オンライン:専修大学 教授 佐藤慶一さん
西村)能登半島の豪雨から1ヶ月が経ちました。元日の地震の爪痕が残り、復旧作業を進める中で、被災者が暮らす仮設住宅も浸水被害を受けました。被害を避ける方法はなかったのでしょうか。
きょうは、災害時の仮設住宅を研究している専修大学 教授 佐藤慶一さんにお話を聞きます。
佐藤)よろしくお願いいたします。
西村)ようやく入居することができた仮設住宅で、浸水被害に遭うという厳しい状況になってしまったのはなぜでしょうか。
佐藤)今回は地震の被害が大きく、仮設住宅への入居希望者も多くなりました。しかし、土地には限りがあるので、災害リスクのある土地に、仮設住宅を建設せざるを得ない状況です。日本には、水害、土砂崩れ、地震など多様な災害リスクがあるので、全ての仮設住宅を安全な場所に建てることは難しいです。
西村)ハザードマップで赤く塗られている場所に仮設住宅を建てざるを得なかったということですか。
佐藤)被災地近傍で仮設住宅希望される人も多いですし。
西村)佐藤さんは能登に視察に行ったそうですね。能登半島はどんな土地ですか。
佐藤)山が多く平地が少ない印象。海のそばの広場に最初に仮設住宅が建ちました。その場所は、津波の浸水リスクがあると聞きました。
西村)仮設住宅に入ったら安心だと思っていたのですがそうではないのですね。
佐藤)仮設住宅に入居した後も1~2年、それ以上長く住む場合もあります。仮設住宅用地の災害リスクの重要性が改めて確認されています。
西村)8月に輪島と珠洲を訪れたのですが、熊本地震や東日本大震災の被災地では見たことがなかったオシャレな仮設住宅が建っていました。木造や2階建ての仮設住宅もありました。
佐藤)木造の仮設住宅は、東日本大震災後の福島県でたくさん建てられました。一般的な仮設住宅は工事現場小屋の転用ですが、2階建てや3階建のものもあります。
西村)仮設住宅というと、小学校のグラウンドに建っているプレハブやコンテナをイメージしますが、いろいろな仮設住宅があるのですね。
佐藤)日本には木造のハウスメーカーや工務店が多いので、木造の仮設住宅はもっと作ることができると思います。
西村)木造の仮設住宅は、プレハブやコンテナと比べてどんなところが良いのですか。
佐藤)工事現場小屋のようなプレハブだと壁が薄い、結露がある、など居住性能に問題があります。しかし、木造の場合は、通常の住宅と同じスペックなので居住性能が良いです。
西村)プレハブの仮設住宅は壊す前提で作られていますが、木造の仮設住宅はずっと住み続けられる恒久住宅として作られているそうですね。
佐藤)石川県では、通常のタイプの仮設住宅に加えて、"街作り型"の集合住宅タイプの木造仮設住宅も作っています。いずれは市営住宅や公営住宅として使います。被災地近傍で、ふるさと回帰型の戸建てタイプの木造住宅を作り、いずれは公営住宅として使うか、払い下げることも計画しています。
西村)そのまま住み続けることができるのですね。引っ越しするとなるとご近所づきあいをイチからしなければならないので、住み続けられるのは良いですね。ふるさと回帰型の恒久仮設住宅は増えてきているのですか。
佐藤)ふるさと回帰型は土地を寄付してもらって建てるので、土地の工面が難しく、数は増えていないと聞いています。
西村)土地の確保が難しいのですね。2階建ての仮設住宅は増えてきているのですか。
佐藤)まだ少ないです。珠洲の2階建ての仮設住宅は、試験的にできたもの。建築家の坂茂(ばん・しげる)さんが先駆的に災害時の仮設住宅の建設や多層化に取り組んでいます。
西村)3階建てや4階建ての仮設住宅もこれからできていくのですか。
佐藤)東日本大震災のときも坂茂さんが女川に3階建てのコンテナ仮設住宅を作った事例があります。現在の制度でも不可能ではないと思います。災害リスクが低い用地の活用するために、2階建てなどの多層化を検討していくことが必要だと思います。
西村)先日の豪雨で大きな被害を受けた珠洲市で、2階建ての仮設住宅に住んでいる人から聞いたのですが、床下浸水している家がたくさんある中、2階は全く豪雨の被害を受けなかったと。もっと2階建て、3階建ての仮設住宅が増えれば良いのにと思うのですが、なぜまだ少ないのでしょうか。
佐藤)最近では、豪雨の被害を受けた被災者の仮設住宅は、2階建てが作られています。一方で、2階建ての仮設住宅はコストと時間がかかり、足音などの騒音問題もあります。しかし用地の災害リスク、水害時を考えると、2階建て仮設住宅を改めて検討する必要があると思います。
西村)2階建てや3階建てにするにも騒音問題などいろいろ課題があるのですね。でもそのような仮設住宅が増えてほしいし、もっと住みやすくなってほしいですね。
佐藤)すべて2階建てにするのは、難しいかもしれません。仮設住宅を建てる場所は、公有地が足りないのなら、民有地の活用も課題になると思います。災害が起きてからではなく、事前の検討が必要です。
西村)事前に避難訓練をするなどの対策はとられているのですか。
佐藤)今回、浸水した地域に住む人たちが浸水リスクを認識していたのか、備えや訓練をしていたのかは、わたしも気になっているので、今後調べていきたいと思っています。仮設住宅は元々住んでいた場所ではないので、そのような追加的な備えと確認がより重要になると思います。
西村)知らない土地の仮設住宅で、気持ちの余裕もないまま暮らしているみなさんですから、浸水リスクや避難訓練については、自分の中からは湧き出てこない考えかも知れません。すごく大切な備えだと思いました。改めて、今回の能登豪雨を振り返って、仮設住宅について、これからどのような対応が必要ですか。
佐藤)仮設住宅を作って終わりではないということ。通常の住宅も仮設住宅も次の災害のリスクがあります。用地の選定は非常に重要な問題。全国で仮設住宅の建設候補地がリストアップされていますが、改めて用地を見直して、あまりにも災害リスクが高いところには、仮設住宅を建てないという判断も必要だと思います。一方で、想定されている被災規模が大きいので、どのようにバランスをとっていくのかは難しい問題です。災害リスクが低い用地を活用していくためにも、2階建ての仮設住宅の準備についてもっと検討が進めばと思います。
西村)珠洲や輪島は、高齢化率が高いです。家族がいない一人暮らしの女性は、「お金もないから再建する余裕も、家を建て直す余裕もない」「孫たちも帰ってくる予定はないから、新しい家を建てても意味がない」と。そのような人は、これからも増えていくと思います。ずっと住み続けられる住み心地の良い仮設住宅が求められてきますね。
佐藤)同感です。
西村)きょうは、災害時の仮設住宅を研究している専修大学 教授 佐藤慶一さんにお話を伺いました。