第1420回「阪神・淡路大震災29年【1】~若者による震災語り部隊」
ゲスト:あすパ・ユース震災語り部隊 代表 池田拓也さん
    メンバー 灘高校2年生 平野遥人さん

西村)6434人が亡くなった阪神・淡路大震災。来年1月17日で発生から29年が経ちます。被災地での追悼行事はピーク時の4割にまで減り、次世代へ震災の体験や教訓をどのように語り継ぐのかが課題となっています。そんな中、震災を経験していない若者たちによる語り部の活動が始まっています。
きょうは、若い世代の語り部活動を行う、あすパ・ユース震災語り部隊 代表 池田拓也さんとメンバーの平野遥人さんにスタジオに来ていただきました。
 
池田・平野)よろしくお願いいたします
 
西村)おふたりは、語り部活動以前から交流があったのですか。
 
池田)わたしは灘中高の教員をしています。先生と生徒の関係です。
 
平野)僕は灘高校の2年生です。

 
西村)「あすパ・ユース」という名前にはどのような意味があるのですか。
 
平野)神戸市灘区の地域共生拠点「あすパーク」を拠点に震災の語りをする若者という意味で、この名前になりました。
 
西村)震災語り部隊はいつ頃発足したのでしょうか。発足のきっかけについても教えてください。
 
池田)2022年に発足しました。わたしは「あすパーク」に正会員として設立前からかかわっています。「あすパーク」がある場所は、阪神・淡路大震災の時に避難所や仮設住宅があった場所なので、そこで何か震災にかかわることがしたいと。わたしは若者に携わる仕事をしているので、ぜひ若者を巻き込んでやりたいと思っていました。
 
西村)阪神・淡路大震災に関心を持っている生徒はいましたか。
 
池田)阪神・淡路大震災は、生徒たちが生まれる前の出来事なので関心を持つ人はなかなかいなかった。しかし、生徒たちが学校の行事で東北に行ったときに、「自分たちが住んでいる神戸のことをもっと知りたい」という声があり、この活動を始めることになりました。
 
西村)番組では、先週12月23日、神戸市灘区で行われた震災語り部隊の活動を取材しました。若者たちが事前に震災経験者から聞き取った体験談を、震災の被害を受けた神戸市灘区の成徳地区を歩きながら語り継ぐという活動です。10代のみなさんが語りをしているようすと、参加者のインタビューをお聞きください。
 
音声・若者)きょう、進むルートを言っていきます。最初に行くのは、成徳小学校。2番目は大和公園、最後に徳井会館を回って、ここに戻ってこようと思います。では、お願いします!
 
音声・若者)ここは大和公園です。震災当時は避難してきた人がここでテントを作って暮らしていました。しかし、ここに2階建ての仮設住宅ができることになり、全員どいってもらったんです。自分たちが入居できると思っていたのに、灘区の人たちは一切入れず、長田の人が入ることになって。仮設住宅の管理人さんがいない時間に揉めごとが起こったそうです。今は公園になり、小学生が野球をしていますが当時はそんなことがありました。
 
音声・若者)あそこでバーベキューをしていたそうです。「最初の1週間は豪華な食事ができた」とあそこの自転車屋さんから聞きました。
 
音声・参加者)みんな食べ物を持ってきてね。そのそこいらで何か焼いていました。震災直後はうちもお肉やウナギやらいっぱいあったな。それがなくなると貧しくなりましたけど。
 
音声・参加者)わたしは東灘区の住人ですが家は一部損壊だけで済みました。家族にけが人はいませんでした。

 
音声・番組ディレクター)このように若い世代が震災を伝承することについてどう思いますか。
 
音声・参加者)震災は、考え方や生活の手段など人間の生きていく基本が問われます。きょうの説明を聞いていると、そこをつかんでくれたと思う。それは災害に関わらず、日常の暮らしの中でも生かされると思います。
 
音声・参加者)経験していないことを語り継ぐことができなかったら、戦争や災害など同じように悲しいことが起き続ける。震災を経験していない若い世代が経験している世代から話を聞いて、下に受け継いでいくという活動は有意義だと強く思います。

 
音声・番組ディレクター)この活動に参加してみてどう思いましたか。
 
音声・参加者)僕は、震災の記憶が薄れていっています。当時30代だったのですが、当時の記憶はほとんどないし、語り継ぐこともありません。当事者も年を取っていきます。今後、備えについても考えていかなければならない中で、若者たちが活動してくれるのは良いことだと思います。
 
西村)震災を経験した参加者が当時を語っている場面もありました。世代を超えたコミュニケーションの場になっていますね。平野さん、この活動を始めてみてどう感じますか。
 
平野)僕はこの活動を始めるまで兵庫県にあまり接点がなくて。この活動を始めて、たくさんの人と出会って話を聞くことができました。世代を超えた交流ができる活動はなかなかないと思うので楽しんでやっています。
 
