オンライン:京都大学防災研究所 宮崎観測所 助教 山下裕亮さん
西村)先月初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」について改めて考えます。巨大地震注意の呼びかけに対応して、震源地の宮崎県から離れた和歌山県・白浜町で海水浴場が閉鎖。鉄道各社が減速運転をするなど、お盆の観光業に大きな影響が出ました。今回の政府の対応はどうだったのか、今後どうすれば良いのか。京都大学防災研究所 宮崎観測所 助教 山下裕亮さんにお話を伺います。
山下)よろしくお願いいたします。
西村)「南海トラフ地震臨時情報」は、巨大地震警戒と巨大地震注意と2段階あるうちの巨大地震注意が出ました。
山下)白浜の海水浴場が閉鎖されたことが全国的にも話題になりましたね。「過度に自粛しすぎ」という意見もあったのですが、わたしはその判断はナンセンスだと思っています。海水浴場は、津波の被害を最初に受けるところ。安全性が十分ではないので不安を感じて働いている人が宮崎県などで多かった。現場の人の声をきちんと聞いた上で、過度だったかを判断すべき。実際にそこで働いている人たちの不安を考えると、過度な自粛ではなかったと思います。
西村)大きな地震もあった宮崎県から広い範囲に渡って対策がとられました。現場ではあまり対応ができていなかったのですか。
山下)海に浮いているときに、地震があったら、揺れに気づくと思いますか?あまり考えたことがないと思います。
西村)浮き輪で浮いていたら、自分の体も揺れているから気付かないかもしれません。
山下)地震の強い揺れ=S波(主要動)は水中では伝わりません。足が海底に付いてない場合は、震度7の揺れがきてもわからないと思います。海水浴場は津波が最初に来るところ。海水浴場で働く人たちは、サイレンを鳴らしたり、津波フラッグを振ったりして、泳いでいる人に避難を呼びかけるサインを送ります。誰かがやらなければなりません。泳いでいる人たちを置いて、自分たちだけ避難することは難しいと思います。一緒に逃げ遅れて、津波に巻き込まれてしまうことも考えられます。津波災害においては、海水浴場は脆弱。完璧な準備ができているところはほぼないと思います。
西村)他の地域でも準備ができていないのですか。
山下)宮崎県や和歌山県に限らず、100%安全と言える津波対策ができているところは日本全国でもなかなかありません。南海トラフ地震臨時情報が出て、巨大地震発生の可能性が高まるとみなさん不安になると思います。海水浴に行くことをやめたのと同じように、そこで働いている人たちも不安に思うのです。閉鎖すれば人も来ないので、地震がおきても津波に巻き込まれる心配はない。命を守る意味では、最適な選択です。南海トラフ地震臨時情報が出て、休業しても補償は決められていません。国は、「普通の生活を」と言っているので、判断はそれぞれに委ねられます。
西村)政府の検証の会議では、保険の導入についての話も出ていましたね。
山下)今回は、お盆のかきいれ時で、経済的な損失が大きかったと思います。一度も発表されたことがない情報だったので、どこまで影響が出るか全てを読み切ることができてなかった。今後、保険の導入、補償のあり方も議論されていくと良いですね。
西村)全国で統一の対応指針を作ることは難しいという意見も。
山下)南海トラフ地震が起こった場合の被害は、地域によってかなり異なります。対応も地域によって変わるはず。全国で統一して、巨大地震注意が出た際の取り決めをしたところで、足りるところもあれば足りないところも出てくる。国としては全国統一の対応指針を分厚い資料で出してはいますが、個の状況に応じて、対応を変えなければならないのが現状です。
西村)「南海トラフ地震臨時情報」は、巨大地震警戒(既に大きな被害が起こっている危険な状況)が一番上のランク。今回出たのは、その下の巨大地震注意でした。今回の教訓や反省を次回以降に生かすにはどうすれば良いですか。
山下)巨大地震警戒は、南海トラフ地震が半分起こっている状態なので、学校を休校にするなど思い切った対応がしやすい。しかし、巨大地震注意は非常に中途半端。だからこそ、事前にいくつものパターンでシミュレーションをして、対策を考えておくことが必要です。
西村)わたしたち個人レベルでも同じですか。
山下)今回、初めて「南海トラフ地震臨時情報」を知った人が多いと思います。次出たときに、どう行動すべきか。一番大事なことはあわてないこと。まずは、地震の備えを再確認してください。さらにいつもより少しレベルを上げた防災行動をとってください。外出先が津波に対して安全なのかを調べてください。南海トラフ地震が起こると大きな津波が来ます。津波のリスクを事前に調べることが重要。津波のリスクが高いところに行くのなら、避難先を確認しましょう。普段行かない場所は、土地勘がありません。「どこに逃げれば良いかわからない」と、命を失う危険性が高くなります。各自治体のホームページや防災アプリで、津波の想定浸水区域や避難場所を調べることができます。そのような情報を自分から拾いに行く必要があります。これをやっておくだけでも、外出先で地震が起こったときに命が助かる可能性が格段に上がります。「南海トラフ地震臨時情報」が出たときは特に、このような行動をとってください。
西村)きょうは、京都大学防災研究所 宮崎観測所 助教 山下裕亮さんにお話を伺いました。