取材報告:西村愛キャスター
西村)子どもたちの夏休みもあと少しとなりましたね。新型コロナウィルスの感染が広がっているので、なかなか遠出ができないという方も多いのではないでしょうか。きょうは、身近で防災を体験しながら学ぶことができる場所に行ってきましたので、お伝えします。
「人と防災未来センター」(神戸市中央区)です。2002年に阪神・淡路大震災の教訓と防災を伝える施設としてオープンしました。ここに今年6月、子どもでも楽しめる体験型の施設がオープンしたということで取材に行ってきました。
私も1歳と5歳の子どもがいるのですが、津波をテーマにした絵本を読み聞かせても、まだ幼いのでピンときていないよう。小学生の女の子がいる友人に話を聞いてみると、学校で震災のことや防災のことを習っても、体験をしていないからあまり自分ごととして捉えられてないようだと言っていました。「人と防災未来センター」で体験することで、自分ごとになるのではと思いました。
今回取材したのは「BOSAI SCIENCE FIELD」という新しいスペース。展示物を見るだけではなく、楽しみながら、体験しながら最新の防災知識を得ることができます。まずはこちらの音を聞いてください。
音声・子どもたちの声)
西村)ゲームセンターのような音と子どもたちの声。防災を学ぶ施設にしては楽しそうな音ですよね。
この「BOSAI SCIENCE FIELD」では、「地震・津波」「台風や大雨などの風水害」について知ることができます。今回、夏休みで、特別に案内役のスタッフが解説をしながら子どもたちと施設を巡る「地震と津波からの避難対策を学ぶ」というスペシャルツアーがあるということで、私も一緒に参加してきました。このようなツアーに参加しなくても、入場料を払えば施設には入れますし、ボランティアスタッフが機械の使い方や展示内容について教えてくれます。
施設の中にはさまざまな展示や体験コーナーがあります。まず、私が注目したのは、「どうやって地震や津波が起きるのか」という仕組みを学ぶスペース。私たちが住む地面や海の下にはプレートと呼ばれる岩盤があって、互いに押し合っているということを地図で学ぶことができます。地球には10数枚のプレートがあり、そのうち4枚が日本列島周辺にあります。そのプレートとプレートの押し合いによって、地震や津波が起きるのです。
「プレートプッシュ」
プレートを実際に自分の手で押してみて、地震を起こしてみようという体験型の展示がありました。中華料理店のような丸い大きなテーブルのようなものがあり、全面がスクリーン(画面)になっていて、上から覗き込むことができます。この画面には日本列島とプレートの図が描かれています。テーブルの側面にあるボタンを両手でグッと力強く押すと、画面上でプレートが押されて地震が起こる仕組みです。南海トラフの場合は、日本列島南の「フィリピン海プレート」が押されて、地震が起こるということをわかりやすく知ることができました。
「マグニチュードパンチ」
私たちが住む町の真下で地震が起きたとき、どんなふうに建物が揺れるのかを遊びながら知ることができるスペース。ゲームセンターのモグラたたきのような大きなハンマーが用意されています。目の前には大きなテレビ画面があり、画面には街の絵が描かれています。地面の下には地下の断面図の絵が描かれています。地下の部分をハンマーで思い切り叩くと、地震が起きるようすがアニメーションで表現されます。叩く強さによってマグニチュードの大きさが変わります。このときハンマーで叩く位置も重要。地下のどれぐらいの深さの部分を叩くかによって、地上で起きる揺れ・震度が変わります。ここで実際に子どもが叩くようすを聞いてください。
音声・マグニチュードハンマーをたたくようす)
西村)「地震です」というアナウンスがありました。強く叩く(大きな揺れになる)とこのアナウンスが流れます。だから「地震です」とアナウンスが流れると、高得点を出したような気になって、何回もチャレンジする子どもも。
地震が起きると「マグニチュードは〇〇、震源の深さは〇〇km」と伝えられます。「マグニチュードハンマー」で思いっきり画面を叩くと、同じマグニチュードでも、より地面に近い場所で起きた地震の方が地上の揺れが大きくなることが、画面に映るアニメーションでよくわかりました。高いビルや一戸建ての住宅でどのように揺れ方が変わるのか、また、免震構造と耐震構造のビルの揺れ方の違いも表現されています。大人が体験しても勉強になり、自分の住んでいる家はどのような揺れになるのかを想像することができます。
「VR(ブイ・アール、バーチャルリアリティ)」
地震が起きる仕組みはわかりました。では、実際に地震や津波が発生したら、私たちはどのように行動すれば良いのでしょうか。最新の映像技術を使って体験できるコーナーがありました。映画館のような真っ暗な空間で、専用ゴーグルを付けると目の前に、360度のCG映像が広がり、まるで自分がそこにいるかのような疑似体験ができます。「津波」のVRを体験してきたので、そのときのようすをお聞きください。
音声・VRを体験する西村キャスターのようす)
西村)海辺にある公園で遊んでいたら、突然地震が起きて、津波が押し寄せてきます。赤い滑り台を津波が飲み込んでいって、周りの人と一緒に迷いながら津波避難タワーに逃げるというものでした。迷っている間にあっという間に津波が襲ってくるようすがリアルに描かれていました。自分が津波に巻き込まれそうになる感覚をリアルに味わうことができました。VRだとわかっていても、怖くて動けなかったんです。本当に自分が体験したらこんなふうにびっくりして逃げられなくなるのかもしれないと思うと、日頃から想像しておくことが大切だと思いました。体験の大切さを実感しました。
「ミッションルーム」
次は、実際に行動してみるコーナーです。本物そっくりに再現されたコンビニエンスストアの店内で、地震が起きたらどのように行動すれば良いのかを考えます。コンビニの外には、海抜が示された看板や津波避難場所を示した看板があります。案内係の説明からトレーニングが始まりました。
