第1454回「台風シーズン到来 風水害への備え」
オンライン:静岡大学 防災総合センター 教授 牛山素行さん

西村)今年も台風シーズンがやってきます。
きょうは、静岡大学 防災総合センター 教授 牛山素行さんに台風や水害への備えを聞きます。

牛山)よろしくお願いいたします。

西村)台風10号が近づいてきています。命を守るために、わたしたちがするべきことは何でしょうか。

牛山)大雨や洪水などの土砂災害で亡くなる人、行方不明になる人のほとんどは、ハザードマップで危険性が示された場所で被災しています。ハザードマップなどで、災害が起こり得る場所を知っておくことは重要。ハザードマップには、いくつか注意すべきポイントがあります。自宅の場所をピンポイントで読み込むことはやめましょう。

西村)なぜですか。

牛山)針の先ほどの特定の場所の危険性を知らせる機能もありますが、ハザードマップはピンポイントで見るのではなく、なるべく引いて見ましょう。自宅や仕事先など、よく出かけるところを含めて面で見てください。洪水の可能性がある場所でも、中小河川は、浸水想定区域の指定作業が行われていないケースも。ハザードマップで洪水の可能性が示されていなくても、川の淵と同じくらいの高さの場所は、洪水の可能性があると考えましょう。氾濫しない川はありません。山間部の道路など人家がない場所は、ハザードマップで色が塗られていないことがあります。土砂災害警戒区域の対象にならないのです。山間部の道路で土砂災害の危険性がない場所はむしろ珍しい。「山道だけど色が塗られてないから安全な道だ。ここを通って避難しよう」とは絶対に考えないで。急斜面の近く、山間部の渓流は土石流、斜面の近くはがけ崩れの可能性があります。

西村)そのほか、台風の情報を得る上で気をつけることはありますか。

牛山)台風はある程度予想ができる現象。雨風が激しくなる前なら、離れた場所に車で避難する、避難の呼びかけにいくことは不可能ではありません。ただ近年、避難の呼びかけや手助けに向かって命を落としてしまう痛ましい事例が散見されます。雨風が激しくなってからは、避難の呼びかけであっても、屋外の行動は極力避けてください。台風の風は中心ほど強くなりますが、雨は中心から離れた場所で強くなります。中心位置ばかりにとらわれずに、大雨が降っている場所や災害の危険性が高まっている場所に注意してください。
そこで役に立つのが、気象庁が発表しているキキクル(危険度分布)です。洪水の危険性があるところを示す「洪水キキクル」は、川ごとに色が塗り分けられていて、紫色は「そろそろ川が溢れる」、黒は「川が溢れた」という情報。「土砂キキクル」も色は同じでメッシュで塗られています。紫色は「そろそろ土砂災害が起きる」。黒は「土砂災害が起きた」という情報。2~3時間くらい先までの予測雨量込みで危険性を表示しています。既に危険な場所、数時間先に危険性が高まりそうな場所を同じ画面で表示しています。さまざまな防災気象情報の中でもキキクルは最も重要です。


西村)インターネットで検索して見てみてください。今のうちに見て備えておくことが大切ですね。避難が必要な場所にいた場合、どのタイミングで避難するかを事前に決めておいた方が良いのでしょうか。

牛山)状況、場所によりますが、災害の危険性が低いところにいるなら避難所に向かわなくても良いです。市内全域、全世帯に避難情報が出てしまうこともありますが、国のガイドラインでは全員の避難は推奨していません。警戒レベルは5段階あります。人に行動を促すのは警戒レベル3から。
警戒レベル3「高齢者等避難」は、お年寄り専用の情報ではなく、「体の不自由な人など、避難に時間のかかる人は避難行動を始めましょう」という情報です。全ての人に対しては、「出勤などの外出を控える」「危険を感じたら自主的に避難をする」タイミングです。次が警戒レベル4「避難指示」。これは、ハザードマップで色が塗られているところ、災害の危険性があるところにいる人全てに対して、何らかの避難行動を呼びかける情報です。自治体の決めた避難場所は、あくまでも避難先の選択肢の一つ。どこへ避難するかは、わたしたちが日頃からよく考えて決めておきましょう。親戚・知人宅など、今いるところよりも安全性が確保できるところに移動しましょう。洪水だけの可能性がある場所なら、「屋内安全確保」をしてください。想定される浸水の深さよりも高い場所に退避することも避難行動の一つです。警戒レベル5は「緊急安全確保」。これは災害がもう起こった後で、避難所に駆け込むとかえって危険な状態です。少しでも安全な場所に身を寄せることを呼びかけています。


西村)警戒レベル3「高齢者等避難」で危険を感じたら、自主的に避難、警戒レベル4は全員が安全な場所に避難を完了しておかなければならないのですね。

牛山)実際には、危険性が高まっているときに避難指示が出されることもあります。警戒レベル3も早い段階で出せるかもわからない。危険性が高いところにいる場合は、自治体から情報が出されていなくても危険を感じたら、早めに何らかの行動を起こしてください。避難所が空いているかは関係ありません。なるべく早めの行動をとることが重要です。

西村)「明るいうちに行動しましょう」という言葉をよく聞きますが。

牛山)わたしの調査では、風水害で亡くなる人が被災した時間帯は夜と昼でほぼ半々。夜間に被害が集中しているわけではありません。夜は「見通しがきかない」などの怖さがありますが、昼間は無理な行動をとりやすいことがあります。風水害で亡くなる人が被災した場所は屋内と屋外でほぼ半々。自宅にとどまった人が被災するイメージがあるかもしれませんが、多くの人が屋外で被災しています。車や徒歩で移動しているときに洪水で流されたり、増水した川に転落したりするケースがあります。よく「〇cm以上の水位で流される」という話を聞きますが、水に流されるかは水深だけではなく、水深と流速の組み合わせで決まります。水深が浅くても、流速が速ければ流されるのです。年齢や体格によっても幅があります。「〇cm以上」と言えば、防災豆知識として頭に入りやすいですが忘れてください。話はもっと単純。流れる水に立ち入ったら命を落とすかもしれないということ。人も車も簡単に流されてしまいます。水は低いところへ流れるので少しでも高いところに移動しましょう。とにかく浸水しているところには立ち入らないようにしてください。

西村)先月末、記録的な大雨が降った山形県で、救助要請を受けて現場に向かった警察官2人がパトカーごと流されて犠牲になりました。牛山さんは現地調査したそうですね。現場はどんな場所でしたか。

牛山)両側が少し高くなっていて、現場は一段下がった低いところにありました。北と南に道があり、どちらからも緩やかな下り坂になっています。一見、平らになっているように見える場所はよくあります。同じ高さに見える場所でも微妙な高低差があることがあります。現場も一見、平らに見えるのですが、一番深いところまで1mくらい差ありました。通り抜けられると思って進んだら、どんどん深くなって、動きが取れなくなってしまった可能性が考えられます。このような場所では、車で被災するケースが目立ちます。深さの差は数十cm。わずかな高低差でも命を落としてしまうのです。人でも車でも簡単に流されてしまう。浸水した道や流れる水には、決して近づかないようにしましょう。

西村)きょうは、静岡大学 防災総合センター 教授 牛山素行さんにお話を伺いました。