ゲスト:MBSお天気部 気象予報士 前田智宏さん
西村)きょうは、MBSお天気部 気象予報士 前田智宏さんと一緒に生放送でお送りします。
前田)よろしくお願いたします。
西村)台風10号は今どの辺でどんな状態ですか。
前田)台風10号は、1日の正午に熱帯低気圧に変わりました。
西村)家の中に入れていたベランダのものは戻して良いですか。
前田)もう暴風が吹く恐れはないので、風の対策は必要ないですが、この低気圧は湿った空気をたっぷり持っているので注意が必要です。この時間も近畿地方の広い範囲で雨が降っています。まだ雨が激しく降るところもあり、大雨で地盤の緩んでいるところもありますので、大雨への警戒は続けてください。
西村)まだ油断はできませんね。今回の台風10号では、これまでに7人が亡くなりました。愛知県の土砂崩れで家族3人が亡くなり、徳島県では木造家屋が倒壊して下敷きになった人や、福岡県では増水した川を見に行った高齢の男性が亡くなりました。そのほか、行方不明が1人、けがをした人は129人。宮崎市では8月28日に竜巻と推定される突風で、750棟を超える住宅が損壊。この竜巻も台風が影響しているのですか。
前田)台風の北東側は、竜巻が発生しやすいエリア。台風が影響して竜巻が発生したと考えてもおかしくありません。
西村)台風から離れたところでも大雨が降り、新幹線や飛行機が運休になりました。予定を変更した方も多かったのではないでしょうか。この台風は、8月22日にマリアナ諸島周辺で発生しました。当初はまっすぐに北上して、日本の東海地方や近畿地方を直撃するかもしれないと言われていましたね。
前田)当初は、8月27日~28日に近畿に近づくのではないかという予想でしたが、どんどん接近のタイミングが遅くなりました。
西村)コースが予想よりも西に変わり、29日に鹿児島県・薩摩仙台市付近に上陸しました。西寄りのコースになったのはなぜですか。
前田)太平洋高気圧の勢力や思いもよらない寒冷渦の効果が影響したからです。台風は、太平洋高気圧の縁を回って、その間をよけるように北上する予想でしたが、太平洋高気圧の東からの張り出しが強まり、北に進む台風を通せんぼする形に。上空に冷たい空気を伴った反時計回りの寒冷渦が台風の近くに存在していて、予想よりも影響が強くなったことも原因です。台風が渦の方にどんどん引っ張られて、寒冷渦につられて西へと進んでいったのです。
西村)台風が日本に近づいてもずっと予報円が大きかったですよね、円が大きいし、重なっているから何日のことを指しているのかわからなくて。気象予報士としても伝え方・予想が難しかったのではないですか。
前田)予報円が大きいということは、予報が定まっていないことを意味しています。不確実な状況の中で、確実なことが言えないことが心苦しかったです。
西村)なぜこんなに速度がゆっくりだったのですか。
前田)そもそも動きが遅いのは夏の台風の特徴でもあります。台風は、自分自身で動く向きや速度を決めることができません。周りの風に流されて動いていきます。夏場は日本の周りで風がしっかりと吹いていません。夏は、偏西風(西から東に向かって吹くジェット気流)が、北の方に離れているので、台風はこの偏西風に流されることもなく、周りの遅い高気圧の縁の風にノロノロと動かされて進んで行きました。台風も行く手を阻まれていた状況だったから、ウロウロしてしまったのです。秋になると偏西風がもっと南の方に下がってきます。秋の台風は日本付近に来ると、東の方に速度を上げて進んでいくイメージがあると思います。今回は、季節が夏モードで動きが遅くなってしまったのです。
西村)今回の台風10号は、最強クラスに近いと言われていました。伊勢湾台風級と聞いてビックリして。関西を襲った2018年の台風21号の被害を思い出して怖かったです。台風要因の特別警報が出されるほど発達して非常に強い勢力となりました。ここまで強い勢力となったのはなぜですか。
前田)発達の大きな原因になっているのは海水温の高さです。台風は海面水温が27℃以上で発達しやすくなります。九州の周りの海面水温は現在30度以上という状態。海水温が高いので、水蒸気がどんどん台風に供給されて、台風がエネルギーを得ることができた。海の深いところまで海水温が高いことも影響しました。一時は中心付近の最大瞬間風速が毎秒70m。時速にすると約250kmの暴風が吹き荒れていました。
