第1408回「モロッコ地震 1か月」
オンライン:認定NPO法人 ピースウィンズ・ジャパン 海外事業部 福井美穂さん

西村)先月8日(日本時間の9日午前)北アフリカのモロッコ中部でマグニチュード6.8の強い地震が発生しました。これまでに確認された死者は2900人以上。5万棟の住宅が被害を受けました。特に被害が大きかった震源地周辺は、山岳地帯のため被災者支援は難航したそうです。
きょうは、日本からいち早く現地入りし、緊急支援を行った認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの福井美穂さんに現地の様子を聞きます。
 
福井)よろしくお願いいたします。
 
西村)どのようなメンバー構成で現地に入ったのですか。
 
福井)看護師2人、事業調整員2人、カメラマン1人とチームリーダーのわたしで、発生から2日後の9月11日に現地に入りました。
 
西村)モロッコで大きな地震が発生したと聞いたときはどう感じましたか。
 
福井)モロッコは砂漠地帯などで使われているレンガ造りの建物が多く、砂っぽい土壌で家が崩れやすいイメージがありました。
 
西村)入国したとき、街はどんな様子でしたか。モロッコのどのあたりに行きましたか。
 
福井)観光地としても有名なマラケシュという街をベースに、震源地まで車で移動しました。マラケシュも少し被災していました。そこから1時間半ぐらい移動したところにあるアミズミズという都市は、震源地から一番近い大きな被災地。半分ぐらいの家屋が倒壊していて、政府主導でテント村ができていました。
 
西村)アミズミズはどんな場所ですか
 
福井)山間部にある町です。震源地はアトラス山脈の山中にあり、アミズミズはそこに通じる山間部にあります。ビルもたくさん建っていましたが半分ぐらいは倒壊していました。そこから1本道で被災地の村々につながっています。
 
西村)そこからさらに山を登っていくのですね。標高はどれくらいあるのですか。
 
福井)標高約1000mです。オリーブオイルなどの農業をしている人がたくさん山肌に住んでいます。そのあたりの村をまわって支援とニーズ調査をしました。
 
西村)被災者が暮らすテントは山肌にたっているのですか。
 
福井)崖にたくさんたっていて、ひとつのテントに2~3家族が住んでいます。元々電気が通っているとことではないので夜は真っ暗。被災者は余震に怯えながら暮らしていました。「水がない」「病院行けない」などさまざまな悩みを抱えていました。
 
西村)住民は今までに大きな地震を経験したことはあったのですか。
 
福井)1960年代に大きな地震があったそうですが、それからはほぼ経験したことがないそう。
 
西村)日本では、学校で防災の勉強をしたり、避難訓練をしたりしますが、モロッコの人たちは地震の知識はありましたか。
 
福井)おそらくなかったと思います。余震が起こると家屋の倒壊を恐れて怯えていました。日本人は慣れていますが、モロッコの人たちは余震がどのタイミングでくるのか体感がないので恐いのだと思います。怖くて家に戻れない人がすごく多かったです。
 
西村)安全なところにいたいからテントで暮らしているのですね。
 
福井)家屋が耐震用にできていないのです。余震が起きても日本人は普通に立っていますが、モロッコの人たちは怯えて隠れようとします。地震に対する感じ方は日本とは異なります。
 
西村)どんな造りの家が建っているのでしょうか。
 
福井)レンガ造りの家。砂っぽいコンクリートを使っている家もあってガラガラと崩れやすいです。
 
西村)耐震設計もされていないのですね。
 
福井)ぺちゃんこになっている家がたくさんありました。
 
西村)住民はどんなことに困っていましたか。
 
福井)最初は家がないことに困っていました。テントが供給されてからは、「洋服・水・食料がほしい」「病院に行きたい」「夜間の照明がほしい」というニーズがありました。1週間後に民間の支援が入った後は、「毛布・衛生用品がほしい」などニーズが変化していきました。
 
