第1447回「線状降水帯と土砂災害」
ゲスト:MBSお天気部 気象予報士 前田智宏さん

西村)きょうは、MBSお天気部 気象予報士の前田智宏さんと生放送でお届けします。今後も豪雨や土砂災害に気をつけなければなりません。今年5月から線状降水帯の発生予測が都道府県単位で発表されるようになりました。改めて線状降水帯について教えてください。
 
前田)雨雲、積乱雲が列をなして、同じ場所に長い時間やってくる現象を線状降水帯と言います。雨雲レーダーで見てみると、まさに線状に雨雲が連なっているように見えます。同じ場所に雨が降り続くことによって集中豪雨となり、大きな災害になります。
 
西村)線状降水帯の発生予測はなかなか当たりませんよね。6月27日に九州北部で線状降水帯が発生すると予測されていましたが、28日に九州ではなく静岡で線状降水帯が発生しました。なぜ予測は外れてしまうのでしょうか。
 
前田)線状降水帯の予測は難しいです。今年は5月の終わりから6月にかけて4回、線状降水帯の予測情報が発表されました。そのうち的中したのは1回だけ。鹿児島県の線状降水帯の予測が的中しました。6月27日から28日にかけては、九州北部では線状降水帯は発生しなったのですが静岡県で発生しました。外れ方には、予測情報が出されたけど発生しなかった「空振り」と予測が出ていなかったのに線状降水帯が発生してしまった「見逃し」があります。予測を出せていなかった「見逃し」の方が良くないのですが、それが実際に起こりました。気象庁は予測情報の的中率は、4回に1回程度としています。今年はまさに4回に1回的中しています。「見逃し」は2回に1回。事前の見積もり通りの結果になっています。
 
西村)「線状降水帯の発生予測が出ていないから大丈夫」ではないのですね。
 
前田)逆に言うと、線状降水帯が発生しなくても大雨になることもあります。大雨災害は線状降水帯だけが起こすものではありません。予測情報が出たら警戒してください。防災レベルを一段高めることが必要です。
 
西村)線状降水帯や大雨は夜間に発生しやすいイメージですが夜は避難しにくいですよね。
 
前田)気象庁もそれについて研究しています。過去15年に発生した約500回の線状降水帯を調べたところ、一番発生回数が多い時間が午前5時台。その次が午前2時台でした。
 
西村)避難しにくい時間がトップ1、2なのですね。
 
前田)日中に線状降水帯が発生することはかなり少ないです。はっきりとした原因はわかっていませんが、夜の間、海上の湿度が高くなることで雨雲が発達しやすくなっていることがわかってきました。線状降水帯に関しては、わからないことがまだまだあります。わからないからこそ、予測も難しいのです。
 
西村)避難は明るいうちにするべきですね。
 
前田)予測は早めに避難行動をとってもらうための情報。予測が出されたときは、明るいうちに安全に避難行動をとりましょう。
 
西村)西日本豪雨以降、「明るいうちに早めの避難を」呼びかけられるようになりました。西日本豪雨の発生から6年がたち、各地で追悼式が行われました。7月上旬は豪雨のイメージがありますね。
 
前田)西日本豪雨のほかにも、2020年の球磨川の氾濫、2021年の熱海の土石流災害...この時期は、全国あちこちで大雨災害が発生する危険な時期です。
 
西村)なぜ毎年この時期に大量の雨が降るのでしょうか。
 
前田)7月の上旬は梅雨末期。この時期は、南にある太平洋高気圧のパワーが強まります。太平洋高気圧のパワーが強まり切ったら、梅雨前線が北に押し上がって梅雨が明けます。太平洋高気圧のパワーが強まっているときに、高気圧の縁を回って、南から湿った空気がたくさん流れ込みます。太平洋高気圧は時計回りで風が吹いていて、高気圧の西側の暖かく湿った空気が南西の風に乗って、日本の方にどんどん流れ込みます。これが大雨のもとになり、7月上旬は特に大雨災害が起きやすくなるのです。
 
西村)今年の7月上旬を振り返ると、7月1日に滋賀県米原市で土砂崩れが発生しました。レベル5の緊急安全確保が発令されました。家に土砂が流れ込んで、避難生活を続けている人もいます。今回の米原の雨量はどれくらいでしたか。
 
前田)災害が発生したのは午前10時前でしたが、それまでの24時間に降った雨量は40.5mmで、そこまで多くはありませんでした。局地的に激しい雨が降ったわけではなかったのに土砂災害が発生してしまったのはなぜか。米原では、3日前にも60mmの雨が降っていて、さらに8日前にも50mmの雨が降っていたからです。1回の雨量は多くなかったのですが、長期間でまとまった雨量になったのが大きな原因です。
 
西村)梅雨ならではですね。
 
前田)ダラダラと長い雨が続いて、地盤が緩んでしまったと考えられます。今年の梅雨は雨量が少なく、水不足を心配する声も聞かれますが、意外と平年よりも雨量が多いのです。
 
西村)そうなのですね。わたしも水不足を心配していました。
 
前田)この1ヶ月間で見ると平年よりも雨量が多いです。米原では土砂崩れが発生する前の10日間に平年の2.6倍の雨が降りました。
 
西村)まだ梅雨が明けていないということで、これからもっと気をつけなければいけません。わたしたちは、豪雨や土砂災害の備えるために、どのように情報収集すれば良いのでしょうか。
 
前田)テレビやラジオの日々の天気予報をよく聞いてください。最近はたくさんの情報が出されるので、自分に関係がある情報を見極めることが難しいかもしれませんが、テレビやラジオの天気予報では、優先順位をつけてお届けしています。ぜひ早め早めに情報をキャッチしてください。今では、警報級の情報が出される可能性がある場合、「3日後、大雨警報を発表する可能性がある」などと数日前からお知らせされます。
 
西村)週末に旅行に行く予定がある場合は、予定変更するなどの備えもできますね。
 
前田)都道府県単位だけではなく、兵庫県なら兵庫県南部、兵庫県北部というふうに、細かく分けて発表されます。雨が強まりだしたら、災害の危険度を表す「キキクル」も活用してください。土砂災害の「土砂キキクル」、大雨による低い土地の浸水「浸水キキクル」、川の増水・氾濫・洪水「洪水キキクル」という3つの情報が出されます。自分が住んでいるところを拡大して、地図で危険度の高まりを色別に見ることができます。
 
西村)今現在の危険度を見ることができるのですね。
 
前田)黄・赤・紫・黒で危険度の高まりを表しています。今自分がいる場所の危険度を知ることができます。「キキクル」を使えるようになってください。
 
西村)「キキクル」を使ったことがない人は、ぜひこの機会に使ってください。情報の使い方に慣れることも大事です。
 
前田)大雨になってからはじめて使いはじめると時間がかかってしまうかもしれません。何もない晴れの日に試して、いざというときにすぐに使えるようにしておきましょう。秋にかけて台風シーズンも続くので役立ちます。
 
西村)これを機に家族や友達と一緒に「キキクル」を使ってみましょう。
きょうは、MBSお天気部 気象予報士の前田智宏さんとお届けしました。