西村)九州では、家が倒壊したところもありました。停電もしていました。
前田)九州に上陸した時点で少し勢力が落ちて、九州を進んでいきました。
西村)急速に勢力が弱まったのはなぜですか。
前田)台風は海の水蒸気をエネルギーにして進んでいくので、上陸した後は、綺麗に渦を巻くことができなくなります。九州には高い山があるので、風が山にぶつかってうまく渦が作れません。地形の摩擦の効果で勢力がどんどん落ちていきました。さらに台風の周辺には高気圧があって、高気圧の北東から乾いた空気が台風の方に供給されたことも台風の発達を妨げた原因。乾いた空気が入ってくると台風は弱くなります。当初の予想よりも早く衰弱したので、関西で暴風が吹かなかったのだと思います。
西村)リスナーからメッセージが届いています。神戸市の東灘区のラジオネーム「ひろくん」さんからです。「僕の地域では、ほとんど雨が降りませんでしたが、北海道まで雨が降っていたと聞きました。北海道まで雨が降っていたのはなぜですか」
前田)今回の台風は広い範囲で雨が降りました。北海道の雨は台風が原因というよりは、北日本付近にある秋雨前線に伴う雨と見られます。秋雨前線に台風の周りの湿った空気が供給されることによって、活動が活発になりました。これが北日本で大雨になった原因の一つ。関東、東海地方の大雨も太平洋から流れ込んでくる台風周辺の湿った空気が影響しています。日本の東にある高気圧の縁を回って流れ込んでくる湿った空気が、台風の周りの湿った空気と合流して、東日本に流れ込んだことが台風から離れている場所で大雨になった原因です。
西村)離れていても油断ができないということですね。
前田)神戸から少し離れた淡路島では、線状降水帯発生情報も発表され、かなりの雨になりました。少し場所がずれたら、大雨になっていた状況でした。
西村)今回のように進路が予測しにくい台風の場合は、どのような情報に気をつければ良いのでしょうか。
前田)最新の情報をどれぐらいの頻度で確認すれば良いのかわからないですよね。予報円や進路図などの台風情報は更新されるタイミングは決まっています。
西村)毎日同じ時間に更新されるのですか。
前田)台風が日本に近づいてきているときは、1時間ごとに台風の情報が更新されますが、進路の予想はそこまで頻繁には更新されません。予報円が更新されるタイミングは1日4回。時間は午前と午後の4時前と10時前。「3時現在」「9時現在」という情報が出されます。そのタイミングで情報を見ると、最新の進路図が確認できます。
西村)テレビ・ラジオ以外では何をチェックすれば良いですか。
前田)気象庁のホームページで台風の進路予想を見ることができます。台風が接近して大雨が降ったら、「キキクル(危険度分布)」を見てください。土砂災害、浸水、川の氾濫の危険度がどれぐらい高まっているのかを細かく確認できる地図です。自宅の近くの川がどれぐらい増水しているかは、気象庁と国土交通省のサイトの「川の防災情報」で、河川カメラの映像や写真を見ることができます。うまく活用できるように、普段から慣れておいてください。
西村)これからまだ台風は来ますか。
前田)まだ台風シーズン真っ只中。また新たな台風のたまご(熱帯低気圧)がフィリピン付近にあり、明日にも台風11号になると見られます。これも動きが遅いです。大陸の方に進んでいく可能性が高いですがわかりません。今回のように予想が変わる可能性もあるので注意をしておいてください。
西村)この後、暑さはどうなりますか。
前田)明後日以降、厳しい暑さが戻ってきます。大阪でも35~36℃の日が多くなりそう。まだまだ熱中症対策が必要です。
西村)雨の対策、熱中症の対策もしっかりしましょう。改めて台風への備えについて伝えたいことはありますか。
前田)今回の台風は、関西では被害が少なかったですが、被害があるかないかは紙一重。台風から離れた地域でも大雨災害が起きているので、「今回何もなかったってから安心」ではなく、一つ間違えれば関西でも大きな被害が出ていたかもしれないので、この先も油断はしないようにしましょう。今回確認した備えを次につなげてください。
西村)きょうは、MBSお天気部 気象予報士 前田智宏さんとお送りしました。