ゲスト:京都大学防災研究所 教授 矢守克也さん
西村)河川の氾濫や土砂災害などへの警戒を呼びかける防災気象情報が見直されることになりました。これまでの防災気象情報は名称が複雑で警戒レベルに統一性がなく、危険性がわかりづらいという声が出ていたためです。
きょうは、有識者検討会の座長を務めた京都大学防災研究所 教授 矢守克也さんに、防災気象情報がどう変わるのか、また情報が出た場合の避難行動について教えてもらいます。
矢守)よろしくお願いいたします。
西村)防災気象情報について改めて教えてください。
矢守)防災気象情報とは気象庁が発表する情報で、洪水、浸水、土砂災害などの約20種類の災害発生の恐れを伝える情報です。直接住民の避難に関わってくるものだけでもこれだけたくさんの種類があります。きょうのテーマは防災気象情報ですが、直接住民に避難を呼びかける避難指示の情報は気象庁ではなく、自治体から出されるもの。防災気象情報とは別なので注意してください。
西村)防災気象情報が見直すことになったきっかけは何ですか。
矢守)情報の数が多すぎてわかりにくいからです。細かい危険に対して新しい情報を追加していたら、結果として数が増えてしまったのです。気象庁のアンケートでは55%の人が「情報の種類が多くてわかりにくい」と答え、48%の人が「どの情報を参考に避難したらよいのかわかりにくい」と答えています。これは問題です。
西村)一番大事なところですよね。どんな人でもわかりやすく避難ができるように、見直そうということになったのですね。ここ数年、大きな災害がたくさん起こっていますよね。そのたびに情報が新設されてわかりにくいと思っていました。
矢守)情報を作っている側も増やしたいと思って増やしているわけではなく、複雑にしたいと思っているわけでもないのです。初めて起こる気象現象がこの10年はすごく多いのです。
西村)「今までこんなことなかったのに」という言葉をよく聞きます。
矢守)危険なことが起こるたびに新しい情報を作ってきました。2011年の紀伊半島豪雨をきっかけに、その後2013年に特別警報という新しい情報が新設されました。それまでは一番上が警報という言葉でしたが、警報をはるかに上回る災害が頻繁に起こるようになりました。2018年の西日本豪雨をきっかけに、5段階の警戒レベルが導入されました。
西村)"レベル"という言葉はそのときからできたのですね。
矢守)"レベル"という言葉は、最近よく聞きますが導入からたった5年しか経っていません。今まではと日本語で警報と言っていたので、ついていけない人もいるかもしれません。さらに2021年には「顕著な大雨に関する情報」が新しく作られました。"顕著な"という日本語が難しくてわかりにくいですよね。これは、線状降水帯に関する情報です。
西村)線状降水帯と言った方がわかりやすいですよね。
矢守)いろいろと事情があって「顕著な大雨に関する情報」という名前になりました。これもわずか3年前にできた情報です。線状降水帯という現象が非常に起きやすくなって、犠牲者も増えてきたのでこの情報が新設されました。
西村)いろんな情報が増えてややこしいですね。今後どのように見直されるのでしょうか。
矢守)レベルには5・4・3・2・1の5段階あります。1は普段の状態なので、実質的にはレベル2→3→4→5と数字が上がっていくごとに危険度が増していきます。色で表すとわかりやすいと思います。「そろそろ警戒し始めましょう」=レベル2が黄色。「高齢者は避難を始めましょう」=レベル3が赤。「危ないところに住んでいる人は避難しましょう」=レベル4が紫。「周りで氾濫や土砂災害が起こっている可能性がある」=レベル5は黒色。レベル5は、むやみに避難するよりも、自宅の中の安全なところに逃げる方が良いという状態です。このレベルに加え、災害には、洪水・大雨・土砂災害・高潮の4種類があります。これとレベル2・3・4・5の4つを組み合わせると、全部で16通りになります。これをわかりやすく整理することになったんです。例えば同じレベル4なら、同じ名前で呼んでほしですよね。
西村)同じ名前で呼んでほしいです!
矢守)現状では、同じレベル4でも、洪水では「危険情報」とう名前なのに、高潮では「高潮特別警報」という名前になっています。同じレベルでも日本語の表現に違いがあるのです。これにはいろいろと深い事情があります。情報を出している機関、組織が違っていたり、情報が作られてきた経緯、歴史が違っていたりするからです。そこで、複雑で統一感のないネーミングを、4×4の16個のマス目を作って、わかりやすく改善することになりました。
西村)すごくすっきりした表になりましたね。
矢守)すっきりしましたが全て漢字で表現されていてまだわかりにくいです。「土砂災害特別警報」は漢字8文字もあります。
西村)漢字が読めない子どもや外国人にとってはわかりにくいですね。
矢守)まだまだわかりにくさは残っています。将来的にはレベルという言い方のみにすることも考えています。レベルがもう少し浸透したら、例えば「土砂災害特別警報」を「土砂災害レベル5」とするなどシンプルにする予定です。
西村)だいぶわかりやすくなりますね。
矢守)ほかも「大雨レベル3」「高潮レベル4」というふうに、災害の名称+レベルの数字というふうに。
西村)レベル3は、高齢者等避難ですね。その表現なら「妊婦さんや子どもがいるから早めに避難しよう」というふうに避難行動と結びつけることができます。
矢守)そこが一番大事なところ。警戒レベルは、今どのぐらい危ないかということだけではなく、わたしたちがするべきことと紐付けられていなければなりません。レベル3は、「家族に高齢者がいる場合は避難する」、レベル4は、「ハザードマップを確認して住んでるところが危ないなら、高齢者、障害者に限らず逃げる」、レベル5は、既に周りが危ないかもしれないから、不用意に自宅を出ずに、「自宅の中で一番安全なところに移動する」などです。
西村)避難行動は、今までと変わってないのでしっかりと頭に入れておかないといけませんね。
矢守)防災気象情報と結びつけて自分がとるべき行動をしっかり頭に入れておけば、情報が出されたら何をすれば良いかすぐわかりますよね。
西村)防災気象情報の見直し案はいつ頃から運用されるのですか。
矢守)さまざまな法律の中に組み込まれているので、運用までには時間がかかります。ラジオ・テレビなどマスメディアで発表される情報なので、まずはメディアへの周知をする準備期間も必要。気象庁の発表によると、2026年6月頃から運用が始まる予定です。
西村)その頃にまた番組でも詳しくお話を伺いたいです。最後にリスナーに伝えたいことはありますか。
矢守)「自分はこうなったら避難する」という避難のきっかけを「避難スイッチ」として、あらかじめ、家族みんなで具体的に決めておきましょう。今回取り上げた防災気象情報は、「避難スイッチ」の材料として非常に適切なもののひとつ。ぜひ勉強して避難行動に役立ててください。
西村)3連休に「避難スイッチ」を改めて見直すのも良いですね。
矢守)家族でぜひ防災会議をしてください。
西村)きょうは、京都大学防災研究所 教授 矢守克也さんに防災気象情報について伺いました。