第1469回「津波シェルター付き防災住宅とは」
ゲスト:防災アナウンサー 奥村奈津美さん

西村)南海トラフ地震の備えとして、在宅避難の重要性が高まっています。
きょうは、災害から命を守る家作りについて考えます。スタジオに防災アナウンサーの奥村奈津美さんをお迎えしました。
 
奥村)よろしくお願いいたします。
 
西村)災害から命を守る家作りについて、まずは家の中でできることを教えてください。
 
奥村)津波や土砂災害、火災などの被害があった場合、自宅に住み続けることができれば、家の中で避難生活を送ることになります。多くの人は在宅避難をすることになるので、家に住み続けられる準備をすることが重要です。
 
西村)何から準備したら良いのでしょうか。
 
奥村)まずは家が地震で壊れないようにしておくことが基本。1981年6月よりも前に建てられた家は、大きな揺れによって壊れてしまう恐れが高いです。そのような家は、揺れたら家の外に避難をしなければ、家の下敷きになってしまいます。能登半島地震の調査結果では、旧耐震基準(1981年6月1日よりも前に建てられた家)の家だけではなく、新耐震基準で建てられた家も7割以上が被害を受けていて、20年くらい前に建てられた家でも、倒壊して住めなくなってしまった例も多くありました。
 
西村)それは驚きです。
 
奥村)まずは自宅がいつ建てられたものなのか、地震に耐えられるのかを確認してほしいです。
 
西村)耐震基準を満たしていた場合、さらに準備することはありますか。
 
奥村)大きな災害が起こると、電気・ガス・水道・通信が寸断されてしいます。それらが使えなくなっても過ごすことができる準備をしておきましょう。一番困るのがトイレ。災害用トイレは備蓄しておいてください。普段と同じ生活を継続するために普段使っているものを一つ多く買う「プラ1備蓄」をおすすめしています。同じものを2個買って、1個使ったら1個買い足す。そうすると家に同じものが1個以上は必ずある状態になります。必要なものがなくなって困ることが少なくなります。
 
西村)ローリングストックですね。我が家も買い足しておこうと思っていても忘れてしまって。全然ローリングできていないです...。
 
奥村)使ったことがないものは合わないこともあるので、おすすめは、普段使っているものを「プラ1備蓄」すること。
 
西村)子どもは好き嫌いも激しいですし。
 
奥村)普段食べないものは食べませんよね。
 
西村)食べ慣れている好きなものをストックするのは良いですね。
 
奥村)乳幼児やアレルギーがある人、高齢者は、2週間分の備蓄が必要です。
 
西村)ストックをする場所も必要ですね。大掃除の時期に断捨離して、スペースを作って、みんなで一緒に買い物に行くと良いですね。
 
奥村)どうせ使うものなので、多めに買っておきましょう。
 
西村)安くなっているタイミングで買うのも良いですね。カセットコンロも必要ですね。他にもありますか。
 
奥村)災害用トイレは、1週間分ぐらいは各家庭で備蓄しておきましょう。普段使っていない物を買うのは抵抗がある人は、子どもがいる場合は、サイズアウトしたオムツを捨てずに取っておく。ペットがいる場合は、ペットシートが凝固剤の代わりになります。ゴミ袋に液体を固めるものを入れて、災害時にトイレとして活用する方法をおすすめします。
 
西村)事前に実験しておくとよさそう。
 
奥村)一度ライフラインが寸断されている想定で暮らしてみると、どんなものが必要なのか見えてきますよ。
 
西村)家族や一人暮らしの人は友達とやってみるのも良いですね。
 
奥村)子どもたちは楽しんでやってくれると思います。我が家では、実際に24時間ライフラインが寸断された想定で生活してみました。
 
西村)24時間もやったんですか!すごいですね。
 
奥村)5歳の息子はもう1回やりたいと言っています(笑)。
 
西村)どんなことをしたのですか。
 
奥村)電気は使わずに、夜はヘッドライトをつけて過ごして。料理はカセットコンロとボンベで作りました。災害用トイレも実際に使ってみました。
 
西村)息子さんは、災害用トイレを使ってみて、どんな反応をしていましたか。
 
奥村)不思議そうに覗いていました。
 
西村)「こういうふうに固まるんだ...」と、理科の実験みたいに楽しめるかもしれないですね。
 
奥村)いろんな学びになると思います。普段いかに恵まれた環境で暮らしているのかを感じられると思います。
 
西村)台風で停電したときに、当時5歳の息子がパニックになってしまったことがあります。どうやって楽しい時間にするか、すごく苦労しました。
 
奥村)普段体験してないことには、子どもは対応しきれません。例えば、子どもに夜に読み聞かせをするときに、部屋を真っ暗にしてヘッドライトで読んでみる。夕方暗くなってきたら、ヘッドライトを子どもに渡して、宝探しのように片付けをするとか。
 
