第1464回「おもてなし防災」
ゲスト:大阪市港区まちづくりセンターの防災アドバイザー 多田裕亮さん

西村)最近は大阪の街でも多くの外国人観光客を見かけるようになりました。来年4月に開幕する「2025年大阪・関西万博」には、約350万人の外国人が訪れると見込まれています。もし、万博開催中に大きな地震が起こったら、地震や津波の怖さを知らない外国人観光客をスムーズに避難誘導することができるのでしょうか。外国人観光客に防災意識を持ってもらう「おもてなし防災」というプロジェクトが始まっています。
きょうは、このプロジェクトに関わっている「大阪市港区まちづくりセンター」防災アドバイザー 多田裕亮さんにスタジオにお越しいただきました。
 
多田)よろしくお願いいたします。
 
西村)「おもてなし防災」とは、どのような取り組みですか。
 
多田)訪日外国人のための防災対策。今年、6月に万博の300日前を起点に始まったプロジェクトです。行政や民間企業、飲食店なども含めた官民一体となった取り組みです。
 
西村)万博の開催前ですが、たくさんの外国人観光客を見かけます。港区には海洋館やサンタマリア号がありますね。
 
多田)港区には、アリーナ会場などの集客施設もあって、大きなイベントも多いです。弁天町駅も港区にあります。これから万博に向けて人が増えていく港区を中心に「おもてなし防災」の活動をしています。
 
西村)外国人観光客以外にも、たくさんの人が訪れる港区。万博が始まればさらに人が増えますね。
 
多田)万博へアクセスする中央線は港区を通っていて、弁天町駅は万博に行く交通の結節点。人が一番集まる場所で、南海トラフ巨大地震が起きて、津波が来たらどうするのか。津波浸水想定区域で外国人が地震に巻き込まれてパニックになったら、どのように安全に逃がすのか。観光客の命も住民の命も一緒に守る方法を考えています。
 
西村)外国人は地震を経験したことがない人も多いでしょうね。
 
多田)災害がない少ない国もありますし、日本のように防災という考えがない国もあります。
 
西村)津波がどんなものかもわからない人も。
 
多田)南海トラフ巨大地震が発生したら、大阪市内には最短で約1時間50分で津波が到達すると言われています。港区には約1時間54分で津波が来ます。それまでに頑丈な建物の3階以上に逃げるように啓発しています。それを外国人にどのように伝えるかが課題です。
 
西村)「大きな地震が起きたら、津波が発生するから早く逃げる」ということが当たり前ではない国がたくさんあるのですね。スマホ片手に、海沿いに津波を見に行ってしまう外国人もいるかもしれません。
 
多田)区内に在住の外国人は「ここは海から近くない。津波は本当に来るのかな?」と言っていたので、「川も近いし、津波の浸水想定区域内です。津波警報が鳴ったらすぐに3階上に逃げてください」と伝えました。津波避難のピクトグラムや避難誘導の表示は、海外の人にはわかりにくいようです。
 
西村)具体的にはどんな活動をしているのですか。
 
多田)ウェブサイトで避難誘導のためのポスターやチラシを公開しています。英語版のほか、さまざまな言語で記載しています。
 
西村)自由にダウンロードできるのですね。「TUNAMI WARNING」と英語、日本語、中国語、韓国語、ベトナム語で書かれていますね。
 
多田)他にもいろんな言語に対応できるように準備を進めているところです。
 
西村)「もし大きな地震がおきたら、ここに114分以内に津波が来ます。丈夫な建物の3階以上に、にげてください」と書かれています。
 
多田)これは、大阪市港区の状況を書いたポスターですが、港区以外で使えるポスターもあります。「津波が来るまでの時間」と「避難場所」が白抜きになっているので、そこに数字を書けば伝わる仕様に。ダウンロードして印刷して、数字を書き入れたら、その場所ごとのポスターができます。まずは、地域のハザードマップを参考にして、自分の地域の津波のリスクを知ること。近所に外国人が増えてきたという人は、これをダウンロードして掲示しておくと、外国人にも伝わりやすいと思います。
 
西村)港区ではもうポスターが貼られているのですか。
 
多田)区内各所にこのポスターを掲示しています。個人店にも掲示場所を広げています。
 
西村)このポスターを見た人の声はどんなものがありますか。
 
多田)外国人には、伝わりやすくなっていると思います。このポスターを見て、再確認する日本人も。まずは、自分の命を守ることが一番大事。自分が住む地域の津波リスクをきちんと把握しておきましょう。
 
西村)港区には、どんな津波避難ビルがありますか。
 
多田)中央線の駅は津波避難ビルになっています。中央線は地下鉄ですが、昔の高潮災害の影響もあり、高架化されています。ほかにも区役所が協定を結んでいる民間のマンションやオフィスビルも津波避難ビルになっています。
 
西村)大きな地震が起きて、目の前に外国人観光客がいて、パニックになっていたらどんな声かけをしたら良いのでしょう。ダウンロードできる「おもてなし防災マニュアル」には、声かけの言葉も記載されていますね。
 
多田)いざというとき、どのように声をかけたら良いのかわからないですよね。
 
西村)自分もパニックになっているから言葉が出てこないと思います。
 
多田)「スタッフの指示に従ってください」と英語・韓国語・中国語の3言語で書かれています。言葉で伝えるのが苦手な人もこれを印刷して掲示して示すことで伝わると思います。
 
西村)「スタッフの指示に従ってください」=「Please follow the instructions of the staff」。
「あちらへ逃げてください」=「Move to that direction」
これ!これ!と指をさすと読んでもらえますね。耳が聞こえない人も文字で表示されていると読むことができます。目で見た方が理解しやすいという人もいると思います。
 
多田)災害時は、防災無線などの大きな音も鳴っていて、混乱しています。視覚情報があるとないとでは全然違うと思います。
 
西村)津波避難ビルのピクトグラムは見たことがありますが、防災に関する表示も増えたら良いですね。
 
多田)「おもてなし防災」の公式Xでも、声かけのフレーズを紹介しているので参考にしてください。
 
西村)いよいよ来年4月に「2025年大阪・関西万博」が開幕します。防災の準備も進めていく中で、今後の課題はありますか。
 
多田)「おもてなし防災」は外国人をターゲットにしたプロジェクトですが、一番大事なのは日本人のわたしたちが自分の地域の津波リスクを把握しておくこと。自分の避難場所を見つけておかないと、人に伝えることができません。このプロジェクトをきっかけに、1人でも多くの日本人に防災意識を高めてもらいたいです。まずは自分の備えから。自分の地域にどれくらい津波来るのか、どれぐらい揺れるのか。ハザードマップで確認して、備えを進めてください。
 
西村)「おもてなし防災」のウェブサイトにたくさんの情報がアップされているので、ぜひご覧ください。
きょうは、おもてなし防災というテーマで、大阪市港区まちづくりセンター防災アドバイザー 多田裕亮さんにお話を伺いました。