第1398回「災害時の熱中症対策」
オンライン:帝京大学医学部付属病院 高度救命救急センター長 三宅康史さん

西村)連日暑い日が続き、熱中症で病院に運ばれる人も増えています。こんな暑さの中で地震や豪雨などの災害が起こったら、わたしたちはどのように暑さから身を守れば良いのでしょうか。
きょうは、災害時の熱中症対策について、帝京大学医学部付属病院 高度救命救急センター長 三宅康史さんに聞きます。
 
三宅)よろしくお願いいたします。
 
西村)災害時はいつも以上に熱中症対策が気をつけなければなりませんね。
 
三宅)熱中症を引き起こす要因は、「環境・からだ・行動」の3つ。災害時は、水や電気などが供給されずに環境が悪くなります。避難生活による慣れない寝床や制限で、身体には大きなストレスがかかります。ストレスがかかると熱中症のリスクは誰でもあがります。行動については、日頃やらない復旧作業により熱中症のリスクが高くなります。
 
西村)2018年7月の西日本豪雨のとき、被災地である岡山県・真備町では、クーラーのない体育館で避難所暮らしをしている高齢者の姿がありました。汗をかきながら寝ている人も多くて...。
 
三宅)熱中症予防は「水分を十分にとる・体を冷やす・体を休める」の3つが大事です。しかし災害時はこの3つがうまくできません。特に高齢者は、若い人よりも熱中症になりやすく、重症化しやすいので、災害時は特に気をつける必要があります。
 
西村)高齢者は、喉が渇いていることに気付きにくい、暑さを感じにくいと聞きます。
 
三宅)高齢者は、ほかの人に水分をとってもらおうと配慮することが多く、熱中症になりやすいです。
 
西村)優しさが熱中症につながってしまっているのですね。「おばあちゃんもちゃんと水飲んで」と声をかけるなど、譲り合いの気持ちを持ちたいですね。水をちゃんと備えておくことも大切ですね。
 
三宅)高齢者は見守る必要があります。避難所を見まわってくれる人がたくさんいるので、自宅に1人でいるときよりも周りからのケアが届きやすいという利点はあると思います。「水を飲んでください」「こっちは風が通って涼しいですよ」などと声をかけてあげることで、災害時でも熱中症のリスクを下げることができると思います。
 
西村)高齢者以外にも熱中症に気をつけなければいけない人はいますか。
 
三宅)乳幼児、未就学児は熱中症弱者です。年齢が若くても、糖尿病や脳卒中の後遺症などの持病がある人は熱中症弱者になるので、より一層対策をしてあげる必要があります。
 
西村)家族や近所に思い当たる人がいる人は、積極的に声かけをすることも大切ですね。乳幼児、未就学児はどのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか。
 
三宅)お母さんが見守ってあげて、暑さによる不具合の兆候があったらすぐに手を打つこと。エアコンがない、水分補給が十分できない状況でも、熱中症弱者には優先的に水分を与えてあげましょう。エアコンが使えない場合は、濡らしたタオルを体にかけて風をあてると気化熱で体を冷やすことができます。体を触る、声をかけるなど常にケアをしてあげることで重症化していないかを見てあげる必要があります。
 
西村)災害時は普段やらない重労働に注意が必要とのこと。復旧作業をする人の中には、被災者はもちろんボランティアも多いですよね。
 
三宅)被災地には「助けてあげたい」という思いで、ボランティアがたくさん来ます。しかし、そんな気持ちだけで、暑い中、現地で慣れない重労働をすると熱中症リスクが高くなります。短パン・Tシャツ・ビーチサンダルで復旧作業はできません。長靴・長ズボン・長袖の服・ヘルメット・手袋という装備で重労働をしなければならないので、熱中症になる危険性があります。助けに行ったのに倒れてしまって、現地の医療体制に負荷をかけてしまうという最悪の状況にならないように十分注意しましょう。
 
西村)この暑さの中、災害が起きたら、どのような熱中症対策をしたら良いのでしょうか。
 
三宅)地震対策と同じように水の備蓄は非常に大事。それ以外にも、体を動かすと大量に汗をかくので塩分の補給も必要です。塩タブレットなどを備蓄しておきましょう。水に粉を溶かしてつくるスポーツドリンクなど災害に特化したものもあります。日差しを避けるために大きめのビーチパラソルやテントも代用できます。
 
西村)我が家にもキャンプ用のテントがあります。
 
三宅)夏用の通気性・速乾性のよい下着は、災害時も使えるように余分に準備しておくと良いですね。
 
西村)帽子も効果的ですか。
 
三宅)今の日差しは、キャップ程度ではあまり効果がありません。大きい麦わら帽子や帽子より効果的な日傘を使いましょう。帽子は頭にかぶるのでマスクと同じで暑いですが、日傘は風が通るので頭を蒸らさずに日差しをカットできます。晴雨兼用のものなら雨のときにも対応できます。
 
