第1450回「夏休み!子ども防災シリーズ【1】
       ~読書感想文にもおすすめの『防災絵本』」
オンライン:防災絵本専門士 古賀涼子さん

西村)以前この番組では、災害の伝承や防災を創作絵本にして、子どもたちへ伝える「人と防災未来センター」の取り組みを紹介しました。地震や台風などの自然災害が多い日本では、これまでも防災に関する絵本がたくさん出版されています。
きょうは、「防災絵本」をコレクション・研究している防災絵本専門士 古賀涼子さんに、夏休みの読書感想文にもおすすめの防災絵本とその魅力についてお聞きします。
 
古賀)よろしくお願いいたします。
 
西村)古賀さんは、もともとアナウンサーだったのですね。
 
古賀)2001年に新卒でTOKYO FMに入社し、20年近く局アナとして活動してきました。今はフリーで活動をしています。
 
西村)どんなお仕事をしてきたのですか。
 
古賀)ニュースを読む以外にも、報道記者として防災・災害を担当し、災害報道や被災地の取材をしていました。防災番組のディレクター兼パーソナリティもしていました。
 
西村)東日本大震災のときも報道をしていたのですか。
 
古賀)発災直後から約7時間、生放送の特別番組を担当しました。その中で、被災者からたくさん話を聞き、学ばなければいけないことがたくさんあると感じました。
 
西村)そのような経験から防災絵本に出会ったのですか。
 
古賀)TOKYO FMの番組で防災や災害について伝え続けていました。防災士の資格に加え、絵本専門士という資格も持っています。
 
西村)そんな資格があるのですね。「防災絵本専門士」として活動を始めたきっかけは?
 
古賀)「絵本専門士」とは、国立青少年教育振興機構が認定するもので、「絵本に関する高度な知識、技能および感性を備えた絵本の専門家」と定義されています。絵本の専門知識がある人が選ばれて受講できます。毎年70人が絵本専門士として誕生していて、現在、全国で637人が絵本専門士をして活動しています。わたしは、2010年からTOKYO FMで絵本の読み聞かせ番組を担当しているのですが、東日本大震災の翌日の夜、これまで朗読してきた番組を再放送したところ、番組宛にたくさんのメッセージが届いたんですよ。
 
西村)どんな声が届いたのですか。
 
古賀)避難所にいる方からのメッセージで印象に残っているのは、「地震の後、読み聞かせを聞いた子どもたちが、初めて穏やかに眠りました。そのようすを見た大人たちも笑顔を取り戻しました」というもの。絵本の持つ力をすごく感じました。
 
西村)絵本の持つ力を感じた古賀さんは、その後被災地の取材を続けたのですか。
 
古賀)災害報道番組担当していて、さまざまな被災地の取材をしました。被災地を1~3年取材する中で、被災者自身が描いた防災・災害体験を描いた絵本にたくさん出会いました。災害伝承や防災の大切さを絵本を通して伝えていくことは、防災士・絵本専門士であるわたしにこそできることなのかもしれないと感じて。それから本格的に防災絵本を集め、研究をはじめました。
 
西村)防災がテーマの絵本はどれぐらいあるのでしょうか。
 
古賀)2024年の7月現在、約160タイトルあります。
 
西村)そんなにたくさんあるのですね。
 
古賀)大手出版社や被災地の小さな町の印刷所が手がけたもの、自治体が発行しているもの、被災者が自費出版したものなどさまざまな防災絵本があります。
 
西村)わたしも東北に行ったとき、被災者が自費出版した防災絵本を買って読みました。なかなかこちらまで届いてこないのが現状ですよね。
 
古賀)そうなんです。大手出版の流通には乗らないので広く伝わっていかない。災害や防災を描いた絵本は、読んでいてワクワクするものではないので、つながっていかないのかもしれません。残念ながら絶版になってしまった作品もたくさんあります。
 
西村)だからこそ、古賀さんが伝えてくれているのですね。防災絵本はどんな内容の絵本が多いですか。
 
古賀)一番多いのは、実際に発生した災害にまつわる絵本。日本の防災や災害を描いた絵本は、95年の阪神・淡路大震災からはじまりました。東日本大震災、熊本地震、九州豪雨、遡って、安政南海地震となどさまざまな災害を描いたものがあります。架空の災害を描いた絵本や防災教育に特化した絵本、自然現象として災害を科学的に説明する絵本などもあります。
 
