オンライン:静岡大学防災総合センター教授 牛山素行さん
西村)大雨などの際に、市町村が住民に出す避難情報が今月20日から変わります。災害対策基本法が改正されて、5段階の大雨警戒レベルが変更になります。新しい警戒レベルでは、「避難勧告」がなくなります。これまで「避難勧告」と「避難指示」があって、どちらの緊急度が高いのかわかりづらかったですよね。他にも変わるポイントがあります。
新しい警戒レベルを上から説明しますと、5段階でレベル5が一番上です。レベル5=緊急安全確保、レベル4=避難指示、レベル3=高齢者等避難となります。それぞれの警戒レベルが何を意味するのか、私たちはどのような行動をとればいいのでしょうか。
内閣府のワーキンググループの委員として、この見直しの議論に関わってこられた静岡大学 防災総合センター教授の牛山素行さんにお話を伺います。
牛山)よろしくお願いいたします。
西村)なぜこの避難情報の出し方を見直すことになったのでしょうか。
牛山)避難に関する情報は、警戒レベルという概念が使われています。これが導入されたのは約2年前。この警戒レベルを導入した後に、2019年に台風19号、昨年7月に熊本県・球磨川の災害があり、1年半近くかけて議論が重ねられ、その結果がまとめられました。従来なら大きな災害の後、約2~3ヶ月かけて情報の改定が行われるのですが、今回は時間をかけて議論をしました。
2年前に警戒レベルという形になり、わかりやすくなったという声もありましたが、さまざまな課題も。2年前に改訂された警戒レベルでは、警戒レベル4の中に「避難勧告」と「避難指示(緊急)」という2つの情報が入っていました。「避難勧告」と「避難指示」はどちらが強いのかよくわからない。自治体側も避難勧告を出すことにためらいがあって、出すタイミングを逃して大きな災害につながったこともありました。
ここ5~6年の間に避難勧告等をためらわずに出そうとガイドラインでも強調され、避難勧告や避難指示がよく出されるようになりましたが、勧告と指示の違いがわからないことが、近年問題になっていました。
西村)私も以前からわかりにくいと思っていました。新しい警戒レベル4=避難指示とは、避難勧告を飛ばして避難指示が出るということですか。
牛山)基本的にはこれまでの避難勧告を出すタイミングで避難指示が出ます。ここで言う避難は「立ち退き避難」です。今いる場所から移動することを強く促すことが警戒レベル4=避難指示です。
西村)我が家は3階建てなのですが、寝室が3階にあるので浸水の恐れがありません。大雨が降ってもその場にとどまっていて良いのでしょうか。
牛山)避難指示は市内全域に出されますが、洪水土砂災害は起こりうるところで発生します。洪水土砂災害の危険性が低いところもあります。
例えば、浸水想定区域内のタワーマンションに住んでいる人が、20階からわざわざ地上に降りて避難するのはあまり合理的な話ではないですよね。災害の危険性が低い場所では、避難指示が出されたからすぐに避難所に行かなければならないということではありません。避難情報を活用する上で重要なことは、自分が住んでいるところでどのような災害が起こりうるのかをあらかじめよく理解しておくこと。その上で自分はどうしたら良いのかを考えることが重要です。
西村)それはどのように調べたら良いのでしょうか。
牛山)市町村のホームページなどで公開されているハザードマップで調べられます。全国を一律に見たいときは、国土交通省のホームページに「重ねるハザードマップ」があります。自分が住んでいるところ、普段よく通るところにどんなことが起きるのかを把握しておきましょう。
西村)家以外の場所でも、仕事先までの道やよく行く病院など、さまざまな場所を調べておくことが大切なのですね。
牛山)ハザードマップも完璧なものではないです。例外的なことも起こりえます。土砂災害の危険な場所は、ハザードマップでフォローされていますが、浸水の可能性のある場所については、大きな河川の周辺では情報の整備が進んでいますが、小さい川の周りは整備されてないということもあるので注意が必要です。
西村)ハザードマップに反映されていない山の中の小さな川や、町の用水路は注意が必要ですね。今一度、周りを歩いてチェックしておきたいですね。
さて、レベル5=緊急安全確保とは、レベル4=避難指示等どう違うのでしょうか。
牛山)どこかへ移動する避難行動はレベル4まで。情報として出てくるのはレベル4までと考えてください。警戒レベル5は、もう災害が起こってしまったときに、自治体が注意を呼びかける意味で出される情報。ものすごく危険な状況になったということを告げる情報です。
