第1312回「天気予報を支える人たち」
取材報告:西村 愛キャスター

西村)天気予報はどのように観測され、私たちに伝えられているのでしょうか。先日、大阪市中央区にある大阪管区気象台に行って取材をしてきました。
まずは、大阪の最高気温などを実際に観測している場所についてです。
 
音声・気象防災部 丸山さん)ここは大阪の最高気温や最低気温を測っているところです。
 
音声・西村)目の前には中央通りがあって、たくさん車が通っています。白い柵で正方形の形に囲われている場所です。通常鍵がかかっていて入れないのですね。
 
音声・丸山さん)大阪市の公園の一部を借りています。ここは、露場(ろじょう)と言って、一辺が約15mの正方形になっていて、芝生を植えて、できるだけ自然に近い状態にしています。芝生を植えることによって、太陽の照り返しを防いでいます。

  
西村)露場は、気象台がある大阪合同庁舎という高い建物の横にあります。白い柵で囲われた芝生の上に、さまざまな機械が並んでいます。このような街中で観測していることが意外でした。説明をしてくれたのは、大阪管区気象台 気象防災部 観測課 主任技術専門官の丸山浩さんです。丸山さんは、観測の仕事を始めて35年。
 
この露場は難波宮の跡地で、地下は遺跡なのだそう。工事をするときは、申請をして許可をもらってから進めたというお話も。大阪市の公園の中なので、私たちも外から見ることができます。露場の中の機械はどれも初めて見るものばかりでした。ここで毎日、大阪府の天気が観測されています。ここでは、気温と湿度、雨と雪を観測しています。では、どうやって計測をしているのでしょうか。
まずは、雨の観測をする機械についてです。
 
音声・丸山さん)この細長い部分に上に金属のプリントをしているような部分があります。
 
音声・西村)お皿みたいなものが上に付いていて、真ん中からアンテナのように1本細い棒が立っていますね。
 
音声・丸山さん)これは感雨器といいます。ここに雨が一滴当たると「雨が降った」という情報が観測室に送られます。そのままだと、ずっと雨が降っている信号が送られ続けるので、信号が入ると、ヒーターで70~80度に温めて蒸発させる仕組みになっているんです。真ん中のポールは、鳥よけです。鳥がとまったら雨が降ったということになってしまうので。

 
音声・西村)鳥がオシッコするかもしれませんね。
 
音声・丸山さん)晴れなのに雨の信号が入って、見に来ると鳥の糞があったこともあります。
 
音声・西村)そんなハプニングがあるんですね!
 
音声・丸山さん)何時何分から雨が降って、何時何分に止んだということがこれでわかります。雨が降った時間を測るだけの機械です。

 
西村)感雨器は、高さ20~30cmぐらいの機械で、雨が降った時間を計るピンポイントな機械です。鳥の糞尿にまつわるハプニングの話には、思わず笑ってしまいましたが、正しく観測するには重要なポイントです。
では、雨の量はどのように測るのでしょうか。
  
音声・丸山さん)これは、雨量計の模型です。中に直径20cmの受水溝があって、雨が降ってくると、そこに雨がたまって、シーソーのような形になっている三角形のマスの中に入って、いっぱいたまるとカタンと倒れます。これで雨量を測っています。
 
音声・西村)結構、原始的な方法なんですね!
 
音声・丸山さん)1回倒れると、0.5mmということなります。

 
西村)スーパーコンピューターが進化しているこの現代で、意外と原始的な方法で測っていることに驚きました。
雨量計には夏用と冬用があります。冬用にはヒーターが付いています。雪はヒーターで溶かして、雨に換算して測っています。だから雪でも雨量というそうです。この露場には他に、雪が積もった量を測る積雪計や気温や湿度を測る機械もあります。他の場所には風向きや風速、太陽の照射エネルギー量を測る機械もあるのですが、周りの建物との兼ね合いで、露場とは別の場所にあります。
 
観測課のみなさんは毎日出勤時に露場に来てチェックをしています。昼休みには掃除をしたり、草刈りをしたりすることも。もちろん機械のメンテナンスも行います。毎日私たちに届けられる天気予報のベースには、この露場があり、メンテナンスをしてくれている丸山さんをはじめ、観測課のみなさんの地道な作業があるのです。
 
