第1449回「能登半島地震と原発」
取材報告:亘佐和子プロデューサー

西村)能登半島には北陸電力志賀(しか)原発があります。元日の地震で、志賀原発はどうだったのか。今回明らかになった避難計画や安全性の問題について、番組プロデューサーの亘佐和子さんの報告です。
 
亘)よろしくお願いいたします。北陸電力の志賀原発は、能登半島の中部にある志賀町にあります。東日本大震災以来、1号機、2号機とも運転は停止しているのですが、元日の地震で設備に被害がありました。実は能登半島の先端にある珠洲市にも原発を造る計画があったんです。
 
西村)その話を聞いてびっくりしました。でも、建設はされなかったのですよね。
 
亘)住民の反対運動があり、電力会社が建設を断念。もし珠洲市に原発ができていたら、元日の地震でどうなっていたのだろうと気になっていました。能登半島の原発に関係する場所を回るツアーに参加してきました。早朝に金沢をバスで出発して、珠洲市の原発を作る計画があった予定地まで行き、志賀原発周辺を回って、夜に金沢に戻ってくる行程です。ツアーの案内役は、珠洲市の市議会議員や石川県議会議員を務めた北野進さん。北野さんは、能登の原発問題にずっと取り組んできて、志賀原発の裁判の原告団長も務めています。元日の地震の被害を原発に焦点を当てて説明してくれました。金沢からバスで能登半島を北上していくと、いたるところに段差があり、崩れているところがあります。金沢から2時間半~3時間で珠洲市に入りました。
 
音声・北野さん)右側はほぼ全壊の家。そこに学校があります。今は廃校になっています。市の指定避難所にもなっていて、元日の夕方から夜にかけては、避難してきた人の車で渋滞、行列になっていたそうです。この辺りは地震の被害に加え、津波の被害もありました。この家は、今は片付けてありますが、最初は家の中に津波で流された車が入っていました。
 
西村)大きな揺れに加え、津波の被害で大変な状況ですね。ここに原発をつくろうとしていたなんて。
 
亘)大きな被害があったことがわかりました。原発ができる予定地だったところの被害を見るために珠洲市に行きました。原発の計画があった場所は2ヶ所。寺家(じけ)と高屋(たかや)という集落です。どちらも能登半島の先端。寺家は中部電力、高屋は関西電力が北陸電力と共同で原発をつくろうとしました。高屋の原発は関西に住むわたしたちの電力を賄うための計画でした。珠洲市に原発を造る計画が公になったのは1970年代のこと。過疎化が激しく、市が原発を誘致しました。電力会社が立地調査や土地の取得に動き始めると、住民からは「危険だ」「不安だ」と反対の声が上がりました。仲良く暮らしていた集落が原発賛成・反対に分断されていったのです。原発に反対の人たちは、「土地共有」をして電力会社に対抗していきました。
 
西村)土地を共有するというのはどういうことですか。
 
亘)電力会社が土地所有者のところに「お金を払うので土地を売ってください」「〇年間貸してください」といってまわります。契約すると何百万、何千万、あるいは億単位のお金が入ってくるとなると、「売りません」「貸しません」とひとりで踏ん張るのは難しい。反対する人たちが土地を共有して、複数人で電力会社と契約しないように頑張るという作戦です。そのような共有地を何十ヶ所もつくると原発を建てられなくなります。結局、2003年に電力会社は建設を断念。珠洲市に原発がつくられることはありませんでした。
 
西村)この原発の建設予定地は、今回の元日の地震ではどうなっていましたか。
 
亘)建設予定地に行ってみて驚きました。まずは中部電力が計画していた寺家の集落のようすです。
 
音声・北野さん)ここが予備調査でボーリングしたところ。このあたりが炉心の予定地。目の前に岩がいっぱい並んでいますが、この岩はありませんでした。1mぐらい隆起したようです。地震の前はここには、入江が広がっていました。それが今は岩場になってびっくり。
 
西村)土地が隆起していたのですか。
 
亘)そうです。わたしたちが北野さんから説明を受けた場所は、地震前は海の底だったところ。岩が約1m、隆起していました。寺家から西に走ると関西電力が原発を建設しようとした高屋の集落に着きます。元日の地震では、複数の断層が約150kmにわたって動いたとされています。高屋は震源にいちばん近い集落です。高屋の港と集落が見渡せる高台で、北野さんの話を聞きました。
 
音声・北野さん)原発の立地可能性調査をした場所が、港の防波堤のあたりからこちら。今は岩場が広がっていますが、もとは海でした。
 
音声・ツアー参加者)岩が白くなっているところは隆起したところ?
 