西村)命の危険がある、逃げるよりも前に直ちに安全を確保しましょう、ということですね。
牛山)逃げるというと避難所に行くことをイメージすると思いますが、レベル5は、離れた避難所に行くような段階ではないということ。レベル5は、今回名称が変わって「緊急安全確保」という名前になりました。「避難」という言葉が入っていません。「避難」という言葉を入れてしまうと、避難所に行くことを連想してしまう。警戒レベル5の段階では避難所に行くことは呼びかけていません。今いる場所で、少しでも安全を確保するための行動をとってほしいという意味で、この「緊急安全確保」という言葉が用いられています。
西村)「避難」と聞くと移動しなければ!と思ってしまうので、レベル5=緊急安全確保になったのはとてもわかりやすいですね。
牛山)では、どうしたら良いのかと思うかもしれませんが、これは一律には言えません。水が流れるところから離れて、少しでも高いところに逃げるなど、その場でベターな行動をとる段階が警戒レベル5です。
西村)家から避難所までの道が浸水して、肩ぐらいまで水が溢れてきているなら、家の中の土砂が流れ込まない場所にいる方が安全な場合も。
牛山)どれくらいの浸水なら安全に進めるかは、水の深さでは決まりません。水深と水の流れの速さの組み合わせで決まります。浅くても水の流れが速ければ流されてしまう。体力や年齢、体格などによっても大きく変わってきます。流れる水に立ち入ったら命を落としてしまうかもしれないと考えてください。徒歩でも車でも危険性は変わらないので、流れる水からは離れるということが重要です。
西村)レベル3=高齢者等避難の高齢者等とはどんな人たちを指すのでしょうか。
牛山)高齢者など避難に時間がかかる人は、そろそろ何らかの避難行動を始めましょう、という意味です。この「高齢者等」は、お年寄りに対して強く注意を呼びかけるものではあるのですが、お年寄りだけのための情報ではありません。危険なところにいる全ての人に対して、普段通りの予定は見直すタイミングということを知らせるものです。お年寄りの逃げるタイミングだから、自分は普段通り過ごして良いということではありません。
西村)今までの災害では、避難指示が出されるタイミングが遅れることもありましたが、自治体が出す避難情報に頼りすぎない方が良いのでしょうか。
牛山)避難情報が出なければ大丈夫と考えるのは、適切ではありません。自治体も管轄の範囲を全て正確に把握することは困難です。高齢者等避難や避難指示を待って行動するのではなく、自分で怖いと思ったら早めの行動を取るということが大切です。避難情報というのは、自分のあの判断を助ける情報の一つ。無視しては困りますが頼り切ってしまうのも良くないですね。
西村)避難指示が出ても何事もなかったという「空振り」もありますよね。これについては、どう考えていますか。
牛山)避難指示を出す側に対して空振りを恐れるな、受け止める側に対して空振りも容認しましょう、と言われていますね。情報の的確性に対して、事後的に責任を問う捉え方も見直していかなければなりません。どれくらい空振りが容認できるかは人によって違いがあります。昨年の台風のときに、「避難の呼びかけに対して、年に何回までなら、自分の予定を変更できますか?」というアンケートとりました。「多くても1回まで」という回答が2~3割でした。避難指示を何回も出されるのは困るというのが正直なところかなと思います。
空振りを恐れてはいけないからとあまり頻繁に避難指示を出すと、受け止める側が相手にしなくなってしまう。避難指示等は機械的に出すものでなくて、最終的には各自治体が判断するもの。どんな条件が整ったら出すかを考えるときに、年に5~10回出るような条件にするのは良くないと思います。
西村)最後に、これから雨の多い時期を迎えるにあたって、専門家としてリスナーのみなさんに伝えたいことはありますか。
牛山)風水害に備える上で何よりも重要なことは、自分の身の回りでどのような種類の災害が起こりうるのかを理解しておくこと。その先どうするかは人それぞれ。ハザードマップ等で危険性を確認しておきましょう。いざというときには、なかなか冷静な判断ができません。平和なうちにひとりひとりがよく考えておくということが重要だと思います。
西村)大雨がやってくる前に自分だったらどう行動するのかをイメージしておきたいと思います。
きょうは、静岡大学 防災総合センター教授の牛山素行さんにお話を伺いました。