第1443回「内水氾濫の危険性」
オンライン:山口大学 特命教授(環境防災学)山本晴彦さん

西村)5月末に近畿地方でも記録的な大雨を観測しました。
きょうは、大雨により下水道や排水路から水が町中にあふれる内水氾濫について、山口大学 特命教授 山本晴彦さんにお話を伺います。
 
山本)よろしくお願いいたします。
 
西村)内水氾濫はなぜ起きるのでしょうか。
 
山本)淀川などの大きな川は堤防がしっかり作られているのでなかなか決壊しません。決壊しないので雨が降ると水位が上がります。水門を閉めて逆流を防ぎますが、ポンプ場ででも排水しきれずに内部の低いところに水が溜まってしまうのです。
 
西村)ものすごい量の水が溜まるのですね。
 
山本)大阪湾に流れたら良いのですが、流れずに溜まった水が住宅地や市街地に貯まって水害が起こります。
 
西村)マンホールから水が噴水のように噴き出したり、道路が川のようになったりしているニュースをよく見ます。トイレやお風呂場に下水が逆流することもあるのですか。
 
山本)町に水が滞留すると家の中に入ってきて逆流して、トイレなどから水が溢れてしまうこともあります。
 
西村)外の道路のアンダーパスも危ないですよね。
 
山本)近年はアンダーパスで度々事故が起こっているので、ランプや注意を促す表示が設置されています。いつも走っている道なら危ないとわかりますが、初めての通る道なら突っ込んでしまうことも。車は50cmぐらい水に入ると浮いてしまいます。
 
西村)たった50cmで浮いてしまうのですね。
 
山本)車はそれほど重くありません。軽自動車なら800~900kg。中は空洞なので浮いてしまいます。流れて人が亡くなってしまうこともあります。
 
西村)車に乗ってたいら大丈夫というわけではないのですね。
 
山本)車で避難や移動をするときは細心の注意が必要です。
 
西村)内水氾濫が起こったら水の流れはどんどん早くなるのですか。
 
山本)厄介なのは、さらに低いところに水が集まってしまうとことです。内水氾濫の対策はどのような形で水を流していくか。大きな川に水を流していくことが大事です。
 
西村)内水氾濫が起きやすい場所やよく起こっている場所はありますか。
 
山本)大阪の梅田のJR大阪駅の北側、淀川との間は、もともと水田だった低平地を埋めたので、「梅田」と呼ばれています。湿地帯の低いところに人口が増えて明治時代から開発されてきました。そのようなところが水がたまりやすいく危ないです。
 
西村)九州でも水害の話をよく聞きます。
 
山本)福岡県・久留米市に6年間住んだことがあるのですが、筑後川の中流域の低平地は、住宅地や商業用地が開発されていて内水氾濫で度々浸水被害を受けています。久留米市の金丸川、池町川流域はこの5年間で約4回の水害が起きています。
 
西村)かなり頻度が高いですね...。
 
山本)元は低平地の水田で蓮根畑もあったような湿地帯。水はけが悪いので水害の常習地となっています。
 
西村)土地の歴史も調べておかないといけませんね。
 
山本)昔の地図を見たりして自分がいる場所の危険性を知っておきましょう。
 
西村)2020年に福岡県・大牟田市で水害がありました。あのときも結構浸水しましたよね。
 
山本)あのときは、諏訪川のポンプ場で排水したのですが、ポンプ自体が浸水してしまって水が溜まる事態に。その地域の人々は自治体に対して訴訟しています。
 
西村)深いところでどれぐらい水が溜まったのですか。
 
山本)約1m50cmです。近くの小学校では、学校から「迎えに来てください」と言われた保護者が子どもと一緒に帰ったのですが、かなり危険な状態でした。通学路の中には低い場所もあるので、危なくなったら学校に泊まらせるか、引き渡しのタイミングを考えることが重要だと思います。
 
西村)内水氾濫の対策が必要だと思います。内閣府の調査では、9割の自治体で、内水氾濫のハザードマップがまだ整備できてないそう。
 
山本)ハザードマップには外水氾濫と内水氾濫の記載があります。外水氾濫は、堤防が決壊したときにどのように水が流れ込んでくるかをシミュレーションするので、比較的簡単なのですが、内水氾濫は下水管や雨水管、調節池や地下の貯水施設...さまざまなものを総合的に計算しなければなりません。時間も手間コストもかかるので進んでいないのが現状。ハザードマップを早く作って多くの人に周知されることが大事だと思います。
 
西村)ハザードマップを進めるのが難しいなら具体的な対策を一つずつやっていくしかないですね。自治体などがこれからやっていくべき対策はどんなものがありますか。
 
山本)大阪なら寝屋川、大和川などの特定都市河川が特に内水氾濫の危険性が大きいです。たとえば、「運動場を少し掘り下げて水を溜める」「大きな公園の下に貯水タンクを作って水をためる」こともできます。「土地を開発したときに必ず貯水施設を設ける」「雨水タンクを設けて一時的に貯水をする」などの工夫をすると、内水氾濫が少なくなるかもしれません。
 
西村)家庭でも雨水タンクを作っておけば、万が一地震で断水したときにも役立ちそうですね。
 
山本)雨水を貯めておくとトイレの水などにも利用することができます。
 
西村)ほかに、わたしたちにできることはありますか。
 
山本)家を買ったり、借りたりする前にその場所の状況を把握すること。未だに浸水想定区域もどんどん開発されています。安い土地はいわく付きです。土地を上げて浸水しにくくする、別のところに住むのも方策のひとつ。自分たちの家がある場所の水害リスクをしっかりと確認することが大事です。
 
西村)帰宅時などに地下街で内水氾濫に巻き込まれた場合はどうしたら良いですか。
 
山本)梅田の地下街は迷路のようになっていますよね。入口には水を止める水盤を設けていますが、水盤を乗り越える可能性もあります。地下鉄とつながっているところはそちらに水が流れていくので安心かもしれませんが。地下街の中で比較的、高いところに移動するしかないと思います。移動することができれば、地上の階に上がって垂直避難をしてください。
 
西村)大雨の予報が出たら、外出しないことですね。
 
山本)日頃から自分たちが歩いているところにどのようなリスクがあるのかを確認しましょう。ハザードマップはスマートフォンでも見ることができます。「もしここで雨が降ったらどうするか」を日頃から考えておく。そうすると災害時に素早く行動ができます。そのような危機管理をしてほしいと思います。
 
西村)きょうは、内水氾濫の危険性について、山口大学 特命教授 山本晴彦さんにお話を伺いました。