オンライン:NPO法人 全国足紋普及協会 理事 光眞章さん
西村)先月、神戸で開催された「ぼうさいこくたい2022」。この番組でも、防災に取り組むさまざまな団体を取材しました。
きょうは、その取材を通して、私が初めて知った「足紋(そくもん)」をご紹介。足紋の普及を目指しているNPO法人 全国足紋普及協会 理事 光眞章さんに足紋について教えていただきます。
光眞)よろしくお願いいたします。
西村)先日の「ぼうさいこくたい2022」で初めて足紋を知ったのですが、改めてこの足紋について教えてください。
光眞)手の指には指紋というシワがありますね。これと同じようなものが足の裏にもあり、それを足紋といいます。
西村)子どもが生まれたときに、足にインクをぬって判子のように押しました。あれも足紋ですか。
光眞)広い意味では足紋ですが、赤ちゃんの足に墨を塗ってとるものは足形といいます。通常の技術では細かい紋様までは浮き彫りにできないのです。わたしたちは、足の裏にある線を1本ずつ採取する方法を考えています。
西村)足紋は成長するにつれて変わっていくのですか。
光眞)足紋は指紋と同じように終生不変といわれていて、ひとりひとり異なります。成長するにつれて、大きさは変わりますが特徴は生涯変わりません。わたしたちは、身元特定の科学的根拠としての普及を目指しています。
西村)光眞さんはなぜ足紋に注目したのですか。
光眞)わたしは、元警視庁の鑑識課で指紋を犯罪捜査に利用してきました。同じように個人の特定のために足紋も使えるのではと思ったのです。
西村)足紋は事件が起きたとき、犯人の照合に使うこともあるのですか。
光眞)犯人が裸足で家に侵入した場合や、殺人事件等で血液を踏んだ素足で歩くと足紋が現場に残されることがあります。捜査に使うことはありますが非常に稀です。
西村)光眞さんはなぜ足紋を普及させていこうと考えたのですか。
光眞)2011年の東日本大震災でたくさんの被災者が出ました。親族や知人の証言で判断する身元確認では間違いが生じ、これは大変な問題だと感じました。津波の被害でご遺体の損傷が伴う場合、外見から身元を特定するのは非常に難しい。確実に身元がわかる方法として足紋に注目したわけです。
西村)東日本大震災のときは、ご遺体の身元確認でDNA検査なども行われたのですか。
光眞)身元特定の科学的方法として、一般的なのは、指紋、DNA、歯型の鑑定の3つですが、どれも完璧にできるというものではありません。
西村)なぜでしょう。
光眞)指紋は、警察が指紋を管理しているのは犯罪の前歴者に限られているからです。国民の1割程度しかわかりません。DNAは、血縁系関係のある親族の存在が必要で、費用と時間がかかります。
西村)どれぐらいかかるのですか。
光眞)結果が出るまで1~2日かかります。費用は、ご遺体と親族の2件の鑑定が必要になので、少なくとも数万円は必要です。歯型は歯医者さんのカルテが必要です。津波のように町ごと被災すると、歯医者さんにあるカルテ自体がなくなることも。歯の治療で歯型が変わることもあります。
西村)大規模な災害で、被災者がたくさんいるとDNA検査に時間がかかりますね。
光眞)たくさんの被災者を一気にDNA鑑定するのは難しいです。採取した資料を検査機関に届ける手続きも何日もかかかってしまいます。
西村)現在も東日本大震災で身元が判明せず、遺族に引き渡せないご遺体がたくさんあります。
光眞)まだ50体近くが遺族に引き渡せていません。簡単な方法で身元特定ができる足紋が普及すれば、時間やお金をかけずに、早くご遺体を遺族の元に返すことができるのです。
西村)足紋はどのように採取するのですか。
光眞)メーカーが開発したスキャナーで採取します。ガラス面に足を乗せるだけで簡単に採取ができます。通常のコピー機では取れませんが、隆線が鮮明に出る精度の高いもが開発されています。アナログ的に足の裏に墨をぬって、紙にうつす方法もありますが足の裏が真っ黒になってしまいます。化学薬品を足の裏にぬって、化学的な材料が入った紙の上に足を乗せると紋様が浮き出てくるというマジックのような方法もあります。これだと足が汚れないし、自分でも簡単にできます。まだ商品化はされていないのですが。
西村)商品化はされていないのですね。足紋をとりたいときは、「ぼうさいこくたい」のような催しでとるしかないのですか。
光眞)足紋普及協会に問い合わせてもられえば、対応可能です。1セット(1家族分)1000円以内の実費で採取可能です。個別に相談をさせていただきます。
西村)指紋より足紋の方が良いポイントをぜひ教えてください。
光眞)指紋は一つの指に特徴点が100~120あります。線が交わっている、分かれている、点になっている、切れているところを特徴点といいます。足紋は、足の裏は広いので、特徴点が1000点以上あり、指紋より判定がしやすいんです。特徴点が12点以上あれば同一人物と判定します。足の裏は、普段から靴下や靴を履いて生活しているので、保護されていて傷つくことが少ないのも利点です。
西村)指紋は変わってしまうのですか。
光眞)ご遺体は、死後硬直で手が固く握られます。採取するときに指を1本ずつ起こしながら採取しなければならないという作業上の隘路もあります。指紋や足紋は個人情報ですが、指紋は生体認証として、ATMや施設のセキュリティに利用されていますが足紋が活用されている分野は全くないので、偽造や悪用の心配もありません。
西村)採取した足紋はどのように保管すれば良いのでしょうか。
光眞)重要な個人情報なので、保管する際には厳格に行われなければいけません。個人情報保護法上、どのように保管・管理するかが重要な問題になっています。わたしたちは、身元確認に有効な足紋の提案をしていますが、管理については次の課題。公的費用で管理できるようになれば思っています。
西村)公的な機関で保管してもらえると安心ですよね。家の中だったらなくしてしまうこともあるかもしれません。
光眞)ひとまずご自身や親族間で保管してもらえたら。
西村)首都直下地震や南海トラフ地震など大きな災害が起こったとき、たくさんの犠牲者が出てしまったとしても身元確認が確実に速やかに行われるように、もしもの助けは一つでも多い方が良いですよね。
きょうは、身元確認の新たな選択肢になるかもしれない足紋について、NPO法人 全国足紋普及協会 理事 光眞章さんにお話を聞きました。