音声・北野さん)はい。約2m隆起しています。集落には大きながけ崩れが何ヶ所もあります。

 
西村)2mも隆起していたのですか。
 
亘)水面にあるはずの波消しブロックがはるか上の方にあって、手を伸ばしても届かないほどでした。倒壊家屋も多いです。地域の原発反対運動のリーダーだった塚本真如さんは、高屋の寺の住職ですが、寺の母屋が倒壊して、奥さまは下に挟まれて足に重傷を負い、自衛隊のヘリで金沢市内の病院に搬送されました。周囲は崖崩れで道路がふさがれて、集落は孤立しました。
 
西村)食べ物は、どうしていたのですか。
 
亘)隆起のおかげで、海底にあったサザエやアワビなどが上がってきて、それを食べていたそうです。ここに原発ができていたらと思うと、ぞっとします。高屋の集落は、原発の計画を止めたということで、再び全国から注目を集めています。能登半島を南下して、志賀原発に向かう途中に輪島市の黒磯海岸に立ち寄りました。そこの隆起はさらにすごくて、護岸部分がわたしの頭よりもはるか上、身長の2倍以上はありました。4m隆起したそうです。すさまじさに圧倒されました。
 
西村)2mでもすごいのに、その倍ですもんね。
 
亘)ツアーメンバーには、原子力発電の設計をしていた技術者の後藤政志さんがいました。この隆起を見て、このような土地に原発をつくるとはどういうことなのか、話を聞きました。
 
音声・後藤さん)普通の住宅でも、地盤が弱かったり、傾斜したりしていたらつくりません。そのようなところに建物をつくることがおかしい。そのうえ、原発の場合は、中に複雑な機械が入っています。非常時には核反応を止めるために制御棒を入れるのですが、とでも狭いところに制御棒を押し込んでいるので、地震で変形すると大変な問題になります。核燃料を冷却するために冷却水を循環させるのですが、何十日も続けなくてはなりません。冷却できないとメルトダウンしてしまいます。格納容器が壊れると全体が壊れて、放射能が出てしまうという構造です。爆発する可能性もあり、放射能も内包している。こんなにリスクの高いものは、世の中にほかにありません。
 
亘)原発の安全確保は、「止める・冷やす・閉じ込める」が基本。まず制御棒を原子炉に差し込んで、核分裂反応を止めます。そして冷却水で冷やす。冷やし続けなければ、メルトダウンして、格納容器という外側の部分が壊れて、中の放射性物質が外に出てしまいます。原発は精密で、コントロールが非常に難しい設備。「地震で地盤が動くところにつくるのは危険」というお話でした。バスは南に向かい、志賀原発に到着しました。
 
西村)志賀原発の被害はどうでしたか。
 
亘)原発のある志賀町は最大震度7を記録。志賀原発1号機の地下では、震度5強の揺れが観測されました。核燃料を冷やし続けるために、外部から電気をもらいますが、その外部電源を受け取るための変圧器の配管が壊れて、電源5回線のうち2回線が使えなくなりました。変圧器から2万3000Lの油が漏れました。放射能が漏れる事故にはなりませんでしたが、志賀原発は安全といえるのか。北野さんが原発の門の前で説明してくれました。
 
音声・北野さん)右側が1号機、左側が2号機、手前にあるのが防潮堤です。こちらの物揚げ場は、35cmの隆起が確認されています。敷地の中にも段差や亀裂がたくさんあります。そして、原発の裏から1kmほど行ったところには、長さ4kmの福浦断層があります。海側にも兜岩沖断層、向こうには碁盤島沖断層、さらに富来川南岸断層もあります。この原発をつくるときには、これらは活断層ではないと言っていましたが、南側を除いてまわりはすべて活断層だらけ。とんでもないところに原発をつくったのでは...と感じます。
 
西村)志賀原発の周りにはこんなにたくさん活断層があるのですね。
 
亘)活断層に囲まれた原発です。元日の地震では、能登半島の北側で東西150kmに渡って、断層が活動したとみられています。これは北陸電力の想定を大きく超えるものでした。この活断層の動きが、志賀原発周辺の活断層に影響を与える可能性があります。
 
西村)今後、事故が起こったときの避難計画はあるのでしょうか。
 
亘)避難計画はあります。原発から半径30km圏内に住む15万人が対象です。原発から5km以内の人は即避難。5~30km以内の人は一旦屋内退避をして必要があれば避難。計画で決められている避難路は11路線ありますが、今回の地震で、11路線の内の7路線が、がけ崩れなどで通行できなくなりました。逃げる道がなくなり、孤立した集落もありました。5~30km以内の人は、倒壊した建物が多いと屋内退避する場所もなくなります。
 
西村)1ヶ所でも壊れていたら、中に放射性物質が入ってきてしまいますよね。
 
亘)退避の意味がありません。また、今回の地震では、地元の人に「志賀原発がどのような状況になっているのか」という情報は入らなかったそうです。
 
西村)それは、ものすごく怖いことですね。
 
亘)放射線モニタリングポストは、116ヶ所の内、18ヶ所はデータ計測不能に。避難計画自体も穴だらけで破綻しているとのことです。
 
西村)行ってみたからこそわかったことがたくさんあったのですね。改めて、取材してどんなことを感じましたか。
 
亘)いちばん印象的だったのは、能登半島の海岸線の隆起です。たった数十秒の揺れで、4mも隆起するんだなと。日本は地震国だということはわかっていましたが、能登で地殻変動のパワーを実感しました。これからも土地が隆起したり、沈んだりするのだと思います。そのような場所に原子力発電所があることに危機感を感じます。この地震をきっかけに、避難計画や原発の今後を改めて考え直すべきだと感じました。
 
西村)番組プロデューサー、亘佐和子さんの報告でした。