の支援が受けられるのか気になると思います。首都直下災害や南海トラフなどの大きな災害があって、家が全壊したら、まず罹災証明書で全壊認定となると思います。そして被害程度に応じて被災者生活再建支援金という支援金が支給されます。金額は、家族が複数いる一世帯について最大100万円が支給されます。
 
西村)最大100万円の使い道は家の再建のみですか。
 
岡本)使い道は自由です。多くは生活費や再建の費用になると思います。勝手の良い大事なお金なので、忘れずに申請してほしいです。
 
西村)場合によって金額が変わることもあるのですか。
 
岡本)家がどれぐらい壊れたかによって金額が決まります。全壊の場合はまず100万円が支給され、再建する道筋に応じて追加でもらえます。例えば家を建て直したり購入したりした場合は、プラス200万円になります。先ほどのお金と合わせると合計最大300万円の支援金がもらえるのが被災者生活再建支援金です。
 
西村)住宅の再建が必要なのですね。
 
岡本)程度に応じて変わりますが、最大200万円を追加でもらうには、住宅の再建や購入が必要になります。
 
西村)被災者生活再建支援金は、災害発生からどれぐらいの期間で申請するのでしょうか。
 
岡本)家が壊れた程度に応じてもらえる最大100万円の基礎支援金は、発生から13ヶ月以内という期限があります。加算支援金の申請も約3年の期限があります。再建のスピードによっては逃してしまうケースがあるので、注意が必要です。
 
西村)災害弔慰金という言葉もよく聞きます。
 
岡本)災害弔慰金とは、災害で亡くなった人の残された家族が受け取ることができるお金です。250万円と500万円の2パターンがあります。これもとても大事なお金なので、躊躇することなく申請してほしいです。
 
西村)これも自治体に申請するのですか。
 
岡本)被災者生活再建支援金も災害弔慰金も自治体に窓口が開かれますので、まずは行ってみましょう。
 
西村)地震大国の日本に住んでいる以上、誰でも被災する可能性があるのではないでしょうか。被災する前に、知識の備えをしておくことは被災後の安心に繋がりますし、再建の糧になっていくと思います。
きょうは、被災時のお金と暮らしについて、法学博士で、銀座パートナーズ法律事務所 弁護士の岡本正さんにお話を伺いました。