オンライン:NPO法人 日本トイレ研究所 代表理事 加藤篤さん
西村)元日に発生した能登半島地震では、断水や道路の寸断などで深刻なトイレ不足が起こりました。仮設トイレの設置に日数がかかった避難所も多く、外に穴を掘ってトイレ代わりにした避難所もありました。
きょうは、災害時のトイレ対策について、NPO法人日本トイレ研究所 代表理事 加藤篤さんにお聞きします。
加藤)よろしくお願いいたします。
西村)加藤さんは能登半島地震のトイレ問題を調査したそうですね。どんなことがわかりましたか。
加藤)2月に輪島市や七尾市の計21ヶ所の避難所で調査を行いました。災害用トイレの設置日がわかっている避難所10ヶ所のうち、設置が最も早かったのは1月3日で10%。1週間以内が50%、それ以上かかったのが40%という結果になりました。仮設トイレは不確定要素が多いです。道路の寸断の影響もあります。仮設トイレはすぐには来ない、ということを理解する必要があります。
西村)金沢から輪島までは平時でも2時間ぐらいかかります。さらに道路の寸断となると、さらに時間がかかりますね。能登半島地震の避難所のトイレはどのようなタイプでしたか。
加藤)奥能登地域は、高齢化率が50%ですが、仮設トイレの85%が和式便器でした。今は多くの人が洋式便器を使用しています。子どもも和式便器には慣れていません。高齢者、子ども、障害者にとっては、厳しい状態だったと思います。
西村)仮設トイレは、狭いし、しゃがまないといけないし、臭い...となると、トイレを我慢したくなりそうですね。
加藤)仮設トイレは、構造上、トイレの下に便槽があるのでどうしても段差ができてしまいます。転倒して救急搬送された人もいます。段差を解消することも大事。照明がないトイレが70%あることも調査でわかりました。
西村)夜のトイレは怖くて行けないですね。
加藤)女性や子どもたちが安心して行けるようにするためにも照明は絶対に必要です。
西村)被災地でのトイレ環境はまだ改善されていないのでしょうか。
加藤)少しずつ改善されています。仮設トイレの中でも、ワンランク上の照明がついているトイレが複数入った「コンテナ型トイレ」が今回活躍しました。
西村)そのまま持ち運びができるのですね。
加藤)段差を上がらなくても良いタイプもあります。仮設トイレは設置に時間がかかってしまうので、その場ですぐに組み立てられる紙素材のトイレも活用されました。
西村)新しいトイレ対策が少しずつ進んできているのですね。
加藤)今回の能登半島地震は、元日におこりました。現場は吹雪いていてすごく寒かった。被災地避難所で、85歳の女性が、「寒くて外のトイレには行くのが大変だった」と言っていました。建物の中のトイレの活用法や素早く復旧させる方法を考える必要があります。
西村)トイレが外にあったら寒くて行きたくないし、飲み物を控えてしまいそうですね。トイレ環境の悪化が引き起こす問題はほかにもありそうですね。
加藤)トイレが不衛生・不便になると、トイレから起因する問題が3つ起きます。1つ目は、不衛生なトイレが引き起こす集団感染。感染症のリスクが高まります。2つ目は、水分や食事を控えてしまうことによって、エコノミークラス症候群や誤嚥性肺炎などの災害関連死につながること。せっかく命が助かったのに、トイレをきっかけに体調を崩して命を落としてしまうことがあります。3つ目はトイレが衛生的に保てないことで起きる集団生活の秩序の乱れ。これは避難所運営者からよく聞くことです。
西村)具体的にはどんなことが起きるのでしょうか。
加藤)トイレを我慢すると体調も悪くなり、イライラします。ルールが守られなくなって、治安の悪化につながるのです。
西村)イライラしていたら、喧嘩も起こりやすくなりそう。
加藤)トイレは、避難所で唯一、1人になれる大切なスペース。心を整える意味でも個室をきちんと確保することはとても重要。水洗トイレは大きな災害が起きるとほとんどが使えなくなってしまいますが、わたしたちの排泄は待ったなしです。過去の調査では、発災後3時間以内に約4割、6時間以内に約7割の人がトイレに行きたくなるというデータがあります。機能しなくなった水洗トイレで多くの人が排泄をするので、大小便で満杯になり、あふれてしまうことも。非常に不衛生な状態になってしまいます。
西村)用を足すのも、掃除するのも大変ですね。
加藤)そんな中でも衛生が保てたのは、誰かが水もない中で、その場にあるもので掃除をしてくれたから。だから大規模な集団感染には至りませんでした。現場のトイレを支えてくれた人たちに感謝です。
西村)避難所によって違うと思いますが、携帯トイレの準備は万全だったのでしょうか。
加藤)21ヶ所の避難所を調査しましたが、発災直後から携帯トイレを使用した避難所は9割ありました。携帯トイレを活用できたことは大きな前進。ただ圧倒的に数が不足していました。そして、携帯トイレなんて見たことも聞いたことも使ったこともないという人がほとんど。携帯トイレを使いこなすことは、今後の大きな課題だと思います。
西村)個人の家でも同じことが言えますね。
加藤)水洗トイレは、給水・排水・下水道が機能してこそ成り立つシステム。自宅で避難生活を送るためには、建物の中のトイレをうまく活用すること。便器に取り付けて使う携帯トイレを家庭でも備えてほしいですね。
西村)先日も台風10号の影響で九州が停電していました。停電した地域では、トイレに困ったと思います。最近は、ボタンを押して流すトイレも多いので停電したら流すことができないですよね。家でもきちんと備えておかないといけませんね。
加藤)集合住宅では、電気で水を高層階に送っています。停電=断水の可能性は非常に高いです。携帯トイレはマストアイテムです。
西村)我が家は4人家族なのですが、どれぐらい備えたら良いですか。
加藤)自分が1日にトイレに行く回数を数えてみてください。睡眠は1日1回、食事は1日3回。トイレはそれ以上です。国のガイドラインによると、トイレに行く回数の目安は1日5回。5回×4人で20回ですね。7日間分はあった方がいいと思うので、20回×7日=140回分あると良いですね。
西村)もっと多いかもしれないから、家族4人で1週間分なら、140回分以上は携帯トイレの備蓄をしておいた方が安心ですね。1週間以上断水が続くかもしれないし...。
加藤)自宅のトイレを使えるように携帯トイレを備えてください。昼間は避難所のマンホールトイレや仮設トイレを使用するなど、携帯トイレと組み合わせて活用することをおすすめします。
西村)トイレットペーパーも忘れないように備蓄しないと。
加藤)1回あたりどのくらいの長さを使うのか確認してみてください。必要な長さ×回数×日数で1ヶ月分は備えたいので、何ロールあると良いか目安がつきます。最近は厚巻きのトイレットペーパーもあります。
西村)3倍巻きや5倍巻などもありますね。
加藤)省スペースのトイレットペーパーを活用して、ローリングストックしておきましょう。
西村)早速やってみようと思います。
きょうは、NPO法人日本トイレ研究所 代表理事 加藤篤さんにお話を伺いました。