西村)今はちょうど夏休み。ぜひ夏休みの読書感想文におすすめの絵本を教えてください。
 
古賀)小学校の低学年向けと高学年向けを1冊ずつ紹介します。防災や災害伝承の絵本というと、「悲しいのかな?」と躊躇する人もいるかもしれませんが、希望や再生を描いた作品もたくさんあります。
低学年向けの作品は、「たかのびょういんのでんちゃん」(岩崎書店・2018年)。
東日本大震災の実話がベースで、帯には「おおきな地震、津波、突然の停電。ちいさなヒーローが病院をすくった!」とあります。

 
西村)気になります!子どもたちはヒーロー大好きですもんね。
 
古賀)主人公は高野病院という病院にある自家発電機。高野病院は、何かあったときのために自家発電機を備えていたのですが、これまでに電気が止まったことはほとんどなく、でんちゃんは、30年間のんびり暮らしていました。ところがある日、大きな揺れと津波がやってきて、病院が停電。でんちゃんは、力一杯動き出して、ときには体が壊れてしまいそうになるくらい一生懸命、電気を作り続けるんです。「僕はみんなの命を守るためにここにいる!負けるもんか!」とでんちゃん。でんちゃんと病院のみんなが諦めずにどんなふうに踏ん張ったのか、患者さんの命を救ったのかが温かいタッチで描かれています。子どもたちに読み聞かせをしたとき、子どもたちが「でんちゃん頑張れ!」と言ってくれました。悲しいことだけではなく、希望もあったということを教えてくれる素敵な1冊です。
 
西村)備えの大切さも感じます。
 
古賀)高学年向けは、ユニークな視点の絵本を紹介します。
「うに~とげとげいきもの きたむらさきうにの ひみつ ~」(仮説社・2022年)です。

 
西村)うにと防災がどうやってつながるのでしょうか。
 
古賀)うには、東日本大震災が起きた南三陸の海で豊富にとれます。東日本大震災が起きたときに、海の中でどんなことが起きたのか、海の生き物たちがどんなふうに再生・復興していったのか、問題と課題をどのように解決していけばいいのかを主人公の「僕」の目線と「うに」の目線を通して丁寧に描いた作品です。
 
西村)ウニの目線...面白そうですね。
 
古賀)この本の文を書いた人は、海洋生物の研究者である東北大学の名誉教授と教授です。
 
西村)うにの絵もリアルなのでは。
 
古賀)図鑑本のようにページの隅々までぎっしりと、うにについてのリアルな絵が描かれていて、たくさんの情報が載っています。うにという生き物の不思議さや、東日本大震災がもたらした自然への影響をドキドキ・ワクワクしながら学ぶことができます。1800円で絵本にしては高いかもしれませんが、その価値は十分。高学年なら読書感想文と合わせて、自由研究の教材としても使える絵本です。
 
西村)絵本は、書店や図書館で見ることができますか。
 
古賀)通販や書店で購入できます。
 
西村)ぜひわたしも子どもたちと一緒に読んでみたいです。リスナーに伝えたい防災絵本の魅力を改めて教えてください。
 
古賀)防災絵本には、「災害が起きたら何が起きるのか」「人々はどんなことを思うのか」「命を落とさないために何をするべきなのか」が小さい子どもでもわかるように、選び抜かれた言葉と絵で描かれています。年齢・性別・国を超えて共有することができます。写真や映像では衝撃が強くなってしまうことも、絵本なら、年齢や状況に合わせた表現を大人が子どもに選んであげることもできます。防災絵本は小さな子どもだけが楽しむものではありません。大人のみなさんもわかりやすくて選び抜かれた言葉で描かれた防災絵本のページ開いてみてください。
 
西村)絵本を通じて、家族や友人と防災について向き合うきっかけにもなりますね。この夏、みなさんも防災絵本を読んでみてはいかがでしょうか。
きょうは、防災絵本専門士 古賀涼子さんに夏休みの読書感想文にもおすすめの防災本とその魅力についてお伺いしました。