西村)最近は突然の夕立に遭ってしまうこともあるので、晴雨兼用のものを備えておくと便利ですね。三宅さんも日傘を使っているのですか。
 
三宅)1週間前に日傘男子デビューをしました。
 
西村)日傘を使用してみてどうでしたか。
 
三宅)真上からの日差しもカットできて風も通るので良いと思いました。体を温める要因の4割は日射。それがカットできるのは、非常に大きいと思います。
 
西村)男女問わず、日傘を準備して日頃から使っておくことも大切ですね。
 
三宅)小さくて軽い折り畳みの晴雨兼用日傘がオススメです。
  
西村)非常用持ち出し袋にいろいろ詰めてしまって重くなってしまうので、小さくて軽いのは良いですね。
 
三宅)必要なものを最低限は準備しておきましょう。3日間は自分で何とかできる備えが災害時の原則。3日を過ぎたら、周りの地域から救いの手が入ると言われています。
 
西村)断水してトイレが使えない状況もあり、災害時は水分を控えてしまいそう。
  
三宅)特に女性はトイレを我慢しがちです。トイレに行かないようにするために水分補給を絶つと熱中症やエコノミークラス症候群のリスクが高まってしまいます。
 
西村)熊本地震のときもエコノミークラス症候群についてよく聞きました。
 
三宅)避難所では、十分手足を広げてぐっすり眠ることができません。車の中で一晩過ごす人もいます。そうすると、足の血行が悪くなり、足の静脈に血栓(血の塊)ができます。起きて動こうとしたときに、その血栓が心臓経由で肺に飛んで、エコノミークラス症候群になると言われています。
 
西村)熊本地震のときも、車中泊でエコノミークラス症候群を発症して亡くなった人がいました。暑い季節の災害では、避難所でじっとしていることもあるかもしれないので、エコノミークラス症候群を防ぐ対策も大事ですね。
 
三宅)水分を十分に取ることができないこともあります。うまく体を動かすことが大事。ずっと同じ体勢でいないようにしましょう。エコノミークラス症候群は発症すると、熱中症と同じように命の危険があります。
 
西村)どのように身体を動かしたら良いのでしょうか。
 
三宅)ずっと同じ体勢をとらないように意識することです。わたしたちは、夜寝るときに寝返りを打ちます。寝る場所が狭く、たくさんの人が避難所で休んでいると遠慮してしまいますが、意識して身体を動かすこと。ときどき足を持ち上げてみたり、ばたつかせてみたりして予防をしましょう。周りの人にも声をかけてやると良いですね。
 
西村)避難所で隣に高齢者がいたら、「一緒に運動してみましょう」と声かけると良いですね。
   
三宅)足を動かして血流を良くしましょう。足に血液をためないように動かすことで十分予防できます。
  
西村)物の備え以外に、心の備えの対策はありますか。
  
三宅)日頃から健康でいること、自己管理をすることが大事。3度の食事をきちんと食べる。こまめな水分補給を習慣にしておくこと。夜はぐっすり眠ることができる環境を作っておきましょう。飲み過ぎ・寝不足に気をつけましょう。高齢者は持病の管理をして、健康増進をする。面倒くさいかもしれないですが健康であればあるほど、災害時にトラブルを避けられる可能性は高くなります。水分・栄養・塩分は3度の食事から摂ることができるので、バランス良い食事をとって健康でいることが大事です。
  
西村)夏のお風呂は、暑いからシャワーで済ますという人もいます。
  
三宅)シャワーでササッと済ませたい日もあると思いますが、週に1~2回でもぬるめのお風呂につかることで、自律神経を整え、リラックスして、体を休めることができます。
  
西村)熱さに慣れる「暑熱順化」が大事ですね。
  
三宅)だいぶ暑さに慣れてきていると思いますが、ずっと冷房の中にいると自律神経が疲れてきます。暑い、冷たいを繰り返すと自律神経が疲れます。自律神経を整え、体をリラックスさせるために、ぬるめのお湯に長く浸かって、体をいたわりましょう。その前後にしっかりと水分補給をすること。毎日熱中症対策をすることが災害時に熱中症にならない第一歩になると思います。日頃から熱中症対策をしっかりしてください。
  
西村)日頃からの熱中症対策をしっかりして、災害時にも熱中症にならないように備えていきたいと思います。
きょうは、災害時の熱中症対策について帝京大学医学部付属病院 高度救命救急センター長 三宅康史さんにお話をお聞きしました。