オンライン:NPO法人アナイス 代表 平井潤子さん
西村)現在、日本で飼われている犬や猫は、1500万頭以上。これは15歳未満の子どもの数よりも多いそうです。突然の災害に備え、人だけではなく、家族の一員であるペットのことも考えた準備が必要です。
きょうは、NPO法人アナイス代表の平井潤子さんに、災害からペットを守るための防災対策について伺います。
平井)よろしくお願いいたします。
西村)平井さんはいつからペットに関する活動を行っているのですか。
平井)2000年の三宅島噴火災害をきっかけに、NPO法人アナイスを設立し、緊急災害時に飼い主と動物が避難生活を送るためのサポートや、緊急時に備えての情報発信を行っています。また、災害発生時には被災動物救護活動に参加し、被災地で避難所などの現地の情報を収集・分析して社会に発信する活動に取り組んでいます。
西村)これまでどんな被災地に行きましたか。被災地のペットはどんなようすでしたか。
平井)東日本大震災では、あまりの被害の大きさに立ち尽くしてしまいました。何から始めていいのかわからない状況で。被災者にペットについて尋ねたところ、「家に置いてきた」「車の中にいる」という答えが返ってきました。
西村)東日本大震災では津波の大きな被害もありました。
平井)発災時間が昼間だったので、勤め先にいて、自宅にペットを残してきた人も多かったようです。
西村)ペットを助けに行こうとした飼い主もいたのでしょうか。
平井)福島の原子力発電所の事故で警戒区域となった地域では、ペットを助けるために飼い主が危険な場所に戻ってしまったこともあったようです。取り残された犬たちが地域で群れて行動し、人々が怖い思いをしたことも。
西村)ペットと暮らす飼い主はどんな防災対策が必要ですか。
平井)ハードのソフトの備えが必要です。ハードは物の備え。ペットフードやお水のほか、病気治療中のペットなら処方食や医薬品を1ヶ月分以上はストックしておきましょう。東日本大震災のときには、発災後の継続調査で半年間、一度もペットの支援物資が届かなかった地域もありました。今後起こるといわれている南海トラフを想定し、ローリングストック方式で1ヶ月分は用意しておきましょう。
西村)その中でも特に用意しておいた方が良いものはありますか。
平井)避難所からの要望が大きく、ないと困るものは、犬や猫の排泄物を処理するうんち袋。避難所ではなかなか手に入らないものです。排泄物の匂いが苦情になるので、排泄物は袋にいれて、周りの人に配慮した場所に置いておく工夫をしてほしいですね。
西村)車中泊するかもしれないから、車にも用意しておいた方が良さそうですね。
平井)品質に細かい管理がいらないので、車の中や家の外の物置などに準備しておくと良いと思います。
西村)ソフトの備えはどんなものがありますか。
平井)大事なのは想像力。災害が起こると生活がどうなるかを想像して備えましょう。飼っている動物の数、家族構成、一戸建てor高層マンション、ライフスタイルによって取るべき行動は変わってきます。自宅避難ができるなら、留守番中のペットの安全を確保するペット用のシェルターを準備しておくのも良いですね。家族で話し合って、オリジナルの防災マニュアルを考えてみてください。
西村)在宅避難ができれば一番良いですね。
平井)人間にとってもペットにとっても、大勢の人が集まる避難所よりは自宅の方がリラックスして過ごせると思います。自宅避難をしつつ、情報や支援物資は避難所で支給してもらうような体制も想定しましょう。
西村)犬と猫によっても対策は変わりますか。
平井)犬は飼い主と一緒に社会参加する動物です。小さいときからしつけや社会化、ハウストレーニングをしておくと避難所でも役立ちます。迷子対策も大事。逃げてしまうことがあるので、再会するためには迷子対策も災害対策になります。
西村)ペットの社会化というのは、社会に慣れておくということですか。
平井)社会化をしておくと、避難所で初めて会う人や犬がいても落ち着くことができます。ペットが社会生活に適応するためのトレーニングです。
