第1417回「備えない防災!?フェーズフリー」
オンライン:一般社団法人フェーズフリー協会 代表 佐藤唯行さん

西村)災害時には、「日頃からの備えが大切」といつもお伝えしていますが、最近は"備えない防災"「フェーズフリー」という取り組みが注目されています。
きょうは、その考え方を広める活動を行っている一般社団法人フェーズフリー協会 代表 佐藤唯行さんにお話を伺います。
 
佐藤)よろしくお願いいたします。
 
西村)フェーズフリーとはどのような考え方ですか。
 
佐藤)日常時と非常時のフェーズをフリーにして、両方に役立てるという考え方です。もう少しわかりやすく言うと、いつもの暮らしを豊かにしてくれる便利なものは、もしものときの生活にも役立つということです。
 
西村)例えばどんなものがあるのでしょうか。
 
佐藤)燃費の良いハイブリッド車です。ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は、ガソリンの燃料をモーターで発電して、蓄電池で蓄えて、そのエネルギーで車を動かしています。わたしたちの暮らしや環境、お財布に優しい車が非常時には家庭の電源にもなるのです。非常用発電機は備えるのが難しいですが、燃費の良いハイブリッド車があれば、もしものときも役立ってお得です。ほかにも最近広まっているのは、赤ちゃんにあげる液体ミルク。粉ミルクは、育児・家事の負担にもなっています。
 
西村)液体ミルクは、外出時にとても便利です。
 
佐藤)非常時に電気・水道・ガスが止まったとき、避難所などで粉ミルクをあげるのは難しいですが、液体ミルクならすぐに赤ちゃんに栄養を与えることができます。
 
西村)液体ミルクは賞味期限が長いので、備えるときにも便利ですね。
 
佐藤)ほかにも非常時に役立つものがたくさんありますよ。
 
西村)コンテナホテルもフェーズフリーに当てはまりますか。
 
佐藤)コンテナホテルは、今すごく普及しています。全国の遊休地にコンテナを設置すれば、ホテルをたくさん建てることができます。
 
西村)遊休地とは何ですか。
 
佐藤)地方に行くと駅前によく使われてない土地がありますよね。ホテルを建てるのは投資も大変で、観光客に合わせた客室数の増減も必要で難しいです。でも空き地にコンテナを設置すれば簡単。利用者の増減に簡単に対応できるコンテナホテルが今注目されています。
 
西村)ホテルの中はどんなふうになっているのですか。
 
佐藤)普通のホテルと同じようにベッド、机、風呂、トイレなどがあります。むしろ普通のホテルよりも客室間が離れているので静かで快適。通常はビジネス・観光で利用する人が多いですが、非常時には避難所として活躍します。体育館などに避難できない小さな子どもや障害者が利用しやすい宿泊施設に変わるのです。
 
西村)フェーズフリーは意外と身近にあるのですね。佐藤さんがフェーズフリーという考え方を思いついたきっかけは何ですか。
 
佐藤)防災を学んでいた大学院1年生のときに阪神・淡路大震災にあいました。阪神・淡路大震災の前後には、北海道南西沖地震の津波でたくさんの人が犠牲になった状況を目の当たりにしました。そのとき、わたしは「災害をイメージして備えてください」と訴えていましたが、話を聞いてくれたみなさんは、「準備しよう」と意識は持っても、家に帰ると子どもの学校や食事の準備などの家事に追われ、備えが進まないという現状がありました。災害時に大切な家族の生活や命を守りたいのは当たり前。でも備えは難しい。ではどうすれば備えが進まない人を災害から守ることができるのか。「備えましょう」と提案し続けるだけでは守ることができないんです。普段使っている服や靴、家など生活を良くしてくれるものが非常時にも役に立ったら守ることができる、と考えたのがフェーズフリー。非常時にしか役に立たない防災用品、日常時に役に立つ日用品を分けていたから、備えることが難しかったのですが、フェーズをフリーにして、分けるのをやめてみようと思いついたことがきっかけです。
 