西村)あすパ・ユースのメンバーには、どんな人たちがいるのですか。
 
平野)基本は高校生ですが、高校生のときに参加して現在大学生の人もいます。こないだは小学生の人も入ってきました。さまざまな学校・世代の人たち参加しています。
 
西村)阪神・淡路大震災など生まれる前の震災体験について、家族から話を聞いたことはありましたか。
 
平野)両親が兵庫県出身で、父が長田に住んでいて大変だったという話を聞いたことはあります。活動を始める前は簡単な話しか聞いたことがなかったので教科書で学ぶこととあまり変わりませんでした。
 
西村)あすパ・ユースに参加しようと思ったきっかけは。
 
平野)池田先生が授業で参加を呼び掛けてくれました。面白そうだなと思って参加しました。
  
西村)参加してから気持ちの変化はありましたか。
 
平野)地区のことをもっと知りたいし、もっとうまく喋れるようになりたいです。できれば長く続けたいと思っています。
 
池田)この活動の良いところは卒業がないこと。社会人になった人も来てくれました。所属が変わってもできる活動はなかなかないと思っています。ずっと続けてほしですね。
 
西村)平野さん、震災を経験してきた人から聞いた体験談の中で心に刻まれているエピソードはありますか。
 
平野)乙女塚温泉という温泉があるのですが、被災して設備が壊れて水は止まったけど、温泉のお湯は出たそうなんです。その話がとても印象的でした。地震が起きたときは、「何とかなる」という気持ちが大事と聞いたことがあって。震災が起きて絶望することもあると思いますが、人の温かさを感じることもあると思います。僕も「何とかなる」という精神でいられるようしたいと思いました。語り部活動に参加してなかったらたくさんの大人とかかわる経験もできていないと思います。さまざまな人から話を聞いて交流した経験は自分の糧になると思います。
 
西村)「話を聞いて自分の言葉で伝える」ということをやってみていかがですか。
 
平野)震災の経験を聞くことが僕らにとっては経験になる。それを僕たちの言葉で伝えていくので、普通の語り部(自分の経験を語る語り部)とあまり変わらないと思っています。
 
西村)先ほどの取材音声の中で、この活動に参加した震災経験者が「震災の記憶がだんだん薄れてきている、震災を経験していない人が自ら先頭に立って語ってくれてことはありがたいこと」と言っていました。平野さん、それを聞いてどう思いますか。
 
平野)若い世代が語ることに対して思っていることを聞けてよかったです。
 
西村)世代を超えたコミュニケーションがそれぞれの思いを深め、そして成長させていくのですね。
 
池田)震災体験は、若者だから聞くことができると思っています。今の若者は、みんなコロナを経験しています。コロナの経験を10年後の世代に伝えるとき、罹患したこと以外に自由に移動できなくなったり、マスクが必須になったりした空気感を伝えることが大事。この活動の良いところは、これまで語ってこなかった人に出会えるところです。語り部というと、悲惨な体験を語り継ぐ人が多く、メディアもそんな語り部ばかり取り上げます。でもメディアもアクセスできない人に彼らはアクセスできるんです。「自分の経験なんて語る価値がない」「大変な思いはしていない」という人も多かれ少なかれ大変な思いをしているはず。人と比較するのではなく、ストレートに話してもらう。震災時の些細なことこそ風化しています。被災者は若者に喋りながら「あれもあったこれもあった」と思い出していきます。小さな出来事にもすごく大事なことが含まれているし、そんな空気感が若者に伝わります。それはほかの活動にはないことなのかなと。期待を上回る成果が出ていると思っています。
 
平野)この語り部は、たくさんの参加者と話しながらできるところが良いと思っていて。僕たちが準備して話すことだけでは気付けないことを気づかせてもらえる活動です。
 
西村)わたしもみなさんの活動を聞きに行きたいと思いました。池田さん、今後の活動予定はありますか。
 
池田)語るために学ぶこともしながら、月1回、先ほどの音源のような活動をしています。1月に実施する予定のカフェ企画もあります。これは語り部というよりは、多世代交流する中で、阪神・淡路大震災のことを若者に語ってもらう企画。この企画は、フランクにいろんな話が聞けるので若者にも好評です。成徳地区を対象にしていますが、若者と喋りたい人はふらっと来てほしいです。参加費は無料です。
  
西村)平野さん、この活動を通して今後の目標があれば教えてください。
 
平野)2024年の1月17日にまたいろんな人から話を聞く機会があると思うので、節目は大事にしたいです。この経験を生かしていけたらと思っています。
 
西村)きょうは、若い世代にある阪神・淡路大震災の語り部活動を行う、あすパ・ユース震災語り部隊 代表 池田拓也さんとメンバーの平野遥人さんにお話を聞きしました。