気象台の他に、全国に約1300ヶ所あるアメダス観測所でもさまざまな観測がされていて、観測されたデータは全てデジタル化されて、スーパーコンピューターに集められ、システムを通して予報担当者へ送られます。そして組み立てられた予報データは、天気予報を伝える民間企業やラジオやテレビ、新聞などのマスメディア、警察や消防などに送られます。では、どのように天気予報が私たちに届けられているのでしょうか。気象防災部 予報課 予報官の西峯康晴さんに聞きました。西峯さんが予報官になったきっかけから聞いてみました。
 
音声・西峯さん)小学生の頃から気象に興味がありました。なぜ低気圧がきたら雨が降るのだろう、なぜ台風は大きくなるのだろうと疑問に思っていました。
 
音声・西村)お仕事にしようと思ったきっかけは?
 
音声・西峯さん)学生のときに学校で、気象台の採用の募集がありました。そのときに、昔、気象について興味があったことを思い出して。気象に携わる仕事をしてみたいと思ったのがきっかけです。
 
音声・西村)そのとき通っていた学校はどんな学校だったのですか。
 
音声・西峯さん)ラジオ局で働くことに興味があったので、無線の専門学校に通っていました。

 
西村)まさかラジオの世界に憧れていたとは!もし気象庁の試験に合格していなかったら、この「ネットワーク1・17」の番組スタッフとして会っていたかもしれません。人生わかりませんね。西峯さんは学校の掲示板をきっかけに、大阪管区気象台の面接を受けて見事合格。長年経験を積んでから予報官の仕事を担当するようになり、今年で31年目です。
 
現在、大阪管区気象台では厳重な新型コロナ感染防止対策がされていて、実際の作業現場には入ることができませんでした。作業部屋を遠くからのぞいてみると、大きな画面がいっぱい並んでいて、予報官がさまざまなデータと向き合っていました。簡単に声をかけられないような緊張感が伝わってきました。
 
この天気予報の元になるデータはどんなものなのでしょうか。
衛星画像や各地の気温や風の情報が東京の気象庁に集められます。日本だけではなく、海外の気象データも集められるので膨大なデータ量になります。その気象データが気象庁のスーパーコンピューターで解析されて数値化されます。計算されたデータが全国の気象台に送られて、西峯さんのような予報官が各地の気象の特性を考慮して、天気予報として発表するそう。注意報や警報の発表も予報官の大切な仕事です。私たちが災害から身を守るために24時間体制で夜中も働いています。ここ数年、各地で台風や豪雨の被害が出ています。そこで予報官の西峯さんが仕事をしてきた中で一番印象に残っていることを聞きました。
 
音声・西峯さん)3年前に奈良地方気象台にいたときのことです。7月下旬に台風第12号が近畿地方に来たのですが、その台風が今までのタイプとは違っていた。1951年の統計開始以降、初めて紀伊半島の東から上陸して西の方に進みました。
 
音声・西村)逆走台風ですね。
 
音声・西峯さん)その日は夜勤でした。台風が強い勢力を保ったまま紀伊半島に上陸すること、今までにないコースを通るということ、奈良県や大阪府の真上を夜に通過するということで、どんな現象が起こるか全くわからない。今までとは違う恐怖感がありました。

  
西村)2018年7月に発生した台風12号は逆走台風と呼ばれました。台風は西から東に向かって進むのが通常のコースなのですが、このときは観測史上初めて、上陸後に東から西に向かって進みました。この逆走台風のように、全くデータがない例は、予測がかなり難しいので、その日の夜勤は人数を増やして対応したそうです。1951年から今までのデータは全て残っているそう。この逆走台風は貴重なデータとして今後に生かされていきます。
 
近年、これまでになかったような天候が増えています。記録的な豪雨もその一つ。今年6月から、顕著な大雨に関する情報「線状降水帯の発生情報」が伝えられるようになりました。今後、線状降水帯発生の予報も可能になるのでしょうか。西峯さんによると、線状降水帯発生のメカニズムはある程度はわかっているが、まだまだ不十分で、予測するのは難しいというのが現状。今は、発生の半日前は予想できませんが、今後10年以内には予測精度の向上も含めて、高い確率で予測することを目標にしているそうです。
 
私たちも空を見て天気を予想することはできるのでしょうか。西峯さんに空の見方を聞いてみました。
 
音声・西峯さん)100%ではないですが、有名なところでは、夕焼けが見えたら明日は晴れというのがあります。昼間に太陽の周りに輪っかができていたら、次の日かその次の日に雨が降りやすいというのも。
 
