オンライン:日本笑顔プロジェクト 林映寿さん
西村)被災地の復旧作業でショベルカーなどの重機が活躍しています。土砂やがれきを撤去するために、重機を動かすことができるボランティアが増えたら、被災地の復興の大きな力となるのではないか。そんな発想から、一般の人に重機の免許を取るための講習をして、被災地支援につなげるプロジェクトがあります。
きょうは、そんな活動を続けている長野県の一般財団法人「日本笑顔プロジェクト」の代表、林映寿さんにお話を伺います。
林)よろしくお願いいたします。
西村)「日本笑顔プロジェクト」は、どんなきっかけでいつごろ誕生したのでしょうか。
林)「日本笑顔プロジェクト」は、東日本大震災をきっかけに2011年に誕生し、現在も各地の被災地の復興支援をしながら、笑顔を届ける活動をしています。
西村)どんな支援活動をしているのですか。
林)東日本大震災のときは、女川町の小学校や中学校で授業の支援、土砂の撤去、土砂で汚れてしまった写真の洗浄、炊き出しなどをしました。
西村)そんな中で、なぜ重機の免許講習を思いついたのでしょうか。
林)5年前の2019年に、台風19号がきっかけで、わたしが住んでいる長野県の1級河川、千曲川が決壊しました。長野県は高い山々に囲まれているので、台風の被害は少なかったのですが、川の決壊で大きな被害がでました。そのときにたくさんの土砂が生活圏を襲い、農業にも被害がありました。土砂を撤去する作業が一番重要なのですが、人間の力の限界を痛感しました。重機はあってもオペレーターが少ないことに直面。その教訓から、一般のみなさんが受けられる重機の講習を立ち上げました。
西村)能登の被災地で、スコップで復旧作業をしているようすをよく見ます。やはりスコップだけでは大変ですか。
林)そうですね。家屋の周りや私有地・農地は、効率よく重機を使うことによって、生活の再建を早くすることができます。
西村)重機の免許を取るのは難しいのではないですか。
林)小型重機といわれる3t未満のショベルカーやパワーショベルは、家の周りの作業をするのに最適なサイズ感。小型重機の資格は、学科1日+実技1日の計2日間の講習を受けることで取得でき、誰でも重機が動かすことができるようになります。
西村)車の運転免許のように長い期間、勉強が必要なのかなと思っていました。
林)小型の重機は計2日間で資格が取れます。「日本笑顔プロジェクト」では、学科を「eラーニング」で受けることができるので、スマホやパソコンで自宅にいながら講習が受けられます。
西村)それはいいですね。
林)長野県本部のほか、千葉県、埼玉県、群馬県、広島県など全国にある「nuovo(ノーボ)」という訓練施設で実技を行っています。大阪にも準備をしている最中です。
西村)将来的にはいろんな地域に広げていきたいと。
林)自分たちで守る意識を持ってもらうために、全国47都道府県に配備できるように頑張っています。
西村)3t未満の小型重機の免許は、普通自動車免許を持っていれば受講できるのですか。
林)重機の資格は自動車免許の有無に関わらず、18歳以上であれば誰でも受講できます。パワーショベルは、一般道路を走ることはあまりなく、私有地や限られた環境下で使用するので普通免許がなくても受講できます。
西村)免許を取得できても実際に重機を動かすのは、難しそうです。
林)5年前の長野の水害のときも、資格は持っているけど、普段乗っていないし練習する場所もないので、動かすのが難しいという人が多かったです。防災パーク「nuovo」では、サブスクリプション=月額定額料金を払うことによって、金額に応じて、重機のトレーニングができます。トレーニングの内容は、被災地で必要とされるスキルが検定方式になっています。自分のレベルが可視化されるので、災害時に派遣する場合に検定のレベルに応じて、募集をかけます。被災地の状況とみなさんの技術レベルをマッチングさせることもできます。
西村)重機でどんな作業ができるのでしょうか。
林)能登には、地震の後の水害でたくさんの漂流物が流れ着いて、土砂が蓄積しました。山からの土砂と根こそぎ倒れた木が家の中に飛び込んできて。身の回りのものと土砂が一緒に流れ着いている状況。そんなとき、スコップだけでは難しいですが、小型重機があれば、1台で100人分ぐらいの作業をすることができます。手元のレバーを操作するだけなので、力がなくても大丈夫。女性でも無理なく作業することができます。
西村)倒壊した家の屋根の撤去など、小型重機なら小回りが利くのでいろいろな作業ができそうですね。
林)家の解体はもちろん、屋根が潰された車庫で、下敷きになった車を引っ張り出す作業もできます。行政がお金を出して、家を解体してくれる公費解体では、プロの重機オペレーターが作業します。解体作業前に、自分の貴重品や思い出の品を家の中から取り出したいときは、重機ボランティアが作業します。
西村)実際に能登で林さんが重機を動かして、思い出の品を取り出したこともあるのですか。
林)1月3日から珠洲市に入って活動したとき、取り出す作業をしました。思い出の写真を1枚でも手元に戻したいという声がたくさんありました。
西村)どんな反応でしたか。
林)写真1枚でも、涙を流して喜んでいる住民の姿がありました。わたしたちができることを一つでも増やしていくことが、災害大国日本で、これからやるべきことだと感じました。
西村)能登半島の被災地では、何人ぐらい活動しているのですか。
林)「日本笑顔プロジェクト」のメンバーは1月3日から現地に入り、500人以上が活動に参加しています。8月末で能登支援を区切り、7月に豪雨があった山形県に場所を移しました。その後、能登の水害があったので、能登に戻り、輪島、能登町、珠洲の水害の現場に仲間が入っています。
西村)泥かきなどは、女性など力がない人には難しいのではないかと思うのですが、重機での作業には、女性も参加していますか。
林)住民のためになりたいという女性も多く、重機の資格を取って、トレーニングをして被災地に駆けつけてくれています。住民も女性のオペレーターなら男性よりも声をかけやすいようです。住民に寄り添いながら活動ができている状況を見て、女性による災害支援やオペレーターをもっと増やしていきたいと思っています。
西村)きょうは、重機のオペレーターの育成をして、被災地支援につなげている「日本笑顔プロジェクト」代表、林映寿さんにお話を伺いました