音声・避難行動トレーニングのようす)
西村)「地震が起きました」というアナウンスの後、店内の商品が落ちる映像が足元に映されます。子どもたちは、地震の後、店の外の津波避難場所に逃げることはできたのですが、「地震が起きました」という音が鳴ったときは、店内で呆然と立っていました。そこで、どのように行動すればより安全だったのか、案内係から説明がありました。
音声・案内係の説明)地震発生時は、とにかく頭を守ることが大切。安全な場所で低い姿勢をとって、ダンゴムシの格好になってください。
西村)ダンゴムシの格好になるって、いざとなるとなかなかできないもの。店内にあるコピー機やATMなどの重い機械の前にいると危ない、お菓子などの軽いものの前は比較的安全、棚がない店の角の部分は比較的安全...などの解説が行われました。実際のコンビニのように商品のイラストが並んだ本物そっくりな空間で、楽しくリアルな体験ができました。自分で行動することの大切さを自然に学ぶことができました。
出口の手前には、国道交通省の「重ねるハザードマップ」をタッチパネルで操作できるコーナーも。地図を開くと、津波・洪水・土砂災害というボタンがあり、それぞれの災害想定を見ることができます。さまざまな災害想定を重ねて一度に見ることができるので「重ねるハザードマップ」といいます。案内係が「ハザードマップを見たことがある人?」と子どもたちに聞くと、誰も手を挙げていませんでした。参加した子どもたちは保護者と一緒に自分の住んでいるところなど、気になる場所の災害想定を見ていました。お母さんと女の子の会話です。
音声・女の子)あそこの温泉気持ち良かったね!
音声・お母さん)地震が来たらここまで津波の水が来るよ。地震が来たら高台に避難しないといけないんだよ。
音声・女の子)はーい!
西村)最近、高知県の海にキャンプに行ったそう。夏休みならではの会話でした。高知県の海というと、南海トラフの地震で津波が想定されているエリアです。その場所の津波想定を親子で確認していました。
「人と防災未来センター」運営ディレクターの女性が、親子で楽しめるこの施設について話してくださいました。
音声・運営ディレクターの女性)学校で勉強している子どもの方が防災についての知識があり、親が知らないこともあると思います。親子で学べるいい機会になれば。
音声・西村)6月に「BOSAI SCIENCE FIELD」がオープンして、体験できる内容が変わったのですね。
音声・運営ディレクターの女性)西館の「1.17シアター」は怖いというイメージが強かったんです。こちらは子どもも楽しめるようになっています。子どもと離れているときに災害にあうことが、一番心配だという親御さんが多いです。ここは仮想空間なので、地震というものを正しく怖がっていただければ。
西村)阪神・淡路大震災が起きた瞬間を再現した映像や、当時の写真を展示しているコーナーはかなり衝撃が強くて大人でもショックを受けるほど。でも地震はそれぐらい怖いものです。記憶や記録をありのまま伝えるということも、震災を忘れないためには大切だと思います。そこで、幅広い世代に楽しみながら災害について知ってもらおうと「BOSAI SCIENCE FIELD」ができました。すぎさこさんの話にあったように、子どもと離れているときに地震が起きたら、大きな津波が来たら...と考えるととても心配になりますよね。小さい頃から災害のことを学んでいると、自分ごととして考えるきっかけになります。そして親も知らないことを一緒に知るきっかけになり、親子の会話が生まれます。今回施設を訪れた人に話を聞きました。
音声・男の子)お母さんが、震災を経験していたので来ました。一つの地震でいろいろな被害があることが一番びっくりしました。いつ災害が起こっても大丈夫なように防災をしたいと思いました。
音声・保護者)10歳の子どもは、ちょっと映像や音を怖がっていましたが、よくわかっていたと思います。
音声・4年生の女の子)自分のお家とキャンプにいったところのハザードマップを見ました!
音声・保護者)最近自然災害が多いので、少しでも体験して、興味があれば今後も自分で勉強してもらえたらと思って参加しました。実体験に近い形で見ることができて、とても勉強になったと思います。
西村)この施設で、私が素晴らしいと思ったのは、ボランティアスタッフのみなさんの存在です。みなさん気軽に話しかけてくれて、機械の使い方や展示の解説をしてくれました。中には阪神・淡路大震災で被災した人もいました。
ボランティアスタッフの鳴海さん(85歳・男性)は、阪神・淡路大震災のとき、神戸市灘区で被災して自宅は全壊。そのときに大勢の人に支援してもらった経験から何か恩返しがしたいとボランティアスタッフをしているそう。来場者や子どもに優しく話しかけて解説をしていました。ボランティアスタッフが話してくれた被災体験が一番心に響いたという高校生の来場者もいました。震災の経験者と気軽に話ができるのもこの施設の良いところだなと思いました。
家族で防災の話をすると温度差が生まれることがありますよね。災害にあまり関心のない人と一緒に行って、楽しみながら学ぶことで共通の話題が生まれ、自分ごととして捉えるきっかけになると思いました。小学校高学年以上が理解しやすいですが、小さい子どもでも一緒に楽しむことができます。今回の体験ツアーは1時間でしたが、「人と防災未来センター」はゆっくり回ると半日ぐらい過ごすことができます。「BOSAI SCIENCE FIELD」は、夏休みの自由研究のヒントにもなるかもしれません。ほかにも、夏休みの間、防災を学ぶことができるさまざまなプログラムが用意されています。既に申し込みを締め切っているものも多いのですが、定員に空きがあるものや申し込みがいらないもの、オンラインで家から参加できるプログラムもあります。