西村)佐藤さんが代表を務めているフェーズフリー協会では、フェーズフリーの考え方に合う商品や施設を認証してきたとのこと。どんな商品や施設があるのですか。
 
佐藤)認証したものは100近くあります。文具や家具を扱うメーカー、コクヨのさまざまなオフィス家具には、フェーズフリーな商品がたくさんあります。例えば、軽くて簡単に移動できるロビーチェア。コロナ禍で間隔を空けて座るために、ロビーチェアに×印が貼ってあることがよくありましたよね。でも1人用の軽いロビーチェアなら、自在に離すことができるので、ソーシャルディスタンスを保つことができます。災害時に帰宅が困難となり、オフィスで一晩過ごさなければならないときも、椅子を長く連結させてベッドにすることができます。スポーツメーカーのアシックスが扱う「ランウォーク」というビジネスシューズは、単なる革靴ではなく、運動性能を高めた歩きやすく疲れにくい革靴。出張や外回りでたくさん歩いても疲れにくいんです。災害時は、公共交通機関が止まってたくさんの帰宅困難者が出ます。普通の革靴で歩いて帰ると足が痛くなって家まで帰れません。アシックスの「ランウォーク」は歩きやすくて疲れにくいビジネスシューズなので、その運動性能によって帰宅困難問題を解決できるのです。
 
西村)よく考えられていますね。発想の転換によって、フェーズフリーになっていくのですね。わたしもフェーズフリーを取り入れたいです。年末に家族でできることはありますか。
 
佐藤)寒くなってきて、温かい鍋が美味しい季節です。手間がかからず、簡単で温かく、家族団らんにもなるお鍋は、フェーズフリーなんですよ。
 
西村)どんなポイントがフェーズフリーなのですか。
 
佐藤)カセットコンロで煮炊きすることは、非常時にガスが止まったときも役立ちます。日頃からカセットコンロを使って鍋をしていると、ボンベは家にストックされるので、非常時にも役立ちます。そんな食をテーマにした年末のフェーズフリーもありますよ。
 
西村)ガスボンベの使用期限をチェックするきっかけにもなりますし、子どもたちにカセットコンロの使い方を伝える機会にもなりますね。
 
佐藤)普段から使っていると常に新しいカセットコンロ、ボンベが手に入る。非常時用に備えておくと、いつの間にか期限が切れてしまうことがありますが、日頃から使っていると期限が切れることが少なくなります。
 
西村)それはいいアイディアですね。早速実践していこうと思います。大掃除もフェーズフリーになりますか。
 
佐藤)そうですね。大掃除はフェーズフリーになります。
 
西村)我が家は、結構散らかっているので、夜中に地震が起きておもちゃを踏んでしまったら怪我をしてしまいそう。片付けることは減災につながるのでは。
 
佐藤)その通りです。大掃除に限らず、普段から家の中をきれいに片付けておくことはフェーズフリーになります。散らかっていて足の踏み場がない状態では、非常時に怪我をしてしまいます。ものが片付いていると、揺れたときもものが落ちてきにくい。家から避難所に行くときも、どこに何があるかが整理されていることによって、すぐに必要なものだけを取って逃げることができます。常に家の中を整理整頓しておくこと、暮らしやすく便利な状態にしておくことはフェーズフリーになります。
 
西村)整理整頓、断捨離をする中で、フェーズフリーなものに気づくこともありそう。これを機会にみなさんも、家にあるフェーズフリーなものを探してみてはいかがでしょうか。
 
佐藤)初めてフェーズフリーという言葉を聞いた人が多いと思います。普段わたしたちの暮らしを豊かにしているものが、もしものときの生活や命を支えてくれる。身の回りを見渡してみると、意外とフェーズフリーなものがあることに気づくと思います。そんな発見・発明をして、周りの人にも伝えてください。そうすると気づきの連鎖が広がります。備えの難しさを解決できるフェーズフリーという視点を持って暮らしてみてください。
 
西村)きょうは、"備えない防災"「フェーズフリー」について、一般社団法人フェーズフリー協会 代表 佐藤唯行さんにお話をお聞きしました。