ゲスト:京都大学防災研究所 教授 西村卓也さん
西村)8日木曜日夕方、宮崎県の日向灘を震源とするМ7.1の地震が発生し、宮崎県で最大震度6弱を記録しました。津波注意報が高知、愛媛、大分、宮崎、鹿児島の各県に出され、宮崎港では50cmの津波が観測されました。この地震で16人がけがをしています。鹿児島県や宮崎県では土砂崩れ、家屋やブロック塀の倒壊、地面の隆起などの被害が出ました。気象庁は、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を発表し、今後1週間は巨大地震に注意するように呼びかけています。南海トラフ地震臨時情報は、2019年に本格的に運用が始まり、今回初めて発表されました。わたしたちは、「巨大地震注意」という情報をどのように受け止めれば良いのでしょうか。
きょうは、南海トラフ地震臨時情報について、京都大学防災研究所 教授 西村卓也さんに伺います。
西村卓也)よろしくお願いいたします。
西村)8日に発生した日向灘の地震はどんな地震だったのか教えてください。
西村卓也)海のプレート(フィリピン海プレート)と陸のプレート(ユーラシアプレート)の境界部分で発生した地震です。日向灘は、南海トラフ地震の想定震源域の中に含まれる地域。日向灘は今までも同じようなタイプの地震が頻繁に起きていて、約20年に1回は今回と同じような規模の地震が起こっています。
西村)今回初めて「南海トラフ地震臨時情報」が出されました。どういう情報なのか教えてください。
西村卓也)南海トラフ地震の想定震源域は、駿河湾から九州の日向灘まで広い範囲。この中でマグニチュード6.8以上の地震が起きたときに気象庁が「南海トラフ臨時情報調査中」を発表することになっています。「南海トラフ臨時情報調査中」が出ると、専門家からなる評価検討会が招集され、この地震が南海トラフ巨大地震に結びつくのか、発生の可能性が高まるのかを検討。地震発生から最短2時間後には調査結果を発表します。評価結果には3つのパターンがあります。一番可能性が高いと判断されると「巨大地震警戒」、2番目が「巨大地震注意」。あまり関係がないと判断されれば、「調査終了」となります。
西村)評価検討会ではどんなことを話し合うのですか。
西村卓也)地震のマグニチュードは気象庁で決める速報的なマグニチュード。地震のデータを精査して、より地震のサイズを的確に表す「モーメントマグニチュード」を計算します。これでマグニチュード7.0以上の地震と判断されれば、「巨大地震注意」という情報になります。またマグニチュード8以上なら「巨大地震警戒」という情報になります。
西村)今回は、「巨大地震注意」という情報が出ました。モーメントマグニチュードが7.0以上だったということですか。
西村卓也)今回は7.0でした。モーメントマグニチュードは計算するのに時間がかかります。
西村)「巨大地震注意」という言葉はかなりインパクトがあります。びっくりした人が多かったと思うのですが、巨大地震の発生確率はどれぐらい上がったのでしょうか。
西村卓也)平常時に比べると数倍高まっていると言われています。南海トラフ地震が発生する可能性は1日あたり、0.1%程度。それが0.5%ぐらいに上がっている状態です。
西村)そもそもこの巨大地震注意とはどういうことなのでしょうか。
西村卓也)日向灘で起こった地震は南海トラフ地震そのものではありません。南海トラフ地震の想定震源域の中の一部が断層としてずれたということです。世界には、やや小さい地震の後に、大きい地震が来た事例がいくつかあります。2011年3月11日の東日本大震災のときも、2日前にマグニチュード7.3の地震があって、その後マグニチュード9.0の本震が来ました。そのような事例から、「今回の7.0の地震が南海トラフ巨大地震に結びつくかもしれない」ということで、いろいろな情報が出るようになったのです。
西村)今回は「巨大地震注意」でしたが、「巨大地震警戒」が出された場合は、どのような行動が求められるのですか。
西村卓也)「巨大地震警戒」は事前避難が求められます。津波想定浸水域内の場所、地震の揺れが強いと予想されている場所では、事前に逃げる対応が必要です。
西村)「巨大地震注意」はどのように考えれば良いのでしょうか。
西村卓也)基本的には普段の生活をそのまま続けてください。ただ地震の発生可能性はやや高まっている状態なので、改めて地震に対する備えを見直すことが必要です。
西村)ここでメッセージを紹介しましょう。東大阪市にお住まいの「ラジオネーム74歳の主婦」さんです。「日向灘の地震で、今後地震が起こる確率が高くなり、注意するように言われて戸惑っています。いつどこで遭遇するかわからないので、何からしたら良いのか教えてください」