西村)面白いですね。家でできることをたくさん教えていただきましたが、津波リスクが高い場所に家がある場合は、さらに対策が必要ですよね。
 
奥村)南海トラフ地震では、数分で津波が押し寄せるエリアがあります。揺れている途中に避難しなければ助からないような場所も。そのようなエリアに住んでいる人におすすめしたいのが、津波シェルターがある家です。
 
西村)どんな家ですか。
 
奥村)屋上にある突起のようなペントハウスに空気だまりができて、その中でしばらく過ごすことができます。
 
西村)屋上のペントハウスは何でできているのですか。
 
奥村)特殊な構造になっていて、工場で作られた「壁式鉄筋コンクリートパネル組⽴造」という鉄筋コンクリートの家です。コンクリートの家の上に同じコンクリートでできたペントハウスが建っています。
 
西村)元々ある家にペントハウスを追加するのではなく、最初から建てるということですね。
 
奥村)そうです。「壁式鉄筋コンクリートパネル組⽴造」は、関東大震災の教訓を受けて作られたメイドインジャパンの工法。強くて重くて揺れないという特徴があります。
 
西村)津波や地震に耐えられる丈夫なつくりなのですね。津波シェルターには何人ぐらい入ることができるのですか。
 
奥村)4人が入って、8時間ぐらい過ごすことができる空気が確保できます。
 
西村)空気だまりとはどういうことですか。
 
奥村)東日本大震災で3m以上の津波が押し寄せた地域にも「壁式鉄筋コンクリートパネル組立造」の家がたくさん建っていたのですが、流されずにとどまって津波を受け止めた実績があります。そのような頑丈な家も2階まで津波の跡が残っていたのですが、1階の天井近くに飾られていた額縁が無傷で、濡れていなかった。そこに百年住宅というハウスメーカーが注目。1階部分に濡れていない額縁があるということは、ここに"空気だまり"ができたのではと考え、津波シェルターを考案したのです。
 
西村)上の方に空気が溜まっていたから、津波の水が流れずに額縁が無事だったということですね。
 
奥村)湯舟で洗面器をひっくり返すと、洗面器の中に空気が入ってポコっと浮かびあがりますよね。それと同じ現象を家の中に作ります。屋上の扉は、船舶で利用するような密閉度の高いものになっています。下から水が上がってきても、その空間には空気だまりができて、しばらく過ごすことができます。
 
西村)家族4人で屋上のペントハウスで8時間滞在できるということですが、どんどん水が上がってくるのは怖いですね。
 
奥村)数分で津波が押し寄せてしまうエリアの場合は、外に避難しても高台まで間に合うかわかりません。静岡県では既に130個ほどの津波シェルター付きペントハウスの住宅が建っています。
 
西村)実際にそのような対策をしている人もたくさんいるのですね。でも津波が来るところには、新しく家を建てない方がいいのではないかと思います...。
 
奥村)そこに住まざるを得ない、代々受け継いだ土地を守らなければならない人も多くいます。日本はいつどこで地震が起きてもおかしくない。水害のことも考えると、全くリスクのない土地を探す方が難しいような状況です。「壁式鉄筋コンクリートパネル組立造」のような頑丈な建物なら、土砂災害や地震でも壊れずに命を守ることができます。どのような家を選ぶかによって、命を落とすリスクを下げることはできると思います。
 
西村)木造住宅を新しく建てるのと比べるとどれぐらい高いのでしょうか。値段のことも教えてください。
 
奥村)30坪なら約3000万円程度。メーカーによってもかわりますが、木造住宅と比べてそこまで高いわけではありません。コンクリートの住宅は長く持ちます。百年住宅の場合は100年保証があります。長く住むことを考えると、建て替えるよりは費用は安く済むと思います。+25万円でシェルターを付けることができます。
 
西村)南海トラフ地震に向けての対策が必要ですね。家の中でやれることもたくさん教えてもらいました。最後にリスナーにメッセージをお願いします。
 
奥村)一生懸命働いて建てた家で自分や家族の命を失うことはあってはならないこと。日本はさまざまな技術が開発されて、耐震面が強化されていますが、一方で古くから住んでいる家を建て替えることが難しい場合もあります。今回は家についての話をしましたが、耐震ベッドや耐震テーブルなど命を守る空間を作れるようなものは、ほかにもあります。地震が起きても逃げられる場所を確保できるように、命を守る対策を進めてください。
 
西村)きょうは、防災アナウンサーの奥村奈津美さんにお話を伺いました。