第1389回「地域ぐるみで行うローリングストック」
オンライン:千葉科学大学危機管理学部4年生 古川愛梨さん

西村)災害対策のひとつとして、普段食べているものを少し多めに購入し、食べた分を買い足すローリングストックが推奨されています。きょうは、このローリングストックを地域ぐるみで行う「OSUSOWAKE」という取り組みを紹介します。
ゲストは、この取り組みを行っている千葉科学大学 危機管理学部 危機管理学科4年 古川愛梨さんです。
 
古川)よろしくお願いします。
 
西村)古川さんは、大学でどんな勉強をしているのですか。
 
古川)危機管理学部 危機管理学科では、人生や社会にとって不可欠な生き残る力について学んでいます。「さまざまな危機管理能力を身につけて自分自身を守ることが人や社会を守ることにつながる」ということから、災害・防災・防犯・法律・金融などの専門的な学問を実践的に学んでいます。
 
西村)古川さんは、なぜこの危機管理学科で勉強しようと思ったのですか。
 
古川)小学校3年生のときに経験した東日本大震災がきっかけです。
 
西村)当時はどこに住んでいたのですか。
 
古川)千葉県・旭市の実家に住んでいました。海のそばで、津波に道路が巻き込まれたところもありました。自宅は傾いてしまいました。
 
西村)その後の暮らしはどうでしたか。
 
古川)いろんな人に助けてもらいました。わたしは小さかったので何もできなかったのですが、「自分の力で生き残れるようになりたい」「防災を学ぶことで、家族や友人を守れるようになりたい」と思ったんです。
 
西村)そのときは、水道や電気などのライフラインはどうなりましたか。
 
古川)止まりましたが、車で半日ほど避難をしただけで、そこまで大きな被害はありませんでした。
 
西村)自宅に食料の備蓄はしていましたか。
 
古川)水を少しとトイレットペーパーを多めに備えていただけでした。家族と備蓄について見直しました。
 
西村)その経験が今につながっているのですね。古川さんをはじめ、千葉科学大学 危機管理学部 危機管理学科の学生が取り組んでいる 「OSUSOWAKE」という取り組みですが、具体的には、どんなメンバーで考えたのですか。
 
古川)2年前、学部の先輩やゼミの先生、銚子市でまちづくりに関わる組織が連携する「銚子円卓会議」と地域の企業が一緒に考えました。
 
西村)具体的にはどのような内容ですか。
 
古川)ローリングストックを自助ではなく共助で行うという取り組みです。一般の人から一口2000円で寄付を募り、その寄付金で銚子市内の提携企業で備蓄品を購入し、企業で備蓄をします。期間中に事前に協定を結ぶ自治体で災害が発生したら、購入していた備蓄品を支援物資として届け、災害が起きなければ、寄付者に備蓄品が届くという仕組み。2000円以内で支援先や自宅に届けることができます。
 
西村)送料も込みで一口2000円なら、若い世代や初めて寄付する人も寄付しやすいですね。災害が起きなければ、寄付した人に備蓄品が届くという仕組みも良いですね。どんなものを購入しているのですか。
 
古川)備蓄品は、市内の連携企業の商品を購入しています。
 
西村)備蓄といえば缶詰などのイメージがあります。
 
古川)缶詰ではなく、鯖の文化干しや米、 コーヒーなど備蓄品としては珍しいものが6品目あります。
 
西村)ほかも気になります。あと3つは何ですか。
 
古川)クラフトコーラキット、木の葉パン、手焼きせんべいです。
 
西村)それはすべて銚子市でつくられたものなんですね。食べたいものばかりです。
 
古川)最初は米と鯖の文化干しだけだったのですが、銚子円卓会議で、「それだけでは物足りないから増やそう」ということになり、連携企業の協力もあって、木の葉パンや手焼きせんべいなどを加えて6品目に増やすことができました。
 
西村)古川さんは、この備蓄品を食べたり飲んだりしたことはありますか。
 
古川)家族で寄付をしたときに、米や鯖の文化干しが届きました。 家族が「おいしい」と言ってくれたときは、この活動をやってきて良かったと思いました。寄付者は6品目から好きな備蓄品を選ぶことができます。
 
西村)一定期間災害が起きなければ、寄付した人に備蓄品が届くというのは、おもしろいシステムですね。 「OSUSOWAKE」の送り先を災害が起こった場所ではなく、 事前に提携した自治体に限っている理由は何ですか。
 
古川)「OSUSOWAKE」の支援品は保存食ではなく地元の農産品だからです。日常的にコミュニケーションをとっている地域だからこそ、親戚からの心遣いのように、日常を彩る美味しいものを送っています。
 
西村)顔の見える関係だからこそ「銚子から美味しい干物が届いたね」と、心がほっこりしますね。今、このプロジェクトで提携している自治体はどこですか。
 
古川)千葉県・東町、千葉県・香取市、「稲むらの火」で有名な和歌山県・広川町の3つの自治体です。
 
西村)「稲むらの火」とは、安政の南海地震(1854年)による大津波が和歌山県の広川町を襲ったときに濱口梧陵という男性が稲むらを積み上げで火をつけて、暗闇の中で「高台に逃げて!」と多くの人の命を救った実話です。「稲むらの火」で有名な広川町とはどんなつながりで連携したのですか。
 
古川)広川町とは以前から縁があり、大学とも交流があったため、スムーズに提携することができました。千葉県・銚子市のショッピングセンターでも広報活動をしました。防災意識の向上につながるように災害備蓄に関するアンケートを実施。結果は、「備蓄をしている=67%」「備蓄をしていない=33%」で、予想よりも多くの人が備蓄をしていました。そこから「OSUSOMAKE」の話につなげて、興味を持ってもらう、という流れで広報活動をしました。
 
西村)一般のみなさんから寄付を募って、今現在、3期目の募集をしているとのこと。1期目はどれぐらいの額が集まったのですか。
 
古川)1期目は436口、87万2000円の寄付をいただきました。
 
西村)たくさんの寄付が集まったのですね。どんな声を聞きましたか。
 
古川)災害が発生しなかったので、寄付者に備蓄品が送られたのですが、「米や鯖の文化節が美味しかった」「もう一度やりたい」「寄付して良かった」という声がありました。
 
西村)どんどん輪も広がっていきそうですね。今は、災害時に備蓄品を送る自治体が3つだけですが、これはぜひ全国に広がると良いですね。
 
古川)日頃からの交流を大切にしています。今後、全国各地で「OSUSOWAKE」システムができるように、広報や仕組みづくりを支援したいです
 
西村)わたしたちも寄付することはできますか。
 
古川)できます。現在は11月10日までを備蓄期間とする第3期を募集中です。詳しくは、ウェブサイトをご覧ください。
 
西村)提携する自治体が広がると良いですね。
きょうは、地域ぐるみで行うローリングストック「OSUSOWAKE」に取り組む千葉科学大学 危機管理学部 危機管理学科4年 古川愛梨さんにお話を伺いました。