どうしたら良いのかわからなくて、パニックになる人もいると思います。あわてて水などを買いに行った人もいるかもしれませんね。
西村卓也)一番おすすめするのは、家の家具の固定。南海トラフ地震は、強い揺れの範囲が広いので、家が倒壊せずとも家屋の中で、家具が転倒して怪我をすることが多いです。これを機に家具の固定をしてください。自宅周り、旅行先、特に海の近くは、津波から逃げる高台があるかを確認しましょう。普段から情報が常に入るようにテレビ・ラジオを聞くこと、スマートフォンで情報を入手することを心がけてください。
西村)念のため旅行先にも携帯ラジオを持って行き、車には非常用の水や食料、携帯トイレも積んでおこうと思います。ほかにはありますか。
西村卓也)家族との連絡手段を確認しておきましょう。お盆に実家などに帰省したときに改めて確認してください。
西村)宮崎の地震が起こった夕方には、ドラッグストアなどで水が売り切れたそう。買いだめをする人が増えているという報道もありました。
西村卓也)今回の情報を機に備えを見直すことは良いことですが、パニックになる必要はありません。できることからやりましょう。今すぐに水が必要なわけではありません。
西村)「巨大地震注意」は、備えのレベルを一段階上げようということなのですね。お盆休みに旅行に行く人も多いと思いますが、気になるニュースが入ってきました。和歌山県・白浜町では白浜海水浴場を1週間ほど閉鎖して、温泉施設も臨時休業をするとのこと。JR西日本は、特急黒潮の和歌山から新宮間の運転を取りやめるとのこと。お盆休みに他府県から多くの方が訪れるときですが、このような対応は必要なのでしょうか。
西村卓也)地震や津波の発生の可能性が高まっているので、海水浴場などすぐに避難が難しい場所では、備えとして閉鎖という方法もありうると思います。ただ基本的には、普段の生活を続けて良いというレベルの情報。そこまで過敏にならなくても良いです。まずはできることをしてください。今回初めてこのような情報が出るので、自治体も難しい判断を迫られているのだと思います。
西村)特に白浜は、他府県から多くの人が訪れるところ。土地勘のない人々をスムーズに避難誘導することができるのか、という問題もあるのだと思います。このお盆休みの旅行は取りやめた方がいいのでしょうか。
西村卓也)外に出るのを控えたり、取りやめたりする必要はないと思います。自分の旅行先のことを事前に調べること。津波の浸水域に入る場所なら、避難場所を確認しておく。そのように地震に関する注意をしておけば、普段通りの生活や旅行をしても問題ありません。
西村)どのように調べたら良いでしょうか。
西村卓也)自治体のホームページ等を見てください。ハザードマップを見ると津波の想定浸水域がわかります。
西村)事前に避難場所を調べておくと安心にもつながりますね。海水浴が可能な場所もありますか。
西村卓也)場所によって想定される津波の高さは違います。実情に合わせて判断してください。
西村)「南海トラフ地震臨時情報」は「1週間程度、大きな地震に注意しましょう」ということですが、1週間経ったら解除されるのでしょうか。
西村卓也)解除という情報は出ませんが、毎日気象庁から情報は出ます。当座の目安が1週間ということです。1週間を過ぎたからといって急に巨大地震の発生確率が下がるわけではありません。地震の直後は発生確率が一番高く、1日1日確率が下がっていくといくことです。
西村)1週間経ってなにもなかったから安心というわけではないのですね。
西村卓也)可能性がゼロになるわけではありません。改めて地震に対する備えを強化したら、それを継続していきましょう。
西村)宮崎県沖の地震のほかにも各地で地震が発生しています。9日午後7時57分頃、神奈川県西部を震源とする地震がありました。南海トラフ地震の想定震源域ではない場所で大きな地震が起こりました。どこで大きな地震が起こるかわかりませんね。
西村卓也)日本列島は普段から地震が多いところ。地震が連発することもあります。2つの地震の間に何か因果関係があるわけではないです。地震に関する情報に敏感になっているかもしれませんが、特別異常なことが起きているわけではないので冷静に地震に対する備えをしましょう。
西村)このお盆休みは良い機会。家族で相談するタイミングになると思います。
西村卓也)これを機にぜひ家族で地震に対する備えについて相談してください。
西村)きょうは、京都大学防災研究所 教授 西村卓也さんにお話を伺いました。