西村)大切ですね。迷子対策は、どんな対策をして、どんなものを準備すれば良いのでしょうか。
平井)一昨年から制度化されたマイクロチップも有効です。首輪は、放浪が長くなって、首が痩せてしまうと首から抜け落ちてしまうことがあります。マイクロチップ対策はしておくと良いです。人見知りしないように育てておくと、迷子になったときに保護してあげやすいです。シェルターに預けたときに誰にでも世話することができます。迷子対策の一つとして人に慣れさせておきましょう。
西村)シェルターというのは、どのような場所ですか。
平井)阪神・淡路大震災のときはさまざまなシェルターができました。民間のシェルターもありましたが、兵庫県が用意したふたつの大きなシェルターで被災動物の一時預かりをしていました。飼い主が復興の体制を整えるためにもそのような一時預かりを意識して、ケージに入れるトレーニングをしておくと良いと思います。
西村)一時預かりのシェルターは、どこの自治体にもあるのですか。
平井)動物愛護相談センターのような公的な施設や、地元の獣医師会の動物病院が一時預かりをしてくれることもあります。民間の動物保護のボランティアが災害時にシェルターを設けることも。さまざまな形があります。
西村)平時から調べておくと安心ですね。
平井)避難所だけが避難場所ではありません。動物を一旦預けて分散避難をすること、自宅避難をすることも一つの手段ですので、いろんな形を想定しておきましょう。
西村)猫の場合はどうですか。
平井)猫は犬のように呼び寄せてリードをつけて一緒に避難することができません。パニックになると隙間に隠れて出てこないこともあるので、見つけるのが難しいです。普段から自宅の中に猫の避難場所や隠れ場所をいくつか用意しておいて、何かあったらそこから探す、隠れ場所にキャリーバッグを置いて、その中に逃げるようにしつけるとスムーズに避難できるかもしれません。
西村)猫にとって安心できる場所をいくつも持っておくと良いですね。
平井)複数の猫を飼っている人は、キャリーバッグだけではなく、リュックやショルダーなども用意しておくと良いですね。避難所で猫がキャリーバックで長く生活するのは難しいので、生活用のちょっと大きめのソフトケージもあれば良いと思います。ポンッと広がるタイプのケージもあります。ただ、猫は自宅避難の体制を整えて、飼い主が避難所からお世話に通う方がストレスが少ないと思います。
西村)猫の一時預かり施設はありますか。
平井)あります。先ほど紹介したシェルターや動物病院も預かってくれます。ほかに実家や親戚の家などいろんな預け場所を用意しておくと良いと思います。
西村)猫や犬以外にもウサギやフェレットなどさまざまな動物と暮らしている人がいると思います。それぞれの家庭で避難対策が必要ですね。能登半島地震のときもペットの避難について対策していた人はいたのですか。
平井)発生したタイミングが正月で、震度7という大きな揺れだったので、ペットを避難させることができなかった人や、家そのものが壊れてしまった人が多く、ペットとの避難に苦労したと聞いています。
西村)しっかり準備をして、避難訓練をしておくことも大切ですね。
平井)家族単位で避難訓練をしてください。犬の散歩のついでに避難所を確認して、家族の集合場所について決めておきましょう。
西村)犬や猫と暮らす人へのメッセージをお願いします。
平井)飼い主にはペットを守るという責任もありますが、はぐれてしまったペットが社会に迷惑をかけないように備えるという責任もあります。飼い主とはぐれた犬たちが群れになって放浪したり、自宅から逃げ出した避妊去勢をしていない猫たちが、災害時の支援で餌をあげることで繁殖してしたりすることが地域の問題に発展します。飼い主が管理できない状況にいる動物たちが、地域や社会に迷惑をかけることも考えられるので、家族の一員である動物を守り、社会に対する責任を果たすために、しっかり備えましょう。
西村)きょうは、災害からペットを守るための防災対策にについてNPO法人アナイス代表の平井潤子さんにお話を伺いました。