音声・西村)空を見る楽しみが増えました。
 
音声・西峯さん)雲の動きでもいろんなことがわかるので面白いですよ

  
西村)私も家族や友人と空を眺めるときに注目してみます。
気象台は天気を予測するだけではなく、地震や火山の観測もしています。地震火山課の部屋にもパソコンの画面がずらりと並んでいました。普段は穏やかですが、大きな地震が起きたことを知らせるブザーが鳴り響くと、一気に緊張感が走ります。今回お話を伺った地震火山課 技術専門官 長尾潤さんは、東京の気象庁から去年、大阪管区気象台に赴任し、この仕事を始めて13年。
地震が発生したら、どのように地震情報を発表しているのでしょうか。
 
音声・長尾さん)全国各地の地震波形、震度データがリアルタイムでシステムに入ってきています。地震が起こると、システムが地震を検知して起動。作業を始めて2分ぐらいで震源や規模が決まります。そこから3~5分以内に情報を出します。
 
音声・西村)どのように震源を特定するのですか。
 
音声・長尾さん)地震波形を見て、P波とS波を解析することによって、震源が決まります。その波形の大きさでマグニチュードが決まります。コンピューターが自動でP波とS波を決めてくれます。人間は、それが間違ってないかを見る作業をします。まれにコンピューターがP波とS波をきちんと検知してないときもあるので、その時は人間が検測します。東京でも同じ作業をしていて、どこで地震が起きても、大阪と東京で同時に震源を決めます。大阪で地震が起きて情報が出せない状況になったら東京から情報を出します。その逆も同様です。

 
西村)全国どこで地震が起きても震源やマグニチュードを決めるのは、大阪と東京。コンピューターが自動でP波とS波を決めて、人が大阪と東京の結果を見比べて、間違いがないかをチェック。コンピューターの画面と向き合い、タッチペンを持って作業をしています。震源が決まるまで2分ほど。この速さにびっくりしました。一分一秒を争い、正確に判断しないといけません。大阪と東京それぞれで出した震度やマグニチュードがずれている場合は、東京の全国班長が最終的に決めるそう。大きな地震があった場合は、2ヶ所で判断した方が正しい情報を届けられるし、どちらかが災害に遭っても、もう一方で情報が出せますね。
長尾さんにここ数年で印象に残っている地震について聞いてみました。
 
音声・長尾さん)私は、あまり大きな被害を出すような地震は経験していなくて。上司の話や経験談を活用させてもらいます。特に印象深かったのは大阪北部地震。緊急地震速報と同時に大きな揺れを感じたそう。本来なら大きな揺れを感じたら身の安全確保が優先ですが、上司は机の角を持って、震源を決めたようですね。
 
音声・西村)机の角を持って何とか耐えたのですね。
 
音声・長尾さん)揺れている最中に作業して。揺れを検知してから2分ぐらいで震源を決めなければならないので。

  
西村)大きな揺れが来たら、私だったらすぐに机の下に潜り込んでしまいます。地震で揺れている最中にも机の角を握りしめて作業をするなんてまさに命がけですね。長尾さんのように勤務中に大きな地震を経験していない職員は、過去のデータを使ってシミュレーション訓練をしています。この訓練の一つに、今後必ず発生すると言われている南海トラフ地震を想定した訓練もあります。年間6回、全国規模で訓練をする中で、2回が南海トラフ地震を想定。当番者の業務はもちろん、自治体、関係機関との連携や、情報が関係機関にきちんと伝達されているのかを訓練して、毎回課題や反省点を共有し合っているということです。
 
天気予報は、休みなしで届けられる情報。新型コロナでクラスターが起こってしまうことは絶対に許されない現場です。日本で暮らすみなさんの命がかかっているのでコロナ対策も厳重です。今回の取材も必要最低限の人数で行い、実際に気象台のみなさんが作業をしていない場所でインタビューをしました。気象台の貴重なデータは外に持ち出すことができないので、リモートワークをするとこともできません。みなさん健康に気を使いながら日々仕事をしています。どんなに技術が進歩しても、最終的には人が判断しなければなりません。だからこそ、健康を維持して常に冷静にデータと向き合っています。その先には私たちがいるからです。災害からみんなの安全安心を守るために、日々地道な仕事をしている人々がいることを忘れないようにしていきたいですね。
きょうは、気象庁大阪管区気象台のリポートをお送りしました。