西村)ピースウィンズ・ジャパンはどのような支援を行ったのですか。
 
福井)最初は食料・飲料水・衛生用品を配り、後半は毛布やソーラーパネルを配布しました。日中と夜間の温度差が激しく、日中は30度近くまであがりますが夜は寒くなります。崖の上の何もないところにテントをたてているので照明器具がありません。携帯電話がないと誰とも連絡も取れないので、携帯電話をチャージするためにもソーラーパネルが必要でした。
 
西村)連絡手段がないのは一番不安ですよね。誰かと話すことができたら心の安定にもつながります。寒さから身を守るにも電気は大切ですね。
 
福井)行政や学校からの連絡も携帯電話がなければ受けられません。
 
西村)わたしたちの地震に対する備えにもソーラーパネルが必要ですね。電気の重要性はどこの国の支援活動でも感じますか。
 
福井)夜間に女性や子どもがトイレに行くとき、暗すぎると性暴力を受けてしいます。安全を確保するためにも電気は必要です。
 
西村)ほかにモロッコの特徴や驚いたことはありますか。
 
福井)モロッコは非常に乾燥していて、地層が薄く剥がれた山肌は、いつ崖崩れが起きるかわかりません。危険な場所がたくさんあります。
 
西村)山岳地帯ならではの支援活動の難しさがあるのですね。
 
福井)ほかの地域なら「トイレがなければ穴を掘れば良い」「水がなければ井戸を掘れば良い」と考えますが、穴を掘る事もできない場所が多く、土地ならではの特性を感じました。普段から地震が少ないので、建物が崩れる前提がされていません。車がすれ違うことも難しい1本道で落石があるとそこから先の村々にはアクセスできなくなります。山の反対側の村に行くために2時間かかることも。
 
西村)アクセスしにくい場所には支援が行き届かないのでしょうか。被害状況はわかっていますか。
 
福井)大まかな被害の情報はわかりますが、何人いるかなど細かい数字は現地に行かないとわかりません。
 
西村)現地ではどのように情報を集めていたのですか。
 
福井)現地のNGOや政府に連絡をして情報を集めていましたが、現地に行くことが一番必要な情報を得ることができるので、現地に行くことと併せて情報収集を行っていました。
 
西村)現地で被災者から直接話を聞くことで、被害の状況や必要なことがわかるのですね。被災地までの道も険しく、物資を運ぶ支援者の安全確保も大変そうですね。
 
福井)1回落石に居合わせてしまったことがあります。1度Uターンするなど確認をしながら慎重に進んでいきました。
 
西村)ヘリコプターで物資を届けられたら良いですが、ヘリポートもなく車で届けるしかないのですね。そんな中で、今、現地で求められている支援はどんなことですか。
 
福井)テントで暖かく生活できるような支援のほかに、わたしたちが提携団体と協力して行っていこうとしているのは、女性の月経の際の衛生用品、生理用品を配る支援です。さまざまな物資の支援が民間からありましたが、生理用品がなかなか届かないという問題がありました。中長期的に洗えるパッドの配布などを考えています。月経衛生という知識自体がきちんと伝えられていません。学校に通う女の子たちが生理で困らないように、学校に行き続けられるように支援を考えています。
 
西村)そのような支援は本当に大切ですね。東日本大震災のときも生理用品が足りなくて困ったという声を聞きました。これから被災者はどのような生活をしていくことが予想されますか。
 
福井)これから雨季に入り寒くなるので、きちんとした家の準備が政府主導で行われていくと思います。一方、避難生活が長引くと食料や寝具など長期間対応できるものが必要になります。これからも国際支援を続けていきます。
 
西村)わたしたちにも何かできることはありますか。
 
福井)ホームページで寄付を受付けているので、ぜひ寄付をよろしくお願いします。
 
西村)認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンのホームページに詳しいことが書かれています。動画でも現地からのリポートを届けてくれていますので、ぜひご覧ください。
きょうは、モロッコで緊急支援を行った認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの福井美穂さんにお話を伺いました